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70.サド2〜冬の日本海、寒ブリが旨いよね

直江津港西埠頭ターミナルで車を止めて待っていてると、大きな船が天辺でクルクルとアンテナを回しながら入港してくる、高速カーフェリー「あかね」だ。

F1のフロントノーズを思わせる左右の水中翼で船体中央は海面から浮いている、まるで宇宙船のようなデザインで思わず「おぉ!」と声が出る。

白と青にカラーリングされた船体の横には佐渡らしくトキのイラストが描かれている、左右のウォータージェットを器用に操作しながらターミナルに横付けされると、船尾で折り畳まれていたタラップがゆっくりと開かれ次々とバスや車が降りて来た、高田に陸上自衛隊の駐屯地があるせいかオーリブドラブのジープなんかも降りて来て一瞬吃驚させられる。

全長90m近い船体はとても大きいが、この前見たナイン・エンタープライズの花琳さんの青龍と比べてしまうと随分と小さく感じてしまう、まぁあの船が巨大すぎるんだろうけど。



「うわ〜、かっこいい!! 今からあれに乗って佐渡に行くんですよね」


「そうですわ。ふふ、こう言うのが好きなんて、やっぱり鉄ちゃんは男の子ですわね、はしゃいじゃって可愛いですわ」



直江津港を9;30に出航すれば昼前には佐渡の端っこにある小木港に着く予定だ、1日に2本しか出航していないためにこの時間を逃すと午後になってしまうので朝早く長野を出発したのだ。

天気も良く快適な船旅、「あかね」の1等客席である“ときクラス”のレザーシートから海を見やる、まさか船長直々に席に案内されるとは思わなかったが、一番前の座席からの眺めははっきり言って気分が良い。

3月の日本海は暗い紺色で少し寒々しいが、そこは海の無い長野育ちの身である、遮るもののない海原を見ると自然とテンションが上がる。


「海は広いなぁ、大きいなぁ〜」である。


佐渡島が大きく見えて来た。


小木港が近づくと船はクルリと旋回を始め、後ろ向きでターミナルに入って行く、まるで車の車庫入れのような動きだ。

小木港の近くでは季節が夏であれば“たらい舟“なんかも楽しめるのだが、この時期だとさすがに寒くて無理がある、そこで僕達は佐渡市に向かって車を走らせることにした、新潟市からの船が着く佐渡の中心地、両津港が目的地だ。


海沿いの道を楽しみながら両津港近くの“かもこ観光センター“で昼食をとる。

入口の浜焼きコーナーに後ろ髪を引かれながら土産物店を通って2階の食堂へ、最近になって知名度が増してきたぶりカツ丼も捨てがたいが、ここはやはり海鮮丼だな、プリプリの甘エビにカニ、ホタテ、ウニ、イクラ、山葵を溶いた醤油を回しかけて豪快に頬張る。


「うまーーっ、甘エビうまっ!! たまらん!!」


「鉄ちゃんは本当に美味しそうに食べますわね、見てるだけで美味しさが伝わってきますわ」


がっついて食べていたのを京香さんに見られて、ちょっと恥ずかしかった。ふと隣を見れば、京香さんの頼んだ“さどいち丼”には甘エビが入っていない、ここは照れ隠しもかねてお裾分けするとしよう。


「京香さん、この甘エビがめっちゃ美味しいんですよ、食べてみてくださいよ」


「あら、よろしいんですの、あ〜ん」アムッ


京香さんがあ〜んと小さく口を開けて来たのでエビの頭を取って口に運ぶ、このエビの甘さは是非京香さんにも味わってもらわねば。


「ん〜〜っ、美味しいですわ、それじゃお返しにこっちのあわびをどうぞ、はい、あ〜んして」

(ここでイカではなくあわびを選ぶ所に京香のエロさが垣間見える、考え過ぎだろうか)


「おおっ、このコリコリとした食感がなんとも、身が締まってて最高です!!」


「あらあら、私のあわびは身が締まってて最高ですの」



あれ?やってからなんだが、今の行為はなんだかカップルみたいだったな。向かいの席に座る藤堂会長がこっちを見て呆然としている、自分のお母さんと仲良くしてるからヤキモチ妬いちゃったのかな。

