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食堂のサンクチュアリ

 昼になると昨日と同じように、「一緒に食べましょう!」とアリアが誘ってきた。「それは御免こうむりたい!」と断りたかったが、今日はアニさんも一緒に食べましょうと言ったため承諾した。

 キリアもアリアが言ったとき完全に嫌そうな顔を見せたが、アニさんも一緒だと分かると、「喜んで」と言い出した。そうキリアが言った時は、自分でも物凄い顔をしたと分かるほど驚いてしまった。そしてキリアの腹黒さに恐怖した。

 

 食堂に行くと今日もすでに満席状態で、今日はさすがに四人一緒に座る事は出来ないと思ってしまうほどの盛況ぶりだった。だが、カウンターから一番奥にあるテーブルだけは誰も座っておらず、俺達四人は一緒のテーブルに着く事が出来た。


「これだけ混んでるのに、なんでこのテーブルだけ誰も座ってないんですかね?」


 一番奥の窓辺のテーブル席は日当たりも良く、街路樹が見える景色の良い席だった。

 俺には、いの一番に座りたい席に感じたのだが、誰も座っていない事を疑問に思い、雑談ついでにアニさんに訊いた。


「さぁ、何故でしょう? 私としてはとても良い席だと思うのですが、なかなか座ろうとする人がいないんですよ。ですがそのお陰で、私はいつもこの席で優雅な昼食を取る事が出来るんですよ」


 それって、アニさんが座ってるから誰も座れないんじゃないの? ギルドオーダーだよ? そんなお偉いさんが毎日座ってるの見たら、誰だって座り辛いよね?


「そ、そうなんですか。きっと日当たりが良いから、皆暑いんじゃないんですか?」

「そうかもしれませんね。天気の良い日などは、少し汗ばむ事もありますから」

「そうなんですか……」


 アニさんって意外と天然。もしくは人が良くて、ギルドオーダーの威厳に気付いてないだけ? やっぱり世の中には完ぺきな人はいないようだ。


「それでは頂きますか」

「は、はい」


 アニさんって悩みがなさそう……


「それにしても凄い人ですね? ミズガルドのギルドって、一体何人くらいの人が働いてるんですか?」


 アリアがいてくれて助かった。アニさんとどんな会話をすれば良いのか正直不安があった。

 キリアなんて黙々と食べてるだけだよ! こいつどうする気だったんだよ! なにが「喜んで」だよ! 貴族の社交辞令はぺらっぺらっだよ!


「ギルドスタッフだけで、三十五名です」


 三十五名! うちなんてギルドマスターのニルも入れて七人だよ!? 一人くらいくれよ!


 シェオールのギルドは、サブマスターのリリア、上級スタッフのヒー、そして俺の三名がオフィススタッフにあたる。フィリアも一応上級スタッフなのだが、扱いはジャンナのウエイトレスになっている。

 シェオールギルドの規模だと七名のオフィススタッフが必要らしいのだが、人材が確保できず三名だけしかいない。そのため誰かが長期休暇を取るときなどは、地元にいる元スタッフを臨時で雇ったり、他所のギルドから人を借りなければならない。

 現在は俺が研修中の為、ミズガルドから代わりのスタッフが派遣されているらしい。


「そんなにいるんですか!? やっぱり大都会のギルドは違いますね?」


 アリアも田舎の小規模なギルドに勤めているため、この人数には驚いているようだ。


「えぇ。ここのギルドは本部ですから、これくらいは最低限必要です。それに、あまり人数が少ないと連休などの休暇を取る事も出来ませんし、一人一人の作業量も増えてしまい、職場環境は悪くなってしまいますからね」


 ニルに聞かせたい! 俺なんてほとんど連休なんて貰ってないよ!

 俺が来る前はジャンナの方も入れて五人ほどいたらしいが、シェオールは農家が多く、冬場だけの季節雇用が多いらしい。そのため畑仕事が始まると、スタッフが急に減るとのことだ。

 リリアは、「忙しいのは夏場だけです」なんて言ってたけど、夏場こそ一番人手が必要じゃない?


