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58.佐々木小次郎?いいえ、石舟斎です

バンッ、バンッ、ババンッと船底が波を叩く音が続く、海上を約60ノットと言う常識外れなスピートで走る巨大客船青龍。船体後部の両脇に飛び出たウイングの先に15,000馬力を誇る巨大なモーターが唸りを上げて回転している。貴子いわく「マブチモーターの大きい奴みたいなもんだ」と言い張るが、その例えがわかる者は少ない。(昔吸盤で玩具に貼付ける水中モーターがあったのです)

ジェットフォイルと同じように船全体が海面上に浮き上がっているため、波の影響が受けづらく、本来30ノット程度であれば快適な海の旅を楽しめる筈だった。だがそこは貴子クオリティである、全長300mの巨大船を巡航速度の倍の60ノットと言う、馬鹿げた速度で航行させる、かろうじて自動姿勢制御装置(ACS)が効いてるため転覆は免れているが、その揺れはかなり激しい。


「ウプッ、ちょ、ぶり返してきた」


「ラクシュ、吐くんならトイレに行きなさい、今甲板に出たら振り落とされるわよ」


激しく揺れるラウンジでグラス片手に、車酔いの後に船酔いのダブルパンチのラクシュミーに声をかける夏子。


「全く、乗り心地の悪い船だね、まるで競艇のボートみたいだ、おちおち酒も飲めやしない」


「ふふ、普段は快適な船なんですけれど、今はちょっと……」


悪態を突きながらも平然とグラスをあおる春子に、マネージャーの花琳も苦笑いだ。


「安心しろ、夜明け前には捕捉する、それまでは我慢しろ」


「ねえ、貴子、これどこに向かってるのよ、九州?」


ソファーの上にちょこんと座り、タブレットを操作する貴子に夏子が質問をする。鉄郎が消息を断った小笠原方面に向かうのかと思っていたが、先程西に転進したのが気になったのだ。


「ん、幾つか偽データが流されているんだが、最初の四国沖で捉えたマーカーが本命と判断した」


「ふ〜ん、その根拠は」


「真っ先に日本の海軍を潰しにかかっている、これは近くで追っ手を出されるのを嫌ったんだろう、横須賀、呉、佐世保は壊滅状態だ。たぶんその近くにいるマーカーが怪しい、他のデコイデータは真っすぐに日本の領域を離れているのに、このデータだけ一度四国の辺りで止まっている」


「でも、あっちも動いてるんでしょ、追いつけるの」


「ふん、グリーンノアはデカいからな、大部分をパージ(切り離す)すればこの船と同等の速度を出せるが、今はせいぜい30ノットがいいところだろう、ふふふふふ、絶対に捉える!」


「ふ〜ん、じゃあそこは任せるわ」


貴子がタブレットを睨みながら口元をニヤリと弧にするのを横目に、夏子は春子に話しかける。


「そうだ、ババア。刀貸してよ、急いでたから正宗、車に置いてきちゃった」


「あぁん、私だって刀はこれ1本しか持ってきてないよ、警棒でなんとかしな」


「えぇ〜、これじゃ厳しくない、麗華が負けるほどの相手なんでしょ」


カシュンと白衣の懐から出した伸縮警棒を手に、ラウンジの床に正座させている麗華に目線を向ける。


「……面目ございません」


今回の失態で反省状態の麗華が力なくうなだれる、そこに花琳が割り込んで来る。


「何、本当にあの美髪公が手も脚も出ない強さなんですの、流石は貴子さんの最高傑作ですわね、早く見てみたいわぁ♪」


「うぐっ、まだ1勝1敗1分だもん」


「ふん、私の夫を攫うような娘は、もう駄作で充分だ、捕まえたら真面目に便所掃除係にしてやる。マネージャー、夏子お母様に刀を貸してやれ」


「貴子にお母様って呼ばれると、鳥肌立つんですけど…」


「日本刀がよろしいんですわよね、今この船に有るのだと大典田光世かニッカリ青江、後は…」


「ぶっ!」


花琳が口にした名刀の名に驚いた春子が、口にしてたボウモア18年を吹き出す、ちょっともったいない。おしげもなく国宝級を貸し出そうとする花琳に、春子が待ったをかけようとするが、いち早く夏子が口を挟む。


