ACT4 洛陽住藤原国広
骨董品屋を何件か巡るもこれといって良い品に出会えなかった。
「う~ん、ここは久世師匠に頼んでみようかな。」
丁度、縁切りの仕事も入ってたし、報酬を刀でお願いしてみるのも良いだろう。咲弥さんなら刀を融通してくれるだろう。無名刀で良いし、見繕ってくれないか相談してみよう。
ポチポチと咲弥さんに刀を融通してくれるようにメッセージを送れば
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件名:|了解しました。
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咲弥です。
刀が報酬承りました。
丁度良く報酬代わりに貰った刀があります。
そちらを譲りますので、ストーカーの件とは別に仕事を二つほど受けて下さい。
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直ぐに返事が返ってきた。
ストーカー以外に二つも依頼を受けるのは嫌だったが、武器が欲しいので了承のメッセージを送り返した。
縁切りの仕事を三件まとめて出来るように依頼日を調整しておかないとならない。別日だと色々と面倒だしね。
今日は久世師匠の仕事の日だ。依頼者は東京2件と大阪1件と距離が離れているので、先ずは近場の大阪から依頼をこなす事にした。
タクシーで依頼人のお宅へ向かう。久世師匠の仕事の時はお世話になっているタクシー会社がある。直接久世師匠のところへ請求が行くし、仕事が終わるまで待ってくれるので都合が良いのだ。全国に支店があるので、いちいちタクシーを呼び止めなくて良いのが利点だ。
ピンポーン
インターフォンを鳴らし
「デリバリー・シャーマンの琴平です。」
屋号を名乗る。
『宜しくお願いします。ロック解除しますね。』
うら若い女性の声が聞こえオートロックの鍵が解除された。
本日の依頼者である黛琴美さんを見てうげっと内心うんざりとする。
彼女の首にロープ並みに纏わりつく縁の糸。事前情報ではストーカーは元彼だそうだ。別れてからストーカーへ変貌したらしい。執着や憎悪の念が渦巻いている。念に引き摺られて低級霊も引き寄せているから質が悪い。
私はリビングに案内され彼女をソファーに座らせる。
「黛琴美です。元カレと完全に縁を切りたいんです!まだ家はバレてませんが、時間の問題で…何回引っ越ししても突き止めてくるんです!もうおかしくなりそうっ!!何とかしてください!」
切々と訴える黛さんに私は
「伊藤敦さんとの縁切りした後に除霊をしましょう。黛さんは低級霊に憑りつかれています。」
現状を説明した。幽霊と聞いて彼女の顔色は更に悪くなった。
私は指を鋏の形にして彼女の首に巻き付いている縁をぶった切る。
バチバチと伊藤の抵抗だろうか縁を伸ばして来ようとしたので細切れにチョキチョキと鋏を切る。宥子がいれば伊藤を質の悪い女と縁を結んでやったのに残念である。
「伊藤さんとの縁は切れましたよ。次は除霊ですね。部屋を見てきますので、そのまま座っていて下さい。」
黛さんを置いて部屋を見て回る。低級霊を除霊して回り、幽霊との縁もスッパリと切っておいた。
2LDKを回り終えてリビングに戻り
「除霊も終わりました。」
依頼完了の旨を伝えると
「え?これでですか?」
半信半疑の顔をされた。
「うちでは祝詞や祈祷などはしませんよ。それでは失礼します。」
私は玄関に向かい依頼主宅を後にして東京へと向かうのであった。
東京で2件の依頼を終えて久世師匠の所へ顔を出した。
「ただいま戻りましたー」
疲れたと備え付けの冷蔵庫からお茶を取り出して飲んでいると
「お疲れ様です。」
笑顔の咲弥さんが背後に立っていた。
「びっくりするので背後を取らないで下さいよー報酬受け取りに来ました。」
「そうだと思って用意してますよ。こちらです。」
踵を返した咲弥さんに付いて行く。
珍しい事に第一宝物庫に来た。シャーマン・デリバリーには合計で6の宝物庫がある。特殊な札や呪具等を保管いているのだ。その中でも第一宝物庫には高価な品物が保管されている。
「これですよ。」
咲弥さんから渡されたのは一振りの短刀。鞘から抜けばキラリと煌めく刃に見惚れてしまう。業物だということは解った。
「凄い!これ高いんじゃ?」
「刀工堀川国広作洛陽住藤原国広ですよ。依頼者がお金が払えないので刀で代金を支払いしたいと言われましてね。仕舞い込むのも勿体ないと思ったので貴女に差し上げます。」
あっさりとあげると言われた。報酬とは言え貸し出すとかじゃないんだ。
「宥子は元気にしてますか?仕事を任せたかったのですがねぇ。」
大体セットで依頼をこなしているせいか、単独依頼を希望したのが珍しいのだろう。異世界で冒険しているとは言えないが、宥子神隠し事件があったので色々とバレてそうではある。
「元気にしてますよ。それじゃあ、これで!」
私は洛陽住藤原国広を抱えてさっさと帰る事にした。
「宥子に珍しい物が手に入ったら買い取るので持ってくるように伝えて下さいね。」
咲弥さんの言葉に私は内心冷や汗ものである。
こうして武器を手に入れる事が出来たのだが宥子が洛陽住藤原国広を使用することは無く、私が使用する未来が待っているのであった。