すみません、お母さん (京香さん)取っちゃたみたいで。


黒夢は食事をしないので、いつもどおり僕の右隣でおとなしく座っていた、食事の時にいつも僕に食べさせようとしてくるのだが、幼女に食べさしてもらう高校生と言うのはどうにも格好悪いので辞退さしてもらった。

会長の隣で海鮮丼を食べていた李姉ちゃんは、運転の為お酒が飲めないからか随分と機嫌が悪そうだ。

                   

                  



この時の京香の心情は……

きゃーーっ、佐渡最高ですわ!! 年甲斐もなくときめいてしまいましたわ、なんで鉄ちゃんたらこんなに無防備なのかしら、天然の女たらしですわ。それにしてもリカも我が子ながら甘々ね、このシチュエーションで鉄ちゃんと同じメニューを頼むなんて、それじゃあ食べさし合いっこ出来ないじゃないですの、少しは考えなさいな。




ついでにリカの心情は……

バキリッ

思わず手にしていた箸を折る、なな、なんですのこの光景は、なんですの、あ〜んって。あまりに信じられない光景に声もでませんわ、まさか自分の親に本気の殺意を抱くとは、完全犯罪ってどうやればいいのかしら?






「さ〜てと、鉄ちゃん、今日は早めに宿に行ってゆっくりしましょうか、屋上に展望露天風呂が有って、そこからの夕日がとても綺麗らしいですわ」


「なっ、お泊まり!! お母様、今日って日帰りじゃありませんの?」


「何言ってるのかしらリカは、日帰りなんて慌ただしくて全然ゆっくり出来ないじゃありませんの、今日は温泉で疲れを取って明日は金山に行く予定ですわ」


「な、何考えてますの!! 私が今日来なかったら鉄郎さんと2人でお泊まり旅行するつもりでしたの!!」


「何か問題でも、麗華さんも着いてくるのは予想できましたし、全然2人じゃありませんわ」


「くっ、お母様、……恐ろしい人ですわ」




「まさかお母様に出し抜かれるなんて、いや、でもあんな年増女に負ける訳には……私ももっと積極的に……」


藤堂会長が後ろで独り言をブツブツ言っていてちょっと怖い。内緒で旅行に来たのを怒っているのだろうか?


食事を終えた僕達は少し早めに宿に入る事にした、京香さんの話だと加茂湖に面した旅館で100年以上続く老舗らしい、露天風呂もあるらしいので凄く楽しみだ。






「予約していた藤堂ですけど、追加で3名よろしいかしら」


「ようこそ藤堂様、大丈夫ですよこの時期はまだ空きが…………って、えっ!!」


「どうも〜、今日はお世話になります」


ヒョイと京香さんの後ろから顔をだすと受付けのお姉さんが固まる。


「えっ、男性客!! しょ、少々お待ちを、お、女将さ〜ん!! 女将さ〜ん!! 男ぉ、男の子がぁ〜〜〜っ」


すぐに女将さんが飛んで来て最上階の特別室に案内された、えっ、お高いんじゃないのその部屋。




この日、鉄郎達の泊まった旅館では蜂の巣を突いたような騒ぎとなった、京香は自分の名前で予約を入れていたので、男性である鉄郎の存在を知らされていなかったのだ。めったにない男性客に失礼があっては成らないと従業員全員で緊急会議が開かれた程である。


「じゃあ、鉄ちゃんと私はこっちの部屋で、貴女達はそっちの部屋ね」


「えっ、僕、京香さんと同じ部屋なの?」


「ちょーーっとお待ちなさいな!! そんなこと許せませんわ! お母様と鉄郎さんが同衾なんて絶対に駄目ですわぁ!!」


「それを言うなら同室ですわ、でも私は同衾でもかまいませんけど、ねぇ、鉄ちゃん」


「なっ、ちょっと京香さん、それって…」


「あら〜、鉄ちゃんはこんなおばさんじゃ嫌?」


「ななな、何を言ってますのセクハラですわぁ、お母様!! て、鉄郎さんも何、顔を赤くしてらっしゃるの」


「いやいやいや、僕はなにも!!」


「じゃ、ここは鉄君のお姉さんである私が同室ってことで……」


「麗華さんも当然こっちの部屋ですわ!!」


結局、消去法で黒夢が僕と一緒の部屋となった。まぁ、当然の結果だよね。京香さんや李姉ちゃんと一緒の部屋なんてドキドキしちゃって絶対寝られんわ。それに婚約者がいる身で、そんな同衾なんて……。(鉄郎の中では旅行まではOKらしいが、お泊まり旅行とばれたら住之江的にはギルティだろう)


