1-9 決着
「もう少しだけ待っててくれ、みんな」
俺は倒れているイアたちを見た後、霊力と魔力の生成に集中する。
まずは左手に霊力を作り出す。
自分の体に流れる霊素をかき集め、今作れる最大まで霊力を練り上げ更に圧縮していく。
すると、左手に赤く光る球体が出来上がった。
次に右手に魔力を作る。
空気中に漂う魔素を俺の体に誘導し、自分の体をフィルターにして集めた魔素を霊力とは違う練りかたで魔力に変える。
同時に先程までの戦闘で空間に漂っていた飽和魔力も一緒にかき集め、それらも合成。
右手には青い球体が出来上がった。
左手の赤い霊力の塊、右手の青い魔力の塊を胸の前で一つに重ね合わせる。その瞬間、物凄い力の奔流が部屋全体を多い尽くす。
俺の目の前には虹色に輝く球体があり、これが神力だと感覚的に理解できる。
この力なら黒クマに対抗できるが、一つだけ問題がある。
この神力を武器に付与すれば間違いなく壊れるだろう。そうなればせっかく完成させた意味がない。
少し考えた後、自分の体に神力を流してみることにした。
力を扱える以上、制御さえ間違わなければ大丈夫だろうという判断だ。
俺は自分の体へと神力を取り込む。すると意外なほどあっさりと体に馴染んでいく。まるで、カラカラの土に水が染み込んでいくような感じだ。
神力を取り込んだ俺の体からは虹色のオーラが立ち上っている。
体はとても軽く、思考も冴えている。
神力を生成したときの荒々しさは一切なくなり、辺りも静まり返っていた。
「グワォォォォ!!」
黒クマが雄叫びをあげながらこちらへと突進してくる。だが、その動きも今の俺にとってはかなり遅く感じていた。
「せい!」
相手の懐に潜り込み、掌打を放つ。
思った通り神力は黒クマの吸収を無視することができ、奴は吹き飛んでいった。
「よし!これなら‥!?」
確かな手応えを得ていると、黒クマの吹き飛んだ方から針状のものが無数に飛んでくる。
俺は最小限の動きで針を避けて無傷だったが、相当固いのか当たった壁や床に針がめり込んでいる。
奴の方を見ると、全身の体毛がハリネズミのようになっていた。
あれを射出して攻撃したようだけど、いったいどれだけ攻撃方法があるのだか。
「はっ!みんなは?!」
感心してる場合じゃなかった。あんなのが当たったら全員ひとたまりもない。
周りを見回すと、幸いにも射線上には誰も居なかったようで無事を確認できた。
あまり悠長にしてると犠牲が出てしまう。なら、やることは一つ。
「いくぞ!」
俺は黒クマへと駆け出す。
向こうも先程の二の舞にならないように体を丸めて針の珠へと変化する。
ここで無闇に突っ込めば串刺しになるだろう。
だが俺はさらに加速して針の隙間を縫い、掌を黒クマに接触させる。
「くらえ!」
ズドンという音と共に黒クマが浮き上がりトゲ化も解除される。
俺は神力でも気や発頸と呼ばれるものと同じことが出来るのではと思い、ゼロ距離で神力の固まりを奴に放って見せた。
神力は体の中で爆発し、ダメージとなる。
背中から落下した黒クマは内側からの攻撃に身悶えている。
畳み掛けるなら今だ!
俺はよろめきながらも立ち上がった黒クマに接近して連打を叩き込む。
もう一息!
俺は一旦距離をおいた後、黒クマへ向かって走り出す。
勢いの乗ったタイミングで飛び上がった俺は、前宙から右足を突きだし残りの神力を右足に集中する。
「これで終わりだ!」
所謂ラ○ダーキ○クが黒クマの胴体に直撃する。
俺のキックを受けた黒クマはそのまま壁まで飛んでいき動かなくなった。
「ケータロ!」
声の方を見ると意識を取り戻したイア、エリア、ソフィアが俺の方に向かってきていた。
「みんな無事か?」
「私たちは何とかね」
「クーリはまだ目を覚ましていませんが、回復魔術を掛けておいたのでしばらくしたら目覚めると思いますよ」
そんな話をしていると入り口で鍵の開く音がする。
扉はボスを攻略しないと開かないのでボス戦は終了したということだろう。良かった、第2形態とかなくて‥
こうして、ボス部屋での死闘は幕を下ろしたのだった。