57.空と海の間には
「ふむ〜〜〜っ、む〜っ、ふぐぅ〜、むぐ〜」
「へっ?」
4台のルンバ改に担がれるように入ってきたのは………
「ま、真澄先生!!」
「プレゼントフォー・ユーだヨ、パパ」
な、なんで真澄先生がここに? 猿ぐつわをされてロープでぐるぐる巻きの状態、そ、それにしてもホットパンツから伸びる白く長い生足、ロープでさらに強調される大きな胸、潤んだ瞳、な、なんか今日の先生エロ。…ってそんなこと思ってる場合じゃない!慌てて真澄先生に駆け寄って、猿ぐつわとロープを外す。
「て、鉄くぅ〜〜ん!! うわ〜ん」
ロープを外すと涙目の真澄先生が抱きついて来る、ふにょんと大きな塊を押し付けられてドキドキ、しかも甘い香りがする。
「先生、大丈夫。痛いとことか無い?」
先生の頭をよしよしと、あやすように撫でながら、キッと黒夢を睨む。
「黒夢、これは一体! なんで真澄先生がここに」
「ゲットした」
「ボケモンか! いや、そう言う事じゃなくてね」
「説明スル」
「うん、お願い」
「黒夢は赤ちゃんが産めなイ、だから弟か妹が必要、ソレを使って家族を増やす、代理ハハ?」
「「はぁ!?」」
黒夢の話はこうだ、これからの生活で、ずっと僕と黒夢の二人だけでは流石に寂しかろうと思ったらしい、そこで家族を増やすと言う結論に行き着いた、当然だが黒夢にそんな繁殖機能はない。そこで代理出産?と言う訳だ、ならば僕の知っている人物の方が、精神的に楽だろうとデータベースを攫った所、海路からアクセスの良かった大阪に、真澄先生が偶然居たので連れて来たと言う。(まあ、長野は海無し県だから海から遠いしね)もう滅茶苦茶だ。
一体何年ここにいるつもりなのかとか、それって代理出産と言わないんじゃとか、「えっ、先生とそう言う事しちゃうの」とかツッコミ所満載だが、黒夢はさも当然と言わんばかりに無い胸を張った。
「パパの子なら、黒夢も可愛がル、弟でも妹でもイイ、ソノ女も健康体で問題ナイ」
「え、え、え、うちと鉄君で赤ちゃんって、えぇ〜っ! うひゃ〜、そんなまだ心の準備が」
先生が顔を真っ赤にしてわたわたと慌て出す。
「ちょ、先生落ち着いて、ねっ」
「気に要らなかったラ、チェンジも可能」
「て、鉄くぅ〜〜ん!!」
黒夢の言葉に真澄先生が僕に抱きついてすがるような涙目で見つめて来る、えっ、どう言う意味?
なにはともわれ、こんな状態は駄目だ、僕は真澄先生から手を離すとツカツカと黒夢の前に歩み寄る。
そして、何事と?と僕を見ている黒夢の頭に拳骨を落とした。
「めっ!!」
ゴンッ
「痛っ!」
キョトンとする黒夢、痛って〜、忘れてた、黒夢ってロボットだった、頭硬って〜。痛覚など無いだろうが、僕が怒っている事は理解したらしい、叩かれた頭の天辺を不思議そうにさすっている。
「リーレーカの方が良かっタ?」
「て、鉄くぅ〜〜ん!! うち頑張る! めっちゃ頑張るから〜っ! 見捨てんといて」
「先生落ち着いて、そう言う問題じゃないから! コラッ!黒夢、こんな親子喧嘩に関係ない人まで巻き込んじゃ駄目でしょ、それに先生をこんな無理矢理連れてきて、し、しかも、ぼ、僕なんかと赤ちゃんを作れなんて、失礼にもほどがある!」
僕が怒っていると、後ろからそっと抱きしめられる。
「鉄君、うちの為に怒ってくれてありがとな。でもええんよ、うちがこの身を捧げて世界が救われるんやったら、あ、赤ちゃんの一人や二人、どんとこい超常現象や、ベストを尽くす!!」
「?、真澄先生……。んっ、世界が救われる?」
「ちゃうの? せやかてニュースでえらいことなっとるて言うてたで」
バッと黒夢の方に振り向ければ、猫を抱えてそろ〜と部屋を出て行こうとしていた。怪しい。
「く〜ろ〜む〜、ちょっとこっち来なさい」
「ナ、ナニ、ワタシ、猫達、部屋に戻してここないト」
それは鉄郎が気絶して、回転ベッドで寝かされていた時の事だ。
