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もう一人の弟子

 まさかの出会いでギルドまでの道が開けた俺だったが、ミズガルドで一番と言えるほど会いたくない人物に出会ってしまった。


 ロンファンは俺がまだBランクの時に出会ったハンターだった。

 当時俺はAランクを目指し、数名の仲間と地方を渡り歩いていた。そんな折、コスタという田舎を訪れた際、駆け出し中のロンファンと出会った。

 ロンファンはその時、まだDランクになったばかりで、ギルドにも馴染めず、一人ぽつんと掲示板の前で突っ立ていて、その姿があまりにも痛々しすぎて俺から声を掛けた。

 

 ハンターには冒険者と違って、弟子という概念が無い。あるのは先輩後輩関係だ。

 ハンターになって間もないロンファンは、それをまだ知らなかった事と、父親が冒険者だった事が災いし、声を掛けた俺を師匠と呼ぶようになった。

 

 可愛い容姿に三つ年下という事と、上がり調子だった俺はそれが嬉しくて、しばらくロンファンを弟子として育てた。

 ロンファンは喋り方はおっとりしているが、身体能力が高く、五感も鋭く、当時の俺でさえいつか抜かれると思うほど才能があった。

 だが、祖母の形見という鈴を、邪魔になるからといくら言っても離さず、それが原因でやたらとモンスターに追われたり、刃物を使うとモンスターが可哀想だと、強烈な脚力で追い掛け手掴みするなど、頭のおかしい所があり、気付いた時には俺は仲間に見捨てられ、ロンファンと二人だけになっていた。


 それでも弟子にした以上、Cランクまでは面倒を見なくてはならないと、コスタに拠点を移した。

 二人きりのパーティーになってしまった俺達は、なんとかしてメンバーを募ったが、既にロンファンのいかれっぷりは地元では有名で、間もなくミズガルドに拠点を移した。

 

 ミズガルドに移ってからもロンファンの奇行は日を追うごとに増し、無茶な戦い方と、意外と気の強い性格の為、稼がない仲間にチクチク嫌味を言うロンファンのせいで、折角増えたパーティーメンバーは徐々に減り、最後には三人だけになってしまった。

 それでもたった三人でロンファンのランクを上げ、一人前となった彼女と離れた。


「師匠~?」

「な、なんだよ?」

「師匠はどうして~、戻ってこなかったんですか~? ミズガルドにいれば~、Sランクになれたのに~?」


 Aランクになった後も何度かロンファンの元を訪れていたが、その都度ロンファンは同じことを訊く。

 真意は分からないが、多分俺と一緒に居たいのだろう。


「な、何回も、言ったろ? 俺が拠点に、決めているのは、アルカナだって」


 大分呼吸は整ったが、もう少し休憩が欲しい。それなのにロンファンはお構いなしに話しかける。俺、本当にこの子とハント行ってたの? 当時の俺、ある意味最強じゃね?


「そうですけど~……でも~、そのせいで~、怪我しちゃったんですよね~?」

「まぁ、そうだけど……」


 ロンファンには俺から引退したとは言ってはいない。というか、引退してから会うのは初めてだ。恐らく風の噂で聞いたのだろう。


「それに~、なんで~、ギルドで働いてるんですか~? 山亀撃退するほど凄いのに~、副業する必要~、あるんですか~?」


 当然と言えば当然だが、やはりあの事件の噂はミズガルドでも広がっているらしい。

 それでも、まさか俺の名前まで広がっているとは……誰だ言ったの!


