84.華麗なる一族
カレーと言うとまず頭に浮かぶのがインド、まぁこれはカレーの国だからしかたないよね。しかしお隣のスリランカも結構なカレーの国である、インド人も吃驚、しないか?
ここ新武田邸の食堂では今、スパイスの良い香りが漂っている。現地の方々が歓迎の印と言って、夕飯に本場のスリランカカレーを振る舞ってくれたのだ。
「これがスリランカのカレーか、インドカレーよりサラサラした感じなんだね」
テーブルの上に所狭しと並べられた料理、チキンに豆に魚のカレー、サラダにあれはタコか?スリランカでは色々なおかずを組み合わせて食べるのが特徴であるらしい。
お皿の中央によそったお米の周りにカレーと色々なおかずを盛りつける、それを混ぜて食べるのはなかなか楽しいし旨い。
「お、思ったより辛くない」
「ああ、ココナツミルクの量で辛さも色々ですよ、こっちのチキンカレーは結構辛いですよ〜」
「へ〜、流石ラクシュミーさん、カレーの国の人ですね、よく知ってる」
「いや、私、日本食の方が好きですけどね、お寿司最高!!」
「この裏切り者!!」
「ナンで!!」
実は日本とスリランカは意外と共通点が多い、海に囲まれた島国、当然シーフードも豊富、そして何と言ってもお米が主食なのがいい、ちなみにインドではナンが主食だったりする、後、仏教の国 (インドはヒンズー教)。
「うん、このジャガイモとインゲンのカレー炒め、ライオンビールによく合うわ」
「いやいや夏子さん、このアラック (ココナツの酒)のほのかな甘みとパティス (魚のすり身の揚げ餃子)の組み合わせが良いんですよ」
「児島さん、もう1本ワインを開けてもよろしいかしら、次は出来ればシャブリがいいわ」
「もう、あの人達は何処行ってもお酒ですわね、あ、鉄郎さん、スターフルーツのジュースも美味しいですわよ」
「コラ!! 悪役令嬢の分際で抜け駆けすんな、鉄郎くんこっちのプリンみたいなのも美味しいよ」(ワタラッパン/ココナツミルクと黒糖で作ったスイーツ)
「誰が悪役令嬢ですの!! ちびっ子は向こうでバナナでも食べてらっしゃいな」
「悪役令嬢は婚約破棄が定番だぞ、追放してやろうか」
うん、皆で食べる食事は賑やかでいいよね、畳敷きなので食堂と言うよりは大きな宴会場になっちゃてるな。あ、婆ちゃんがカラオケ始めた、夜桜お八か。
ヒタヒタ、ヒタッ。
その日の深夜、皆が寝静まる中、鉄郎の部屋を目指して忍び寄る一つの赤い影、決して忍者ではない。
「ふふ、鉄郎さんがその気になった以上、先手必勝ですわ…………でもこの格好ちょ〜っと大胆かしら」
昼間の鉄郎の「赤ちゃん欲しい」(ちょっと違う)発言を受け早速行動に移る藤堂リカ、真っ赤なスケスケのネグリジェに、バランスのとれた見事なプロポーションを包み込んで闇を行く、角まで来ると鉄郎の部屋に伸びる廊下をキョロキョロと覗いた。
パチンと頬を自分で叩き、覚悟と気合いを入れて一歩踏み出す。
「良し! 行きますわよ」ザッ
「ほれ」
「えっ! わっ、きゃん!!」
バタン! きゅ〜〜〜っ
勢いよく角から飛び出したリカの足元に投げ込まれたのは、新鮮なバナナの皮、チャップリンばりに空中で見事な1回転を見せる。
尚、新鮮なバナナの皮はスキーよりも摩擦係数が少なく滑りやすいので、細心の注意が必要だ、試す場合はヘルメットの着用を推奨したい。
後頭部を廊下に打ちつけ気を失うリカ、それを見下ろすのは住之江だ、口の中でもごもごとバナナを食べながらしゃがみ込むと、倒れているリカのネグリジェの裾をめくり、そっと中を覗く。
「なんや、シルクの勝負パンツなんぞ履きよって、やる気マンマンやな。せやけどうちの目の前で抜け駆けは許さへんぞ」
住之江がリカのシルクのパンティの肌触りに、「ほへ〜すべすべ、これええな、めっちゃエロいやん」などとひとりごちていると、ふいに背後に殺気を感じた。
キュピーン
次の瞬間、後ろから打ち下ろし気味の中段蹴りがヒョウと風を切って住之江を襲う。
ガシッ!
