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86.その塔は天に向かって立つ

バベルの塔、貴子が放ったその神秘の光はお隣のインドでも大勢の人々に目撃された。


「な、何なの、あの光は、インドラの矢……」

「神よ……」


南の空に浮かぶオーロラと眩い光の柱、熱心なヒンドゥー教徒の多いインドでは人々が英雄神インドラの名をつぶやき祈りを捧げる、中には道端でひざまずき頭を垂れる者もいた。


南インドのチェンナイ空港で飛行機の出発を待っていたインド政府カンチャーナ首相は、窓から見えた光景に手にしていたワイングラスを苛立たしく床に叩き付けた。グラスの砕ける音が機内に響き、続いてヒステリックな声が発せられた、隣に立つ秘書がビクリと身体を震わせる。


「一体どうなってるの、あの狂人はあそこで何をしてるのよ!!」


「すみません、何人もの諜報員を送ってはいるのですが、まだ連絡が……」


「潜入させてある諜報員だっているでしょ!! ラクシュミーからの報告は無いの!」


「それがいまだ音信不通でして……」


「くっ、とにかく何とかしなさいよ、人工衛星が使えないならハッキングでも何でもすればいいでしょ!!」


「…………」


カンチャーナ首相の苛立ちもわからないではない、貴子の建国宣言からこっち、世界中の諜報員が鉄郎王国に探りを入れているが、未だにまともな情報を手に入れる事が出来ていなかった、空と海の閉鎖により厳しい入国制限がかけられほとんど鎖国状態なのだ、スリランカからの移民に情報を聞き出そうとするも、やれ新国王が可愛かっただの、果物とカレーが好きだの、酒ばかり飲んでるだのと、これと言ってどうでもいい情報ばかり耳に入ってくる始末。


それもそのはず、海上ではグリーンノアのYAMATOが、制空権と通信情報は黒夢が完全に掌握しており、王国に近づく者は小舟一隻、ヘリ一機たりとも領域内に入る事が許されていない。


人間とは自分に理解出来ない者にはまず恐怖を覚える、やがて恐怖はやり場の無い怒りへと変換され、その行動は次第に過激になって行くものである。

人間の本質はその者の地位が上ろうとも左右されるものではない。


「アメリカ大統領に繫いで」










「んっ」


血管膨張剤を打たれた鉄郎は小さなうめき声をあげる、薬のせいか身体が火照って熱く感じた。


「ごめんね、痛かったかしら」


「いえ、ちょっとチクッとしただけで大丈夫です」


「そう、偉いわ、よしよし」


「京香さん、注射ぐらいで頭なでないでくださいよ、子供じゃないんだから」


「あら、ごめんなさいね、鉄ちゃんを見てるとつい、もういいですわ、次はその台に寝てもらえるかしら」


検査台で横になると球状のカプセルに閉じ込められる、色々な所でランプが点滅するとヴゥーンと小さなモーター音がして僕の周りを回転し始めた。無数の光が照射され身体の上を行ったり来たりと忙しい。


「鉄ちゃん、ちょっと眩しいですから、目は閉じていてかまいませんわ、5分程度で終わりますからじっとしててね」


「はい、わかりました」



僕は今バベルの塔の中にある検査施設にいた、貴子ちゃんの作ったMRI?のテストで京香さんにお世話になっているのだ、モニタールームでは黒夢が無表情でその機械を操作していた。







「おお〜〜っ、凄い!! 僕が3D映像になってる!」


「ふふ、凄いでしょ、ここにしかない貴子さんお手製のMRIよ、これ1台有れば放射線を使うレントゲンもCTも用無しですわ、黒ちゃん、モニターを胃カメラに切り替えてもらえる」


「パパの全てはマルっとお見通シ」タンッ



黒夢がマルチモニターにMRIで解析された僕の身体の映像を次々と映し出す、へぇ〜凄、お腹の中まで再現出来るんだ、うわっ血管だけの映像まで、これを撮るためにさっきの薬を打ったのか、それにしても自分の身体ながらグロいものがあるなぁ、うへぇまるで解剖されてるみたいな気分だ。


「うん、どこにも異常はないですわ、健康そのものです、むしろ筋肉量は増えてますね」じゅるり


じゅるり? 最近は身体の調子もいいし、京香さんに太鼓判を押してもらえれば安心かな、ホッと胸をなで下ろす。やはり健康第一だよね。


「ちなみに私も鉄ちゃんの前に自分の画像を撮ってありますのよ、ご覧になります?」


「京香さんの? それは僕が見ちゃって大丈夫なんですか?」


「鉄ちゃんにだったら問題ありませんわ、それに私も健康体でしてよ、では」タンッ


キーを叩くとモニターが京香さんに切り替わる。


「ぶーーーーーっ!! な、なんでいきなり真っ裸の映像なんですか! 服は、なんで服着てないんですか!!」


「あら、鉄ちゃんは私の内蔵が見たかったんですの?」


いつぞや温泉で生で見ちゃってるとはいえ、改めて3Dでくまなく見せられるのは恥ずかしいものがある、くっ、見てはいけないと思いつつも本能的な衝動でつい目がいってしまう、こう言う時一体どんな顔をすればいいんだ。視線を横にずらすとふと黒夢と目が合った。


