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アードネスチェーン

 立ち上る土煙。パイライトドラゴンの叫び。打撃音。そしてそれに負けじと張られるハンターの声。周囲には火薬と爬虫類の臭いが漂い、パイライトドラゴンが暴れるたびに木々が揺れる。


 とうとう俺達のエリアに足を踏み入れたパイライトドラゴンは、数本の縄をぶら下げ、背中にアドラとロンファンを乗せながら、バイオレットが待ち構える地点へと進む。


 合流したゴーギャン隊は既にこちらの作戦が伝達されており、俺がいなくとも完ぺきな誘導をする。それを見て邪魔になるだろうと思い、バイオレットを目視できる少し離れた森の中で待機していた。


 ゴーギャン隊もオソロ隊も攻撃の手を弱め、パイライトドラゴンが道を外れそうになった時だけ攻撃を仕掛けるようになり、上手く誘導する。前線にはクレアも参戦し、作戦は順調だ。ただ一つだけ問題があるとすれば、背中に乗る二人だ。

 攻撃が弱まった事でアドラは他を威嚇するような事は無くなったのだが、その分静かになりアドラ達の会話が良く聞こえるようになった。


「ロンファンまだか!」

「だめ! 硬い! 師匠みたく上手く出来ない!」

「やっぱり師匠がいなきゃ駄目か……おい師匠! どこ行った!」


 亜空間殺法は、俺とロンファンでモンスターをブレイクし、首が跳ね上がるほど痛みを加える必要がある。首が跳ね上がるとアドラがモンスターの下顎の隙間に剣を刺し、致命傷を与えハントしていた。これには俺達の役割が非常に大きく、アドラが狙い易いように首を跳ね上げるのが重要になる。

 普通にナイフを刺すだけではなかなか飛び上がるような痛みを与えられず、かなりのコツがいる作業で、当時この役目は俺が担っていた。


 しかしロンファンはまだこの技術を習得出来ていないのもあるのだろうが、あの硬い皮膚の隙間にナイフを通し、的確に激痛を与えるのは当時の俺でも難しい。それでも俺なら出来ると勘違いしている二人は、しきりに俺を呼ぶようになった。


 周りのハンター達は既にアドラ達を気にする様子も無く、全く相手にされていない。しかし呼ばれる俺としてはやめて欲しい。


「師匠! 師匠さんはいますか~!」

「師匠~! どうやって刺すんですか~!」


 アイツら自由! 


 結成当初、様々なハンターとパーティーを組んだが、この戦いっぷりに全てのハンターが我が隊を離れて行った。そして今まさに他のハンターがアドラ達を無視するのは、その前兆である。いくら討伐率が高くとも、こんな戦い方をしていれば当然だ。


 今のままでも十分作戦は順調に進んでいる。ここは弟子たちには悪いが、師匠は草むらで待機する事にした。


 アドラ達が背中にいるため、時折嫌がるように体を振るパイライトドラゴンだったが、いよいよバイオレットの射程距離に入った。

 バイオレットは木の上で大きな弓を構えた。矢は魔法で作り上げた物のようで、キラキラ光を発している。大きさは一メートルほどで、形は真っすぐな棒にしか見えない。


 あんな細い矢でどうやってブレイクをする気なのかは知らないが、狙いをつけ慎重にタイミングを計るバイオレットは、パイライトドラゴン目掛け矢を放った。

 放たれた矢は見事にパイライトドラゴンの首に命中し、貫通したのではと思うくらいの勢いで首の中へ消えて行った。しかし矢を受けたはずのパイライトドラゴンは、全く痛がるような動きもみせず、まるで矢が当たった事すら気付いていないようだった。


 まさか硬すぎて効果が無い!? 矢が突き刺さったと見えたのはただ単に砕け散っただけ!?


 予想外の展開に衝撃を受けていると、バイオレットは再び弓を構え矢を放った。

 放たれた矢は今度は左前足に当たり、また貫通したかのように体の中へ消えて行った。だがそれでもパイライトドラゴンはなんの反応も見せない。


 これはマズイ! このままでは後方で魔法陣を書くミサキ達が危ない!

 

 このままブレイクできなければ作戦は失敗し、下手をすればミサキ達まで怪我を負いかねない。それはバイオレットも分かっているようで、再度弓を放った。しかし背中に矢が当たってもパイライトドラゴンは反応を見せない。それでもバイオレットはさらに矢を放ち続ける。


 全く効果が見られないまま、計六発矢を放ったバイオレットは木から飛び降りた。そして反対側からも矢を放つ気なのだろうか、パイライトドラゴンの陰へと消えて行った。


 一体バイオレットは何がしたいのかは分からないが、このままでは非常にマズイと判断した俺は、せめてミサキ達を避難させようと茂みを飛び出すことにした。すると突然、光の線が横を走った。

 一体なんだと確認すると、パイライトドラゴンの首から光る小さな鎖が地面に向かい伸びているのが見えた。


 バイオレット? バイオレットがやったのか!? どうやったのかは分からないが凄い!


