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見学

 朝礼が終わると、いつものように研修室へと向かった。


「それでは、本日の講義を始めたいと思います」

「よろしくお願いします!」


 椅子を用意して今日も変わらず腰掛ける。正直アニさんには悪いが、三日連続で殺風景な部屋での講義にはうんざりし始めていた。


「皆さん。昨日今日と椅子に座り続けての講義には、退屈を覚えていませんか?」


 アニさんは俺達一人一人の顔を見て尋ねる。本心としては「そうです!」と答えたいが、それは無理だ。例え嘘だとしても、俺は大丈夫だと首を横に振った。もちろんアリアも首を横に振る。

 これはアニさんが場を和ませるために言った冗談である以上、嘘でも違うというのが常識だ。

 ところがどっこい! キリアは馬鹿正直に首を縦に振った。あのボンボンは本当に冗談が通じない。本当に貴族か!


 それを見たアニさんは、納得したように小さく頷き、言った。


「そうですよね。講義をしている私ですら息苦しくなります」


 この辺りはさすが。アニさんは阿呆相手でも上手に和ませる。それに比べてキリアは、真顔でアニさんを見つめている。凄いねアイツ。


「では、そんなキリアさんの為に、本日は見学を行いましょう」


 見学! それはつまり座学の講義ではなく、この薄暗い部屋を飛び出し、広い世界で見聞を広める授業という事か! でかしたぞ鼻水ボーイ!(※キリアの事)


「と言っても、今日の見学は予め決まっていた事なので、キリアさんの為にというのは嘘になります。申し訳ありませんね、キリアさん」

「いえ」


 アニさん、そんな奴に気を使う必要はありませんよ! そんな事より、早く行きましょう!


「本日の見学は、ギルド内にある様々な施設、部署などを見て回ります」


 おおお! なんか研修っぽい! ギルドの裏側を見れるなんて嬉しい!


「では皆さん、早速参りましょう。私について来て下さい」

「はい」


 ようやく座学から解放された俺達は、遂にミズガルドギルドの奥地へと潜入する。


 研修室を出たアニさんは、先ずはスタッフオフィスに案内した。残念!

 オフィスには、ディスクに向かい繁忙とする先輩達が、黙々と作業をしている。低音のひそひそ声と、書類をめくる紙の音。文字を書くペンの音に、遠慮するような革靴の音。そして人の呼吸音。湿度が高いせいか、こもった空気は廊下の気温に晒した体には不快に感じる。

 アニさんに俺達が入り口を塞がないように少し奥へと促され進むと、事務所独特の古紙と女性の柔らかさが混じった匂いがし、一気にその場の雰囲気に呑まれた。

 

 シェオールのオフィスとは部屋の大きさも人の数も違うが、そこに流れる緊張感のような雰囲気は、まるで物珍しさで足を踏み入れた俺を咎めるようだった。


「ここが、ギルドスタッフと呼ばれる職員のオフィスになります。ギルドスタッフと呼ばれる職員は、主にここに配属された者を言います」


 アニさんは講師であるため、世間では常識だろうという事を教えてくれた。だがしかし、シェオールみたいな田舎のギルド所属の俺には、ここで初めて“ギルドスタッフってそうなんだ”と、とても勉強になった。


「ここでは主に、ハンター様と依頼者様に関する書類、クエストに関する書類、そこで発生したお金の管理等を行っています」


 かなり大雑把な説明だが、詳しく言われても全く分かんねぇや。逆にこのくらいで丁度いいや。


「今日はまだまだ見学しなければならない場所があるため、詳しくは説明致しません。ですが安心して下さい。詳細をまとめた書類を、見学後にお土産としてお渡し致しますので、今はこれくらいでご勘弁願います」


 要らねぇ~。鬼のような書類だよね? マジ勘弁して下せぇ~。


「では、次に参りましょう」


 そう言うとアニさんは、オフィスを出るよう指示した。あまりに短い滞在時間に、もう? とも思ったが、時間管理を徹底していそうなアニさんが言うと、この後まだまだ見学する箇所があるのだと、胸が膨らんだ。

