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無茶

「ロンファン?」

「…………」

 

 皆が避難し、俺が声を掛けると、ロンファンは威嚇こそはしないが肩を窄め頭を隠すように身を引く。


「どう? やっぱりだめ?」

「はい。まだ怖がってるみたいです」

「困ったわね。せめて森の中に入ってくれるだけでいいのに……」


 悪魔の出現に、パイライトドラゴンでさえ体を丸め防御姿勢を取る状況に、バイオレットも無理矢理ロンファンを移動させようとはしない。


「まぁ良いじゃん。ロンファンだって怖がってんだし、終わるまでここにいようぜ?」


 アドラは悪魔という存在自体を知らないのか、逃げるどころかまだパイライトドラゴンの最期を見届けるつもりでいるらしい。しかし今はその呑気さが頼もしい。


「お前な。もしかしたら殺されるかもしれないんだぞ?」

「誰に?」

「悪魔にだよ!」


 そう言うとアドラはニヤリと笑った。


「師匠さっきから何言ってんだよ? あんなのに殺されるわけないだろ? あっ、ロンファンは俺がいるから大丈夫」


 すんごい自信! 無知とは怖いね……あれ?


「お前悪魔が分かるのか!」

「あれだろ、あの~……あれ! 黒い奴!」

「違う! そういう意味じゃなくて! お前今悪魔が何処にいんのか分かるのか!」

「あ、そっち?」


 ほんと呑気! 俺の聞き方も悪かったけど、今悪魔がどんな姿形してるのかなんて聞かないよ!


「あそこだろ。あの城」


 人差し指でグリッツ城を指し、あっちだと言うアドラは悪魔を感知出来ていたようだ。なのになんで呑気!


「じゃあ悪魔の恐ろしさくらい分かんだろ!」

「恐ろしさ?」


 こいつには恐怖心というものは無いらしい。良く今まで生きてこれたよ!


「もういい! とにかくロンファンを移動させるのを手伝え!」

「いやだって、ロンファン怖がってんじゃん。可哀想だろ?」


 恐怖心は無いけど協調性はある! お前っていい奴!


「ちょっと待って!」


 俺達のやり取りに痺れを切らしたのか、バイオレットがとうとう口を開いた。


「アドラ君ってインペリアルだよね?」

「え? そうだけど?」

「じゃあ今感じてる悪魔って倒せる?」

「え?」


 バイオレットどうしちゃったの!? こいつがあまりにアホだから、鉄砲玉として使う気なの!?


「何言ってんですかバイオレットさん!」


 アドラは確かにアホだ。それでもアドラは俺の可愛い弟子だ! 絶対に殺させない!


「落ち着いてリーパー君。召喚ってね……」

「倒せるけど?」

「はぁ!?」


 バイオレットもバイオレットだが、アドラも何言ってんの!? この二人どうしちゃったの? あ、アドラはいつも通りか。


「いや。倒せるって言ったの」


 いや俺はもう一回言ってって意味で言ったわけじゃないから!


「お前嘘つくなよ! 悪魔倒せんなら、パイライトドラゴンくらい簡単に討伐出来ただろ!」

「あ、いや。それは……その~……」


 この口振り、アドラは何か俺に秘密にしている事があるようだ。アドラが口を濁すときは、俺に怒られる自覚がある時だけだ。


「その~、何だよ! お前何した!」

「あ~……へへへ……」


 下唇を舌で膨らませ視線を逸らすアドラは、絶対俺には言えない悪さをした。


「お前~!」

「落ち着いてリーパー君! ちょっと私の話を聞いて!」


 立て込んでいるのは分かるが、話に割り込んでくるバイオレットが邪魔くさい! 事態は把握しているが、こいつのやらかした事をほっといたら大変な事になる。


「もう少し待って下さい! 今アドラから聞かなきゃならない事があるんです!」

「それでも今は聞いて! もしかしたら悪魔を倒せるかもしれないから!」

「えっ!」


 思わぬ言葉に驚いた。もしそんな事が可能なら、俺達は本当に英雄になれる。


「召喚には決まりがあって、捧げた供物より優れた者は召喚出来ないの!」


 どういう事? 


