ACT7 久世に頼る
宥子はサイエスへと出掛けて行ったので私は一通りの家事を終わらせ、久世師匠に連絡を取った。
「容子から連絡とは、珍しいね。金は貸さんぞ」
出会いがしらに金の話をするとは、案外鋭い。
「執筆 だけでは、稼げないから仕事回して欲しいんだけど。」
私の言葉に、久世師匠は物珍しい物を見るような目で私を見てくる。
「あれだけ嫌がっていたのに、どういう風の吹き回し?」
「姉が、異世界の自称神とやらに召喚されて職を失った」
「わぁおう。それは、またデンジャラスな体験だね。容子の口ぶりからすると、宥子はこちらに戻ってきている?」
こんな話、幽霊退治をしている人でないと信じて貰えない。
霊媒体質でなければ、私自身信じていなかっただろう。
「自称神様と取引した時に、自分の私有物を異世界でも使えるようにして欲しいと願ったんだって。自宅の一軒家も、半分は宥子名義だしね。頓智で宥子が帰還するとは、自称神様も想像していなかったんじゃないかな」
「そりゃ傑作だ。その自称神様とやらは、宥子を誘拐して何がしたかったんだろうね?」
「さあ? そこまでは知らんよ。ただ、宥子の固有能力の一部になったみたい。異世界と行き来できるようになったから、時々帰っては異世界で活動している」
久世師匠の問いかけに、私は小さく肩を竦めた。
イレギュラー続きで、金欠に陥っているのだ。
この状況を好転させるためにも、危ない橋を渡る覚悟がないと大金は稼げない。
「それは、興味深いなぁ。容子も異世界に行って売れそうな物があれば、持ち帰って来な。そしたら、高値で買い取るぞ。」
久世師匠が、碌でもない事を言い出した。
私も同じことを考えたので、ある意味同じ穴の狢か。
「宥子の後をこっそり付けようとしたけど、無理だった。私じゃ、異世界への扉を開けることは出来ないみたい。」
「それは、つまらんな。抜け道の一つや二つありそうなものだが、その辺りは容子が探し当てて上手く異世界へ渡れたら仕事の報酬金という形で300万出そう。」
宥子の前だとこんな口調はしないのに、私の前だと久世師匠の態度はガラリと変わる。
余程、異世界に興味があるらしい。
「了解。そっちの線で模索してみる。縁切り関係で良い内職は無い?? 出来るだけ危なくない奴で」
「琴陵姉妹は、二人で一人のようなものだからな。どちらか片方だけというのは、都合が悪い。お守りをニ百個納品すれば、売上の三割払おう」
私主体で作るお守りは、縁切り目的のものだ。
悪縁も良縁もぶった切ってしまう諸刃のお守り。
切羽詰まっている人間なら、喉から手が出るほど欲しくなるだろう。
多分、同じ個数を久世師匠は宥子にも作るように依頼する可能性は高い。
お守り一つ辺り6000円。
その三割ともなれば、54000円にもなる。
材料費込みで作っても50万は手元に残る。
「因みに納期日は?」
「一週間以内に宜しく♡」
聞かなければ良かったと後悔しても後の祭り。
私は、久世師匠に借りを作る形でお守りの制作依頼を受けた。
宥子が留守の間に、執筆活動・蛇達の世話・お守り作りと忙しい。
時間に押されて、納品分のお守りを作り上げる頃には、ヘロヘロになっていた。
「……寝るか」
ボーッとする頭で、私は重たい身体を引きずってベッドに潜り込んだ。
爆睡ちゃんをかまして、頭がスッキリしたところで部屋から出てお茶でも飲もうとリビングに向かうと宥子が帰ってきていた。
「あ、お早う」
「は?何でいんの?」
思わずついて出た言葉に、宥子はガーンッとした顔になっている。
私はそれを無視して、サクラを撫で繰り回していた。
「メール見てないの?一回帰って来た時に、時差が七時間差だって送ったのに。それに合わせて帰って来たんだよ」
寝てたから、いつ帰ってきたのか知らんわ。
「ごめん、見てない。最近、忙しくて放置してた」
「何か変な事に巻き込まれてないよな?」
「久世師匠師匠に仕事を振って貰ったら、思いのほか量が多くてね。日中の仕事と掛け持ちは、ちょっとキツイわ。だから、手……」
手伝ってと言う前に、ハッキリと拒否られた。
容赦が無いわ。
「無理! 厄介事を抱え込んでいるのに、そっちまで手が回らん」
「言い終わる前に断らないで欲しいんだけど」
「聞いたら最期、絶対連行するでしょう」
「だって、その方が楽なんだもん」
思わずチッと舌打ちしてしまった。
「そっちは、そっちで何とかして。私は、異世界の邪神相手にするだけで精一杯だから」
「仕方がないなぁ」
不満そうな顔をしたら、宥子にグーパンチをされた。
先程の時差について、補足説明が入る。
「時差だけど、サイエスの一時間が、日本で七時間経過したことになるみたいだよ」
「一日だと一週間になるのか……。まあ、法則が分かればやりようはあるね」
「そうだけど時差を計算するのが面倒くさい。同じ時間軸で統一して欲しかった!」
その事実にげんなりしている宥子を励ますように、私は生暖かい目で彼女の肩を叩いて言った。
「ドンマイ☆」
グッと親指を立てたら、へし折ろうとしてきたのでサッと身を捩る。
「あ、そうそう。お前、整形外科の予約すっぽかしたでしょう。電話が掛かってきてたよ。熱出して寝込んでるって事にしといたから。今日行ってこい」
「了解。ご飯食べてお風呂入ってから行ってくる。朝一なら、飛び込みでも大丈夫でしょう。その間、サクラの面倒見てくんない?連れて行くわけにはいかないし。可愛いからって頬ずりとかお菓子上げまくるのは禁止だからね。サクラ、私は用事があるから傍を離れるけど、このどうしようもないダメな妹が面倒見てくれるからね。私が帰るまでの辛抱だからね」
と必死でサクラに言い聞かせいるが、当人は分かってない様子で?マークを頭に沢山浮かべている。
「サクラちゃんの事は私に任せなさい!あんたは、ちゃんと診察して貰うこと。ご飯の支度するから、まずはシャワーでも浴びてきたら?」
「分かった。サクラもおいで」
一人と一匹がシャワーを浴びている間に、簡単な朝食をこしらえる。
面倒臭いのでご飯とみそ汁、出汁巻き卵の三点セットだ。
私の作った朝食を食べて、宥子は少しゴロゴロした後に身支度をしている。
「じゃあ、サクラたちを宜しくね」
「はいはい、いってらっしゃい」
私は、シッシッと追い払うような仕草で送り出す宥子を送り出す。
何とも言えない顔になっていたが、知らん。
邪魔者が居なくなったので、これ幸いと私は家事に勤しんだ。