「べ、別に副業じゃ、ないよ。俺は、ハンタ―引退したんだ」

「ええ~! またまた~、私はそんな嘘には~、引っ掛かりませんよ~?」

「嘘じゃないよ。もう俺は、ハンターじゃないよ。腰だって壊れてるし、まともに戦えないよ」

 

 そう言うとロンファンはおっとり表情を変え、声を出して笑った。ロンファンは戦闘時以外はふわふわしている。


「でも~、さっき~、物凄い速さで走りましたよね~? それに~、そんな人が~、山亀なんて~、倒せませんよ~?」


 さっきの爆走は寿命を縮めても構わないと思って走ったから当然だ! そのお陰で腰は鈍痛に襲われ、呼吸を整える苦労をしている。それに山亀に関してはただ尻餅をついていた記憶しかない! あれで評価される世間が怖い! っていうか、いつの間にか倒したことになってるし!


「ギルドに行けば、分かるよ。ギルドスタッフは、副業禁止だから……」


 一応公務に当たるギルドスタッフは、副業を禁止されている。 


「そうなんですか~? でも~、それは~、辞めればいつでも~、良いじゃないですか~?」

「折角就いた仕事だぞ? そう簡単に辞められないよ」

「じゃあ~、いつ~復帰するんですか~?」

「だからしねぇって!」

「えええ~!!  師匠は最強なのに~! 勿体ないですよ~?」


 出た! 俺がロンファンに会いたくなかった理由の一つ。ロンファンの中で俺は最強説!

 初めてロンファンとクエストに出たとき、知識や技術は勝っていたが、圧倒的な身体能力を持つロンファンに全くついて行けず、ボロクソにされた。それなのに! ロンファンはずっと俺が手を抜いていると勘違いしているようで、全く信じない!


 だが、ロンファンが俺を最強だと思っている理由はなんとなく分かっていた。それは、初対面の相手でも普通に会話が出来る事だ。

 初対面と言っても、話す相手は仕事関係の相手なのだが、今までの人生のせいなのか、自分に自信が無く、極端な人見知りの性格のせいなのかは分からないが、ロンファンにとっては物凄い事らしい。

 パーティーメンバーの勧誘や、クエスト途中で出会うハンターとの情報交換を行う俺を見て、そう勘違いしているらしいのだが、それで最強なら苦労はしないよ!


「そうか? じゃあ、そのうちまたハンターやるよ」


 もう何度言っても、何度競っても、馬鹿でも分かるほどはっきりしている身体能力の差なのだが、狂信者並みのロンファンの崇拝ぶりに諦めた俺には、もうこう返す以外方法は無かった。

 それに、


「本当ですか~! そしたら~、アドラも喜びますよ~!」


 ロンファンが喜ぶ姿を見るのが俺は好きだった。


「そうか?」

「はい~!」


 見た目は完全な大人なのに、中身は子供のままのロンファンはうんうん頷き、小さな子供が体全体で喜びを表すような仕草をする。

 はたから見れば可哀想な子だと思われるかもしれないが、純粋なロンファンを知る俺はそれを見ると、なんだかとても幸せな気分になれた。


 「そういえば、アドラはどうしてんだ?」


 アドラは俺を師匠と呼ぶ、もう一人の弟子だ。

 ロンファンを連れミズガルドに来た時、パーティーメンバーを増やすため声を掛けた若い男性ハンターだ。

 出会った当時はまだEランクの新人で、白髪に赤い目、ほぼ防具を付けていない姿に驚いた。しかし話を聞くと、冒険者ライセンスはAを持っていて、インベーダーだかインバーターだか忘れたが、聞いたことの無い種族のため、なかなか馴染めないと言っていた。 

 ちなみに、冒険者とハンターと憲兵は、基本的に仲が悪い。


 性格はやんちゃだが、それなりに礼儀を心得ていて、心を許す相手には気さくに話す。身体能力、というより、戦闘能力も謎の種族だけあって物凄く、体も異常に丈夫で、戦力としても、弟子としても最高の人材であった。

