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午前と昼食

「どうぞお入り下さい」


 部屋の前に着くと、どこまでも礼儀正しいアニさんはドアを開け、ゲストを案内するように招き入れた。

 研修室は思っていたよりも狭く、机が一つと椅子が壁際にいくつかあるだけで、あとは小さな黒板があるだけの殺風景な部屋だった。それでも二つの窓から差し込む光のお陰で、暗い雰囲気はしなかった。ただ、窓から見える都会の景色に、ちょっとホームシックになった。


 もしかしてとは思っていたが、どうやら講義形式の研修らしい。俺、座学とか嫌いなんだけど……


「では皆さん、先ずは各自座る椅子を選び、こちらに用意して下さい。壁際に並ぶ椅子なら好きなものを選んで頂いても構いません」


 好きなものを選べと言われてもどれも同じだが、ヒーと同じで、無駄を嫌いそうな性格のアニさんが言うと、“自分で選ぶ”というのも、すでに研修なのかもしれない。まぁそれでも、ここで吟味してなどいたら、それこそ焼きを入れられそうだ。


 適当にそれぞれが椅子を選び、指定された場所に置いた。だが、俺も含め誰一人勝手に座らない。

 アニさんは用意すれとは言ったが、座れ、とは言っていなかった。貴族のキリアは礼儀作法を厳しく教えられてきたから当然かもしれないし、アリアはアニさんが出す独特のオーラから察したのかもしれない。

 俺はこれでも多種にわたり仕事をしてきた為、こういう“試されている”という事には敏感に感知できる。と言うのは嘘で、一番初めに椅子を用意したキリアが、不自然に椅子の前に立ったのを見て、え? そういう事なの? と気付いただけだ。恐らくアリアもそうだと思う。……だよね?


 全員が不自然に椅子の前に立つと、アニさんは改めて自己紹介を始めた。


「私は、ミズガルドギルド、ギルドオーダーのアニー・ウォールです。本日から皆様方の講師を務めさせて頂きます。改めて宜しくお願い致します」

「よろしくお願いします!」


 恐らく昨日の時点で全員との挨拶は終わっているとは思うが、一応研修という体を示すため挨拶したのだろう……いや、これも仕事だからこそ必要な儀式だ! お陰でもの凄い緊張してきた。


「では皆さん、お座り下さい」


 その言葉を聞き、初めて俺達は椅子に腰を下ろした。

 

 あっぶね~。今回ばかりはキリアに助けられた。危うく恥かくところだった。


「それではこれより、研修を始めます」


 こうして、いきなりギルドの在り方やルール、ギルドスタッフとしての心構えなど、正直面倒臭い座学が始まった。

 それでも、優しく、親切に、分かり易く教えてくれるアニさんの為にも、真剣に聞いた。

 アニさんも真面目に講義を受ける俺達に気を使い、時折冗談を言って和ませたり、トイレ休憩や、「座りっぱなしは腰に悪い」などと言って柔軟体操を教えてくれたりと、常に座りっぱなしという状態にはさせなかった。


 教鞭の振るい方だけでなく、人としての気遣いにも長けたアニさんの講義は、さすがと言うしかなく、俺の集中力を高め、鐘が鳴るまで昼になったと気付かないほどだった。

 アニさんも気持ちよく講義が出来たようで、「おや、もうこんな時間ですか」と、残念そうに言っていた。


 アニさんも優しく、初日午前を終えてみて、意外と良い雰囲気に思ったよりも苦にならない研修に安堵した。




「おい。お前は少し離れて座れ」


 昼食となり午前の研修が終わると、アリアが、「折角ですから一緒に食べましょう!」と俺達を誘った。

 「それは無理!」と本来なら言いたいところだが、大人としての面子と、「そうですね。研修生同士、さらなる交友を深めるというのは素晴らしい考えです」というアニさんの一言で、ご一緒となった。

 だが、アニさんは忙しいらしく、まさかの三人となってしまった。


 昼食を三人で食べるため食堂に来たのだが、キリアがわざとらしく俺達から離れて座り、先ほどの大人げない発言をした。そこでアリアに聞こえないよう、小声でキリアを諭した。


「お前アリアの前だぞ? こういうのは少しでも仲良く見せるのが大人じゃないのかよ!」

 

 食堂は朝とは違い、ほとんどの席が埋まるほど満杯状態だった。そんな状態にも関わらず、こいつは一匹狼でも気取りたいのか、人のいない席をわざわざ見つけ座った。

 キリアはそれがカッコいいと思っているのかもしれないが、満席だよ? ただのぼっちじゃん!

