ラクリマ
「どうしたのラクリマ! なんで避難しないの!」
「バイオレットがまだ残ってるって聞いたから、助けに来たの!」
白い髪に白い肌、そして白い防具。アドラと同じインペリアルにも見えるが、青い瞳とまつ毛まで白い姿に、彼女がアルビノであると分かった。
アルビノは、色彩異常とか詳しい事は俺には良く分からんが、先天的に体全体が白化した者を呼ぶ。これは全ての種族に稀に誕生するようで、人の心が読めたり、体の内部にある悪性腫瘍など、常人には手に入れられない才能を持つと言われている。そしてその容姿から聖人などと呼ばれ、ほとんどのアルビノは聖職者などの位の高い貴族となっている。
そんなアルビノが何故ハンターに!? はっ! もしかしてラクリマなら悪魔を倒せるんじゃないの!?
アルビノには聖なる力が宿り、エインフェリアと同じ浄化の力が使えると聞いたことがあった。
「分かった! とにかくどこかに隠れましょう!」
「でも、この子が怯えちゃって……」
「大丈夫。私に任せて!」
ラクリマはなにか手があるのか、そう言うとロンファンに近づいた。
もしやアルビノには、心を穏やかにする力があるのか! さすが天使とまで言われるだけはある!
「私はラクリマ。怖がらなくても大丈夫」
ロンファンの前で腰を屈め、優しく語りかけるラクリマは、森の精霊にすら感じる。そして何より、この非常事態の中でも落ち着きを払い穏やかな表情を見せる姿に、底知れぬ力を感じた。
「さぁ、私と一緒に行きましょう?」
未だに怯えるロンファンだが、ラクリマは臆することなく手を差し伸べる。ロンファンはその手を静かに見つめる。
凄い! 今のロンファンは興奮する狼と変わらないのに、何の躊躇も無く手を出した! こんな凄いハンターならクラウンになっても不思議じゃない。
「さぁ、おいで」
優雅さすら感じさせるラクリマは、女神のようにロンファンを導いた。しかし、ある程度手を近づけるとロンファンが頬を吊り上げ、牙を見せ始めた。
やはりだめか! いくらアルビノでも悪魔に怯える心には勝てない!
それでも牙を見てもラクリマは臆せず、優しく声を掛け、さらに手を近づける。
「怖がらなくても大丈夫よ。私は敵じゃない」
これがラクリマでは無く、違う人が同じことをしたならばすぐに止めに入るだろう。今のロンファンはそれほど危険だ。しかし聖人とまで呼ばれる彼女なら、間違いなく大丈夫。と思っていたのだが、限界まで手が近づくとロンファンは犬のように吠え、噛みつくような威嚇をした。
これにはさすがのラクリマも魂消たのか、吹き飛ぶように尻餅をつき、慌ててロンファンから離れた。
「あ~ビックリした~……」
ラクリマ~! あんた一体何しに来たの!?
「ごめんバイオレット。やっぱり私じゃ無理みたい」
「あ、うん……」
どうやらアルビノは、俺が思うより普通なのかもしれない……
「とにかく! 今は避難しましょう!」
「えっ! うん! そうね! あっでも! ロンファンちゃんはどうするの?」
バイオレット~! ラクリマが来た事で気が緩んだのか、もう役立たず!
「ロンファンは俺とアドラでなんとかします! だから二人は先に逃げて下さい!」
「えっ! それはダメよ!」
「駄目って、今も分かったでしょ! ロンファンは俺かアドラじゃなきゃ動かせません!」
「そ、そうだけど……」
「それに、俺達三人だけなら見つかる可能性も減ります! だから行って下さい!」
折角来てもらったラクリマには悪いが、この二人がいたところで状況が変わる兆しは無い。それどころか、逆に二人がいる事でロンファンの警戒心が緩まない。
「分かった! ここは貴方に任せるわ! 行きましょうバイオレット!」
相当ロンファンの威嚇が堪えたのか、ラクリマは快諾してくれた。お陰で状況は少しは変わりそうだ。
「でも……あっ! ちょっと待って!」
「何! どうしたのバイオレット?」
何か秘策でも思いついたのか、バイオレットがラクリマを止めた。
「アドラ君! さっきの話だけど!」
また~? まだ諦めて無かったのこの人? なんでそんなに悪魔を討伐したいの?