「凄いですね! カミラルなんて八人しかいないのに、羨ましいです! あっでも、ほとんどが家族ですけど……」


 八人!? どうなってんのシェオールギルド! 


「ハンター協会も、地方のギルドの活性に力を入れているので、後数年もすれば良い労働環境になると思います。ですから、もう少し辛抱して頂けますか?」


 別にアニさんのせいじゃないのに……アニさんは本当にギルドの事を愛しているのだろう。


「大丈夫です! 私がギルドマスターになったら、カミラルはもっと大きなギルドにして見せますから!」

「それは頼もしいですね。アリアさんがギルドマスターになりましたら、ぜひミズガルドギルドと連携してギルドを活性させましょう!」

「はい!」


 夢見る若人を見ていると、自分が情けなくなる。俺だって若い時は、「Sランクのハンターになって、クラウンハンターになってやる!」って思ってたけど、老って怖いね。今はもう、毎日過ごすだけでいいやってなってるもん。今だって早く実家に帰って、次の休日何するかばかり考えてるもん……あ、ソースねぇや。


「キリア。そこのソース取って」

「あ? あぁ……」


 キリア君不愛想。こいつ何で一緒に飯食ってんの?


「ほら。あっ!」


 嫌々ソースを取ったのが悪いのか、機嫌が悪かったのかは知らないが、俺の手に渡る前にキリアがソースを落とした。

 落ちたソースはテーブルに当たり、見事に俺の太ももの上に落ちた。


「おいっ! 何してんだてめー!」

「……悪い……」


 自分で落として何を驚いているのか、キリアはズボンがソースまみれの俺より、自分の手を見ていた。

 

「リーパーさん、部屋に戻って着替えた方が良いようです。汚れたズボンは、そのままサニタリールームに出してもらっても構いません」

「え、でも……洗濯代が……」


 ミズガルドもシェオールと同じで、制服は業者にクリーニングを頼んでいる。そのためスタッフは、終業後サニタリールームに制服を置いて行かなければならない。ちなみに洗濯代はギルド持ち。


「それは俺が払う。お前のズボンを汚したのは俺だ。アニーさん、請求は俺に回して下さい」


 キリアもそれなりに責任を感じているのか、アニさんに申し訳なさそうに頭を下げた。っていうか、先ず俺に謝れ!


「いえいえ、お気になさらずに。故意によるものではありませんので、キリアさんが代金を支払う義務はありませんよ」

「しかし……」

「スタッフの制服は、一日に二枚まではギルドがクリーニング代を支払う規則があります。そのため、今回のクリーニング代は通常経費で落ちます」


 それは知らなかった。そう言えば、今まで何回か着替えた事はあったけど、一度もクリーニング代を請求された事はなかった。


「ですが」


 ですが?


「三枚目となるとクリーニング代を請求されますので、皆さん気を付けて下さいね」

「はい」


 キリアもこの事を知らなかったところを見ると、これは雇用契約書にも載っていなかったのだろう。ギルドスタッフにはまだまだ知らない規約があるようだ。


「ちなみに、制服のクリーニング代って、いくらくらいするんですか?」

「一着、十五ゴールドです」

「高っ!」


 そんなにすんの!? クリーニング代だけでシェオールギルド潰れるんじゃないの?


「ちょうど午後からは制服に関しても少し触れますから、今は良い勉強になったと思って下さい。ですから、リーパーさんもキリアさんも、お気になさらないで下さいね」

「は、はい。俺は大丈夫です」

「そう言って頂けると、俺としても気持ちが楽になります。お気遣い頂きありがとう御座いました」

「いえいえ」


 俺は掛けられた方だからそれほど気にならないが、キリアの言い方だと、大分堪えたようだ。

 最初はわざとかとも思ったけど、悪気が無いから許す。それにしても、キリアがこんなへぼをするとは珍しい。


「リーパーさん。食事中ですが、先ずは着替えて来て下さい」

「分かりました」

 

 その後着替えを終えて戻ると、三人は食事を終えていて、俺が食事を終えるまで付き合ってくれた。

 それが終わるとそれぞれがバラバラになり、俺は午後からの研修まで部屋で昼寝をする事にした。


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