1-5 イアの謝罪
そろそろ活動報告を書かなければと思いつつ、何を書いたらいいのか分からずに放置しそうです。
「せい!」
俺が振り抜いた剣の攻撃で蒼狼が絶命する。
辺りには5匹の蒼オオカミが横たわっていた。
「お見事‥昨日の緑ウサギとの戦いが嘘のよう‥」
イアが拍手をしながらそんなことを言ってくるが、褒めてないよね、それ。
しばらくすると、蒼オオカミたちが光の粒子となって消え、そのあとには牙が5個残されていた。
イアの話によると、モンスターは二種類存在している。
一つは昨日の緑ウサギのように、自然の中で魔素の影響を受けて変質した動物たち。
彼らは元が普通の動物であるため、繁殖によって数を増やしていて、絶命したあとも体はその場に残る。
でなければ、昨日の晩御飯にはありつけなかったわけだが。
二つ目は先程の蒼オオカミのように、この塔のようにダンジョン化してしまった場所に現れるモンスターだ。
そもそもダンジョンは長く存在する建物などに魔素が溜まり、変質したものなのだそうだ。
ダンジョン化した建物は自身の周りから魔素を集める性質があるらしいのだが、蓄えきれなかった魔素は自然には還らずに近隣に生息する動物の形に変化したり、ダンジョン内の無機物に集まってモンスター化するらしい。
ダンジョン内で生まれたモンスターは倒されると体は魔素に還るのだが、特に魔素が集まっている場所は結晶化して先程の牙のようにドロップアイテムとして残るらしい。
これらは武器や防具の製作に使えるらしいので、回収して袋に詰める。
「だいぶ霊力の扱いにも慣れてきたな」
「ん‥昨日の戦いとは大違い‥」
「もうその話はいいよ‥」
どんだけ俺のことからかいたいんだこやつ‥
「そういえば昨日から思ってたけど、イアも一緒に戦ってくれないのか?それとも精霊の姿だと戦えないとか?」
「そ‥そんなことない‥ケータロが体に慣れるの待ってた‥最初から手伝うと‥ケータロのためにならない‥だいぶ馴染んだみたいだし‥次からは手伝う‥」
胸の前で両こぶしをにぎりしめてやる気を見せてる姿はちょっと可愛い。一瞬焦ってたようにも見えたが。けど‥
「なら、もう少し手伝わないでいてくれるか?」
「えっ‥」
イアが明らかに落ち込んでる。
どんよりとしたエフェクトまで見えそうな勢いだ。
「俺もまだ自分の実力を把握しきれてないし、少し大変な方が経験にはなるだろ?」
「‥わかった‥なら本当に危なくなったら手伝う」
「ありがとうな」
「ん‥あと、少し疲れてそうだから回復してあげる‥《ライトヒール》‥」
イアの手から光が放出され、俺の体に浴びせられる。
すると、さっきまであった倦怠感が軽くなった気がした。
「今のは《ライトヒール》‥魔力を霊力に変換して回復させる魔術の一つ‥霊力を送って体力回復促進と疲労軽減させる‥」
なるほど。この世界での回復はゲームのように魔力を直接体力などに変換するのではなく、霊力を送って生命力の回復を促進させるのか。
そう考えるとゲームや小説の回復って時間回帰させて傷を無かった頃に戻してるのか、細胞を活性化させて傷を塞いでるのかどっちなんだろう。それとも、魔法が細胞の代わりでもしてるのだろうか。
「ごめんなさい‥」
「ん?どうした?」
そんなことを考えているとイアが頭を下げてきた。
何か謝られるようなことでもしただろうか?
「この姿‥実は《ライトヒール》みたいな簡単な魔術しか使えない‥偉そうなこと言ったけど‥私もケータロみたいに弱い‥隠しててごめんなさい」
詳しく聞くと、この世界で俺の前に現れたときのイアは、生まれたばかりの精霊と同じぐらいの力しかなく、いきなり役立たずと思われたくないが為に見栄を張っていたらしい。
だが、先程俺が蒼オオカミを倒したことで一緒に戦えるまで成長したのだそうだ。
この辺はゲームとかでよくあるパーティの経験値共有みたいなものなのだろう。
しかし、せっかく戦えるようになったのに必要ないと言われたので、このままでは自分の存在意義が無くなるのではないかと思い、打ち明けたのだとか。
なんというかまぁ。
「そんなこと気にしなくてもいいよ。よし、じゃあイアも戦闘に参加するし作戦を考えようか」
「作戦?‥」
「基本は俺が前衛、イアが後衛でいいだろうから、単体相手の時や複数相手の時の戦術確認かな」
「ん‥頑張る‥」
それから俺たちは休憩を兼ねて簡単な打合せをしたあと、攻略を再開した。
イアが加わったことで出来ることが増え、一人で戦っていたときよりもスムーズに先に進むことができた。
途中、イアからは魔術の使い方を教わるが、魔素を魔力にする所までは出来たのだが魔術として行使することは出来なかった。
理由は単純。
魔術は魔力を使って魔術陣を描くことで発動するのだが、その魔術陣のイメージが難しかったのだ。
魔術陣には記号を書き加えていく必要があり、さらに一つ一つに意味がある。
《ファイアーボール》一つにしても「火」「数」「威力」「効果」「方向」「タイミング」とそれぞれを示す記号を構築して魔術陣に載せていくのだが、馴染みの無い形をしているためかイメージしづらく実践に使えるレベルではなかった。
ハッキリ言って暗記のレベルである。
なので、魔術の練習はこの塔の攻略までお預けとなったわけだ。
そうして俺たちは5階までを探索し、6階にやってきた。
階段を登りきった目の前には大きな鉄の扉が佇んでいた。
「これはもしかしなくてもボスの間かな?」
「中から物凄い力‥感じる‥」
「因みに、呼ばれてる感覚もこの扉の向こうだな」
俺が改めて第六感を強化すると、あの呼ばれるような感覚は間違いなくこの扉の向こうから感じることが出来た。
それとは別に3つの霊素の塊と、1つの魔素の塊が見えた。
「あれ?扉の向こうに霊素の塊が3つと魔素の塊が1つあるんだけど?」
「?‥第六感でそんなハッキリと分かるわけ‥あ、もしかしてまた霊力の制御が甘くなってるかも‥魂だけじゃなくて感覚にまで霊力流れてない?‥」
言われて自分に流れる霊力の流れを見ると、どうやら目の方に霊力が流れていた。どうやら目に霊力を込めると障害物があっても霊素や魔素を見ることができるらしい。
「きっと3つの霊素は先行してる冒険者‥魔素はボス‥」
イアの言葉で思い出したがダンジョンから生まれるモンスターは魔素で構成されているんだったな。
というか、人ってこんな霊素の塊として知覚できるんだ。
先に冒険者たちが居るなら倒すまで待っていようとも思ったが、邪魔しなければ問題ないだろうと戦闘の準備を始める。
中に入っていれば、冒険者たちが危険な目に合ってたとき助けられるだろうし。
俺はイアに目で合図を送る。
イアもこくりと頷き、やる気は充分なようだ。
「よし、それじゃいきますか!」
そうして俺は鉄の扉をゆっくりと開けた。