「なっ、嘘、止められた!!」
「あっぶなー、いきなりなにすんねん麗華!!」
間一髪で右腕のガードが間に合った、最近では噛ませ犬役が板についてきた麗華だったが、住之江ごときに自分の蹴りを止められた事に少なからず驚いた。
「ちっ、それはこっちのセリフよ、こんな所でなに生徒会長のパンツ覗いてるのよ真澄、……あんた、まさかソッチの趣味が……」
「ちゃうわ!! こいつが鉄君に夜這いかけようとしてたから止めただけや、見てわからんか」
「わかるか!! 女子校生のパンツ覗いてる変態にしか見えないわよ、大体あんたこそそんな格好で何しようっての」
住之江は下着の上にぶかぶかのYシャツだけを羽織っている、シャツの下からスラリと伸びる生足がなんとも艶かしく眩しい、Yシャツの先ちょの出っ張りから見てブラは着けていないようだ。
「へへ、ええやろこれ、鉄君のYシャツなんよ。この格好やったら鉄君も辛抱たまらんのとちゃうかな」
「あんたね〜、最近調子に乗り過ぎじゃない、鉄君の初めては育てのお姉ちゃんである私のものよ!!」
「はん、似非ブラコンが。 うちは鉄君の第一婚約者や、変態はひっこんどれ!」
「ほほ〜う、どうやら死にたいらしいわね。まぐれで蹴りを止めた位で私に勝てると思ってんの」
「春子お婆さまとの修行の成果、今こそ見せたるわ」
薄暗い廊下で対峙する2人に緊張が走る、だが次の瞬間にいきなり麗華の姿がブレたかと思うと視界から消える、住之江は目の前にいた麗華の姿を完全に見失った。
ズドムッ
「うげえええええええっ!!」
がら空きの腹部に食い込む麗華の拳、ドサリと前のめりに崩れ落ちる住之江、この所春子に鍛えられているとはいえ、たった2、3ヶ月で埋まるような差ではない、まだまだ麗華の敵では無かった、というより正攻法で麗華に勝つのはまず無理だ。
「安心なさい、峰打ちよ。さて、それでは邪魔者を排除した所でお楽しみの」(拳で峰打ちもへったくれもない)
口から涎を垂らしながら土下座するように倒れている住之江を尻目に、ニヤニヤと麗華が鉄郎の部屋のノブに手をかけた。
邪魔者はもういない。
タンッ
「あげっ!! な、夏子さん……」
気配を消した夏子に首筋に手刀を打たれ意識を断たれる麗華、完全に油断していた。
「まったく油断も隙もあったもんじゃないわね、鉄君の一番搾りは母親である私の役目でしょ、では、いただき……」
ビシッ
「ほげっ!! あ、バ、ババあ……」ドサッ
「夜中に何騒いでんだい、この馬鹿娘ども」
これまた、いつの間にか背後に立って居た春子、左手にはすでに納刀された愛刀来国長が握られていた。
「今度やったら峰打ちじゃすまないよ」
そう言って首を搔き切るジェスチャーをする春子。まぁ、峰打ちでも刀で殴れば普通は骨くらい折れるんですけどね。
その頃、部屋の中の鉄郎はと言えば……。
「う〜ん、黒夢がひんやり冷たくて気持ちいい、暑い国ではちょうどいいね」
「パパ、もっと、もっと強く抱いテ、アアァ」
「こら、変な声出すな、誤解されるでしょ」
毎晩当然のようにベッドに潜り込んでいた黒夢を抱き枕にして寝ていた。黒夢の冷たさは暑い夜にはピッタリだったのだ、鉄郎はロリ属性がないので黒夢が素っ裸なのにはもう慣れたもんである。(慣れるな!)
ピピピピ、ピピピピ、パチン
「ふぁ〜、もう朝か、どれ朝ご飯前にジョキングでもしてくるか」
ガチャ、ゴン!
チャンチャンチャーンと頭に流れる火曜サスペンスの音楽。
「えっ、何これ? 連続殺人事件?」
「パパ、まだ生きてル、殺っとくカ」
翌朝、廊下に出ると、あられもない姿で死体のように倒れる4人を発見して吃驚する鉄郎だった。
これは悲劇と言えるのだろうか、鉄郎は見なかった事に出来ないかなと思うが、放っておいたら後で何言われるかわかったもんじゃないなと、大きくため息をついた。
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