「パパと同衾……ヨシッ!!」

(黒夢はもういつもの事なので慣れたものである)





その頃調理場では、料理長 長尾まさみ (35歳男性経験無し)の怒声が板場に響く。


「河原田さんとこの生け簀からありったけの魚仕入れてきな!! 急げ!! 後、舟盛りの準備だ!!」

「「「はいっ!!」」」


前回、4年前に泊まったおっさんにはいきなりステーキを注文され苦い思いをしたが、今回の美少年はわかっている、先程好き嫌いの確認に行った所「冬の日本海、海の幸以外ありえないですよ〜、とても楽しみにしてますね」などと極上の笑顔を向けられた、この期待に応えられないようでは女がすたるってものだ。


「ふふ、久しぶりに腕が鳴るわ。あの子には最高の料理を出してみせる」


冴え渡る料理長の包丁、今までにない活気に溢れる板場。

結果、夕食は随分と豪華なものになった、当然鉄郎はニッコニコで感謝の言葉を述べた、挨拶に行った料理長はあまりの嬉しさに涙を流したのだった。






パシャン


「ふい〜〜、夕食の寒ブリ美味しかったな〜、あの脂の乗りはこの時期じゃないと味わえないよね」


夕食の後、屋上にある露天風呂に身体を沈める、この開放感最高だ。満天の星空、夕闇の日本海の波の音、遠くで漁船の明かりが小さく光っている。木製の浴槽に照明のオレンジ色が反射して輝き、白い湯気が空に溶けるように消えて行く。


「う〜〜ん、露天風呂気持ちいい、最高!!」


「あら、鉄ちゃん」


「えっ!」


突然聞こえた後ろからの声に、ぎぎぎと振り向けばそこにはタオル1枚を巻いただけの姿で京香さんが立っていた。










同時刻、女湯ではリカと黒夢が対峙していた、黒髪幼女と金髪女子高生の間に緊張が走る。ジリジリと詰め寄る黒夢、一歩後ろに下がるリカ。

黒夢の手がワキワキと蠢めく。


「カカカ、遠慮スルナ、この前怖がらせたオワビのキモチダ」


「お、お気になさらず、え、遠慮いたしますわ」


「黒夢が隅々マデ、ピカピカに洗ってヤル、アリガタク思エ」


「ヒエッ!」


「ナニ、お星様デモ数えてる間に終わるカラ……」タンッ!


黒夢がリカの視界から消える、次の瞬間にはリカの背後に突然その姿を表す。黒夢のスピードの前には一介の高校生であるリカになす術はなかった。


ガシッ


「ツ〜カ〜マ〜エ〜タ〜」


背後から羽交い締めされるリカ、小泣きじじいよろしく背中に張り付く黒夢、身体に巻いていたタオルがヒラリと床に落ち、ハーフらしい見事なプロポーションがあらわになる、必死に振りほどこうとするがびくともしない、パワーの差は歴然だった。


「いやぁあああああーーーっ、汚されるぅーーーー!!」


「人聞きがワルイ、イイデハナイカ、黙って洗われテロ」


「ひっ、らめぇぇええええええ、あっ、ちょっとそんな所ぉ、いやぁーーーっ!!」


ボディソープでヌルヌルとした手でリカの身体を揉みしだく、言葉通り隅々まで洗われる事になるリカ。黒夢はと言えば、チャンスとばかりにリカの身体のデータを取り始める始末、初めて触れる生の女体に興味津々である、次のボディ制作の参考にするのだろう。あくまでも優しく指を這わせて行くのだが、リカにとってはもう怖いやら、気持ちいいやら、恥ずかしいやら、乙女のピンチである。


「ホウ、ここはコンナ形をシテルノカ、ネットの資料とチガウナ」


「ひぃいいい、そこはらめぇぇーーーーっ!!」


広い浴室にリカの悲鳴が空しく反響した。合掌


お読みいただきありがとうございます。次話は15日予定です。

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