ハルモニア出国
慌ただしく出国準備をしていたら、イーリンに気付かれたらしい。
姉に付いて行くと、ハンス・レナ・ニック・ヘレン・イーリンが漏れなくついてきた。
姉は‘どうしてこうなった!!’と頭を抱えている。
元Bランクパーティーが勢ぞろいで心強いけど、振った仕事はどうしたのと聞いたら、後任がいるので大丈夫だと返事を貰ったらしい。
元Bランクパーティーよ、私達は戦争に行くんだがその辺はOK何だろうか?私はリオンを王位に就ける為には手段を選ばんよ。
私達は辞表を出して、夜逃げの如くリオンに接触を図っていた男を拉致ってミスト領を出た。
中型バス(Crema所有)を使って、一気に移動開始する。
バスに多重結界を張っているので、魔物モンスターを引き殺しても傷1つ付かない。
「魔物の遭遇率が高いんだが」
イスパハンが苦虫を噛みつぶした顔で行く先々で現れる魔物モンスターにイラついているようだ。
「あ……多分、それキヨちゃんと私のせいだと思われ」
「どういうことや?」
「キヨちゃんを鑑定した時、幸運のはずが運になっとったから多分全員が運で統一されとると思うよ。良くも悪くも引きが良い状態やから、魔物モンスター遭遇率は他人よりも高いやろうね」
巫女の耳飾り(改)を装備してもモンスターほいほいは治らなかったらしい。姉がどーにでもな~れと諦めの境地のようだ。
「この面子なら、相当な事が起こらない限り全滅する可能性はないだろう」
「ハンスの言う通りです。それで、商会を辞職してまで国外に出られる理由を聞きたいです」
レナが詳しい状況を聞かせて欲しいと催促してきた。
「リオンが軍事国家アトラマント帝国の第3王子で、王位継承権争い中で内戦1歩手前の状況を打破するために参戦し、正式に王位に就く手助けをする。そこのおっさん、素性は分かっているから嘘はなしな。Cremaクリマがひと段落したら国外に出て太陽信仰を布教しまくるつもりやったしな。リオンが王位に立った時に、協力者としての地位を確立できて色々と便宜を図って貰う算段や」
「王位に就けたとしても、荒れた国を治めるだけでも精一杯になる。便宜を図ることは難しいと思うぞ」
眉間に皺を寄せるリオンに、
「別に直ぐ取り立てるわけやない。神社を各地に建てさせてくれれば、うちの目的は達成や。勿論、あんたの国が上手く回るように手は貸したるで。Cremaクリマで過ごした日々で、自分のカードになる物はちゃんとあったやろう。上手く利用しろ。ただし、ハルモニアに手を出したら全力で潰すからな」
姉の釘にリオンは
「俺としても、ハルモニアとやり合いたくない」
敵対したくないとバッサリと言い切った。
「まあ、それが賢明やな」
レベル200超えが1000人ほど一般市民に居る上に国と公爵の私兵の強化もしているのだ。
戦争を吹っ掛けられたらレベル200越えが迎え撃つ事になるだろうし、何より居場所を奪われまいと必死になるだろう。
戦争はしたくないが、それは世界が許さないだろうな。
折角設立したCremaがポシャったら嫌だ!
マーライオンの力を削ぐためにも信仰心を失墜させ、新たに太陽信仰で力を付ける必要がある。
そんな私の決意も姉のスマホの呼び出し音にガックリと肩が下がった。
「姉ちゃん、スマホ鳴ってんで」
「留美生、ヘレンは多重結界の維持宜しく」
「へいへい」
多重結界を維持しつつ考えるはアンナのことだ。
きっとアンナは私達の辞表に気付いたのだろう。で、慌てて電話してきたってところかな。
姉よ、アンナを一度〆へんと私は本当に独立するからな。
「もしもし」
『レン様! どういうつもりですか!!』
「以前から、国外に行く話してたやろう。それが、ちょっと早まっただけや。後任は育っているし、サイエスでのCremaクリマの代表はアンナやん。私の目的に資金源として会社を作っただけやし、ある程度目的も達成したからな。次の行動に移る。私と同行している者は、全員退職届出しているから受理したで。退職届は、メディションホームに入っているから確認して」
『そういう問題じゃありません』
「あのな、私の目的は会社の繁栄ちゃうで。そこ分かってて言ってるんか?」
アンナの横暴にストレスが溜まってた姉が、ごっつう低い声で釘さしてた。
『……そうでしたね。失礼致しました。退職は受領いたします』
「まあ、儲け話が出たらCremaクリマに持ち掛けるから。それまで社員をしっかり守って育てや」
『分かりました。では、帰宅後にお土産話と儲け話を待つことにしましょう』
「アンナ、Cremaクリマを私物化したら潰すからな」
『トップは金を持つな、ですね。承知しました』
「それは私の信条やけど、高給取りなら相応の仕事と責任は負いや。じゃあ、気が向いたときに連絡入れるわ。何か困ったことがあったら連絡して」
『はい、ありがとう御座います』
ピッと通話を終了して、ハァと溜息を吐く姉。
「何か物騒な会話やったけど大丈夫なん?」
アンナの態度次第では暗殺もやもなしやで?
「ん? 嗚呼、問題ないで。辞表はちゃんと受領されたし、昔みたいにビジネスパートナーに戻っただけやから。アンナが商会を私物化することは無いと思うけど、一応釘は刺しとかんとな。全員これで無職になったわけやし、冒険者業しながら路銀を稼げばええんちゃう?」
「無職……嫌な響きやね」
「まあ、仕方がないわ。私と留美生るみな、こっちでの無職やからあっちに戻ればちゃんと席は用意してあるで。お給料も最低限は入るから引き落とし関係は問題ないから安心し」
凄い複雑な事を言う姉に私はショッパイ顔になった。
サイエスでの給与はないんだなって再確認することになろうとは……しかも残業代とか休日出勤のお金ないないされるんだろうな。
「まずは、さっさとハルモニアを出国するで」
「おうよ」
アクセル全開で飛ばす暴走車に引かれる魔物モンスターから、山賊の手で心臓と魔石だけ抜き取りドロップ品は置き去りにして走り去った。
高速で移動する鉄の魔物モンスターが出没すると噂になっていたとは、私達は知らずにハルモニアを出国したのだった。




