インペリアル
「魔族!?」
インペリアルについて聞くと、まさかの答えが返って来た。
魔族は高い戦闘能力と魔力を兼ね備え、とても好戦的で破壊を好む種族だと聞く。魔族の中にも種族によって優劣はあるが、一匹? ……一人? 仕留めるには、Aランク冒険者八人は必要だと言われている。
現在の魔王軍もほとんどが魔族であり、簡単に言うと敵だ。
「そう。驚いた?」
「あぁ……」
驚くも何も、アドラってここにいたらマズイんじゃないの? 普通に憲兵とかに殺されるんじゃないの? っていうか、なんでアドラまでそうなんだみたいに驚いてんの?
「俺、魔族なんだ。……でも、魔族って何?」
なんで!? なんでアドラは自分の事なのに何も知らないの!?
「魔王の仲間だよ」
「へぇ~。魔王ってどこかの王様なのか?」
マジで言ってんのこいつ!? アドラって魔王も知らないの!?
「そうだよ。プルフラスの王様」
「そりゃ凄いな! で、プルフラスって何処?」
「もういい! アドラ、魔王については自分で調べろ! コレ、宿題な!」
俺もあまり人の事は言えないが、魔王くらいは知っている。これ以上アドラに付き合っていたら、インペリアルについては何も聞けない。
「えっ! ……」
何を納得したのか、アドラは分かったとうんうん頷いた。絶対宿題はやってこないな……
「で、マリア。アドラが魔族って本当なのか?」
「うん。インペリアルは魔族の中でも最上位の種族で、魔界の帝王って呼ばれてるんだよ。それに今もそうだけど、歴代の魔王もほとんどがインペリアルだよ」
「本気で言ってんのマリア?」
あり得なくない! そんなヤバイ種族が俺の弟子!? そりゃ有名にもなるわ。
「うん。日曜学校でもそう教えられたし、本にもそう書いてあるよ」
マリアの言葉に、そうなのかと首を傾げるアドラを見ていると、全く説得力が無い。アドラってどうやって生きて来たの?
「じゃあアドラがインペリアルだって知られたら、ヤバいんじゃないのか!?」
話を聞いて急に怖くなった。もしマリアの言っている事が本当なら、アドラと関係がある俺達も同族として捕らえられかねない!
「そんな事ないよ。それだったらフーちゃんも同じだよ」
ミサキも同じ? ……まさか、高魔族もインペリアルなの!? はっ! 魔族って入っている!
「高魔族も魔王軍側だよ」
「マジで!?」
どうなってんのこの世界! あっ、なんか小説の題名みたい……じゃなくて、もう人間社会は敵味方関係無く入り混じってるって事? 戦争ってなんなの?
「それに、ダークエルフやドワーフは、半分が魔王軍、半分が連合軍についてるよ?」
凄いね戦争。もう分けわかんねぇや。
「第一インペリアルだからって差別すれば、国際法に違反するじゃん。そんな事すれば連合軍だってばらばらになっちゃうよ」
「あ~御免。難しい話は勘弁して」
マリアってハンターじゃなくて学者になればいいのに……
「あっ、そうだった、ごめんなさい」
「いや良いよ。それより、インペリアルってそんなに凄いの?」
「うん! エインフェリアと唯一互角に戦える種族らしいよ」
「マジか! そんなに凄いのか!?」
「うん」
確かに戦う事に関しては圧倒的とも言えるアドラだが、今の話を聞いて、ホントに!? みたいに驚く顔を見ると、とてもそうは思えない。
「プライドも高くて、自分が気に入らない相手は簡単に殺しちゃうらしいよ」
はぁわっ! 俺少しでもアドラの機嫌を損ねていたら、もうこの世にはいなかったの!? ロンファンなんてこの間鼻に指入れて無かったっけ!?
「それに、魔力も凄いから詠唱とか必要無いらしくって、時空間魔法とか無属性魔法も使えちゃうんだって」
「凄いなそれ!」
時空間魔法はいわゆる瞬間移動だ。無属性魔法については、俺は良く分からない。しかしアドラは魔法が使えない! 残念! 一生懸命手を見ても魔法は使えないよアドラ。
「じゃあアドラは、勉強すれば魔法を使えるんだ」
「うん。でも、インペリアルは我慢強くないみたいで、そういうのは嫌いみたい」
それは言えてる。
「でもそれだと、インペリアルはどうやって魔法使えるようになるんだ?」
「もともと使える人もいるみたいだけど、遊んでるうちに使えるようになるみたい」
「へぇ~。いいなそれ」
遊んでいるうちに魔法が使えるようになるとはとても羨ましい。人間は、センスの無い者は魔力を感知する所から始まる。これは毎日磁石とかを触っていれば掴める感覚だが、俺がその感覚を得るまで七日は掛かった。しかしそこから自分の魔力を感じられるようになるまではかなり掛かり、一か月頑張った成果がちょっと玉を出せるくらいだった。普通に魔法を使おうと思ったら、早い人でも最低半年は掛かるらしい。それを聞いた途端、そんなに掛かるんならピアノを覚えた方がマシだと、俺は途中で止めた。
「あれ? じゃあアドラは魔法を使おうと思ったら、勉強するしかないのか?」
遊んでいるうちに覚えるのなら、アドラはもうその時期を過ぎている。残念!
