間幕 1 紗奈のその後
次章書こうと考えてたら、こちらを思い付いてしまいました。
私は水無月 紗奈。
数日前、私は誘拐犯に連れ去られました。嘘じゃありません。
そして、助けに来てくれたお父さんが犯人達に刺されて亡くなりました。
少し前に一緒に遊びに行って、パジャマを一緒に選んで買ったお父さん。
いつもニコニコしていて、死んじゃうその瞬間まで笑顔でした。
今日はそんなお父さんのお通夜。
葬儀の準備はお母さんと一緒にお父さんの弟妹、つまり私の叔父さんと叔母さんが手伝ってくれています。
私は出来ることもなく葬儀場のなかを彷徨くことしか出来ません。
葬儀場という場所にはなかなか来る機会が無い私は、ちょっとした冒険気分で館内を歩きます。
すると、ホールに設置された椅子に男の人が座っていました。その人は‥
「追川のおじさん?」
「あぁ、紗奈ちゃんかい」
そこに居たのは追川のおじさんでした。
おじさんは刑事さんで、私を誘拐した犯人達の所にお父さんと一緒に来てくれた人です。
そして、私と一緒にお父さんが死ぬところを見届けた人。
「紗奈ちゃんはどうしてここに?」
「すること無いから探検‥かな?」
何となく探検って言っちゃったけど他にいい言葉は思い付きませんでした。
その言葉におじさんはちょっとだけ困った顔をしながら「そうなんだ」と言いました。
するとそこへたまたま近くに居た親戚のおばさん達がこっちを見ながらこう言ったんです。
「誰、あの人?」
「ほら、慧太郎君を守れなかった刑事さんよ。」
「あぁ~。あんな大きな体格なのに市民一人守れないなんて刑事失格ね」
「ほんとよね。それなのに良く葬儀に顔を出せたものね」
「‥‥」
ムカー!!おばさん達ったら何てこと言うの!?
頭に来た私は、ツカツカとおばさん達の近寄り胸を張って声を出しました。
「ちょっと、おばさん達!」
「あら、紗奈ちゃん何かよ‥」
「さっきから聞いてたらなんなのあの言い方は!追川のおじさんが一緒じゃなかったら私も一緒に死んでたかも知れないんだよ!それに、守れなかったって一番悔しいのは追川のおじさんなんだよ!」
「でもね、守れなかったのは本当ことで悪いのは‥」
「悪いのは私を誘拐した犯人達でしょうが!おじさんがお父さんを殺したわけでも、見殺しにしたわけでもない!ちゃんと犯人を捕まえて私をお母さんの所に帰してくれた!お父さんは守れなかったかも知れないけど、だからって追川のおじさんを責めるのは違うでしょ!」
私の言葉におばさん達が怯む。
すると、私の頭にポンっと手が置かれた。
「慧太郎君を守れなかったのは自分の責任です。申し訳ありませんでした。今後、彼女のような被害者を出さないためにも全力で職務に励みます」
そう言って頭を下げたのは追川のおじさんでした。
おばさん達は「わ、わかればいいのよ」とそそくさと居なくなってしまいました。絶対わかってないじゃん!
私と追川のおじさんは改めて椅子に座り直しました。
「ありがとうな、紗奈ちゃん。おじさんのために怒ってくれて」
「だってあんな酷い言い方ないよ!何にも知らないのにあんなに言いたい放題!」
私は怒りがおさまりません。あんな大人にはなりたくないなと心から思いました。
「‥ははっ」
そんなプンスカ怒ってる私の隣で、突然おじさんが笑いだしました。
「どうしたの、おじさん?」
「いや、さっきの怒鳴ってた紗奈ちゃんの姿が昔の慧太郎に似てたなと思ってね。やっぱり君たちは親子だな」
お父さんに似てると言われ、ちょっと気恥ずかしくなった私。
私はとっさに話題を変えようと試みました。
「昔のお父さんってどんな風だったの?」
「どんな風か。んー、ヒーロー馬鹿かな」
「それ、今も変わってないんだけど‥」
「あいつは昔から変わらないからな。強くて優しくて、誰かのために真っ直ぐで。だけどそれを鼻にかけることもなく、あくまで自然にやってたな」
本当に昔から変わらないんだなぁ、お父さんって。
「俺と仲良くなったのも、クラスのやつから親父のことで言われてた時だったな」
それはお父さん達が小学生の頃。
追川のおじさんのお父さんも刑事さんで、とある事件を追いかけていた。だけど犯人を取り逃がしてしまい、街に潜伏している可能性があるということで登下校にも影響が出ていたそうだ。
子供達は下校後の外出も禁じられ、その不満は犯人を取り逃がした父親を持つ追川のおじさんに向いたそうだ。お父さんへの悪口を言われていたおじさんは何も言えずにうつ向いていた。だけど、
「その時もさっきの紗奈ちゃんみたいに慧太郎がクラスのやつに怒鳴ってな。進一を責めるのは違うだろって。慧太郎は俺の親父とも仲が良かったからかこんな風にも言ってたな。『確かに今回は犯人を逃がしてしまったけど、必ず近いうちに捕まえてくれる!だからもう少しだけ待ってくれ!』って。実の息子でさえ信じてやれなかったのに、あいつは親父のことをそこまで信用してたのかって思ったよ」
そういえばお父さん、仲いい人のことってすっごい信頼してたかも。
「それで、そのあとどうなったの?」
「その次の日、慧太郎の言った通り親父は本当に犯人を捕まえたよ。そしたらクラスのやつらも『お前の父さんすごいな!』だってさ」
「何か調子のいい話だね」
「まぁ、小学生の頃の話だからね。それで俺は慧太郎に親父のこと信じてくれてありがとうって言いに行ったら何て言ったと思う?」
「んー‥『俺はお前の親父さんが凄いの知ってたから当然だろ』とか?」
「一言一句大正解」
お父さんならこう言うだろうなって思ったこと言ったつもりだったけど、まさか全く同じとか。
「それからだな。あいつとよく話すようになって、あいつが俺の憧れになったのは。慧太郎が居たから夢だった刑事にもなれて、ようやく恩返し出来ると思ったんだけどな‥」
おじさんがまた暗い顔をしてしまった。どうしよう、お父さんならこんなとき‥
「それなら、俺に返す分で誰かを幸せにしてやってくれ。頼んだぞ」
「紗奈ちゃん?」
「お父さんなら、そう言うんじゃないかなって思って♪」
私は出来る限りの笑顔でおじさんを見た。するとおじさんは、溢れた涙をスーツの袖で拭き笑顔でこう言った。
「そうだな、あいつならそう言うな。ありがとう、紗奈ちゃん!」
「私はおじさんが凄いところ知ってるんだから当然でしょ♪」
そうして二人で笑っていると、私を探しに来たお母さんがこっちにやって来ました。お母さんとおじさんが軽く挨拶をし、おじさんに手を振って別れてから私はお母さんと一緒に控え室へと向かいました。
「まったく、君たち親子には敵わないな」
そんなおじさんの呟きは、私には届きませんでした。