「つまり! あの悪魔はアドラ君の血で引き寄せられて召喚されたの!」


 ん? アドラの血で召喚されたのはなんとなく分かるが、いまいちピンとこない。


「あ、あの、すみませんが、俺……俺達にも分かるように教えて下さい」


 当然と言っちゃ当然だが、アドラもちんぷんかんぷんの顔をしている。


「あ……うん。分かった!」


 あ、今絶対バイオレットは、この人って頭悪いって思った。


「え~っと……簡単に言うと、銀貨一枚じゃ、金貨一枚には両替出来ないって事!」

「え? つまり……どういう事ですか?」


 全っ然分からない。誰か説明して!


「ああもう! 今は時間が無いから、悪魔はアドラ君に勝てないって事にしておいて!」


 諦めた! 俺達が馬鹿すぎるから諦めた! だって仕方ないじゃん。俺魔法なんて知ら……なんだ!?


 突然ピューっという音が聞こえた。音の先を見ると、黒煙が立ち上るグリッツ城から、救援信号の黒い狼煙花火が上るのが見えた。

 それを見て、まだ冒険者たちが戦っている事が分かった。


「もう時間が無いから! とにかくアドラ君! 悪魔を倒して!」


 救援信号を上げたという事は、もう冒険者たちは長くは持たない。それに早く援軍が向かわなければ全員殺される。


「え? 嫌だけど?」

「え?」


 アドゥラ~! 確かに俺はお前では無理だと思う。でももうちょっとやる気を見せよう? 


「そこをお願い! 今……」


 バイオレットがアドラを説得しようとすると、物凄い勢いで数名の冒険者がこちらに向かい走ってきて、そのまま声も掛けずに通り過ぎて行った。

 恐らく救援に向かう部隊なのだろうが、既に人間離れした速さだ。ロンファンよりも速い! それでもあのクラスの冒険者でも悪魔を倒せないだろう。倒せるのならすでに先発隊がなんとかしている。


 鬼気迫る勢いで通過した冒険者たちを見たバイオレットは、さらに事態の悪化を察知し、アドラの両肩を掴んで説得を始めた。


「ねぇアドラ君! 今君が戦わなければ皆死んじゃうんだよ!」

「え? そうなの?」

「そう! だからお願い! 悪魔を倒して!」

「……でもな~……俺、弱い者虐めしたくないし……」


 困ったように頭を掻くアドラは面倒臭そうに言うが、本音は多分無理だと言っているのだろう。バイオレットはアドラを高く評価しているようだが、そんなことが出来るのならこんな状況にはなってはいない。


「バイオレットさん。バイオレットさんが思う程インペリアルは強くはありません。それに、俺はアドラを死なせたくはありません」

「師匠……」


 アドラにもプライドがあるのは知っている。だからこそここは俺が間に入ってアドラの顔を立てる。例えここで悪魔が暴れて大勢の犠牲が出ても、いずれは軍や冒険者たちがなんとかするだろう。今見栄でアドラを戦わせて死なせるわけにはいかない!


「こいつは確かに強いですけど、相手は悪魔ですよ? 分かりますよね、バイオレットさん?」

「……あっ……」


 バイオレットは何か言おうとしたが、俺が睨みを利かした。バイオレットは興奮しているだけで、冷静な判断が出来ないのは知っている。それでもアドラは俺の可愛い弟子だ! 例えバイオレットと戦う事になっても止める!


「すみませんね。原因がアドラにあるのは分かってます。それでもバイオレットさんの無茶に、アドラは付き合わせません」

「…………」


 これでいい。生きてさえいればそれでいい。


「師匠、俺!」

「バイオレット~!」


 折角良い空気なのにここでもまた邪魔が入った。神様! 今だけはアドラの言葉を聞かせてよ!


「ラクリマ!」


 アドラが何を言い掛けたのかめちゃめちゃ気になるが、バイオレットがラクリマと呼ぶ女性の登場で、その期を永遠に逃した。


 どうして俺のケツ神様は微笑まない! 天は平等じゃないの!?


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