 

「言われなくても分かっている。だが、隣同士に座る義理も無いだろう」


 義理! このおっさんは本当におっさんなのか!? ガキじゃねぇんだから義理もクソも無いだろ!


「殺すぞお前! ギルドスタッフは接客業だぞ! 仕事仲間にも礼儀忘れんな!」

「お前は客じゃないだろ? スタッフに気遣いする暇があったら、その分客に使え」

「そういう事じゃないだろ! 常日頃から礼儀を習慣にすれって言ってんだよ!」

「あの~……」


 しまった! またやってしまった! こいつを相手にすると、どうしても喧嘩になってしまう! 


「え! あぁ、何? ごめんね、俺達だけで話し込んじゃって」

「いえ……」


 アリアにとっては楽しい昼食だったのに、キリアのせいで台無しだよ!


「お前自分より年下の女の子に気ぃ使わせて、大人として楽しいのか?」

「気を使わせているのはお前だろ?」

「てんめ~! 目ん玉くり抜くぞ!」

「ぁあっ!」

「ぁん!」

「…………」


 あ! やばい! アリアが完全に引いてる! 


「焼くぞ!」

「ぁん!」

「…………」


 キリアはマジでむかつく! だが俺の方が大人だから、ここはアリアの為に寛大に許し、楽しい昼食にして見せよう!


「そ、そういえばアリアちゃん。アリアちゃんの住んでる町って、どの辺なの?」

「え? あっ、はい。グリードガーデンからアルカナ寄りの場所です」

「へぇ~。あ、でも、それじゃあなんでミズガルドに研修に来たの? アルカナでも良かったんじゃないの?」

「えっ? ……」


 何故かアリアは、この質問に驚いたように声を出した。


「お前、グリードガーデンとアルカナの関係知らないのか?」

「はぁ?」


 グリードガーデンはアルカナから南に一日行った所にある国で、なんでも建国者はただの一般人だったという変わった歴史を持つ国だ。

 現在はメビス・ブレハートが王を務めている。

 何度か行ったことはあるが、俺が知るグリードガーデンはそれくらいだ。


「グリードガーデンとアルカナは、今敵対関係だ」

「そうなのか?」


 さすがはキリア。こういう政治的な話は詳しい。


「あぁ。ブレハート王が奴隷制度を復活させた事で、アルカナ王が反発したのが原因で、今は緊張状態だ」

「へ、へぇ~……」

「だがエヴァ侯爵が仲裁に入ったため、いずれは収束するだろう」


 全く興味ない。そんなの俺が知って何か役に立つの? キリアって多分新聞とか読んでんだよ。いけ好かないね!


「良く知ってますね! さすがはキリアさんです!」


 くっそ~! また差を付けられたよ! 女子って頭の良い人好きだもんね~。ただ新聞読んで得た情報話せば、頭良さそうに見えるもんね~。


「これくらいは常識だ」


 腹立つね~。「これくらいは常識だ!」カッコいいね~。ハゲろ!


「キリアさんって、やっぱり政治とかに興味あるんですか?」

「まぁな」

「じゃあ……」


 こうして楽しい昼食は、キリアとアリアの交流を深めるだけの場となった。


 もう帰りたいよ!


細かい設定が多いので、一つ紹介します。

リリア、アリア、キリアなど、名前にリアが付くのは、この世界での名前のブームです。現実世界では◯◯子という感じです。なので、男性にも関わらずリアがつくキリアは、女性的な名前です。ですからリーパーは、キザな名前と言っています。

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