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不安

 部屋へ向かうためアニさんについて行くと、スタッフ専用玄関に案内された。

 ここはギルド関係者だけが出入りする玄関で、出勤するスタッフや取引先の業者の他に、宿舎の玄関でもあると教えられた。

 シェオールの玄関と違い管理人もいて、セキュリティーもしっかりしている。流石は本部だけある。

 

「こちらが宿舎を管理している、ランケイさんです」

「よ、よろしくお願いします……」


 小さな窓の奥に、紫の髪の毛に黒い口紅を塗った、堂々とした物凄いご婦人がいた! だが、失礼のないようしっかり挨拶をした。ミズガルドのギルド、マジでヤバイわ!

 

「よろしく、坊や」


 坊や!? たしかに若くは見られるが、俺、二十七だけど……


「ランケイさん。彼は新人研修で来られた、リーパー・アルバインさんです。今日から六泊七日、宿舎に寝泊まりします。どうぞよろしくお願い致します」

「坊やなら知ってるよ。ロンファンちゃんのお師匠様だろ?」


 えっ!? 知ってんの!? 俺はこんなご婦人、全く知らないけど……


「おや、そうでしたか。これは失礼致しました。でしたら、よしなにお願い致します」

「分かっているよ。あんたも忙しいんだろ? 挨拶なんていいから、早く部屋に案内しておやり」

「ランケイさんのお心遣いには、毎度感服致します。それでは、お言葉に甘えさせて頂き、失礼致します」


 アニさんはそう言うと、またあのダンスでも誘うような優雅なお辞儀をした。アニさんはきっと、貴族なのだろう。


 それを受けてランケイさんは、「あいよ」っと返事をし、ほっそい煙草に火を点けた。

 

 大都会ミズガルド。ここにはまだまだ俺の知らない魔境があった。っていうか、煙草は駄目だろ!


 階段を上がり、質素なホテルのような二階の廊下を進むと、一つの部屋に案内された。どうやらここが、研修期間中の俺の部屋らしい。


「こちらが、研修期間中のリーパーさんの寝室になります。どうぞお入りください」


 まるで高級ホテルのベルボーイのようにアニさんは扉を開け、俺を招き入れた。

 チップとかせびられないよね?


 部屋は予想に反して一人部屋を与えられたようで、ベッドと机が一つずつあるだけで、部屋のほとんどをベッドに占領された狭い部屋だった。

 だが、内装はかなり綺麗で、一つしかない窓は両開きの高級なもので、おまけにクローゼットまで付いていて、ちょっとしたホテルにでも来た気分だった。


「こちらに宿舎規則、宿舎案内図、各施設のご利用時間、留意点を記したマニュアルがありますので、お読み頂きたく願います。また、これ以外でご質問がおありでしたら、恐縮ですが、管理人のランケイにお聞き下さりますようお願い致します」


 あれ? 俺って研修に来たんだよね? アニさん、ホテルの人じゃないよね?


「そしてこちらが、明日からのリーパーさんがお受けになられる、研修内容等を記した書類になります。こちらには、明日からの出勤時間等も記されておりますので、必ずお読み下さい」

「わ、分かりました……」


 この人、なんとなくヒーに似ている。どんどん勝手に話進めるんですけど!


「さらに……」


 さらに!? なんとなくではなく、この人ヒーのお兄さんじゃないよね?


「こちらが、当ミズガルドギルドの規則を記したマニュアルとなります。規則違反を犯すと、罰則の対象となる可能性がありますので、こちらも研修内容同様、必ずお読み下さい」

「わ、分かりました……」

「何かご質問はありますか?」

「えっ! い、いえ……特にありません……」


 本当なら、どうして一人部屋なのかとか、ほかに研修を受ける人はいるのかとか聞きたかったが、無理だ! と言うより、早くアニさんと離れたい!


「そうですか。では、改めてご挨拶致します。私は明日より、リーパーさん他二名の教育係を務めます、アニー・ウォールと申します。以後よろしくお願い致します」


 マジか!? もうすでに実家に帰りたい! 


「よ、よろしく、お願い致します……」


 最悪! これならまだ、アルカナに行っていた方が良かった! この人の指導受んの? いくらリリアやヒーの指導受けてきたとはいえ、アニさんには通用しないよね?


「なお、リーパーさんは本日移動日となっている為、本日はこれにて業務の終了となります。明日の勤務までのお時間を、ご自由にお過し下さい」

「そ、そうですか……それはありがとう御座います……」


 助かった~。俺もそうだとは思ってたけど、もしかしたらとも思ってた。これなら明日の仕事まで、ストレス受けなくて助かる。


「では、私は勤務に戻りますので、失礼させて頂きます」


 軽く会釈したアニさんはそう言うと、颯爽と部屋を出て行った。ただ、ドアを音がしないよう静かに閉めたのを見て、明日からの仕事に対する不安が超増した。 


 アニさんが去ると、どっと疲れが出た。

 ヒーを上回る勤勉さ、真面目さ、几帳面さ。それに、少しでも許容範囲を超えるとガツンと来そうな性格に、正直あまり関わりたくない。リリアがすんなりミズガルドのギルドでも良いと言ったわけは、絶対アニさんだろう。じゃなきゃ絶対アルカナに行けって言うもん!


 机の上に置かれたマニュアルを眺め、ため息しか出なかった。

 アニさんの言い方じゃ、明日までに網羅すれ! って事だろう。絶対無理! 

 

 マニュアルはロンファンと食事した後で読もうと思い、制服を着替え、ロンファンを迎えに行く事にした。


 応接室に行くと、ロンファンはソファーの裏に隠れており、冷めた紅茶と、手の付けられていないケーキが虚しそうに俺を見ていた。


「ロンファン、飯に行くぞ!」


 声を掛けると、ロンファンは直ぐに俺だと気付き、駆け寄って来た。


「師匠~! 早く行きましょう~!」


 どんだけ不安だったのか、渡したシャツがシワシワにされていた。


「あぁ。何食べたい?」

「師匠と一緒なら~、なんでもいいです~」

「そうか? じゃあ、ハンバーグでも食べに行こうか?」

「はい~!」


 基本的に好き嫌いの無いロンファンは、肉が大好きだ。その中でもハンバーグは特に好きだった。


「じゃあ行こうか」

「はい~!」


 その後食事を済ませると、ロンファンを自宅まで送り、やっとのんびり疲れを取れるはずだったのだが、再びの迷子になりしばらく彷徨い、部屋に戻ったときには外は真っ暗だった。

 お陰でマニュアルを夜遅くまで読む羽目になり、寝不足で研修初日を迎える事となった。


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