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64.男性特区大阪

トントントンと2階から階段を降りてくる音が聞こえる。


「なんや朝からうるさいなぁ、お姉が帰ってきたんか。ふぁ〜、今日は遅番やからもうちょい寝てた……………………………いっ!!!!」


「わっ!」


「こらっ!真波まなみ、鉄ちゃんがおるのになんちゅうけったいな格好で出てくるんや!」


階段を降りて来たのは真波さん?、金髪に染めた長い髪に日に焼けた褐色の肌、真澄先生に良く似た顔立ちのお姉さんが、派手なショッキングピンクの下着姿で僕と目を合わせたまま固まっていた。真澄先生のお母さんが怒鳴り、先生が咄嗟に僕の目を手で覆った。むぅ〜見えない。


「真波、うちの鉄君にばっちいもん見せるなや!」


「大丈夫だよ先生、こう言うの僕のお母さんで慣れてるから」


「いや、夏子さん、あれでプロポーションええからな、それと比べると」


「なっ、ばっちくないわ! そ、それより、その男の子、お姉ぇまさか攫ってきたんか!」


「ええかげんしばくどワレ! 昨日散々説明したやろ、うちの大事な大事な鉄君や!」


「う、うそやろ……。あれってお姉の妄想と違ったんか、あまりにも良く出来た話やからウソっぽい思っとたんやけど」


「真澄先生、僕の事なんて説明したの?」


目隠しされたまま首を傾げる。







改めて真波さんが着替えて居間に戻って来る、ちょっとスカート短過ぎませんか中身見えちゃってますよ、でもやっぱりヒョウ柄なんですね、親子だなぁ。

それにしても…


「本当に美人姉妹ですね」ニコッ


「「「なっ!」」」


「なにおかんも驚いてんねん。おかんは美人の勘定に入ってへんぞ」


親子3人仲良く驚きながらも頬を染める、真澄先生の妹さんがニコニコ顔で元気よく手を上げた。


「はいっ、はーい! 鉄ちゃん、まだ妻の枠残ってる? どうやろお姉さん名乗り上げてもええかな、お姉より若くてピチピチやで」


「はは、僕まだ15歳なんで結婚の話はまだ早いですよ」


「お姉……。15歳って完璧に淫行罪やでアウトや、結婚出来るん18からや」


「ま、まだ何もしとらんわ!!」


「……先生、僕にキスした。 初めてだったのに…」


ぼそっと呟くと黒夢以外の全員が絶対零度の冷たい視線を真澄先生に向ける、冷や汗をかきながら目がグルグルと泳ぎまくる先生、ちょっと可愛い。


「あ、あれは、バレンタインでその……あの、つい」


「僕の事は遊びだったのね、ヨヨヨ」




わざとらしい泣きまねを見せる鉄郎、この辺からちょっと悪ふざけが入り始める、流石に自分のような高校生に、大人の住之江が本気なわけがないと思っていたのもあった。自分の立場と世の中をわかっていない発言だった、武田家で男一人で育ったため世間の男性の扱いをよく知らなかったのも原因だろう、それに黙っていられなかったのは住之江だ、ワナワナと拳を握る。




「そんな事あらへん!! うちは本気や! 遊びなんかやない、鉄君を本気で愛しとる!!」




「ま、真澄先生……」


呆然としていると涙目の真澄先生にぎゅっと手を握られる、その表情は怒ってるようでもあり、悲しんでるようにも見えた。決して冗談では済まされない真剣な告白、その瞳にいつものような照れ隠しの嘘は無い、僕はこの時初めて教師ではなく、異性として真澄先生を意識したのかもしれない。心臓がドクドクと煩く鳴り始めて顔が熱い。


「で、でも、僕まだ高校生で稼ぎもないし、先生を養うような甲斐性もまだないよ」


「へっ、鉄君何言うとんの? うちも働いとるし国から男性特別手当出てるやろ、それに今の男共は働かん奴ばっかりやで」


「えっ? じゃあ、皆んな働かないのにご飯食べれてるの?」


そこで呆れ顔の李姉ちゃんがお茶をすすりながら会話に入ってくる。なんで呆れ顔なのさ。


「あ〜、鉄君は春さんの方針でお小遣い制だから月1万も貰ってないのよ、武田家は働かざる者食うべからずって奴だから。昔、夏子さんが鉄君を凄い甘やかそうとして春さん怒っちゃったのよ、「そんなんじゃ碌な人間にならーーんっ!」てね、だから炊事洗濯なんでもやらせてるわ、私も拳法教えてるしね」


「そらまた特殊な教育方針やね、今時そんな事したら男性保護団体が黙ってへんよ」


「まぁ、春さんも夏子さんもそれなりに権力ちから持ってるからね」


その時、真澄先生のお母さんが突然ポロポロと涙をこぼし始めた。


「うぅ〜、ええ話や、こんな男性様様の時代にそない苦労してる子がおるんやね、お母ちゃん感動やわ、ヨヨヨ」


「いや〜、婆ちゃんは厳しいけど、そんなに苦労はしてる実感はないですよ、お母さん」


ガバァ


「真澄ぃ!! あんた絶対鉄君を幸せにせなあかんよ、この奇跡を逃したら一生後悔するで、あんたみたいな乳がでかいだけの女がこんなええ子と出会えるチャンスなんぞ、お天道様が西から昇るくらいありえんことなんやからね」


