1-3 初めての霊術
「ふぁぁ…よく寝た。初めて野宿というのをしたけど、案外寝られるもんだな」
「おはよう‥ケータロ‥今日も‥いい天気‥」
イアが俺の元へと挨拶をしながら飛んでくる。
イアの言葉に洞窟の外に視線を向けると気持ちのいい朝日が差し込んでいた。
朝日に向かって伸びをしていると、服の裾をイアが引っ張った。
「ケータロ‥あとで霊術‥教えるから‥昨日のは‥見てられなかった‥」
イアが言っているのは昨日の緑ウサギとのやり取りだろう。
確かに今のままでは、この先生き残るには不安だと感じざるを得ない。
霊術は身体強化が出来るらしいので、この先の先頭でも覚えていて損はないだろう。
「わかった。じゃあ今日は移動しないで霊術の訓練にしよう。朝飯が終わったら教えてくれ」
俺たちは近場の木からアプルの実を採取して朝御飯にしたあと、さっそく霊術の訓練を始めた。
ちなみに、本日のイアの衣装は柔道衣に赤い帯を締めている。
「まず‥体の中の‥霊素を感じて‥」
「いや、感じてと言われてもどんなものか分からないんだけど…」
「目を閉じて‥自分の中にあるエネルギーの流れを‥感じる‥」
とりあえずやってみるか。
えーっと、目を閉じて‥体の中のエネルギーを感じると…
あぁ、これかな?
何となくだけど、血流のように体の中を巡る力を感じられる。
あれ?
「なぁ、イア。自分の体の中とは別に、空気中にも似てるけど違う力を感じるんだけど…」
「それは‥きっと魔素‥普通‥霊術の訓練で‥魔素は感じない‥ケータロは特別‥」
あぁ、これが魔素なんだ。
てことは、魔術を使うときはこれを使うことになると。
今は霊術の訓練だけど、魔素を捉える感覚は今ので覚えたかな。
「霊素は‥そのままじゃ使えない‥霊素を霊力に練り上げる‥これが大事‥」
「具体的には?」
「まず霊素を集める‥霊素を知覚出来たなら‥強く念じたら‥動かせるから‥あとは一つに纏めて練りあげる‥」
俺は再び目を閉じて霊素を知覚する。
まずは自分の意思で霊素の流れを操作してみよう。
今、俺の体を巡って流れている霊素の流れに同調するイメージをして。そこから速く、遅くを繰り返してみる。
最初は上手くいかなかったが何度かやっているうちにコツを掴んだ。
次は霊素を一つに纏めて霊力にするんだったな。
纏めると言ってもどうしたものか。
霊素を動かしている時の感覚が砂や粉が流れている感じに似ていて、単純に圧縮するイメージをしても纏まらない気がする。
とりあえずかき回してみるか。
時計回りに流れをつくって‥もう少し速度をあげて‥お、小さな塊が出来てきた。
これを捏ねてみるか‥
「なんだか昔やったパン作りに似てるな‥」
あの時は霞がパン作りにハマっていて、その手伝いでよくやってたんだよな。
皆、元気にしてるかな。
そうこうしているうちに、霊素が練り上がって霊力に変化していた。
「ん、上出来‥今度はそれを‥使いたい分だけ分けて‥分けた霊力に‥命令する‥命令は頭の中で‥念じるだけでいい‥」
「じゃあまずは脚力強化でもしてみるか」
俺は霊力をほんの少し分けて足の方に流してやる。
いきなり全部やって大怪我なんかしたくないしな。
霊力が足へ行き渡ると、心なしか足が軽く感じる。
これはすごいと軽く跳ねてみたのが間違いだった‥
「え?」
気がつくと俺は森の遥か上空にいた。高さで言うと2~30mだろうか。え、嘘だよね?本当に軽くしか強化してないよ?
「これ、力の加減が難しい過ぎやしませんかね‥ん?」
一人愚痴って居ると、俺たちの進んでいた方向に塔のような遺跡を見つけた。
「なんだろう、何かが呼んでる気がするんだけど」
などと思っていると、体は自由落下をし始めた。
不味い!このままじゃ地面に叩きつけられてミンチになる!
俺は霊力をありったけ使って体全体に浸透させる。
使うのは「全身強化」
最初は皮膚だけを強化しようとも思ったが、衝撃で骨や内蔵は粉砕しそうだったので全身の細胞を強化することにした。
あとは頭から落ちないように足を下にして、平常心を保つぐらいか。
死が目前だからか、思考がやたらとゆっくり感じる。
そのせいか、低い段差から飛び降りる感覚で地面に足をつけることができた。
「ケータロ!大丈夫?」
イアが慌てた様子で俺に向かって飛んでくる。
慌てているせいか、話し方もいつもののんびりしたものとは違っている。
「大丈夫だよ。まさか、ほんのちょっとの霊力であそこまで飛べるとはなぁ」
「普通‥ちょっとの霊力であそこまでいかない‥ケータロの霊力‥密度が普通の何倍もあった‥それに‥」
「それに?」
「ん~ん‥なんでもない‥」
イアは何を言いかけたんだろう。
あ、そうだ。
「俺たちの向かってる先に遺跡があったんだけど、そこから誰かに呼ばれた気がしたんだ」
「‥たぶん‥初めての霊力操作で操作しきれなかった霊力が‥第六感に作用した‥と思う‥」
イアは少し考えたあとにそう答えてくれた。
初めてにしては上手くできたと思っていたが、操作しきれてないのがあったのか。
それにしても、第六感で感じたせいかあの遺跡のことが気になる。
「イア、その遺跡に寄ってもいいかな?」
「決めるのはケータロ‥私は貴方に付いていく‥」
イアの承諾も得たので、俺たちは遺跡へと歩みを進めた。