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ギルドスタッフって意外と命懸け!

 昼からも研修室での講義となった。


「では、先ほどお話しした通り、午後からは制服にまつわる講義をしたいと思います」


 ギルドの制服には、魔法によるプロテクトが掛かっている。これは物理的な衝撃に対するもので、今までは特に気にはなっていなかったが、いざ聞けるとなると興味が出て来た。


「皆さんは今着ているギルドの制服に、防御魔法が掛かっている事を御存じですか?」


 早速来た! さすがはアニさんだ。つまらない講義が俄然楽しくなってきた。


 この質問に、アリアは首を傾げキリアを見た。どうやら知らなかったようだ。それに比べキリアは知っていたようで、当然のように答える。


「はい、私は知っていました」

「ではキリアさん、その理由は知っていますか?」

「いえ。私は制服が傷まないためのものだと思っていました」


 俺もそう思った。ギルドの制服はとても良い生地を使っており、意外と高価だとも聞いていた。だから、そんな高価な制服を少しでも長く使用するための、経費削減だと思っていた。


「確かにそれもあります。ですが、本来の目的は、スタッフの命を守る為に施されたものです」


 そうなの!? スタッフってそんなに危険な仕事なの!? もしかして、昔はハンターと一緒に現場に行ってたの?


「キリアさんとリーパーさんは、Aランクのハンターライセンスをお持ちですから、ギルド内では頻繁に喧嘩が発生するのはご存知ですよね?」

「はい」


 ハンターは基本的に喧嘩っ早い。全てのハンターがそうだとは言わないが、職業が職業だけに、負けん気の強い者が多い。その為、顔見知り同士でも些細な事でよく喧嘩する。


「そうなんですか? カミラルじゃ、喧嘩なんてほとんど無いですよ?」


 シェオールやカミラルのような田舎のギルドでは、ハンターの数も少ないうえ、幼馴染や親せきが多い。その為喧嘩しても大事になる事はほとんど無い。というか、田舎のような狭い町でそんなことをすれば、あっと言う間に噂が広がり、ご近所付き合いに影響が出てしまう。田舎と都会では、人との繋がりが大分違うため、田舎のギルドは平和である。


「アリアさんが所属するカミラルギルドは、きっと温厚なハンター様が多いのでしょう。カミラルはとても雰囲気の良いギルドなのですね?」

「は、はい。カミラルのスタッフはほとんどが私の家族ですし、ハンターさん全員が知り合いですから、皆仲良しなんです」

「それは素晴らしい。カミラルのギルドは、ハンターギルドのお手本のようなギルドなんですね?」

「お手本になるほど綺麗なギルドじゃないですけど、皆優しくて、あったかいギルドです!」


 アニさんは本当に上手だ。俺なら、「それは田舎の小さいギルドだから」と言ってアリアを悲しませただろう。それを上手に褒め、カミラルのギルドは素晴らしいと言い、アリアを喜ばせた。アニさんはギルドスタッフの神様だ!


「ですがアリアさん、全てのギルドがカミラルのように平和ではありません。特に大きなギルドとなると、ハンター様のみならず、冒険者様などのお客様も来ます。それだけ多くの来客があれば、当然揉め事も多くなります」


 大きなギルドともなればハンター以外の客層を得る為、様々な店を併設している。中にはミズガルドギルドのように名の知れたホテルや飲食店を勧誘しているところもあり、観光客の方が多いギルドもある。


「最初に言っておきますが、もし警備員を雇っている場合は、出来るだけ警備員に任せて下さい」


 そりゃそうだ。ほとんどの警備員は格闘術を使える。ハンターの俺より頼りになる。

 アリアも真剣に聞いているようで、うんうんと頷いている。


「揉め事が起きると、スタッフが仲裁に入り止めます。これはギルドスタッフの義務にある、円滑に業務を遂行するための措置で、例えお客様同士のいざこざでも、ギルド内ではスタッフがそれを処理しなければなりません。これは皆さんご存知ですよね?」


