ACT5 容子、姉に武器を装備させる
宥子め、折角用意した武器や商売品一式置いてサイエスへ行っていた。あいつ死にたいのだろうか?
帰宅した宥子に
「お前は死にたいのかぁああ!!?」
ギッチギチに締め上げる。
「ギブギブ!死ぬ死ぬ!中身がああああ!!」
ギャーギャーと喚く宥子に
「死ね!」
腰をギチギチにホールドした。数分ジタバタしてたが力尽きたのか私の腕の中でぐったりとしたのでペイっと廊下に捨ててやった。
「…痛い。」
ぐすぐすと愚図る宥子を一瞥してリビングへ向かう。
ドカッとソファーに腰掛ける。後から宥子もソファーに寝っ転がった。
「たった一日でどんな武器を用意したんだよ。今のところ万能包丁とゴキスプレーで対応出来てるから出番ないと思うけど。」
不可解な言葉を発する宥子に私はやっぱりサイエスと地球とでは時差があるのだと思った。しかし万能包丁とゴキジェットだけでモンスター退治が出来るとは、サイエスのモンスターは弱かったりするのだろうか?ふむっと考え込んでいたら
「これお土産。」
ペイっと趣味の悪い異世界版コケシを渡された。
「随分と趣味が悪くなったね。」
もっと可愛い物を期待してたのに売れないじゃないか。
「私の趣味じゃないから。地球で効くかは分からないけど、身代わり人形なんだって。瀕死状態から一度だけ守ってくれる代物だよ。体力は30%しか戻らないけど」
自分の趣味じゃないと主張しながらアイテムの説明を始めた宥子。どうやらサイエスでRPGでは定番のアイテムをゲットしたようだ。
使い捨て身代わり人形が地球で効果が発揮するかは真偽不明ではあるが、試していたいとは思わない。本当に万が一の保険として持っておくことにしよう。咲弥さん辺りは実験材料として欲しがるかもしれない。
「即死は免れるけど、あんまり意味ないね。身代わり人形+HPポーションで体力を回復させて使うって感じかな。てか、宥子が向こうに渡っている間、こっちの世界では一週間くらいは経っているんだけど。」
「……はっ!?一週間って冗談でしょ!?蛇ちゃんの世話は?ちゃんとしているんだろうね!?」
「第一声がそれかよ。ちゃんとしてるよ。時間の流れの違いに先ずは気付くのが普通じゃない?」
紅白と赤白のいるゲージをじぃっと観察して不備が無いか確認している。問題がないと分かった宥子は少し安心した様子だ。
そんな心配しなくてもペットの世話ぐらい私だってするよ。ただ宥子が世話をするので、率先して世話はしないけどね。
「それより瓶詰した調味料は売れたの?」
金くれと手を出せばベシっと手を叩き落された。
「売ってない。町に入る時、憲兵が開拓民と間違えられたから売りさばくのは止めた。設定が、村が魔物に襲われて逃げて出稼ぎにきたことにしてあるから。調味料とか売ったら、逆に不自然で目を付けられるでしょう。色々なところを巡ってから、ちょっとずつ下ろそうと思ってる。」
「ふーん、打倒だね。もう少し大きな街で卸した方が良いね。向こうのお金は手に入ったの?」
これ重要。金貨の純度によっては、地球で換金して生活費の足しにしたい。
「うん。金貨までは手に入れた。日本円にすると、青銅貨が10円、銅貨100円、銀貨1000円、金貨10000円くらいかな。こっちで金貨がどれくらいで買い取って貰えるか、質屋に出してみてよ。」
一枚の金貨をテーブルの上に置かれた。私は金貨を手に取り細工を確認する。
「うん、偽造可能なレベルだね。魔法がかかっていたら無理だろうけど。」
偽造するとは言わないけど、向こうで偽金貨を掴まされる可能性もあるということか。
「物騒なこと言わないでよ!!」
犯罪を仄めかした私の言葉に真っ青になる宥子。
「それぐらい技術が遅れてるってことだよ。別に偽造しようと思ってるわけじゃないし。細工の凝ったキュービックジルコニアとか高値で売れそうだよね。技術が低いなら養殖とかも無縁の話だろうし、玉粒が揃っている真珠とか価値がありそう。こっちにある鉱物も、確認されたし。そっちにしかない鉱物もあるかもしれないから、向こうで買ったものは必ず一つはサンプルで置いて行ってね。あ、金貨は金の含有量を調べるから二枚宜しく。」
金貨を置いてけと宥子を見れば、彼女は小さく『はい』と脱力しながら頷いた。
「それはそうと、用意した装備品と武器は今度はちゃんと持って行ってね。折角準備したのに、放置されるとは思わなかった。テントや寝袋、着替えも入っているから。」
大きな箱を渡すと
「お、重いっ!!」
箱の下敷きになって文句を言っている。苦情は無視だ。便利道具をコンパクトに纏めてあげたので感謝して欲しい。異世界では必ず役に立つだろうしね。
「さてと、あんたの封印されしお宝の新品は勿論のこと中古まで入っているからね。中古品は賄賂として渡すと良いよ。向こうで売り捌いて欲しい装飾品は個包装してあるから売り捌いてきてね。」
まだまだ売り捌いて欲しい封印されしお宝はあるが、第一弾ということで様子見も兼ねて宥子に手渡した。