 しかし、次に案内されたのは、ここに来た時ロンファンが待機させられた応接室だった。


「ここがリセプションルーム、応接室になります。こちらはお客様が来られた時、待機して頂いたり、接客をする部屋になっています」


 何処までも真面目なアニさんは、俺でも知っている常識を説明する。しかしこれもアニさんにとっては大事な仕事だ。仕事である以上、馬鹿でも分かるように説明しなければならないのだろう。


「少々お待ちください」


 アニさんは俺達にそう言うと、扉をノックした。ノックをしても内側からはなんの応答も無い。それでも確認するように少し待ち、部屋が使用されていないと分かると、アニさんは「では、中を覗いてみましょう」と言い、扉を開けた。


 応接室には、高級そうな黒い革のソファーと、表面に石材模様のあるこれまた高級そうなテーブルが真ん中にあり、小さな棚に赤い花が飾られ、誰が書いたか分からない風景画が飾られている。

 

 俺は一度入ったことがあるため新鮮味が無いが、アリアは初めてらしく、珍しそうに部屋の中を見渡していた。一方のキリアは、貴族だけあってこういう部屋には慣れているのか、何の変化も見せない。


「リセプションルームは、お客様の大切な時間を拘束してしまうせめてもの償いとして、より快適に過ごして頂くための部屋となっています」


 そうなの!? 客だって仕事として来てるんだから、そこまで気を使う必要なくない? まぁアニさんならそう感じている可能性はある……


「ですので、リセプションルームにお通ししたお客様には、お茶などのお飲み物をお出しするのが礼儀です。皆さん、お茶出しの方は大丈夫ですか?」


 アニさんは冗談交じりに聞いてきた。


 大丈夫ですアニさん! 俺は一度、鬼のようなツッコミを受けるほどの教育を受けました!


 それぞれが大丈夫だと頷くと、アニさんは微笑んだ。


「では、次へ参りましょう」


 応接室など説明を受けるほどの部屋ではないため、アニさんは忙しなく移動を開始した。

 次に案内されたのは、まさかのオフィスだった。

 

「次は受付を見学致します。ギルドスタッフは基本的に、受付へ向かうときはオフィスから受付へ出ます。ですので、オフィスを経由致しますので、お静かにお願い致します」


 良かった~。俺はてっきりアニさんが呆けたのかと思った。

 

 人差し指を立て、静かにというジェスチャーを見せたアニさんに頷くと、再びオフィスに入った。

 オフィス内は先ほどと変わらず、静寂を保つ緊張感が支配していた。この空気にはとても逆らう事が出来ない俺達は、いそいそと、それでいて雑音を響かせないようにアニさんに続いた。


 受付へ向かう途中、通り過ぎさまにディスクに向かう先輩たちの肩口から覗き見すると、そこにはびっしりと文字が書かれた書類が見えた。それを見て、いずれ俺もこういう仕事を任される日が来るのかと思うと、そうなる前にギルドスタッフを辞職しようと決意した。


 扉の前に来るとアニさんは足を止め、小声で説明を始めた。


「この扉の先が受付となります。受付では二人ずつに分かれ、少しの時間見学致します。ここでは受付スタッフの動きをよく見て、各自で学んで下さい」


 受付スタッフの仕事はとても多く、言葉での説明では覚えきれない。だからこそアニさんは自身で学べと言ったのだろう。今までアニさんに色々と教えられてきたが、ここからは自己責任の本当の研修だと思い、気合が入った。


 全員が頷くと、アニさんは扉を開けた。


設定。通貨補足。

金貨には、一ゴールド、十ゴールド、二十ゴールド、五十ゴールド、百ゴールド、五百ゴールド、千ゴールド硬貨があり、キャメロットが発行する通貨で統一されています。

ちなみにゴールドもお釣りの計算を嫌がるので、庶民は普段一ゴールド、十ゴールド、二十ゴールド硬貨くらいしか持ち歩きません。

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