 その鎖は反対側からバイオレットが打ち込んでいるのか、どんどんパイライトドラゴンのあちこちから飛び出してくる。それに気付かないパイライトドラゴンは、構わず前進する。


 しかしここで気付いた。まるでアンカーのように地面に突き刺さる鎖だが、とても小さく細い。仮にこのままバイオレットが打ち続けても全然数が足りない! やはり失敗かと思っていると、鎖が伸びきった瞬間Sランクハンターの実力に驚愕した。


 小さな鎖は負荷が掛かると突然ガシャンッという重たい音を立て、太い鎖に変化した。その強度は前進を続けるパイライトドラゴンの動きを止めるには十分過ぎるほどで、突然の事にパイライトドラゴンが反動で引っ張られるほどだった。


 この事態にパイライトドラゴンは後退して鎖を緩めようとしたが、既に背中から地面に掛けても鎖は撃ち込まれており、完全にブレイクされた。

 身動きが取れなくなったパイライトドラゴンは体を揺すり暴れるが、強固な鎖は全く緩む気配は無い。


 これにはさすがに魂消た。どういう原理なのかは一切分からないが、いままで二つのギルドを代表するハンター達が出来なかった事をたった一人でやり遂げた! バイオレットはミズガルドどころか、ハンター協会でもトップクラスのハンターだ!


 動きが止まったことで周りのハンターも武装を解除し始め、完全にブレイクが成功した事が分かった。しかし、これに安堵したのは俺達だけで、背中に乗るアドラは今がチャンスとロンファンを焚きつける。


「ロンファン今だ! やれ!」

「今やってる!」


 この二人って、絶対適合性無いよね?


「おいアドラ! お前たちはもう降りろ!」

「えっ? ……おお師匠! 今終わるからちょっと待ってて!」


 いや違うから! 終わるも何もロンファンじゃ出来ないから! だってあれじゃ化石堀だよ?


「アドラ! もうお前たちの仕事は終わったの! こいつは他のハンターたちが狩るからもう降りろ!」

「はぁ!? こいつは俺が見つけたヌクだぜ? そりゃ駄目だろ! こいつらだってなんで勝手に手だしてんだよ!」


 ハンターには暗黙のルールとして、通常は先に見つけたハンターがそれを狩る優先権を得る。その為後から来たハンターは、援護などの要請が無い限り手を出せない。


「そいつはもうエネミー指定されたんだよ! だから指示に従え!」

「何勝手に決めてんだよ! それなら初めから言えよ! こいつが可哀想だろ!」


 アドラが可哀想と言った事に、アドラとロンファンは俺の教えを未だに守っているのだと知った。

 俺が二人に教えた中で、唯一守らせた教訓がある。それは狩猟するモンスターに対して、恵みを与えてくれる感謝と尊敬を忘れない事。


 ただ金を稼ぐためにハントを行うとそれは虐殺になる。昔は獲物を狩り、それを糧として生を繋いだ。しかし豊かになった世の中では、俺達はただ獲物を殺すだけで収入を得られる。それでは冒険者や兵隊と変わらない。だからこそハンターは如何なる時でもそれを忘れてはならない。これはハンターとしてとても大切な心構えだ。


「それは分かってる! でももう決まった事だ! 分かるだろ! これ以上お前たちがそこにいれば余計に苦しめるだけだ!」

「…………」


 この言葉にアドラは悔しそうに顔を顰めた。

 アドラとロンファンは優しい。だから体に張り付き、最小の手傷で狩猟しようとする。これは例えどんな窮地に陥っても同じで、そんな状況でも絶対に目潰しなどはしたことが無い。無茶苦茶な戦い方をするが、俺が二人を見捨てなかった一番の理由はそこにある。


「アドラ!」

「分かったよ! ロンファン! 降りるぞ!」

「えっ! でもまだ……」

「俺達が弱いせいだ! 後は強い師匠に任せる!」

「……うん」


 相当悔しいのか、珍しく俺を罵倒するような事を言ったアドラは、ロンファンと共に背中から飛び降りた。


「おいどこに行く気だ」


 降りた二人はこちらに来ると、俺の顔を見て無言で帰ろうとした。


「帰るんだよ。もう俺達はいなくてもいいだろ」

「駄目だ。お前らがあそこまで傷つけたんだろ。最後まで見届けるのが償いじゃないのか」

「…………」


 睨むように俺を見つめるアドラは、しばしの沈黙の後鼻で深い息を吐いた。そして再び歩き出した。


「おい!」

「分かってるよ」


 ふて腐れるように言ったアドラはそのまま歩いて行き、座るには丁度良い倒木に腰を下ろした。ロンファンも今は俺には近づきたくないようで、アドラについて行った。


 サブタイトルのアードネスチェーンは、バイオレットが使用した光の矢の名前です。

 この魔法はアードネスという魔導士が考案した拘束魔法で、自分の魔力を限りなく純粋な魔力に変え、粘着性を持たせるもので、対象に当たるとその対象の魔力に変換され、粘着力で引っ張り出し、アンカーとして拘束する超難度の魔法です。

 純粋な魔力はプログラムを書き込むことや性質変化、維持するのが非常に困難で、物理的損害を与えることが出来ません。

 アードネスチェーンの利点は、相手の魔力を利用するため、拘束が成功すると術者は魔力を消費せず、物体をすり抜ける為ガードが不可能です。

 弱点としては、この原理を知っていて、尚且つ魔力コントロールが出来る者には効果がありません。相手の魔力を利用するため、相手が魔力を抑え込めば簡単に切られてしまうためです。


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