 これはさすがに俺でも知っている。というか、どこの店でも常識だろう。


 当然キリアとアリアも知っており、無言で頷いた。それを確認したアニさんは、にこやかに頷き、続ける。


「そこで先ほどの制服の話に戻りますが、仲裁に入るタイミングを間違えると大怪我を負う事があります。その為、ギルドの制服にはスタッフ保護の為の魔法が施されているのです」


 確かにアニさんの言う事は間違っていない。当時の俺も色々な喧嘩の場面に出くわしたし、俺の仲間内でもあった。そのうちの一つはロンファンがやらかした。

 ギルド内で喧嘩が始まると、すぐさまスタッフが止めに来て仲裁に来る。だが喧嘩をしている者は熱くなり、“屋内での武器の使用禁止”という法律を知っていても、武器を抜く輩もいる。

 俺も実際喧嘩に巻き込まれ、怪我をしたスタッフを見たことがあった。


「キリアさん」

「はい」

「キリアさんは喧嘩の当事者、または目撃者になったことはありますか?」

「はい。ハンターとしても、ギルトスタッフとしても、ギルド内での喧嘩は目撃した事はあります」


 アイツちゃっかり当事者では無いって言ったよ。ハンターやってれば必ず喧嘩くらいはするよ。アイツのああいう所嫌い。


「そうですか。ではリーパーさん」

「は、はい!」

「リーパーさんも喧嘩を目撃した事はありますか?」

「は、はい。あります」

「では、喧嘩はどれくらいの頻度で発生していましたか?」

「そうですね……俺の感覚では、月に二、三回は起きていた気がします」

「そうですか。ありがとう御座います」


 アニさんはそう言うと、満足そうに笑みを零した。


「どうですかアリアさん。Aランクハンターのお二人が言うと、私のようなスタッフが語るより信ぴょう性がありませんか?」

「はい……いえっ! 私はアニさんが言っても信じます!」

「そうですか? それはありがとう御座います」


 今のはアニさんが悪い。あの言い方だったら誰だって慌てるよ。


「アリアさん」

「はい!」

「アリアさんが思う以上に、ギルド内での喧嘩は日常茶飯事に発生しています。そして喧嘩が始まると、時に武器や魔法を使用して争うような事態も発生します」


 そうなの!? さすがに魔法まで使う奴は見た事ない。


「そうなんですか!? でも、ギルド内での戦闘は犯罪ですよね?」

「はい。ですが、喧嘩をして熱くなってしまうと、関係無くなってしまうようです」


 その気持ちは分かる。あのロンファンでさえナイフを出したくらいだ。


「そうなってしまうと、仲裁に入った際に、怪我や、運が悪ければ死亡してしまいます」

「殺されちゃうって事ですか!?」

「はい」


 武器と言っても、喧嘩の際に出すのは決まって刃物だ。それも狩猟用の剣や刀のような得物と呼ばれるヤバイ物ばかり。

 当然人など簡単に殺せる。


「その為、制服には魔法のプロテクトが必要なんです」


 アリアは衝撃の事実を知って、表情が一気に硬くなった。


「ですが安心して下さい、アリアさん。そうならないために、今アリアさんたちは研修を受けているのですから」

「は、はい……」


 俺達は命のやり取りをして来た経験があるからそうでもないが、アリアのような一般人にはとても怖い話だろう。


「アリアさん」

「はい」

「もう少し怖い話が続きますが、お付き合い願いますか?」

「はい」

「ありがとう御座います」


 アニさんは本当に人が良い。俺達は仕事として来ているのだから、例え聞きたくない話でも真面目に聞かなければならない。アニさんも当然それを理解しているはずなのに、ペーペーの新人相手に礼儀を忘れない。リリアにも見習わせたい!