「あの壁に掛かってる奴は?」


「あぁ、あれですか、でもあれ、四尺以上あるし刀身厚いから凄っごい重いですわよ、私の護衛でも使いこなせる者はいませんわ」


「ババア、それって…」


大太刀永則おおたちながのり、尾張柳生の…本物は初めて見たよ」


夏子はツカツカと壁に歩み寄ると、ぐっと刀を掴む。145cmの刃長と4cm以上の身幅、日本刀としては破格の太刀、普通の刀の倍はあろうかと言う長さと重さ。夏子は左手に取った刀の重さを計るように腰に構えると、チンッと澄んだ音を立てて無造作に鯉口を切った、次の瞬間腰を回しながら一気にその長いやいばを引き抜いた。


ピウッ


空気を切り裂く音を鳴らして、ピタリと中段で止められる剣先。片手で、しかもあの長さの刃を、腰の捻り一つで引き抜く神業、確かこの女、本業は医者だった気がするのだが。

チンッと刀を鞘に収めると、夏子がニタァと悪魔のような笑みを浮かべ、クルッと花琳に振り返る。


「花琳ちゃ〜ん、これ貸してぇ〜、お願〜い」


「え、ええ、使えるんでしたらかまいませんけど、花琳ちゃんはやめてくださる」


「貴子! これでいつでも戦闘準備OKよ!!」


「うわ〜、夏子お母様、怖ぁ。鬼に金棒って奴」


「いやね、綺麗なバラには刺があるって言いなさいよ、ふふふ」


ラウンジに居た全員が「うわっ、こいつ自分で綺麗なバラって言いやがった」と白い目で夏子を見つめた。まあ、本当に綺麗だからいいんですけどね。









「黒夢! 自分がやったこと本当にわかってる! 一歩間違えたら死んじゃう人がいたかも知れないんだよ」


正座する幼女を前に真面目に説教する高校生男子がいた、僕だった。

黒夢に僕が寝てる間にやった事を白状させた、話を聞いているうちにどんどん血の気が引いていった事は記憶に新しい、電波妨害ジャミングやハッキング、あげくのはてには自衛隊へのレーザー攻撃って、なに世界に喧嘩売っちゃてるんだこの子は。この無邪気な過激さは本当に貴子ちゃんゆずりだな。


「黒夢の照準設定ハ完璧、誤差は1cmもナイ、人には当ててナイ」


「そう言う問題じゃなーーーい」


「まあまあ、鉄君そない怒らんといてあげて、この子も悪気があってやったわけやないんやし」


「けど先生、皆んなに迷惑かけたんだよ」


「大丈夫、今は春休みやし、たいして困るもんはおらへんよ」


「いや、それ通じるの学校関係だけだよね」


さっきから僕の腕に抱きつきながら妙に黒夢を擁護する真澄先生、なぜにそんなに密着なさってるんですか、とてもいい匂いがするのでやめて下さい。後、大きな胸が当たってるんですが。


「とにかく、その、なんだっけ、ジャミなんとかってのをやめて電話掛けられるようにして、婆ちゃんと話するから」


「あ〜、ジャミゆうたらなんかいな、あのウルトラマンに出て来る」


「そらあんた、ジャミラやがな! ハッ、思わずツッコンでしまった」


恐るべき関西パワー、この状況でボケを入れてくるとは。もしかして、和まそうとしてくれたのか?


「パパ、なんか楽しソウ」



ギュイッ、ギュイッ、ギュイギューーーイッ!!



その時、けたたましくスピーカーから変なアラート音が鳴り響いて吃驚する、何事!!


「チッ、もう来たカ、早かったなママ」


「えっ、貴子ちゃん?」


黒夢の目が青く光ったと思うと、壁に掛かっていたテレビに映像が映し出される。かなり望遠だが、画面には一隻のモーターボートが水しぶきを上げて近づいてきてるのが分かる、スームアップして行くと大分形がはっきりしてきた。


「ボートじゃない、えっ、大きい客船? なにあれ!」


「ナインエンタープライズ、極東マネージャーノ専用船、青龍。このグリーンノアの姉妹船だヨ」


「鉄君、鉄君、あの舳先に立って腕組んどるの、ちびっ子やないの」


よく見れば船の先端には、トーレードマークの白衣をバタバタとなびかせた貴子ちゃんが仁王立ちしていた。






「わーーーはっはっはーっ、ついに捉えたぞ黒夢ぇ! お仕置きタイムだ」

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