思わぬ副産物
闇市が開催されるマーキュリーホテルにやって来たよ!
貴族御用達のお店だけあって、従業員の身なりはしっかりしている。あまりにしっかりし過ぎて、私は金魚のようにアップアップだよ。
私たちが入ってきた瞬間、ざわついた。
それもそうだろう。スキルに鑑定があれば、服の性能が一発で分かるからね。この闇市に合わせて作らされた和風ドレス一式には色々と工夫させて貰った。
姉の持ってる和柄バッグの中にティムカルテットが入っている。最初は留守番させようと言ってたのにティムカルテットのメロメロBodyに姉が陥落したのだ。
楽白だけは、姉のハーフアップにされた髪に隠れている。たまにヒョコヒョコ髪から顔を覗かせているが、見て見ぬふりをした。
着物風スーツドレスの性能だけで言えば、物防+10000・魔防+10000・cleaning付与・温度調整付与という代物だ。
汚れも付かないし、快適な温度が保たれ、且つ斬新で動きやすい服装だ。
無いと思うが初撃を受けても耐えられる防御特化の服である。でも姉には言ってないが、これ防御だけではなく、上級魔法を発動させる事が出来る代物だ。
姉が貯めこんでいた素材を大盤振る舞いして隠蔽を駆使して作ったかいがある。
高価な素材を根こそぎ持って行った時の姉の顔色が悪くなったが、作ってって依頼したお前が悪い。私を働かせ過ぎるからだ!ざまぁ~っと思ったわけではない
まあ、その甲斐もあって着物風スーツドレスが仕上がった。
ワウルは執事設定にして、私たちは優雅に遅めの夕食を楽しんだ。
味は、アンナが紹介したところの方がまだ美味しかった。
日本で鍛えられた舌の前では、正直サイエスで作られた旨い料理も不味いか、食べられはなくないけど不味いか、味気ないが普通のどれかである。
もっと食事を楽しめるように食の探求をする料理人ぐらいいれば良いのに!!と思ったのは一度や二度ではない。残念ながらこの世界の料理人は上を目指し、美味しいレシピの料理を発案するという発想がないみたいだ。
私の手近料理の方が美味しいとは世も末である。
姉がお気に入りのアニキャラのキャラクターグッズの一つに懐中時計をチャリッと懐中時計をポケットから出して時間を確認した。
利き手とは違う手ですることで魅力的に見えるらしいという俗説に基づいて実行している姉には悪いが、全然魅力的じゃねーべ(笑)
姉は呼び鈴を鳴らしボーイを呼び、何も言わずにスッと闇市の招待状を見せた。
ボーイはニコリと笑みを浮かべ、どうぞと案内をしてくれた。
颯爽と歩く姉やアンナさんの後をヒョコヒョコと付いていく私。きっと交渉はアンナにさせるんやろうな。姉は鑑定に集中するんやろうか?てか、私って要らなくね?
私が欲しがったハイエルフの奴隷以外で良いのがあったら買う予定だから、私もガッチリと見目の良く従順そうなのが居ないか確認しようと思う。
ただ上限の金額以内じゃないと買わないと言われているので上限以内で姉に落札されてくれと願うばかりだ。
地下へ入る前に渡された目元を覆う仮面を装着して、いざ出陣と開催される地下へと降りた。
オークション形式で競りに出された商品の番号に対し、提示金額を言っていく。
金貨50枚以上から始まり、後は最高額が出るまで競りが続く。
確かに物珍しいものがあったが、別段欲しいものはなく、留美生印のローブは白金貨10,000枚の値段が付けられた。
ローブを説明する時の司会の興奮が、異様なテンションでキモかった。
私が所望したハイエルフ(女)は、白金貨3000枚にまで競り上がった。
姉は、私に諦めろと言ったので泣き喚いたら「正直言って、あのハイエルフ良いところが容姿以外にないんだよね」と身も蓋もない事を言った。
ティムカルテットが面白い魔力の持ち主と違うみたいなので諦めた。ただ、あの顔は私好みだったので、マネキンには丁度良いのが心残りである。
ハイエルフの次に出てきた奴隷に目が釘付けになった。
種族はハーフエルフだが、膨大な魔力を宿している。
ただ、見た目が人の印象に残らない顔をしている。もしかして気になる魔力のってコイツか?
<ティムカルテット、珍しい魔力ってコイツか?>
<<<そうやで(ですのぉ~)>>>
「シャッシャー」
<OK>
姉もティムカルテットの声を聞いてるだろう。印象が残らない顔だが、変装スキルを持っていると姉は判断したようで目がギラっとしたよ。
絶対に落とす気だろう。
「金貨50枚」
カンと木槌を鳴らす司会者に、
「白金貨1枚」
と答えた姉。
金貨60枚で良くない?と思ったけど、その辺は体裁を気にしたのかな?
「他にはありませんか?」
司会者の言葉にシーンとする場内。
「13番のお客様、こちらへ」
ステージの上に立ち、ハーフエルフの女の子と対面した。
奴隷譲渡の魔法をするらしい。
ダラダラと長い制約文章を読み上げ、Transferと言われた瞬間、私の小指とハーフエルフの女の子の首に幾何学模様の印が浮かび上がった。
私の場合はピンキーリングに見えなくもないが、ハーフエルフの子は完全に首輪である。
「主の意志に背いたり、逃亡しようとしたりする場合に、Shurと唱えれば首の紋章が締まります。また、一定の距離を離れた場合も同じです」
何ちゅう物騒なもんを掛けやがったんだ!!
