93.世界インド化計画
ガシャーン!!
「シット!! これだからカレーの国の人間は!!」
アメリカ大統領メアリー・ブルックリンはインドのカンチャーナ首相からのホットラインを切ると受話器を床に投げつけ激昂した。
「だ、大統領……」
「USN (アメリカ海軍)のヘレンを呼んでくれる、後ジャパンの尼崎に電話繋いで」
ホワイトハウスのウエストウイングの窓から見える木々が強風を受けてザワザワと揺れている。
グリーンノアの警戒網に引っかかった1隻の船、その船からは妙な通信が入っていた、その通信者の言葉を訳すと「国王の友達が遊びに来てやったから入国の許可を出せ」との事だった。
いつものYAMATOであれば問答無用で高度200kmからのレーザー攻撃で沈める所だが、鉄郎の友達というワードが即撃沈を戸惑わせる、そこで確認の為に向かったのが黒夢との訓練 (楽しいひと時)を邪魔され不機嫌な金髪幼女だった。
「暑い、だがこの景色は悪くないな、それにしてもあの白い塔はなんだ? こんな所から見えるってどれだけビッグなんだ」
燦々と陽が照りつけるモルディブ沖に碇泊するズムウォルト、アメリカ海軍の最新鋭ミサイル駆逐艦である、菱形の船体はレーダー波の反射を空に向けて逃すのでステルス性に優れた船だ。
そして今、その甲板上で派手な星条旗柄のアロハにレイバンをかけた一人の男性が遠く海上を見つめ愚痴をこぼし始めた。
「しかし、もうちょっと良い船を用意出来なかったのか、プールもカジノもないじゃないか、これじゃ暇でかなわん、何より周りが女 (成人女性)だらけで息が詰まる」
「す、済みません、でもこの船はアメリカ海軍の最新鋭艦でして」
「だからなんで海軍の船なんだ、ボイジャー・オブ・ザ・シーズみたいな豪華客船は用意出来なかったのか!」
「武装のない客船では何かあった時に対応出来ません、貴方の安全の為です、どうかご了承ください」
「ふん、戦争でもする気か。 まあいい、で、いつまでこんな所で私を待たせるんだ」
「連絡は来たのですが、この海域で待てとしか」
白のセーラーに身を包んだ女性が申し訳なさそうに頭を下げる、その時に揺れた大きな双丘に男は嫌そうに顔をしかめた。
男は女性から背けるように顔をあげると、上空に1機の飛行機が接近しているのが見えた。
ズムウォルトの船内では慌ただしく船員が走りまわっている、艦内の全てのコンピュータがその機能を停止したのだ、多機能レーダーSPY-3も沈黙している、これでは海上に浮かぶ筏と変わらない、全鑑コンピュータ制御がこの場合はあだとなっていた。
その頃Fー35のコンピュータ制御にまかせて、青空にジェットの軌跡を残しながら悠々と飛ぶ金髪幼女亜金が、グリーンノアのYAMATOに通信を入れた。
「ハッケン、船上に降下スル、この機体は任せたゾ」
『了解です、コントロール引き継ぎます、衛星のリンクは繋げておきますがくれぐれも慎重に』
「人間ごとき……イヤ、アメリカ海軍ごときに遅れはトラナイ」
ズムウォルトの上空でホバリングするF-35のキャノピーを開くと亜金は無造作に飛び降りた。
頭上でホバリングするピンク色の戦闘機から飛び降りる小さな人影、真っ赤なゴスロリなドレスに金色の長い髪がクルクルと回転している、カツンと小さな音を立ててズムウォルトの甲板に降り立つ。
男はその姿を見て驚愕の表情で呟いた。
「エンジェルだ、エンジェルが舞い降りた……」
「ハジメマシテ、国王武田鉄郎ノ娘、亜金death。お見知り置きヲ」
ドレスの裾を両手で摘み優雅にカテーシーで挨拶をする亜金、幼いながらも妖艶な笑みを浮かべるその姿にゾクリと身体が震えを覚える。
だが次の瞬間には亜金は、つまらない物を見たという感じで冷めた視線を男に向けた。
「貴様ガ、マイケル・トミオカカ?」
「違う!! ジョージ・マイケルだ!!」
「情事マイケル?」
ポキュリと首を傾げる亜金。黒夢が興味なかったせいで男のデータが曖昧だった。
「なんか違うような呼ばれ方をされた気もするが、可愛いから許す、と言うか鉄郎君の娘? 黒夢ちゃんの他にもこんな可愛い娘がいるのか?」
「モット、増えるゾ」
「パラダイスか!!」
「気持ちワルイゾ、デブ。 貴様本当にパパの友達カ?」
「HaHaHa、疑り深いなマ〜イエンジェル、本当だとも鉄郎君に取り次いでくれればすぐにわかるさ」
ジト〜リと疑いの目をする亜金、そんな目を向けられてもなぜかニコニコとしているマイケル、どうにも噛み合ない2人だった。
「ハア、仕方が無イ、パパの手を煩わせるのは気が引ケルガ、連絡をトル、入国するのは貴様ダケでイイナ」
亜金の言葉にマイケルの隣にいた海兵が慌てて口をはさんでくる。
「ちょっと待って、この人の安全を最後まで確認する義務が我々にはあります、私達も一緒に入国を望みます」