「もう一度だけ聞くけど、どうしても悪魔を倒してくれないの!?」
無理だって! アドラを説得している時間があるのなら、さっさと避難して欲しい。俺達だって危なくなる。
「いや、師匠が一緒に戦ってくれるなら、別にいいけど?」
「はぁ!?」
この子何言っちゃってんの!? 殺す気か!
「だって師匠。師匠こそ今まで本気で戦ってくれなかっただろ?」
「何言ってんだお前!?」
どうした急に!? 何の話してんの!?
「いや、俺だって悪かったって思ってたんだよ。でもさ~、全力を尽くさないのは相手に対して失礼だって言ってたのに、師匠だって一度も本気出さなかったじゃん」
何何? アドラこの窮地におかしくなったの!? 今そんな話しするとこじゃないじゃん!? ケツ神様タイミングおかしいよ?
「待てアドラ! お前なんの話してんだ!?」
「いやさっきさ、師匠俺の事弱いって言ったじゃん?」
どこに噛みついてんだよ! こいつ本当に四十歳の大人か!? あっ、子供だった……
「だからさ、師匠が本気出してくれるんなら俺も本気で戦う」
「おま……」
「それホント! アドラ君!」
「ああ」
バイオレット~! そいつの言う事信じちゃ駄目!
「ねぇリーパー君! 君も一緒に戦って!」
ほら来た! 絶対無理だから! 一緒も何も、瞬殺されて終わりだよ!
「無理ですよ! 落ち着いて下さいバイオレットさん!」
「私は落ち着いてるわよ!」
どこが!? 完全にネジぶっ飛んでるよね? どう考えても無理だって分かるよね!?
「ラクリマ!」
「何?」
「ちょっと力を貸して!」
「何する気なのバイオレット?」
なんでラクリマまで協力的なの!? 早く逃げた方が良いよ! またロンファンに吠えられるよ?
「私とラクリマでハーモニクス(魔力を共鳴させて倍にする)して、リーパー君をボトムアップ(身体強化)させる!」
何? 俺のズボン裾上げしてくれるの? 今それ必要!?
「でも、私達だけじゃ知れてるよ?」
「良いの良いの。リーパー君は戦ってる振りだけでいいんだから、守りに徹すれば近づくくらいにはできるでしょ?」
「まぁ、命一杯やればそれくらいは出来るけど……」
アドラにめっちゃ聞こえてるよ? それにラクリマだって乗り気じゃないし、何より全開までやって近づくのがやっと程度? それも守りに徹してでしょ? 何する気か知らないけど誰か助けて!
その願いが天に届いたのか、突然馬の鳴く甲高い声が聞こえた。振り返るとパイライトドラゴンの前に、銀色の鎧に身を包む巨大な馬に乗る、真っ黒な鎧を着た大きな騎士がいた。
どこから現れたのかは知らないが、黒い兜から覗く赤い目が不気味で、なんとなくと言うか、絶対あれが悪魔だと直感した。
か、か、かかか神様―! そりゃないっすよ!
ここ数日でブックマーク登録が増えました。ありがとう御座います。ですが、小説で勝負している以上、目に見える形になったからと言って感謝を述べるのは私としては何か違うと思いました。感謝を述べるくらいなら、より良い作品を作り、小説で感謝を示す方がずっと良いと思いました。小説家なら小説で語れ! 恐らくリリアならそう言います。ですがやっぱり感謝も大事です! というか、これを書いている時点で小説で示せてません。とにかく、ありがとう御座います!




