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介助

「おや? どうしましたリーパーさん」


 午後になりアニさんが研修室へ来ると、開口一番俺を見て言った。


「あ、その~……」


 自分でも分かるほど腰と膝が曲がった状態に、アニさんも聞かずにはいられないのだろう。


「どこか痛めたのですか?」

「ええ……はい。ぎっくり腰です」


 歩く事と座ったり立ったりには多少時間を要するが、それでも研修を受けるつもりでいたため、出来ればそこには触れてほしくはなかった。だってここで帰れって言われたら、今までの研修水の泡になるもん! また来るの嫌だもん!


「それは大丈夫ですか! すぐに病院へ行った方がよろしいのではないのですか!」

「い、いえ。大丈夫です! ただ……午後からの研修も見学ですか?」

「はい。本来見学するべき場所はこちらの都合で変更になりましたが、午前と同じように、受付を見学して頂こうと思っておりました」

「なら大丈夫です!」


 良かった~。受付まで行くのさえ耐えれば、今日はなんとか持ち堪えれそうだ。


「しかし顔も腫れているようですが……まさかお転びになられたのでは無いのですか!」


 ヤバイ! 喧嘩した事がバレれば、間違いなく帰される!


「は、はい。腰を痛めたとき転んでしまって、その時顔を打ちました」

「それはいけません! すぐに病院へ行きましょう!」


 えええ!! それはマジでヤバイ! 帰宅コースは勘弁してくれ!


「いえ大丈夫ですから気にしないで下さい!」

「そういうわけにはいきません! もし脳がダメージを受けていた場合、最悪の事態も考えられます! 皆さん! 私はリーパーさんを連れて病院へ行ってきますので、このまま待……キリアさん! 右手をどうなされましたか!」


 待機するように声を掛けようとしたアニさんは、キリアの包帯でガチガチに固められた右手を見て叫んだ。


「昼休み中、リーパー君と喧嘩をして痛めました」


 えええ!! あいつなんで言っちゃうの!? 俺達クビになるぞ!


「喧嘩ですか!? 何故そのような事を!?」

「リーパー君とは互いを認め合った存在なので、久しぶりの再会に、力量を競ってみたくなりました」


 何? あいつにとって俺との喧嘩はスポーツ感覚だったの!? それならがっちり格闘術使うのって反則じゃね?


「…………」


 馬鹿正直に答えたキリアに、あのアニさんでさえ唖然としている。


「……分かりました。喧嘩の件に関しては私の方で処罰を考えます」


 ヤバイよ! 下手したら停職処分になるんじゃねぇの!? アイツ本当に余計な事しか言わないな! キリアって男らしいけど馬鹿だ!


「それよりも、何処を負傷したのか教えて下さい」

「はい。リーパー君は私の拳による打撃で右目と左頬を打撲しています。そしてその際に腰を捻り痛めました」


 首も少し痛いんですけど……


「私はリーパー君を叩いた際に、右手首と拳を痛めました。しかし私の負傷は古傷によるものなので、リーパー君に責任はありません」


 じゃあ喧嘩の責任も俺に無いって言ってよ! っていうか、アイツ右手どうしたの?


「キリアさん。私は喧嘩は両成敗だと思っているので、キリアさんだけを処罰するつもりはありません」

「……差し出がましい事を申し上げ、誠にすみません」

「いえ。正直にお話頂き、ありがとう御座います」


 これだ。なんだかんだ言っても結局キリアは許される。あいつがそんな姑息な真似を嫌うのは知っているから、ただ自分の気持ちを正直に打ち明けただけだろうけど、ずるく無い! っていうかずるく無い!


「怪我の方はどうですか?」

「はい。しばらく安静にしていれば大丈夫です」


 アニさん! 俺の方が重傷ですけど!