「私のコレクションを売るって言うの!?酷い!鬼!悪魔っ!!」
ギャーギャーと発狂する宥子に
「無職は身を削ってでも金を作って来い。」
生活のためですと切り捨てたら泣きながらアイテムボックスに荷物を詰めていた。
詰め終わったら私が用意した武器について、実物を見せながら操作方法を宥子に教える。
サバイバルゲーム<通称サバゲー>で使われるHK416Cカスタムと電極銃だ。勿論、宥子には内緒で魔改造してある。
ここで実演する事は出来ないので、実際に使用されている動画をパソコンに流して見せる。
勿論、弾無しで何度も動作方法を繰り返し身体で覚えさせる。
成長促進のスキルのお陰か、起動から発射までの肯定は覚えたようだ。
「普通に木の板ぐらいなら貫通するから弱いレベルの魔物なら対応出来ると思うよ。」
本当は鉄も貫通させてしまう威力になっているけどね。山まで行って試したのは内緒にしておく。
私の説明に顔を青くする宥子。
「電池切れしないように充電器と予備バッテリーは買っておいたから。後、弾切れに注意してね。弾は環境に良い使い捨てを多めに買っておいたよ。」
エコだよ、エコ。
弾丸とバッテリーの山。一応、ソロキャンプ用のソーラーパネルも用意してある。Yuor Tubeの使用方法を確認させて使い方を覚えさせた。
「凄い量だね…」
「お金が結構飛んだけど命には代えられないからね。早くアイテムボックスに仕舞って。」
諭吉は30万ほど飛んでいったが、背に腹は代えられない。宥子は次々とアイテムボックスに道具を仕舞って行った。私もアイテムボックスが欲しい。
「容子、今後の活動について相談なんだけど良いかな?」
「良いよ」
「今いる町が<始まりの町>ってところでさ、エリアボスのせいでポーションが品切れ状態で手に入らなかったんだよね。だから、次の町に移動しようにも出来ないんだ」
何の捻りもない名前だなと思ったが口に出すまい。
いつまでも低階層にいるのは困る。お金とレベルを稼ぐには高ランクの場所へ移動しなければならない。
ポーションなしでエリアボスと対峙するとは運が悪いなコイツ。今後もこんな事があると思うと宥子が戻る前に武器を用意していて正解だったな。
「それにしてもエリアボスに遭遇するなんて運がないな。」
ステータスで運300あったと思ったんだけど、違ったのか?
「うん、ゴールデンリトリバーを1.5倍に大きくした感じの狼。鑑定したらワーウルフだって。ウルフの上位種。レベル1で初戦がエリアボスって……自称神を縊り殺したい。」
自称神を鬼の形相で罵っている宥子に
「これで癒されてろ。」
モフモフしたネズミーのぬいぐるみを押し付ける。宥子はネズミーのぬいぐるみに顔を埋めながら
「ネズミーに行って癒されたいっ!!」
切実な願いを叫んだ。
「ネズミーに行くならお金が必要だよ。金を稼がないとね。異世界で稼いで来てね!今のレートなら、金1g当たり4,691円だから。」
大体の計算で金貨1枚がこっちの世界で2万円ぐらいの価値になる。とは言え金貨をそのまま換金するのは難しいので、スキルで錬金があれば取得して金塊を作って換金する方が良いだろう。
金貨に関しては久世師匠に相談した方が良いな。スキルで錬金が無かった場合、久世師匠経由でお金に換金して貰おう。
「万能包丁とゴキジェットが活躍してたよ。それに向こうの地図が体に読み込んでVRみたいで楽しかった!」
うきうきと報告する宥子に
「万能包丁とゴキジェットの買い替え代金は後で請求するからね。それよりも向こうでの儲けは、どれくらいなの?」
儲けを確認した。
「金貨30枚・銀貨8枚・銅貨8枚・青銅貨4枚だよ。モンスターを倒すと、素材とお金をドロップしてくれる。金貨や銀貨は、上位種のモンスターじゃないとドロップされないみたい。始まりの町で活動を続けるとなれば、下位種のモンスターばかりだからなぁ。ドロップされるお金は、青銅貨や銅貨が多くなると思うよ。アイテムボックスがあって良かったわ。」
モンスターを倒すとお金とドロップ品が手に入るのはRPG仕様なんだね。
私は金貨を手に取り鍵付き貯金箱に仕舞った。
「金貨25枚は預かるね。純金か調べたいし。小銭問題は、ギルドにお金を預ける機能があるか確認したら? 預けられるなら一度預けて、引き出す時に金貨に替えれば良いんじゃない?」
「頭良いな、容子よ」
「気づいてなかったんかい」
思わずツッコミを入れてしまった。
「薬草採取したいからバケツとスコップ借りるね。あとお弁当宜しく!肉多めで!」
ちゃっかりリクエストする宥子に
「はいはい。出来たら声かけるからアイテムボックスに入れなよ。」
アイテムボックスは時間停止の効果があるようなので、あつあつ出来立ての作り置きが食べられるとのこと。
宥子は明日の準備とばかりにリビングを後にしたので、私はご飯の作り置きをするためにキッチンへ向かって料理するのであった。