97.2人目
「マイケルさん!!」
鉄郎には同性で友達と呼べる関係の者はいない、定期検査で東京の特区に行った時に何人かの男性と挨拶を交わすことはあったが基本長野の片田舎に住んでいた鉄郎にはそれ以上の接点をもつことは出来なかった。(個室検査が多いので話す機会がそもそも少ない)
そして今、玄関先で縛られた状態で転がされている男は、初めてスマホにフレンド登録した同性である。先ほどまでスッカラカンに忘れてはいたが。
カンカンと階段を軽やかに駆け下りるとマイケルのもとに駆けつけた。
「わぁ、本当にマイケルさんだ、え、どうして縛られているんですか?」
「パパ、こいつ友達カ? 不法侵入者」
「うん、この人はマイケルさん、大阪に行った時に友達になったんだ、少し変わってるけど決して怪しい人じゃないよ、亜金ちゃん縄ほどいてあげて」
鉄郎の言葉に亜金がマイケルの襟を掴むとヒョイと持ち上げる、見事な亀甲縛りが露わになる。亜金はそのままスカートの中から取り出した中華包丁で素早く縄を切り刻んだ。
ヒュカカッ
「ヒエッ!」
亜金の包丁捌きに小さく悲鳴をあげるが、ようやく自分の足でこの国の地に立ったマイケルがニコリと笑みを浮かべる。
「やあ、お義父さん。ようやく会えた、いやーこの国に来るまで苦労したよ、ハッハハハ」
「お義父さん?」
なんのこっちゃと鉄郎が首を傾げるとロビーの方から春子の声が飛んでくる。
「鉄、立ち話もなんだ、こっちに来てもらいな」
「あ、そうだね。マイケルさんどうぞ、児島さん僕たちにもお茶もらえます」
ロビーにいる貴子達のもとに向かう鉄郎とマイケル、それにつられて集まっていたギャラリーもぞろぞろと移動して行く、その光景に鉄郎は苦笑いだ。
「紹介するね、このちっちゃい子が貴子ちゃん、この国の女王さま」
「ナイストゥーミーチュー、ミスターマイコー、ハッハッハ」
貴子ちゃんが珍しく笑顔で挨拶する、珍しいな。
「ハッハッハ、先程お会いしました。黒夢ちゃんとマイエンジェルのお母様ですね、そして鉄郎くんのワイフさんです」
「いや、違うよ」
「ファッツ?」
「即答!! ちょ、鉄郎くん私達はもう夫婦みたいなもんじゃないか!! 私の事は遊びだったの!!」
僕の返事に抗議する貴子ちゃんをジト目で見つめる、なるほどマイケルさんに夫婦に間違えられて機嫌が良かったのか、わかりやすい子だな。
「マイケルさん、貴子ちゃんとは訳有って一緒にいるけど、まだそう言う関係じゃないよ」
「まだってことは、将来はそうなるって事だよね!!」
「OH! 訳あり物件、だがこんな可憐な幼女の心を射止めるとは、君もなかなかやるじゃないか、やはり私の目に狂いはなかったな同士よ!!」
バンバンと僕の肩を叩いてくるマイケルさん、思い出したわ、そういえばこの人ってソッチ系の人だった、その手の人には貴子ちゃんはど真ん中のストライクなのか、まぁ性格はともかく可愛いちゃ可愛いのか。
「で、鉄郎くん、そちらの品のあるマダムは?」
「えっ、ああ、こっちは僕の婆ちゃんです」
「おお、君のグランマか! 初めまして、鉄郎くんの親友のジョージ・マイケルです、美しいマダム」
「あ、ああ、鉄の祖母の春子だよ、よろしくね」
跪き婆ちゃんの手にキスをするマイケルさん、婆ちゃんがちょっと戸惑いながら挨拶する、他の皆もぽか〜んとした顔になる。
「ハッハッハ、私はグランマに育てられてね年配の女性と幼女には敬意を払うようにしているのだよ、思えば僕を導いてくれたのはグランマの言葉だったな「マイケル、生理のある女は信用しちゃいけないよ、そいつらはあんたの身体が目当てなだけの獣だ、絶対に気をゆるすんじゃないよ」と毎晩子守唄のように聞かされたものさ、それ以来私は真実の愛を求めて今まで生きてきたのだ」
(((その婆ちゃんの所為か!!)))