 しかし! 類は友を呼ぶというように、ロンファン以上にクレイジーな奴でもあった。

 日常生活では問題は無いのだが、バトルマニアのアドラは、こと戦闘になると人が変わる。


 モンスターを見つければ平然と姿を晒し、俺達には分からない言葉で話しかけ、挑発する。

 そして敢えてモンスターを怒らせると、歓喜の声を上げて真っ向から単独で突っ込んでいく。

 得意武器は特になく、なんでも、それこそモンスター自身の尻尾まで武器にするほど破天荒な奴だ。

 ハンターになったのも、デカい相手の方が楽しいという理由からで、イカれまくっていた。


「アドラは~、Aランクになったら~、独立する~! って~言って~、今は~、自分の会社で~、働いてます~」

「そうなの!?」

「はい~」


 およそ三年。最後に会ったときはまだCランクだったのに、Aランクにまでなり、自分の会社を持つとは……夢を持った有能な若者を弟子に持った師匠としては、誇らしい。


「なんの会社始めたんだ?」

「それは~……私にはよく分かりません!」


 さすがロンファン! 唯一ともいえる相棒の事なのに、その辺は適当! それに何故か、こういう返事は歯切れがいい!


「そ、そうか……。でも、会いに行ってないのか?」

「はい~。社長さんだし~、私が行ったら~、迷惑になっちゃいます~」

「そうだな。アドラが落ち着いてからの方がいいもんな?」

「はい~。そしたら~、アドラと一緒に~、師匠に会いに~、行きます~!」

「そうか? 別に気にしなくてもいいんだぞ? 俺、お前らに大した事教えられなかったし」


 これは事実だ。確かに技術的な事は教えたが、猪突猛進の二人とのハントは、ほとんどモンスターにしがみ付くロデオ作戦ばっかりで、戦術的な事はいくら教えてもクソの役にも立たなかった。

 そのせいでなんとか繋ぎ止めた仲間はいなくなり、三人だけとなった俺達のパーティーは、“シャイ・フォン” 野良犬と呼ばれた。

 しかし! ロデオ戦術は討伐成功率が意外と高く、俺はそれを、亜空間殺法と名付けた。


「そんな事はありませんよ~! でもでも~、私は~、そんな師匠が~、大好きです~!」

「ありがとう」

「はい~!」


 ロンファンの大好きは、恋人としてなのか師匠としてなのかは分からない。ただ、愛情表現が子供じみているせいで、ヒーには絶対見せられない!

 頬擦り、後ろから抱きつく、勝手に手を繋ぐ。これは常識。アドラにも同じような事はしたが、頻度的には圧倒的に俺にする方が多かった。

 

「それにしてもそうか~。アドラも頑張ってんだな……」

「はい~。アドラですから~」


 暇が出来たら一度は顔を見せたい。しかし、会社を経営しているのなら、やはり邪魔になるだろう。何より、特に何も教えられなかった俺が、師匠づらして会いに行くのは、なんか違う気がする……


「そう言えば、ロンファンはランク上がったのか?」

「いえ~。まだ私じゃあ~、師匠や~アドラには~、勝てません~。ごめんなさい~」


 ロンファンは申し訳なさそうに頭を下げた。

 

 才能自体は十分Sでも通用すると思うが、人付き合いと癖が無理だろう。天は二物を与えないとは、本当らしい。


「俺に謝らなくてもいいよ。Bランクでも十分凄い事だよ」


 そう言うと、ロンファンは照れくさそうに横に目を反らした。


 この作品は、気分次第で投稿する不定期連載作品です。

 途中で投げ出すような事は無いと思いますが、毎日投稿はしない予定です。

 正直、まだ全然完成もしておりませんし、どういう結末になるのかも分かっていません。設定は自分でも忘れるくらい細かいし、新キャラの扱いも良く分からないし、リリア達は出てこないし、面倒臭い作品です。

 こんな作品なので、もう続編は書きたくないという気持ちもありますが、面白いとも思ってもらいたいという状況です。

 作品をぶち壊すような後書きで申し訳ありませんが、そういう事ですのでご了承願います。


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