「お、おう、わかっとるわ、まかせとき。 でもちょっと言い方酷ない、ほら、鉄君うちのこと美人さん言うてるやん」


「ちょ、お姉もおかんも盛り上がってるとこ悪いんやけど、うちも仲間に入れてえな、ほらうちも美人さんやし」


「「真波あんたは引っ込んどれ!!」」


「そんな〜せっしょうなぁ」





「あっ、でも真澄先生と正式にお付き合いするとなると、婆ちゃんや尼崎さんに報告しないといけないんだけど」


「ん、尼崎さんて?」


「日本の総理大臣やってる人」


「「「はぁ〜?」」」





「乳オバケ1号は随分と余裕だナ」


「ああ、真澄の奴が鉄君にキスした事は知ってたしね、それに妻を名乗れるのは今の法律だと3人まで、私と真澄は当選確実だから焦ることないわ」


「フーン、乳オバケ1号はもうパパにプロポーズしてるノカ」


「ま、まだよ、だって私は鉄君にとって憧れのお姉さんよ、鉄君に一番近い女性で同棲だってしてるんだし、無問題モーマンタイよ、ホホホ」


「ホ〜ン、それが負けフラグってヤツカ、ヘタレ」


「黒ちゃん嫌な知識あるのね、不安になるからやめて」



「一応、ママにもメール入れとくカ」


黒夢の目がチカリと点滅するように光った。










大阪男性特区内、南大阪第2総合病院808号室。


「やだ〜、もう松井さんたら、看護師全員にそんな事言ってるんでしょ〜」


「やだな〜、私が綺麗だって言うのは君だけだよ」


「もう、本当お上手、ほら身体拭き拭きしますからね〜、あら、なんでここだけは元気なんですかぁ」


ガラッ



「邪魔するよ」


「キャッ!」


「は、春子お義母さん!!」


「ふん、あんたにお義母さんなんて呼ばれる筋合いはないよ。それにしても相変わらずお盛んのようだね」


慌てて出て行く看護師を横目に、春子は近くにあった椅子を手繰り寄せるとドカッと腰を降ろした。

病室のベッドに横たわるこの男、名を松井繁と言い、一時は武田繁と名乗ったこともある人物だ。要は夏子の元夫、鉄郎の父である。


14年前にALS(筋萎縮性側索硬化症)と言う難病を発症して以来、ここ大阪特区の病院に入院している。この男、とにかく昔から女性にモテる男だった、その顔立ちはとにかく渋いの一言、バーのマスターがお似合いの口ひげに、少し垂れた優し気な黒い瞳、低いバリトンボイス。男性が激減した世の中でなくても女に困ることはないであろう人物だった、女癖がとても悪くその所為で夏子との結婚生活はわずか2年で破局を向かえている。


「春子さん、夏子は相変わらず元気にしてますか」


「ああ、おかげさまで怖いくらい元気一杯だよ」


「ヒエッ、あ、相変わらず刀振り回してるんですか」


「ああ」


「…………、そ、それより今日は急にどうしんですか」


「なに、近くまで来たからね、まだ死んでないか見に来ただけだよ」


「はは、病人に向かって手厳しいな、そういえば私の息子、え〜っと鉄、鉄」


「鉄郎だよ、いくら子供が大勢いるからって唯一の息子の名前くらい覚えておきな、あの子はあんたと違って真っすぐ育ってるよ」


この男の子供は19名ほどいるのだ(まあ、人工授精も合わせるともっといるが)、その内18名は女の子である、鉄郎は唯一の男の子であった。産めよ増やせよのご時世だ、新政府にとってもこの男の価値と需要はそれなりのものだった、それに病院のベッドに寝たきりになっても女性を口説こうとする根性だけは認めねばならないだろう。


「私の息子なら、さぞ女性にもてるでしょうね」


ギロリ、春子の殺気を込めた視線が繁に向かう。


「ヒッ」


「あんなに可愛い子がモテないわけないだろう、全くそこだけはあんたに似てるよ」


「はは、それは良かった」


「ふん、じゃあ顔も見た事だし、私はおいとまするよ。葬式出す時は呼んどくれ香典くらい出すよ」


「確かに、お義母さんの方が長生きしそうですね」


「今度は夏子も連れてこようか」


「ちょ、そ、それだけはご勘弁を、老い先短い病人を虐めないでくださいよ」


「じゃあね、全くなんであんたみたいな男から、あんないい息子が産まれるのか未だに理解できないよ」


「はは、お義母さんもお達者で〜」






病院を後にした春子は、受付で返却されたスマホに電源を入れる、表示した画面を一瞥する。


「ちっ、一つも当たっちゃいない。嫌になる日だね、全く」


ジャケットのポケットから舟券を取り出すと、クシャリと丸めて近くにあったゴミ箱に放り込んだ。


冷たい風が吹いていた。

お読みいただきありがとうございます。感想絶賛受付中!!

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