「皆さんは、去年一年間で、どれほどのスタッフの方が喧嘩の仲裁に入り殉職したか、知っていますか?」


 この質問には、流石のキリアでも分からないと首を横に振った。当然俺も知らないし、考えた事も無い。


「十八人です」


 十八人!? 喧嘩の仲裁で、去年だけで十八人も殺されたの!? あり得なくない!?


「これは命を落とした人数です。さらに怪我をした人数はもっと多く、五十三名です。そのうちの三名は、怪我が原因で離職を余儀なくされています」


 そんなに!? ギルドスタッフって意外と命懸け!


「ギルドスタッフの怪我や死亡などの離職率で一番多いのは、喧嘩の仲裁に入った事です。これは二番目に多い、通勤帰宅時の交通事故の二倍近い数字になっています。これを聞けば、喧嘩の仲裁がどれほど危険な業務か、お分かりいただけるかと思います」

 

 大工をやっていた時、安全教育というものを受けた事がある。大工などの建築、土木と言われる職種では、高所からの転落が一番多い事故で、次に多かったのが掘削面の崩壊による事故だった。

 建築系の作業は危険も多いため、作業中の事故が上位を占め、通勤時の事故は入っていなかった。

 ギルドスタッフのような接客業は、それほど危険な作業も多くなく、通勤時に馬車に轢かれるとか、勤務中の転倒くらいしか危険は無いと思っていた。だが、アニさんから聞いた事実に、気が引き締まる思いだった。


「ですが、ギルドスタッフは全国すべてで、およそ十万人の方がいます。さらに言えば、アルバイトなどの臨時のスタッフ、清掃員、経理などを含めると、二十万人を超えると言われます」


 さすがギルド協会。これだけ大きな組織なら、そのくらいはいて当然だろう。でも……二十万人!? 軍隊か!


「その数からいえば、喧嘩の仲裁で負傷、または死亡するスタッフは、一パーセントにも満たない数です」


 そう言われると、とてもホッとした。二十万人中の十八人なら、大した数には聞こえない。多分俺は、一生ギルドスタッフをやっても殺される事は無いだろう。


 そう思ったのが顔に出たのか、アニさんが見透かしたように言う。


「今皆さんは、そのくらいの確率なら自分は関係無い、と思いましたね?」


 ドキッとした。アニさんは俺達が真面目に聞いていないと思ったのだろう。俺は思わずアニさんから目を反らしてしまった。

 すると、アリアも俺と同じように驚いたようで、俯いて舌をチョロっと出していた。それに比べキリアは、全く動じずアニさんを見つめていた。

 こういう所はキリアには勝てない。


「ですが、こう考えてみたらどうですか? 自分一人ならほぼゼロの確率ですが、怪我をするのが自分と同じギルドにいる仲間だったら、その確率はぐんと上がります。特に気の知れない相手なら、運が悪かった、自分は気を付けようで終わるかもしれません。しかし、もし怪我をした相手が、自分の身内や、恋人、両親だったらどうしますか?」


 リリアやヒーが殺される。そう考えると、今聞いている話は自分には関係無いでは済まされない。

 ギルドの制服に掛かる防御魔法や、講習してまで危険を教えるのには、そういう理由があるのだと知った。


「どうやら皆さん、この講義の大切さがお分かり頂けたようですね」


 気が引き締まった。ギルドスタッフはハンターと同じ戦士。ギルドは戦場。いや、仕事自体が戦いなのかもしれない。そう思うくらいの教えだった。


 細かい設定。魔法の種類。

 色々ごっちゃになって間違えて書いてしまいました。誰も読んでいない事を願いしれっと直しましたが、スッキリしないので種類を説明します。

 魔法には無機物を操る、炎や水を使う魔法を第一種。身体強化や幻覚などを引き起こす、有機物を操る魔法を第二種としています。第二種には甲と乙があり、甲は有益な効果を出すものをいい、回復や筋力を増長させたりするものをいいます。乙は損害を与えるものをいい、肉体衰弱や精神攻撃魔法なども入ります。

 

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