「ううん。インペリアルは成長期になると、昇眠っていう眠りに入るんだって」
「昇眠?」
「昆虫の蛹みたいな時期で、半分寝てるけど起きてる人もいるみたいだけど、大体の人が誰にも見つからないように眠るらしくって、それを過ぎると魔法が使えるようになるんだって」
「そうなんだ。それってどれくらい眠るんだ?」
変わった種族だ。強大な魔力を持っている為、こういう制約もあるのだろう。神様はちゃんとそういう代償を用意しているもんだ。
「二年から三年くらいだって」
「そんなに!?」
神様それはちょっと多すぎない? 大人の階段長すぎない?
「アドラ、お前その時どうしてたんだ?」
「え?」
人には歴史ありと言うけれど、アドラも色々と大変な人生を送って来たようで、少し同情した。
「いや俺、まだそんな歳じゃないし」
「え?」
あれ? アドラってもう二十歳越えてるよね? もしかしてアドラもハーフか何かで、そういう時期は無かったの?
「アドラさんって今何歳なんですか?」
マリアもこの言葉にアドラの歳が気になったようだ。そりゃ当然だよね。こんなおっきな子供いないもんね。
「え~……たしか…………」
なんでこいつ自分の歳も分からないの!? 大丈夫なのこの子!
「多分四十くらい」
「嘘つけ! おめぇそんな歳かよ! 俺より年下だろ!」
「え? 師匠って何歳なの?」
「二十七だよ!」
「じゃあやっぱり俺の方が年上だよ」
「なんでだよ!」
アドゥーラ! お前は歳の数え方も知らないのか!
「リーパーさん」
「何!」
ここでマリアが割って入った。喧嘩になるとでも思ったのかもしれない。
「多分アドラさんの言ってることは本当だよ」
「はぁ?」
まさかのアドラの味方! 確かにインペリアルは怒らせると危ないみたいだけど、アドラに関しては大丈夫! なんたって俺は師匠だから。
「インペリアルの寿命は千歳を越えるらしいよ」
「えっ!」
マジで言ってんのマリア。それはもう生物じゃないよね?
「ほとんどはその前に戦いで死んじゃうらしいから、正確な寿命は分からないらしいけど、エインフェリアとおんなじで長寿なんだって」
そう言われれば言い返せない。あの人智を超えるエインフェリアと同じなら、あり得ない話じゃない。
「それに、インペリアルが昇眠に入るのって、二百歳を越えた位からなんだって」
「二百歳!? じゃあアドラはまだ子供って事!?」
「うん。アドラさんの年齢が本当に四十歳ならね」
ずいぶんおっきな子供だね~。これでまだ子供なら……いや、そう言われれば納得がいく。だってアドラ、全然社会適合出来て無いもん!
「アドラ~。早く結婚しないと~、ず~っと結婚出来ませんよ~」
アドラの歳を聞いて、ロンファンは心配する近所のおばちゃんのような事を言う。っていうか、ロンファンはアドラの歳に驚かないの?
「あぁ大丈夫。俺、千歳まで生きるらしいから」
アドラは絶対信じて無い!
「でも……」
マリアにも大分打ち解けて来た二人に対し、マリアがここで口籠るように言った。
「インペリアルって昇眠が終わると征服欲が強くなって、性格が変わっちゃうんだって」
「えっ?」
「そしたら魔王みたく凶暴になるんだって……」
マリアは寂しそうに言った。そして俺もそれを聞いて、寂しくなった。
今はこうしてロンファンとも仲良くしているアドラだが、もしマリアの言っている事が本当なら、もうこうして三人で肩を並べて歩くことは無いのだろう。一緒に食事に行く事や、冗談を言って笑い合う事も無い。そんな……あれ? アドラが昇眠に入るのって、百年以上後の話だよね?
「もしそうなったら、もうアドラさんとこうやって話すことも出来ないんだよ?」
頭の良いはずのマリアだが、今は自分の言った事にショックを受けているようで、とても寂しそうな顔を見せた。
「マリ……」
「ああ大丈夫だよ。俺、多分しょうみん? ってやつになっても、多分大丈夫だから」
俺が言うより先にアドラがマリアを励ますように言った。言っている事は全然大丈夫じゃないが、アドラなりに気を使ったのだろう。
「うん」
マリアはそんなアドラに、笑顔で返事をした。