「締まるのは、奴隷だけかしら?」
「はい」
私の指は締まらないのか。
ちょっと安心した。
「お支払いは、裏でお願いします」
「連れも一緒に良いかしら?」
「構いません」
私達の元に戻った姉は、お支払い場に通されて白金貨1枚を渡してハーフエルフの女の子を買った。
出品したローブは、手数料を抜いて白金貨9000枚を渡された。
「確認はされないのですか?」
「鑑定すれば枚数ぐらい分かるわ。きちんと白金貨9000枚と鑑定に出たから問題ないわ」
私が作った偽貨幣もあるし、鑑定は必須よね。看破持ちの楽白に鑑定をさせたぐらいだし、用心深いな姉よ。
姉は鞄を通じてメディションホールに白金貨を収納する。
今日はもう遅いし、一旦宿に戻って自宅へ帰るで!姉の一言で私たちは、裏口からホテルを出て隠密を発動させて宿へと走って帰った。
因みに、レベルの低いワウルは私が俵担ぎし、ハーフエルフの女の子は姉が姫抱っこで担いで移動した。
「おっさんなんて担ぎたくないでござる。約束と違うやん」
と、最後までブチブチ文句言ったが、絶賛スルーされた。
宿に付いて奴隷とおっさんも同じ部屋で宿を取る旨伝えたら、大部屋を一つ貸し切りにして貰った。1泊金貨3枚とは懐に痛いね!取敢えず2泊でと頼み、姉は彼女をティムして、私たちは自宅へと戻ったのだった。
自宅に戻ったうち等は
「各自手を洗ってリビングへ集まってなぁ。今日は簡単な料理で済ますわ。お酒は棚にあるから好き飲んで良えで。」
私は手を洗い食事の支度を始めた。最初はおつまみ系で腹を程よく満たして貰おう。簡単料理代表ポテトサラダに冷凍してた出汁巻き卵を解凍し、食卓に並べる。南瓜グラタンを人数分作り、クラムチャウダーが出来た頃にはリビングでそれぞれ寛いでいた。
「飯出来たでぇ!!」
ワラワラと各自、自分の場所に収まるが奴隷組は棒立ちだった。
ワウルは私の隣、ハーフエルフは姉の隣に座り
「「「頂きます!」」」
両手を合掌させて、ご飯開始の合図を切った所でガツガツガツとご飯を食べ始める。
付いてけない二人に
「横にスプーンとフォークで目の前の用意してあるご飯食べや!スイートポテトとか共有になってるのは、争奪戦やから食いたかったら自分の分は、自分で確保するんやで!」
出汁巻きを突きながら忠告だけはしておいた。
「南瓜のご飯美味しいですね。クリーミーで舌ざわりが良いです。」
上品に高速で食べるアンナに
「南瓜のグラタンやしなぁ。自宅で食べる料理が一番やわ。やっぱり向こうの食事は不味いしな。」
姉の言葉に
「そうですね。このポテトも美味しい。商品に出せますね。」
レシピを商品化しましょうよと商売の話をする彼等に付いて行けない新人達。
「「あ、美味しい」」
やっと手を付けた二人はガツガツと食べ始めた。うわぁ、最初の頃のアンナさんのようだ。無言で食べ続ける彼等を見ながら私は自分の食事を済ませた。
デザートを用意し、自分の席に戻って
「姉よ、この家だともう人が住むの狭いからマンション買わへん?この家も潰してマンションにしようや?人手も商業ギルドの伝手使って奴隷を買ったら良えやん。勿論、借金持ちと犯罪奴隷は買わへんよ。そろそろ人手を増やさんと売り子もいない、生産も追いつかないってなると色々と困るで?」
「それもそうやなぁ。分譲マンションを丸々買うか?」
「それで良えけど、駅近が良いなぁ。」
「そうかぁ?別に駅近じゃなくても良えと思うけど?」
「万が一の時に売るってなったら便利な所の方が後腐れなく売れるやん。」
新しい居住に関してブーブー言うとアンナさんが
「此処を処分して、新しい拠点を探すという事でしょうか?それなら地価資産なども考慮して調べてからの方が宜しいと思いますよ?また、瓶詰の作業や包装、発送の作業もありますし、人手も増やしましょう。」
姉と話を詰めだした。私は用済みになったらしい。悲しい。
「姐さん、あの二人は何の話をしてるんっすか?」
「今後の事やろう。話が纏まったらうち等にも教えてくれるわ。てかお前とハーフエルフちゃんは勉強せなあかんさかい。明日から出す問題をこなして努力するんやで!」
私はハーフエルフちゃんの名前を聞き出すか、名前付けるかせんといかんなぁっと思うも、肝心の姉がマンション建設や工場を作るかアンナさんと話し合っていたので、この話は明日以降やなと判断した。
私はハーフエルフちゃんとワウルに風呂の使い方と本日の寝室を案内し、食後の片付けをする事にした。




