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ギルドの中枢

 武器屋を後にした俺達は、あの汚い廊下に連れてこられた。


「ここから先は、ミズガルドギルドにおける、重要な部署が並ぶ区画になります。人事、経理、総務、広報、企画。様々な部署があり、それぞれがギルドの骨格をなす、いわばギルドの中枢になります」


 中枢汚い! それほどまでの施設が並ぶ廊下なのに、一番汚い!


「ギルドオフィスで処理される書類も、最終的にはここに送られ、厳しくチェックされ保管されます。それ故に多忙を極めます。それぞれの部署の役割は……」


 ――しばらく狭く汚い廊下で、アニさんは各部署の役割を説明した。


 これにはさすがに参った。ただでさえ息苦しさを感じる廊下で延々立たされ、全く興味の無い話を聞くのはキツイ! あまりの詰まらなさに、気付いた時にはザリガニの事を考えていた。お陰で「では移動します。ここからはお静かにお願い致します」と言われるまでの説明は全く記憶に無い。

 研修を受けに来た立場としては問題外の態度だが、詰まらないものは詰まらないんだもん!


 やっと説明が終わり廊下を奥に進み始めると、寂しいくらいの静けさと、ギルドオフィスとは違う独特の臭いが漂ってきた。

 たしかに人の気配は沢山感じるが、衣擦れと心地良いリズムを刻む自分たちの足音が、気になるくらい響く。


 移動を開始して間もなく、一つ目の総務部の前に着いた。しかしアニさんはそのまま素通りした。


 きっと一番奥の部署から説明するのだろう。そう思っていると、案の定二つ目の営業部の前も素通りした。

 この魔洞窟のような廊下を早く出たい俺は、そのままの勢いでロビーまで行っちゃえ! と応援したが、残念ながら三つ目の人事部の前でアニさんは足を止めた。


「先ほどもお話しした通り、各部署は大変忙しいため、僅かな時間この人事部だけしか中を拝見できません。ですが皆さん、百聞は一見に如かずと言われるように、一目見るだけでも経験値は大きく違います。ですので、しっかりと学んで下さい」


 さすがはギルドの中枢。俺達見習いに割く時間など無いのだろう。実際ギルドマスターとでさえ挨拶すらしていない。

 このぞんざいな扱いこそ、見習いの証なのだろう。……そんな見習いなのに、先ほどのお話すら聞いてねぇや。


「皆さん、くれぐれもお静かにお願い致します」


 最後にもう一度釘を刺すと、アニさんは控えめなノックをして、一呼吸開けて扉を開いた。

 扉を開くとアニさんは、「失礼します」と会釈し、俺達を招き入れた。


 アリアに続き中へ入ると、あの事務所独特の臭いが俺の鼻を通った。部屋は狭く、その狭い部屋に机が押し込まれるように配置され、俺達が立つだけで入り口を塞ぐ。作業をするスタッフは見るからに忙しなく、そこから発せられたかのような熱気が部屋を包み込んでいた。

 紙を乱暴に扱い、イライラして髪の毛がくしゃくしゃになるほど頭を掻くスタッフ。

 額に汗を滲ませ、腕まくりしていてもインナーが透けるほど汗をかいているスタッフ。

 トイレを我慢するように、肩が揺れるほど貧乏ゆすりをしてペンを走らせるスタッフ。

 人事部の中は、フラストレーションの吹き溜まりのような状況だった。


 人事部ってこんなに忙しいの!? 人事部って人の割り当てが仕事じゃないの!?


「……皆さん、退室致しましょう」


 えっ! もう!? まだ入ってなんぼもしてないよ!?


 時折鋭い視線を飛ばしてくるスタッフの睨みに、アニさんは堪らず撤退命令を出した。

 

 俺としてはまだどんな備品があるのかさえ見終わってないけど、仕方ないよね? 俺だって喧嘩を吹っ掛けられそうな雰囲気に居た堪れないよ!


 この殺し屋が集まったような空気に、アリアは退室するアニさんの背中に張り付くように逃げようとしている。

 それに対してキリアは、目が合うと穏やかな笑顔を作り会釈している。やめてキリア! 今は社交辞令しちゃ駄目!


 さすがのアニさんも気まずくなったのか、普段なら扉を押さえ、俺達をエスコートするように退室させるはずなのだが、「どうも失礼しました」といつもより素早い会釈をして退室した。

 最後尾にいた俺はアニさんという壁を失い、背中に無数の銃弾を浴びる事になる。


 そりゃないっすよアニさん! 俺は社会の未来を背負う希望じゃないんすか!