「私達と言うのは、コノ海面下にいる潜水艦や後方でコソコソしている軍艦モ含むノカ?」
亜金が平坦な口調で海兵に問いかける、亜金の言葉に動揺する海兵、後方に控えた船は仕方ないとしても潜水艦の存在までも知られてるとは思わなかった。亜金やグリーンノアにしてみれば現在政府の持っているステルス性能など児戯に等しい、むしろ知られてないと思われていた事の方が亜金には吃驚だ。
「潜水艦? おい女、どう言う事だそんなもの聞いてないぞ」
マイケルがいらだたしく海兵を問い詰める。この時点で亜金も大体の事情を察する、この男、この海域まで侵入するためにどこぞの政府に利用されたのだと。
「コノ船の周りに3隻、このAIPのエンジン音、1隻はそうりゅう型カ、日本も参加シテイルナ」
ゴクリと喉を鳴らす海兵、そこまでばれているのでは作戦は変更せざるをえない、腰のホルスターから素早くM9を抜き亜金に向ける、後方に控えていた船員もM4カービンライフルを手に駆け出して来て亜金を取り囲んだ。
ジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキ
ズムウォルトの決して広いとは言えない甲板上に数十名の武装したアメリカ海軍兵士が並ぶ、M4カービンの銃口全て亜金一人に集中している。
そんな中一人マイケルが激昂する。
「おいコラ!! 何を考えているんだ、マイエンジェルに銃を向けるな、とっくに賞味期限の切れたメス豚供!!」
「くっ、マイケルさんゆっくりとこちらへ! 作戦を変更します」
「カカカ、オマエタチはバカか? この動けない筏と海中を漂うだけのクラゲで何がデキル」
「お嬢ちゃんは国王の娘なんでしょ、とりあえず人質になってもらうわ、そこからそちらの国と交渉を始める」
先頭に立つ海兵がM9のトリガーにそっと指をかける、先程の空からのジャンプを見るに、それなりの身体能力を保持しているのはわかっている、決して油断はしない。
ゴクリと喉が鳴る。なぜか本能は逃げろと告げているが、軍人としてのプライドがそれを拒否する、たった一人の幼女にどれほどのことが出来る、私達は栄光あるアメリカ海軍だ。
「カカカ、モウイイ、とっとト用事を済ませル、それに潮風はお肌 (外装)に良くなイ」
そう言って亜金はゆっくりと両腕を上げると、その手には鈍い金属の輝きを放つトンファーが握られていた。拳銃の群れの中にあって打撃武器? ケーティーシリーズを知らない者にとって当然の疑問、そのために次の亜金の動きに反応出来る者はいなかった。
カッ
靴のヒールが甲板を叩く小さな音と共に、亜金の姿が消える、このスピードに付いていける人類はいない、ましてや反応して反撃が出来る人間など世界で10人もいるまい。
わずか1秒の間に8名の海兵が海に弾き飛ばされる、それだけでは止まらない、黒夢ゆずりの独特の高速ステップで3体の残像を作り出しながら残った海兵に襲いかかる。
「分身の術、ジャパニーズ忍者か!!」
「ドケ、デブ!」
「OH! 踏み台にした!!」
金髪幼女に踏み台にされたマイケルが床にベチャリと叩き付けられ、その頭上を無数の弾丸が掠める。金属製のトンファーの打撃音が鳴り止むと甲板上に残ったのは、震えながらM9を構える海兵とカエルのようにのびたマイケル、長い金髪を潮風にサラサラとなびかせる亜金だけだった。
「ソノ男は貰ってくゾ」
「ひっ!! ば、化物!!」パンッ
トリガーにかかってた指が恐怖で動いてしまう、発射された9mmの弾丸。
パキーン
クルリと回したトンファーで迫り来る弾丸を虫を払うように叩き落とす亜金、戦いにすらならない圧倒的な力の差に海兵はペタンと膝を着いた。
「ヤレヤレ、一応パパに確認しなきゃナラナイカラナ」
亜金はそう言って床で伸びてるマイケルの衿をつかむと、猫でも持ち上げるようにヒョイと脇に抱える、上空にはいつの間にか戻ってきたF-35がユラユラと浮いていた。
「デハ、ゴキゲンヨウ」
マイケルを抱えながらちょこんとお辞儀をすると、そのままF−35に向かいロケットのようにジャンプした、ヒッとマイケルが小さな悲鳴をあげる。
機体の上に立つ亜金、ズムウォルトを見下ろしながらその瞳がチカリと光る。すると遥か上空から一本の光の矢がズムウォルトの多角錐型の艦橋に撃ち込まれる、次の瞬間艦橋は轟音と共に跡形も無く爆散した、この瞬間アメリカ海軍最新鋭のミサイル駆逐艦は文字通りただの筏と化した、死体蹴りもいいとこである。
マイケルを操縦席に蹴り込むと遠くに見える白い塔に飛び去って行くピンク色のF−35、それを見つめながら甲板上でへたり込んだ海兵が絶叫する。
「何なのアレ、何なのよーーーーーーーーっ!!!」
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