ワウル帰還
姉には内緒で子供を集めている、留美生です。
リオンの名声も子供の間で上昇中である。
バタバタと過ごしている間に姉はアンナと打ち合わせを終わらせ、小汚くなったワウルを連れて帰って来た。
1時間後に全員が揃ったので、男衆の大部屋で夕飯を兼ねての報告会が始まった。
姉は念には念を入れて防音魔法も掛けている。
「じゃあ、俺らからな。王が臥せてから数年の間に冷夏と干ばつで作物が思うように育たなくなっている。税が払えないものは奴隷に身を落としたりしている。奴隷落ちする者が多く、国は秘密裏に奴隷を他国へ売っているらしい。特に子供や若い女、見目麗しい者が奴隷落ちする状況だ」
ハンスの報告に、姉の眉間に皺が刻まれる。
「あ、あの…私達も色々調べてみたのですが」
「ん? ああ、報告してくれ」
「はい。第三王子が民の為に立ち上がり救ってくれるかもしれないと噂が流れていました。ただ、状況は最悪極まるため表立って参加する者は少ないかもしれません」
シュリの報告に、子供達でのイメージアップ作戦も順調じゃないのね、と溜息を吐く。
「後、アーラマンユ教会が手を回してハルモニア王国の領土侵犯を唆しているようです。開戦も秒読みと言われています」
レイラの発言に私は眉を寄せた。本当に邪魔やな、マーライオン。
「推測ではありますが王は既に崩御したと思われます。素質は過不足ない王太子と素質はあるが素行問題の多い第二王子の継承権争いの元になったのは、王が第三王子を次期王にと遺言を残したのではないかと具申致します」
とアリスが締めくくった。
「私等も冒険者ギルドに行ったけど、誰も居なかったよ。蛻の空の状態だった。念のため薬師ギルドや生産ギルドに顔を出したけど、そっちも誰も居なかった。唯一居たのは、商業ギルドに一人だけかな」
ギルド職員の撤退は、色々な意味で痛い。
思っていた以上に深刻な状況だ。
「イーリンたちもありがとう。それで、ワウルはどうなん?」
「大変でしたよー。言われた通り、例の映像を空に映写して『第三王子リオンが、民のために立ち上がり祖国を救うために活動している』と噂をばら撒いてきました。帝国中を移動しましたから、骨が折れましたよ。リオンに期待を寄せている民衆は多いと思いますが、実績がないので実績を作る必要があるっす。後、アーラマンユ教会が裏で手を回しているのは確かっす。ハルモニアと一戦交えて疲弊したところを乗っ取る算段のようっす」
「聞いているだけで不愉快になったわぁ。Cremaの話は、こっちにも届いてるん?」
「貴族階級や商人の間では有名っすね。民間では、あまり話に上がったことは無いっす」
「じゃあ、新しい商会でも作るか。MINELでどうよ?」
「商会名はどうでもええけど、何を売るん?」
「Cremaで扱っている化粧品。ボトルはMINELに変えて作り直してな。後、和装のファッションやね。リオンの衣装が和風やん。それに合わせて和風ファッションの服を取り扱えば良えんちゃう? リオンに憧れて真似たりするかもしれんし。紫以外の色で作れば、ちゃんと差別化は出来るやろう」
姉の提案に採算は取れるだろうと計算をした。
「Cremaには、食品などの物資の依頼もしてある。近々、クロエ夫人と会談して王家に繋ぎを取る算段や。リオンにとっては、ハルモニア王家に大きな借りが出来るかもしれんが食い潰されんようにすることやな」
「姉、リオンには荷が重いと思うけど」
若輩者のリオンが魑魅魍魎が跋扈する王宮生活もそうだし、外交も大丈夫なのだろうか?
一応、アベルの師事を受けているとはいえ不安がつのる。
「これから王になろうって奴が、そのくらいの覚悟して掛れって話や。まあ、後ろに私が居るんやから下手な手は打って来んやろう」
姉の言葉に私はCremaの影響力を当てにしているんだろうなって思った。
「留美生、大衆食堂は手直し必要か?」
「結構年期が入ってるし、そのまま使うより取り壊して立て直した方がええな。ログハウス風の3階建ての家を作るわ。ゲルドのおっさん、村長に人手借りてきてくれ。神社と並行して建てるからな。給金は出すし、ご飯も三食出すで」
「そんなにお金を使って大丈夫なんですか?」
「当面の拠点になるんやし、それくらいの投資は必要やろう」
何言ってんだとこのおっさんとばかりに、ゲルドを見た。
「お金の心配はせんでええよ。人手はあった方がええし、1日8時間で銀貨5枚。三食付きなら文句は出ないやろう。子供は銀貨3枚やけど、毎日働けば税金くらい払えるで」
「確かに……。しかし、いつまで雇って貰えるかも見通しが付いていない状態では、民は不安になるでしょう」
「そのためにMINNELを立ち上げるんやん。当面は、食料品を扱うことになるやろうけど。ゆくゆくは、衣服や化粧品を展開して元を取れば良いと思っとる」
当面は赤字で結構、軌道に乗れば金を生み出す。黒字になるのも時間の問題だ。
「ゲルドさんは、飯食ったら村長のところへ行って明日の昼までには人を集めといてな」
「分かりました」
ゲルドのおっさんを尻目に私もこの後、抜け出して子供達に集合をかけておく必要があるか。
姉がリオンを見てたが、平然としている。
「リオン。お前、この戦が平定した後、どういう国を作りたいか考えときや。答えによっては、私らが敵に回る可能性もあるから留意せえ」
姉の言葉に報告会議は終了したのであった。
姉よ、保険として愚王が即位する事がないように王冠と杖は私が作るのを今後しようして貰う予定だから安心して良えで!




