1-10 お宝発見
「あー、疲れた‥」
俺は大の字になってその場に寝転んだ。
神力を使っての戦闘は凄まじい威力がある反面、その反動もかなりのものだった。
正直、このまま眠ってしまいたい。
「それにしても、さっきのケータロさん凄かったですね!霊力と魔力が合わさったかと思ったらブワーってなって、それを取り込んだケータロさんが虹色に輝いてとても綺麗でした!」
「あれ?見てたの?」
「ちょうど二つの力を練り上げていたぐらいからクーリ以外は起きてましたよ。流石に戦闘には参加できそうになかったので見学させてもらってましたけど」
まぁ、あのタイミングで入ってこられても、魔力しか使えない三人では戦力にならなかったのは確かだろうしな。
「まさか‥こんなに早く神力が使えるようになるなんて‥驚きを隠せない‥」
使った自分が一番ビックリしてるけどね。
某漫画の○卦法みたいな感じだよね、あれ。
「神力って、神様とハイヒューマンと呼ばれていた種族が使えた力ですよね?ケータロさんはハイヒューマンの生き残りなのですか?」
「ん‥ケータロはハイヒューマン‥だけど他の人には黙っててあげて欲しい」
「えぇ、わかってますよ。ケータロさんは私たちの命の恩人でもありますし、そんな方を売るようなことはしませんので安心してください」
イアのお願いにソフィアが笑顔で応じてくれる。
二人の話からするに、ハイヒューマンだと公表すると何やら大変そうなのが伺える。
そうこうしていると、クーリが目を覚ました。
戦闘が終わったことは周りを見回して確認したようで、ソフィアが細かい説明をしている。というか‥
「さっきからエリアは黙ってるけど大丈夫か?」
「‥‥‥」
「おーい、エリア?」
「へ‥?あふぁい!な、なななな何?!」
「本当に大丈夫か?疲れてるなら休んでても‥」
「わ、私は大丈夫!大丈夫だから!」
「まだ調子が悪いなら遠慮なく言ってくれよ?おぶってやるぐらいは出来るからな」
「お、おぶ‥いや!本当に大丈夫だから!」
何をそんなに慌ててるんだか。
そんなやり取りをしてると説明が終わったソフィアとクーリが合流する。
「すまねぇ、ケータロ兄貴。足手まといになっちまって‥」
クーのは耳と尻尾が力なく垂れ下がっているのを見るに、力になれなかったのが相当悔しいのだろう。
「いや、あんな初見殺しの塊みたいなやつ相手じゃ誰でも遅れは取ってしまうものだから気にしないでくれ。というか、突然兄貴と言われてる方が気になるんだが」
「あー、それはクーリの昔からの癖みたいなものなんですよ」
「自分より強い人とか尊敬できる人に出会うと兄貴とか姉御って呼んで慕ってしまうんです」
「エリアちゃんもケンカで勝っちゃった時はしばらく姉御って呼ばれてたもんね」
「ちょっ、ちょっとソフィア!」
逃げるソフィアをエリアが追いかけていく。
仲のよい光景を見てると自然と笑みがこぼれる。
そんな様子を眺めているとイアが俺の肩を叩く。
「ケータロ‥あそこに新しい扉がある‥」
イアの指差す方向を見ると、先程までは何もなかった壁に新しくドアが出現していた。
俺はクーリたちを呼び、全員でそのドアを潜る。
ドアの先は小さな部屋になっており、宝箱が一つポツンと置かれていた。
「何が入ってるのかな?」
「開けてみりゃいいじゃねぇか」
「トラップがあるかもしれないでしょ。ここは慎重に‥って、ちょっとケータロ!?」
三人の横を通り過ぎ、俺は宝箱を開けた。
エリアの言うとおり、罠が仕掛けられている可能性もあるのだろうが、俺は全くその心配をしていなかった。何故なら‥
「お前が俺を呼んでたのか?」
宝箱の中には石の箱が入っていた。
パッと見では何に使うものなのか分からない。だがこの箱からは、ずっと感じていた呼ばれる感覚を認知することが出来た。
しかし、俺が手に取った瞬間にその感覚は嘘のように消えてしまった。
「何だこれ?」
「古代の遺物‥なのかしら?」
「とてもそんな凄いものには見えないけど」
「ケータロ‥わかる?‥」
いや、俺も初めて見る‥というには何か既視感のようなものを感じている。
なんだったかなぁ?
とりあえず俺は何か気になるものが無いか回して見たり、振ったりしてみるが反応はない。
何気無く腰の辺りに据えてみたときに変化が起こった。
カチッ
見ると箱からはベルトの様なものが延長され、箱が俺の腰に装着されている。
既視感ってまさか‥
「これってバックルだったのか‥」
そう。既視感の正体は俺が長年好きだったヒーローの変身ベルトに酷似していたことだったようだ。
そりゃあ、あんだけ触れてきたんだから似てるなとも思うよな。
「兄貴!そいつ、体にくっついてるけど大丈夫なのか?!」
「あぁ、痛みもないし何ともないよ。それにほら」
俺が「外れろ」と念じると、元の石の箱に戻った。
このバックルが俺と一体化して体に根を張るようなタイプじゃなくて本当に良かったよ‥
「とりあえず、ギルドに戻って調査報告をしましょ。ケータロが手に入れたその箱も調べてもらわなきゃいけないし」
「それってやっぱり俺も行かなきゃ駄目か?」
「もちろんよ。このダンジョンは最近入れるようになった奴だから、例え農夫だろうと攻略したら冒険者ギルドに報告するのは国民の義務だからね」
「それは子供でも知ってる常識ですよ?」
やばっ‥なんて誤魔化そう。
女神に呼ばれて転生したなんて言っても信じちゃくれないだろうしなぁ。
ここはテンプレで
「実は最近まで森の奥に一人で住んでたから一般常識と言われても分からないことの方が多いんだよ。イアと知り合ったのも最近でね。もし良かったら、その冒険者ギルドに行くまでに教えてくれないかな」
苦しい!自分で言ってても結構苦しいぞ、この言い訳!
「そ、それなら‥」
「それなら俺が教えてあげますよ!兄貴の面倒は俺が見ます!」
エリアの言葉を遮るようにクーリが手をあげて自分を推薦してくる。
まぁ、同じ男同士なら気兼ね無く話せるしいいか。
「なら頼むよ」
「任せてください、兄貴!」
とりあえず、この世界の一般常識については何とかなりそうだな。
なんか、エリアがクーリのことをすごい睨んでるけど気にしないことにしよう。