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67.お誕生日1

大阪から帰ってきた翌朝、鉄郎は寒さで目を覚ました。


「寒っ!! まだ朝は冷えるなぁ、昨日は暖かい所にいたから余計に、ん?」


布団の中に何か? ハッ!!……多分そうだろうなと思いつつ布団をめくる。


「やっぱり……」


昨晩は婆ちゃんの所で寝たはずの黒夢が僕のお腹のあたりに抱きついていた、すっ裸で。

長い黒髪が布団の上でサラサラと波打ち、対称的な白い肌が惜しげも無く晒されている、その姿はまるで妖精が羽を休めているようだった。

だがその幼女の魅力は鉄郎には届くことはなかった、しかも2度目なので驚く事無く冷静に状況を分析する。


「なぜ、裸? 僕が小さくなった時買ったパジャマはどうした、と言うか寒さの原因はこれか」


貴子の研究所のように空調がしっかりした場所では気にならなかったが、スリープ状態の黒夢はまるで死体のように冷たかった、そんなものが腹に抱きついていれば体温を奪われること請け合いである。


「ほら、黒夢起きろ、抱きつかれてたら動けないぞ」


「ン、パパ、おはよう、目覚ましにセットした時間にはまだ36分早いゾ」


一声かけるとパチリと目を開く黒夢、スリープから再起動がかかって通常モードに移行する、ちょっと眠そうな目は元々か。


「寒くて起きちゃったんだよ、にしても黒夢、昨日渡したパジャマはどうした、なんで裸なの?」


「ソレガ黒夢の中の決まりダカラ」


「なに、その決まり。大体婆ちゃんの所で寝てたんじゃないの」


「コワイユメヲミタカラ、コワクテ…」


「嘘おっしゃい!」


貴子ちゃんのように目を泳がせながら言い訳しようとする黒夢、ガシガシと強めに頭を撫でると「アウ〜」と情けない声を出した。それにしても黒夢って睡眠が必要なのか? ああ、節電ね。



早くに目が覚めたのでまだ薄暗い中、鉄郎は素早くジャージに着替えた、二度寝するには中途半端な時間だったのだ。それに合わせて黒夢もベッドの上でもぞもぞと黒のパンツを脚に通した。幼女にはまだ早いと思われる黒のレースだった、くまさんパンツでも履いとけと思いながら鉄郎が声をかける。


「黒夢、せっかく早く起きたんだ、ジョキングに付き合ってよ」


「イイヨ、早起きは三文のトク」


「婆ちゃんみたいな事言うね」




ハッハッハッハッハッ


タッタッタと朝靄が残る堤防道路に2人分の足音と一人分の呼吸音が響く、いつもは麗華と走っている千曲川沿いのサイクリングロードだが今日横にいるのは小さな幼女だ、それなりのペースで走っているがそのフォームはとても洗練された綺麗なものであった。途中いつもロードバイクを走らせているお姉さんとすれ違ったが、黒夢の格好がジョキングするには似つかわしくない黒のゴスロリ姿だったので二度見された、朝からこんな格好の幼女が走ってたら吃驚もする、しまむらでジャージでも買ってあげよう。


「冬の朝は空気が澄んでて気持ちがいいね、今日は古戦場まで行ってみるか」


「古戦場?」


「うん、川中島古戦場跡公園、昔僕と同じ名字の武田さんと上杉さんが闘った場所だよ」


「パパのご先祖?」


「いや、どうだろ、婆ちゃんは信玄公ゆかりの刀を使ってるけど、まさかね」



信玄、謙信一騎打ちの銅像を横目に隣の八幡社で2人共手を合わせる、朝のお参りに来てたお婆ちゃんにみかんを貰ったので駐車場横の広場で一休みしながら食べた。走ってきた後にはこの水分補給はありがたい。


「さて、黒夢。一手お相手願えますか」


「エッ、こんな朝からお外デ、パパ、ダイタン」


「組手だからね!!」


「クンズほぐれズ、手トリ、腰トリお相手スル」


まったくこの子はどこでそんな会話を覚えてくるのか、ネット社会の闇を感じる、ちょっと頭痛くなってきた。





これでも僕は李姉ちゃんに小さい頃から拳法を習っている身だ、李姉ちゃんと黒夢、二人の格闘を見てなにも感じないような鈍感ではなかった。今の自分がどの位置にいるのか確かめたい思いもある、第一に女の人に守ってもらうだけの男にはなりたくない。

黒夢を前にゆっくりと腰を落とし構えをとる。


「行くよ、黒夢」


「イイヨ、でも初めてだから優しくシテ」


……もう何も言うまい、一々突っ込むのも疲れる。いい感じに力が抜けた僕は、黒夢に向かって勢い良く拳を打ち出した。

朝露に濡れるのにもかまわず公園の芝の上に寝転んでいると、はあ、はあと吐く息が機関車のように白く流れて行くのが視界に入る。幼女相手に手も足もでず転がされている高校生男子がいました、僕でした。


