アウトプット町
ロッソ山を下山し、一番近いアウトプット町へ着いた。
姉がワウルに、念話でアウトプット町の一番高い宿で落ち合う約束をしていたようだが、着いてないようだ。
町に入った感想を言えば、廃れているな。
「ここ、ゲルドさんの領地やろう? 領民の気が立っているみたいやけど」
「表向きは中立の立場ですが、両隣の領主に色々と圧力を掛けられています。物資も足りず、干ばつもあって思った以上の収穫が出来ず税を納められない者もいます」
「税を納められなかったらどうなるん?」
「……お金を持っている者に借款するか、奴隷に身を落とすかです」
「成程なぁ……」
世知辛く生き辛い世の中である。
「姉、何とかならんの?」
「干ばつがあったなら、他領の民も同じ境遇にいる可能性は高い。アーラマンユ教会は、その間何をしていたん?」
「神に祈りを捧げるからお布施を集めていました。祈りの甲斐もなく、この状態ですよ」
流石マーライオン、金だけ徴収するとは下種である。
辺り一帯を見回すと、乾いた土に枯れた草がそこかしこにある。
雨ごいのスキルは私には無いので、姉の水魔法とかで何とか出来るだろうか?
「本当に神様が手を差し伸べる瞬間を見せたるわ。リオンの後ろには、太陽神が付いてるってな」
「姉、水魔法でも使うんか?」
私の問いに
「そんな事せん。キヨちゃんに雨ごいしてもらって、雨を降らすだけやし」
紅唐白ちゃんを使うと姉が申し出た。
私は姉の言葉にニヤッと悪どい笑みを浮かべる。
「どうせ誰が治めても、庶民は良き治世をしてくれる人なら誰でも良えと考えてるやろう。折角作ったコスチュームのお披露目やな!」
攻防・動きやすさも完璧な私の最高傑作のお披露目だ!
「そうなると着替えも必要ですし、もうすぐ夕方なので動くならワウルと合流してからになさった方が良いのではありませんか?」
「イーリンの言う通りやな。ワウルが来るまでは、しばしの休憩や」
「物資に関しては、Cremaに融通して貰うわ。アンナも海外展開を打診すれば、二つ返事とはいかんかもしれんけど手助けくらいはしてくれるやろう」
「では、私達は情報収集に行ってまいります」
奴隷娘3人は、姉の返事を聞く前に行ってしまった。
随分とアクティブになったのは、姉に似たせいだろう。てか、軍師教育しているのに諜報員になるつもりなのだろうか?ちょっと心配になってくる。
「俺らも酒場で情報収集してくる」
ニックとハンスが抜け、
「私は冒険者ギルドに顔を出してきます」
とイリーナ・レナ・ヘレンの3人も出て行った。
結局宿に残ったのは、リオンと私達姉妹とゲルドとイスパハンである。
「じゃあ、私は商業ギルドへ行って家を購入してくるわ」
「私とイスパハンは、アトリエに籠ってる。ゲルドさんの衣装は作ってへんから、今から採寸するわ。リオンは適当に過ごせ」
解散とばかりに私とイスハパンはゲルドのおっさんを引っ張ってアトリエに籠るのであった。
「ゲルドのおっさん、採寸を始めるで。幹部は色は薄紫に基本色を添えるからなぁ。おっさん、好きな色はあるか?赤以外な。赤はリオンの色だから。」
私はゲルドのおっさんに色の好みを聞くと
「え?私の分も作って貰えるんですか?お金が…」
お金の心配をし始めた。
「お金は要らん。あんたはリオンの後ろ盾や。張りぼてだろうが見栄を張って貰うで!スポンサーも仲間にしていかないとあかんし、貴族の交渉はアンタが中心になるんや。」
「そんな大役…私に務まるでしょうか?」
弱気になるゲルドのおっさんに
「務めるんや!リオンを頭に据える時点でゲルドのおっさんはリオンと一蓮托生なんや。お前が失敗したらリオンも倒れるからな。サポートはしたるから安心せい。」
安心するように言うも
「…ぅ…ぅうっ……」
胃痛を発症したようだ。何だか失礼な奴である。
「で、色は何色が良え?最低限、普段着で2着、式典用で1着は作るで。」
「では緑色が希望です。後から料金請求とかって無いですよねぇ!?」
本当にお金の心配をしているゲルドのおっさんを無視して私とイスハパンでサクサクと採寸する事にした。
採寸が終わった後、私は
「デザインだけどどれが良え?」
数点のデザイン画を見せる。
ゲルドのおっさんはデザイン画を食い入るように見つめ、どのデザインにするか悩んでいるようだ。
「イスハパン、ゲルドのおっさんには防御特化にするか。」
「あぁ、一応状態異常も無効化する付与も付けたらどうだ?身内からの攻撃に備えるのも必要だしな。」
「あぁ、暗殺防止ね。」
物騒な会話を隣でしていると、ゲルドのおっさんが涙目でフルフルと震えていた。
「私、暗殺されるんですかぁ!?」
「お前、リオンの後ろ盾だろう。美味い蜜を吸いたい奴が目障りだと暗殺しようとするかもしれん。リオンが成功を収めれば、後ろ盾を成り代わりたい奴だって出て来る。さっきも言ったが、アンタとリオンは一蓮托生なんや。みすみす死なすような危険な事からは守ったるさかい安心しいや。」
私は選ばれたデザイン画を受取り、ゲルドのおっさんをアトリエから追い出した。
こうして私とイスハパンはゲルドのおっさんの衣装を作るのでだった。




