96.我が名は
「この国は戦闘民族の集まりか!!」
武田邸の玄関前広場に垂直着陸するF-35、そのコックピットから亜金に蹴り出されたジョージ・マイケルは目の前の光景に思わずつっこんだ。
アメリカ海軍の最新鋭ズムウォルトを撃沈し、その後方の艦隊を行動不能に貶めた亜金がF-35の主翼の上に立ちながら、分析するように目の前で行われている戦闘を見つめる。
黒夢姉様が7体の残像を引き連れて駆けて行く、降り注ぐ5.56mm弾を手刀で弾き飛ばしながら完全武装の敵兵3人を一瞬で行動不能にする、その闘うお姿のなんと美しいことか。
乳のデカいチャイナ女 (麗華)は蛇のように自在に動く棍で死角から突き倒し、メイド服の女 (児島)が無造作に撃つライフル弾はまるで吸い込まれるように敵兵に当たる当たる、一発の無駄も許さない。
この3人を運悪くくぐり抜けた兵の前にはさらなる化物が立ちはだかる、玄関前で仁王立ちするロシア人 (エバンジェリーナ)に文字通りぶっ飛ばされて宙を舞う。白髪の婆ちゃん (春子)に至っては近づくだけでバッタバッタと敵が倒れて行く、ぐぬぬ、何だアレは、抜いたカタナが見えないゾ。
各国の選りすぐりの精鋭部隊30名がものの10分で無力化される、亜金は戦闘が終了するのを確認すると、足元に転がるマイケルをズルズル引きずりながら屋敷に向かって歩き出した。
「ちょ、マイエンジェル、手を離してくれないか自分で歩ける、ぐえっ!!」
ピタリ、足を止めた亜金がマイケルを冷ややかに見下ろすと、そのまま小さな足で頭を踏みつけた。
「ウルサイゾ、デブ、捕虜の分際デ」
女性にしかも幼女に踏みつけられるなど産まれて初めての体験だったマイケルは、この時えも言われぬ気持ちとなった、身体の奥からふつふつと涌き上がる得体の知れない想い、この感情に何か名前をつけるとしたらそれはまさしく恋ではないだろうか。(たぶん違う)
「oh、わ、わかった、おとなしくする、だから結婚しようマイエンジェル」
「キモイゾ、お前」
亜金が苦虫を噛み潰したような顔をした、アンドロイドのくせにこう言う所は良く出来ている、貴子の技術の高さが伺える瞬間だ。
亜金に気付いた黒夢がコツコツと靴を鳴らして近づいて来た。
「亜金、戻ったノカ、海の方は片付いたようダナ、……デ、ソレガ例ノ」
「オーーッ、黒夢ちゃん、私だよ鉄郎君の親友マイケルだよ!! 相変わらず可愛いね〜」
「誰?」
「黒夢お姉様に気安いゾ、ブタ野郎」
亜金が踏みつける足にぐりぐりと力を入れる、にも関わらずマイケルは恍惚の表情を見せる。こいつもう駄目だな。
「ン、データ照合。大阪に生息していたマイケルトミオカと一致」
「ジョージ・マイケルだからね!!」
「何々、金ちゃん誰連れてきたの?」
そこに血まみれの棍を手に麗華が合流する、その特徴あるチャイナ服に反応したのはマイケルだ。
「おぉ、お前はあの時のチャイニーズマフィアではないか、ちょっと鉄郎くんを呼んできてくれたまえ」
「ゲッ、○リコン野郎、何しに来たのよ」
「誰が○リコンだ! 幼女の尊さがわからん品のない乳年増め、女のピークは10歳までで、それ以上は歳をとるごとに魅力を失っていくんだ!!」
ビキッ
「金ちゃん、こいつ拾った所に返してきなさい、お家では飼えないわ」
「海の上でイイノカ、後、金ちゃんて言うナ、そのでっかい脂肪の塊もぐゾ」
「お〜い終わったか、終わったなら鉄郎くんにバレる前に片付けて撤収な〜、掃除するからルンバ改投入するぞー!!」
その時玄関から貴子が出てきて呑気に撤収を告げる、その貴子に春子がマイケル達がいる方向をクイッと指差した。
「何事?」