 全員が部屋を出ると、アニさんは中を見学できなかった事への謝罪を口にした。


「大変申し訳ありません。本日は多忙の為、中での講義は中止とさせて頂きます。本来なら部長から直接お話を聞くなどの予定でしたが、こちらの手配ミスでご迷惑をお掛け致しました。誠に申し訳ありません」


 必死に、でも迷惑にならないよう小声で謝罪するアニさんは、深々と頭を下げた。今日だけでアニさんは、何回頭を下げたのだろう。こんな下っ端に頭を下げるのは、アニさんにとっては一生分くらいだろう。

 そんなアニさんにキリアが言う。


「いえ。不測の事態は何処にでもあります。アニーさんは俺達に、この上ない講義をして下さりました。何より、こちら側からも時間を浪費するような不備がありましたので、致し方ありません」


 え? こいついつから俺達の代表になったの? それに、こちら側の不備って……てめぇは俺達の保護者か!


 いつの間にか研修生リーダーになり、いつの間にかミズガルドのギルドオーダーに口答え出来るほど立派に成長したキリアに、驚きと憤りを感じていると、アニさんは「ありがとう御座います」と手を握った。


 先生! いつからキリア君がリーダーになったんですか?


「いえ、こちらこそ。これからも厳しい手ほどきをお願い致します」

「はい。喜んで」


 ……アニさんは、お偉いさん教育を受けた方が良いような気がする……


「では、改めまして、人事部の説明を致します」


 話はまとまったらしく、研修の続きが始まった。


「人事部では、ギルドスタッフだけでなく、ハンター様はもちろん……」


 人事部の蒸し暑さと、敵本拠地の刺すような視線、そしていつの間にか俺達のリーダーになったキリアと、えらく頭の軽くなったアニさんという混沌的状況に、人事部の説明は全く頭に入らない! というか、今日はもう中止で良くね?


 それでも汚名を返上するかのようにアニさんは説明を続ける。その表情は真剣そのもので、身振り手振りを交えて懸命に伝えようとする。だが、今の俺にはアニさんの言葉は右から左で、ヒーの事ばかり考えていた。


 その後説明が終わると、アニさんは俺達にここで待機するよう命じ、一人で一番奥の部屋へ向かい、ノックをして頭を下げ中へ入って行った。

 残された俺達は無言のまま待機していると、アニさんの入った部屋から、「駄目だって!」っという女性の声が聞こえて来た。

 その声は静かな廊下には良く響き、終いには「忙しいんだよ!」とか「来年来い!」とか聞こえて来た。どうやらここの統括と揉めているらしく、時折聞こえる内容から、この後の見学はお流れになるのが予想できた。

 

 それでもアニさんは食い下がっているのか、ややしばらくしてからやっと部屋から出て来た。

 

「皆さん。本日の見学はこれで終わりです」


 開口一番にアニさんが言った言葉に、やっぱりと思った。アニさんの健闘も虚しくドタキャンされたのだろう。人事部であれならそりゃそうだ。


「私は用事がありますので、皆さんは研修室へ戻り、待機していて下さい。戻る際は、先ほどの武器屋からではなく、あちらの裏口を通り戻って下さい。リーパーさん」

「はい」

「先ほど通った道筋は覚えていますか?」

「はい」

「では、キリアさんとアリアさんを連れ、その道を辿って研修室へ戻って下さい。お任せできますか?」

「え? あ、はい」

「よろしくお願い致します」


 俺が分かったと頷くと、アニさんは先ほどの部屋へ戻って行った。まだやるの!?


「おい。さっさと案内しろ」


 アニさんの無事を祈りながら見送ると、キリアが偉そうに言った。

 一瞬イラっと来たが、ここで喧嘩をするわけにもいかず、俺達は研修室に戻る事にした。


 ここで書く事では無いとは思いますが、ご感想を頂きました。誠にありがとうございます。モチベーションが下がっていたので、ギルドスタッフの続編はもういいかなと思っていましたが、創作意欲が出てきました。

 実際2を書いていくうち、3の構想がどんどん浮かんできて、そこにアドラやロンファンが加わる可能性まで見えて来たので面白くなると思っていました。と言っても、まだ2も完結していないので、どうなるかは分かりません。それでも、3はシェオールが舞台になりそうです。

 ただ、私もリーパーと同じでナヨナヨしているので、まだ書くとは決まったわけではありません。だって長いんだもん!

 

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