その場にいた全員の心が一致した。
「そ、そうなんだ、でマイケルさんはどうしてこの国に?」
「そうそう、先日政府の役人が大阪に来て鉄郎くんとの関係を聞かれてな、君とは親友だと答えたら、なんと君はいつの間にか日本を出てこの国の国王になったそうじゃないか、そうしたら役人どもが友達としてお祝いの挨拶に行ったらどうかと提案してきてな、ちょうど大阪特区の生活も飽きてきた頃なのでアメリカの船に送ってもらったのだよ」
「ありゃ、それはご丁寧に、ありがとうございます」
僕のためにわざわざ日本から来てくれたマイケルさんにペコリと頭を下げる。
「ハッハッハ、水臭いことは言うなよ、私と君の仲じゃないか、ハッハッハ」
後ろで話を聞いていた麗華が隣の児島にヒソヒソと耳打ちする。
「ねえ、それってあのロリコ◯、政府からいらない子認定されて囮にされたって事なんじゃないの」
「おそらく、この国に入るための口実に使われたのでしょうね」
貴重な男性を本来このように捨て駒にする事はあり得ないのだが、マイケルは普通の恋愛が出来ない人種なので政府としても「まぁ、こいつならいいか」と鉄郎王国の侵入作戦の陽動に使われた。
鉄郎の知り合いの男性ならいきなり攻撃されることもないと考えられたし、もともと鉄郎と接点のある男性がマイケルしかいなかったのだ。
黒夢が運んで来てくれた紅茶で一息いれる、マイケルさんには亜金がお茶漬けを持って来た、マイケルさんはちょうどお腹が空いていたんだと美味しそうに食べていたが、それって早く帰れって意味になるんじゃなかったっけ。これは僕に聞けって事かな?
「マイケルさんは何時までこの国に居られるんですか?」
「ん、別に決めてないし、なんなら移住してやってもいいぞ、大阪の女共も鬱陶しくなってきてたしな、ここにはマイエンジェルもいる、それに鉄郎くんをこんな危険な国に一人にするのも可哀想だろ」
お茶漬けを食べながらマイケルさんが答える、それにしても箸の使い方上手いなこの人。
僕としても同性が近くにいるのはちょっと嬉しい、最近は悩み事も多いし色々と相談に乗ってもらえるかも。
「本当に!! 貴子ちゃん、どうだろう、マイケルさんをこの国に移住してもらってもいいかな」
「別に害のある男ではなさそうだし、鉄郎くんの友達ならかまわないよ(ヤブ医者も新しいサンプル欲しがってたしな)」
「OH! 流石可憐な女王様、話が早いです、ついでと言ってはなんですがマイエンジェル亜金ちゃんをお嫁さんにくださ〜い」
「潰すゾ、ブタ野郎」
即座に亜金に踏みつけられるマイケルさん、踏まれているのにどこか嬉しそうにしているマイケルさんを見てちょっと早まったかなと思わなくもない。
こうしてこの国に男性の国民が一人増えることとなった、一応僕からも日本の尼崎さんに電話しといたほうが良いか、男性の引き抜きなんてへたすりゃ国際問題だもんな。
国際問題どころか全面戦争一歩手前だったのだが、鉄郎はその事を知る由もなかった。
間接照明のみの少し暗い屋敷のロビーに2人の人影。春子と児島がグラスを交わしていた。
カリンとジッポライターを開けると愛飲しているキャメルに火を灯した、美味そうに煙を吐き出すとカウンターの中でメイド服ので立つ児島に話かける。
「今回の件どう思う?」
「そうですね、今回の事で世界政府も力の差がわかったと思いますよ、しばらくはおとなしくしてるんじゃないでしょうか」
「まあね、ここまで完璧な敗北はないだろうね。まったく、黒夢一人でも手に負えないってのに、それが3人も増えてるなんて貴子の奴は何を考えてるんだか」
「もう少し増やす予定らしいですよ、ベビーシッターとしてですけど」
「どこの世界に世界征服出来るベビーシッターがいるってんだい、あきらかにオーバースペックだろ」
「貴子様は世界征服になんて興味ないですからね、純粋に子守役として作るみたいですよ」
「そりゃ、政府にとっちゃ悪夢だね。って子守り? 鉄のかい?」
「鉄郎さまのお子様用ですね」
「おいおい、まだ気が早いんじゃないか、真澄さんとはまだ始まったばかりだよ、そんなに簡単に」
「…………」
「児島? それはどう言う意味の沈黙だい、まさか」
その後、京香との不倫及び懐妊を知った春子に呼び出された鉄郎と京香は、一晩中正座で説教を食らうことになる。
春子の本気の激怒に流石の京香も少しちびったことはここだけの内緒だ。この女はもう少し反省するべきである。
その廊下では住之江、麗華、リカ、黒夢の4人が聞き耳を立てていた。
「妊娠て、しもた、先を越された!! うちも頑張らんと」
「うおのれええええ!! あのヤブ医者ぜってー殺す!!」
「麗華さん、その時は私もお手伝いしますわ!!」
「内戦勃発」
お読みいただきありがとうございます。感想絶賛受付中!!