「なんかあんたの娘が男を連れ込んだみたいだね」
「ぬわにぃ!! 親の私を差し置いて男だと!!」
トッタカターと黒夢達のもとに駆け寄る貴子、勢い余って麗華の尻にぶつかって止まった。
「きゃっ! ちょっと何すんのよ」
「うっさい、邪魔だデカ尻」
「そんなにでっかくないわ、むしろキュッてなってるつうの」
そんなアホな会話なぞ聞こえない位の衝撃をマイケルは感じていた、髪の色こそ白髪と違いがあるが金髪幼女の亜金そっくりの貴子の姿、黒夢は鉄郎の雰囲気も取り入れてる為よく似ているが少し雰囲気が異なる。
「可憐だ……」
「「「「はあ?」」」」
「君の名は……」
「なんだこいつ、私はこの国の女王だぞ、まずは自分から名乗れ」
「OH! これは失礼を、君があまりにも可憐で、我を忘れてしまったようだ。私の名前はジョージ・マイケル21歳、職業は自由人さ」ニカッ
亜金に踏みつけられ縄で縛れていなければ少しは様になっていただろうマイケル、何事も最初が肝心である。
「自由人?……只のニートか、で、この国になんの用だ」
「親友の鉄郎くんに会いに来たのだよ、それよりそろそろこの足をどけてくれないかマイエンジェル」
「鉄郎くんの親友? 鉄郎くんの男の知り合いは初めて見たぞ、黒夢」
「大阪の男性特区デ、会った事がアル、本物」
「日本の? う〜む、鉄郎くんの知り合いなら無下にも出来んか、亜金足をどけてやれ」
「ワカッタ、ママ」
「ママ!! 君はマイエンジェルの母親なのか!! 黒夢ちゃんがお姉ちゃんで君が母親と言う事は、鉄郎君は君の旦那様か!!」
マイケルの言葉に貴子の表情が明るくなる。
「そ、そうだ、我が名はケーティー貴子。この国の女王にして鉄郎くんのお嫁さんだ!!」
ババーンと無い胸を張る貴子、鉄郎と夫婦に間違われて気分がいいのかニッコニコだ。
「OH! 人妻幼女です!! 鉄郎くんは見る目があります」
「ワッハハ、こらこら亜金、大事なお客人をいつまで足蹴にしている、早く屋敷にご案内してさしあげなさい、ワーハッハハ」
「おいコラ、自称嫁。 あんたまだ婚約すらしてないでしょ」
「ハッハハー、デカ乳、すでに時間の問題だよ、女王の横には国王がお似合いだろうが、ワーハッハハ」
高笑いのまま屋敷に戻って行く貴子を見ながら麗華が呟く。
「あの恋愛ヘタレは、どこからあの自信が湧いて出てくるんだ?」
新武田邸のただっぴろい玄関ホール、いまだに縛られたままのマイケルが亜金によって床に転がされた。
「アウチ、マイエンジェル、縄はまだ解いてくれないのかい、少し食い込んで痛いのだが」
「パパが来るマデ待て、ステイ」
この騒ぎに屋敷に住む学生やら使用人が何事かと玄関にゾロゾロと集まり始める、先程までの戦闘よりよほど興味があるらしい。
ちなみに黒夢は鉄郎を呼びに行っている、貴子達はロビーで児島が煎れた紅茶を飲んでいた。
ザワザワ、ザワ
「あら、男よ。縛られてるけど犯罪者かしら?」
「けど、けっこう可愛い顔してない、鉄君と比べちゃうとあれだけど」
「え〜っ、私あんな太ってるのやだな、ハムみたい」
「派手なアロハ、アメリカ人?」
「あの顔、なんかどこかで見たような」
大阪の男性特区では色々な意味で有名なマイケルなのだが、ここの住人は普段から鉄郎を見慣れているのでインパクトに欠ける、しかも縛られてるとあってはなんとなく犯罪臭すら漂っているので言いたい放題だ。
ザワつくホールにタッタッタと小走りの音が聞こえて来る。中央の階段、2階のエントランスから慌てたように鉄郎が姿を表した。
「マイケルさん!!」
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