「はぁ、李姉ちゃんが……はぁ、普段どれだけ……手加減してくれてるかが……わかったよ」


乱れる呼吸で言葉を絞り出せば、黒夢が不思議そうに上から覗き込んでくる。


「黒夢相手に互角に闘えることの凄さがわかったって事さ」


「イマの黒夢なら乳オバゲ1号ナド瞬殺スル」


はは、と乾いた笑いしか出ない、スピードが違うという事は棲む世界が違うのだ、同じ土俵にも立てず僕の打つ拳は黒夢に掠りもしない、それどころか怪我をしないようにそっと投げ飛ばされまくる、流石に20回以上そんな事を繰り返されると、なけなしのプライドも粉々だ。


「はぁ、黒夢から見て僕の何が悪いかわかる?」


「ン、パパの動きは悪くないヨ、黒夢が強いダケ。しいて言うならスピードが足りナイ」


そう言うと黒夢は水たまりでも飛び超えるような気軽さでトンッとジャンプした、垂直に10mは飛び上がったのではないか、頂点に達すると今度はふわりと開いたスカートを落下傘代りにスーッと静かに降り立つ、パンツ丸見えな事などお構いなしだった。


「コレくらい、ジャンプ出来れば問題ナイ」


ポカ〜ンと間抜けな顔を晒す、ド◯ゴンボールじゃあるまいし、そんな事人間が出来るかぁ!! 今後、黒夢にアドバイスを求める事はするまいと心に誓った。くそ〜、せめて触れるくらいにはなってやる〜っ。今日から手足に重りを付けることにするか、亀の甲羅は無いしな。







家に戻って黒夢と玄関掃除をしていると、黒夢の目が突然光る、時々光るんだけどちょっと吃驚するから止めて欲しい。


「パパ、侵入者」


「侵入者?」


黒夢が指差す方を見れば、誰かが門をくぐるのが見える、ああ。


「平山先輩、おはようございます!」


「鉄郎君!! おはようございます!!」


新聞配達の平山先輩がニコニコと元気よく挨拶してくる、この所色々あったので久しぶりな気がする。あいかわらず生足だけど寒くないのかな。


「パパ、何者?」


「僕の高校で副会長さんをやっている平山智加先輩だよ、いつも新聞を届けてくれるんだ」


「おりょ、鉄郎君、その子は?」


「黒夢はパパの娘、コンゴトモヨロシク」


「へっ、パパ? 娘?」


黒夢の自己紹介に目を見開く平山先輩、まぁ無理もない、いきなり娘と言われても混乱するだろう。


「訳有って、家で預かることになった子なんだ」


「ああ、親戚の子、だからなんとなく鉄郎君に似てるんだ、でもどことなく誰かにも似てるような? 誰だっけ」


「フフン、黒夢はパパ似、オマエ、良い所に気が付いたナ、見所がアル」


得意気に胸を張る黒夢を、生暖かい笑顔で見つめる平山先輩、お兄ちゃん大好きっ子なんだねと完全に子供扱いである。


「でも、いきなり娘なんて言うから吃驚しちゃったよ、まさかだけど鉄郎君の子供かと思っちゃった」


「はは、やだな〜、僕16になったばかりですよ、歳が合わないじゃないですか」


「ははは、そうだよね〜、鉄郎君まだ15歳だもんね、ん、あれ16歳?」


「今日から16歳になりました」


「え、鉄郎君、今日お誕生日なの? ええぇ〜っ!! 嘘、なんでいきなりそう言う重大な事公表するのぉ、私プレゼントとか用意してないよー!!」


「あ、そうか、そう言えば内緒にしてたんだ、忘れてた」


「パパの誕生日、内緒ナノ?」


「学校ではね、ほら、僕学校で一人だけの男子だから皆に気使わせちゃうでしょ、それに春休みだしね」


「うぅ〜〜、知ってたら学校行事にして盛大なお祝い会開くのに〜〜」


「そうなるから言ってないんですけどね、だから平山先輩、この事は2人だけの秘密ってことでお願いします」


僕は先輩のちょっと冷たくなってる手をぎゅっと握ってお願いする、特に藤堂会長に知られたら本当に学校行事にしかねないので、ちゃんと頼んでおかないと。


「う、うん、私と鉄郎君、2人だけの秘密……私お墓に入るまでこの秘密守るね」


「いや、そこまでの事じゃないんですけどね」


どこかポォ〜っとした先輩がフラフラとした足取りで帰って行く、あっ先輩、まだ新聞貰ってないですよ。


結局、お昼頃にまた訪れた平山先輩に、プレゼントとして僕が小さくなった時に撮りまくった写真をアルバムにして頂いた。これ、婆ちゃんにあげたら喜びそうだな。(尚オークションにかけたら結構なお値段になると思われる)



さて、誕生日だし、お母さん帰ってくるかな? まだ仙台かな、笹かま頼んだら買って来てくれるかな。

お読みいただきありがとうございます。感想絶賛受付中!!

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