「空と海を閉鎖スル、誰にも邪魔はさせナイ」
全世界に発信されるメッセージ。まずはジャミングで制空権を奪った黒夢は、次に海上戦力に目をつけた、管制機関へのハッキング及び武力行使だ。単体で世界を制する能力は、貴子の世界を滅ぼす力と同様に世界政府の高官達を震撼させた。
コンピュータによる電子制御がメインの現代機器、それらを封じられる事は、政府の持つ武力が前時代まで引き戻される事を意味する、加藤事変から50年、貴子の数々の発明による急速なオートメーション化は人々からアナログな技術を奪って久しい。コンピュータ制御がなくてはまともに動かせない。
横須賀港、言わずと知れた日米海軍の一大拠点である。現在この地には、日米あわせて40隻近い護衛艦及び空母が集結していた。
総理である尼崎から出撃要請を受けた横須賀は、今まさに蜂の巣をつついたような慌ただしさに包まれていた。謎の人工衛星落下に端を発した、通信機器の混乱は軍事施設にとって致命傷と言える、第一護衛隊伝令役の自衛官の女性達が忙しく走り回る基地で、海上自衛隊が誇るヘリコプター護衛艦いずもの艦長である本山なると一等海佐(32歳)は、早朝からの出航準備で甲板で激を飛ばしていた。
「ヘリの積み込み急いで、レーダーが効かないんだ、ヘリからの目視がたよりよ、最低でも8機は持ってく!」
「呉や佐世保とは連絡ついたの、くそっ!これじゃあ、まるで目隠しされて闘うみたいだ」
対岸でもミサイル護衛艦はたかぜが慌ただしく、準備を進めているのが見える。このような出撃命令は初めてだが、謎の敵の出現に皆の士気は高い、通信機器が不調の中でこの士気の高さが頼もしい。それは港の南側に停泊している、米軍の原子力空母ロナルド・レーガンでも同様で、こちらはすでに殺気すら漂わせていた。
しかし、それをあざ笑うように夜空を切り裂いて、光の雨が横須賀に降り注ぐ。
「本山一佐、あれは?」
「えっ」
指揮をとっていた本山に、隣でリストを読み上げていた隊員が空を指差さした、ふと見上げると、満天の星空に不自然な大きな輝きが幾つも見えた。次第に輝きを増す光が、サーチライトのように本山の前方に見える甲板に差し込んだ。
ドォォオーーーーンッ!
次の瞬間、艦橋の航空管制室から悲鳴が上がる、遅れてバリバリと雷鳴の様な轟音が響き渡った。衛星軌道上からの高出力レーザー攻撃、甲板前方に落ちた光の矢は、5層の装甲を船底まで貫いて直径30cmの穴を穿つ。護衛艦は構造的に浸水対策は取られているが、甲板まで一気に抜ける穴は想定外なのか、自重による水圧でまるでクジラの潮吹きのように、勢いよく穴から海水が吹き出した。
この浸水によって船はグラリと大きく傾く、甲板上に搭載中の哨戒ヘリSH-60Jが滑り落ちるようにガシャガシャと激突する、まだ固定前だった機体はそのまま海に落ちて沈んだ。港に停泊中だったため転覆には至っていないが、その被害は基地全体に及び、視界にある艦は悉く平行を失っていた。
「被害状況報告! 海に落ちた者の救助急げ!!」
「本山一佐! 第一層は完全に浸水、現状航行は不可能です!」
「死傷者は!」
「まだ全体の確認はとれてませんが、死者は出ていません、溺れた者は病院に搬送しました!」
「……………なんだこれは、まるで悪夢だ」
わずか30分の内にその機能を完全に沈黙した横須賀基地。まるで駐車場に並んだ車のタイヤに、次々と錐を刺すかのような陰湿さだったが、この攻撃がもしミサイルによるものだったら、完全に撃沈される船も多く、死者はとてつもない数になったであろう。この被害は横須賀だけに留まらず、世界各地で起こった、これにより黒夢の宣言通り、政府の武力は空と海を閉鎖される事態となった。
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