「分かりました。ではリーパーさん」

「はい」

「怪我の状態はどうですか?」


 ここはキリアを真似て正直に話すべきだろうか……しかし俺が正直に話したら、「では病院へ行きましょう!」って絶対言われる。ここはなんとかして大丈夫だとアピールしよう。


「顔は腫れているだけなので、何も問題ありません」

「しかし、唇が変色し、少し腫れていますよ?」

「これくらいは大丈夫ですよ。これでも俺……私は元ハンターですから」


 ハンターならこんなもの怪我に入らない。例えどこか痛めても、歩けるのなら問題にしないのがハンターだ。

 

「そうでしたね。では、腰の方はどうですか?」


 ハンターという言葉が効いたのか、顔の怪我はあっさりスルーされた。しかし問題は腰だ。正直自分では全然大丈夫じゃない。ここは多少軽めに言おう。


「立ったり座ったりするには少し時間が要ります。ですが立っているなら問題はありません」

「歩くのはどうですか?」


 これはマズイ。今現在稲妻マークになりつつあるのに、歩き出したらすぐ重症なのがバレる。


「……大丈夫です……」

「分かりました。一度ランケイさんに見てもらいましょう。アリアさん」

「はい!」


 俺が逡巡したのを見て、腰の事も研修をやり直したくない事もアニさんにはバレたようで、俺を無視して話を進め出した。それでもなんでランケイさん? あの人って医務員だったの?


「申し訳ありませんが、リーパーさんを左から支えて貰えますか? 私は右から支えますから」

「分かりました!」

「あ、あの~……」


 もう俺の事などお構いなし。言葉を聞くまでも無く二人は俺の脇に立った。


「リーパーさん、歩けますか?」

「え、えぇ……」


 アニさん相手では「大丈夫だって!」とは言えず、大人しくランケイさんの所へ向かう事にした。だが、一歩前に足を出すと腰が付いて来ない! まるでヨボヨボの爺さんだ!


「大丈夫ですか!」

 

 俺が腰の痛みに曲がった腰をさらに前に倒すのを見て、アニさんとアリアが慌てて俺を支えた。しかし!


「いだっ! 痛いっ!」

「どうしました!」

「大丈夫ですか!」


 どうしましたって! この二人、ぎっくり腰になった事無いの! 無理矢理上体起こさせたら駄目!


 二人の乱暴ともとれる支えに、太ももの裏まで電撃が走った。


「これはいけませんね。すぐにランケイさんの元へ行きましょう!」

「はい!」


 はいって、なんでアリアはこんなにアニさんと連携取れてるの?


「リーパーさん、自分のペースで良いのでゆっくり歩きましょう。アリアさん、しっかり支えて下さい!」

「はい!」


 だからはいじゃねぇよ! 支えられると足が伸びて余計に痛いの!


「いだいっ! 力入れないで!」

「あっ! 大丈夫ですか!」

「アリアさん、リーパーさんに合わせて下さい!」

「分かりました!」

「いだっ!」

「大丈夫ですか! アニーさん、もっと下を支えましょう!」

「分かりました!」


 全然分かっていない! この二人は誰かの介助した事ないの!?


「アリア、アニーさん。ぎっくり腰は足と腰を伸ばされると痛みが響くんです。だから支えるのではなく、リーパー君が歩きやすいよう杖代わりで良いんです」


 さすが我がライバル! こういう時は頼りになる!


「杖ですか?」

「?」


 杖だよ杖! なんでこの二人分かんないみたいな顔してんの!?


「支えるのではなく、リーパーが転ばないよう援助するんです」

「分かりました。アリアさん!」

「はい!」


 息の合った二人は目を合わせ頷くと、俺の手を取ってエスコートを始めた。違うから!


「さぁリーパーさん、ゆっくりでいいですよ~。私とアニーさんがしっかり支えますよ~」


 アリア!? これじゃあ赤ちゃんの歩行訓練だよ!? 手を持たれると余計に歩きにくいよ!


「リーパーさん、右足から出せますか~? 無理なら左足からでも大丈夫ですよ~。ほら一、二」


 アニさんも!? これリハビリじゃないよね!? 今から見て貰いに行くんだよね!?


「アニーさん。私は先に行ってランケイさんに声を掛けてきます」

「分かりました。お願いしますキリアさん」


 待って! キリア行かないで! お前魔法使えんでしょ! クレアみたいに治療してよ!


 結局キリアに見捨てられた俺は、アニさんとアリアの優しい励ましを受けながら、よちよちランケイさんの元へ向かった。


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