「笑えばイイと思うヨ」


「僕の心を読むなよ黒夢、これ見てニヤリとでも笑ったら変態に思われるだろ!!」


サムズアップする黒夢、大体、黒夢の幼女体型と違って成人女性、それも京香さんの全裸だぞ! 思春期の男子高校生には刺激が強すぎるんだよ。


「あら、あらあらあら〜、鉄ちゃんお顔が真っ赤ですわ、そうそう、この映像ってポーズも色々変えられるんですのよ」


京香さんが僕に寄り添いながら、耳元で甘く囁く。


「ぶーーーーっ!!」


モニターの中で京香さんが艶かしく女豹のポーズをとる、それを回転しながら見せられるもんだから、色々と見えちゃいけない部分が見えちゃってる。ゴキュリ……正直たまらん、何なのこの美魔女っぷりは、とても一児の母親には見えないんだけど。

脳内でお母さんが対抗して「私もよ」と主張してくるが、当然無視する。


「や〜ん、鉄ちゃんに恥ずかしい所まで全部見られちゃいましたわ、恥ずかし〜」


イヤンイヤンとわざとらしく身体をくねらせる京香さんだが、絶対わざと見せつけてるでしょ、恥ずかしいとか微塵も思ってないでしょ。これってセクハラなのではと思いつつも、チラチラとモニターを見てしまう、孔明の罠とわかっていてもそれに乗せられてしまう男子高校生の悲しさよ。くそ〜っ、京香さんはまともな人だと信じてたのにぃ〜。


「さて〜、鉄ちゃんも元気になった所で、ついでに採精の方もやってしまいましょうか」


京香さんの視線が僕の下半身をチラッと見ると、舌でペロっと唇を舐めてそんな事をおっしゃいました。うきゃー、薄い病衣1枚だから元気になっちゃたのばれてる、超恥ずかしーーーーーっ!! もうお嫁にいけない!


「パパ、頑張っテ、黒夢は弟が欲しイ」


「ナニを頑張るんだよ!!」


「さあさあ、鉄ちゃん隣の診察室でイキますわよ〜」


妖しい笑みを浮かべる京香さんに手を引っ張られ、僕は前屈みになりながらされるがままに強引に引きずられて行く。


「大丈夫、ほんのちょっと天井の染みを数えてる間に終わりますわ〜、オーホッホッホ」


「うわ〜〜〜ん、真澄先生ぃ助けてぇ〜、犯されるぅぅ」


「あら人聞きが悪い、れっきとした医療行為ですわ」


ガチャリ


「いやぁーーっ、鍵閉めたぁ〜!!」











鉄郎がそんな事になっているその頃、鎖国状態の鉄郎王国に一隻の船がその海域に侵入する、ナインエンタープライズ極東マネージャー李花琳の巨大豪華客船「青龍」である。現在無条件でこの国に入国出来るのは世界でこの船だけだ、船のラウンジでアイラのスコッチを口にしながら、花琳は傍に立つ護衛役のエバンジェリーナに話かける。


「貴子さんの発電所は無事に稼働したみたいだわ、よくこの短期間で作れたもんね、流石貴子さん♡」


「これで、加藤貴子に逆らえる国はなくなりましたね、あのマッドな科学者に国なんか作らせたら、遅かれ早かれこうなるってインド政府は予想できなかったんですかね?」


「本当に浅はか、世紀の大天才である貴子さんをコントロールできるとか、そんな大それたこと私にだって無理だわ」



グリーンノアのドックに横付けされた青龍、タラップを降りて行くと出迎えたのは着物姿の春子に、アロハの上に白衣を羽織ったサングラス姿の夏子、その後ろには住之江がそわそわと居心地悪く立っていた。


「すまないね、極東マネージャー直々に、貴子の奴ももうじき戻ってくる、ゆっくりしていっておくれ」


「お久しぶりですね春子さん、どうしてもバベルの塔が見たくて来ちゃいました、貴子さんはバベルの方に行ってるんですか?」


それに答えたのは隣の夏子だった、鉄郎に置いてかれたのでちょっと機嫌が悪い。


「朝から鉄君連れて行っちゃたのよね、子供が玩具自慢かっての」


「ふふ、貴子さんは子供のように純粋ですからね」


純粋? ニコニコとそうのたまう花琳にちょっと皆が距離をとった、貴子教の信者と言ってもよい彼女だけに真面目に言ってる所が怖い。


「エーヴァも呼び出しちまってすまなかったね」


「武田隊長の頼みですから、私に断る選択はありませんよ、で、私はそちらのお嬢さんを鍛えればよろしいんですね」


軍服姿のエバンジェリーナに鋭い視線を向けられて、住之江がヒエッと小さな悲鳴をもらす。


「ああ、家の嫁に相応しいように貴様が鍛えてやってくれ」


「了解しました、全力で挑みます!」


カツンと軍靴を鳴らして敬礼するエバンジェリーナに満足気な笑みをこぼす春子、「うわ〜〜〜ん、鉄君助けてぇな」と涙目の住之江、案外似た者同士である。




バタバタバタ


「あっ、貴子さんが来ましたわ」


花琳が山の方から飛んでくるピンク色のオスプレイに反応する、その後ろには空と大地を繋ぐように白い巨塔がそびえ立っていた。


お読みいただきありがとうございます。感想絶賛受付中!!

GW仕事がどうなるか微妙なので次の更新は30日になるか、7日になるかまだ予定がたちません。あしからず。

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