50.やっぱりジャーマンはプロレスの王道だよね
いつもお読み頂きありがとうございます。おかげさまで50話まできました。
「んっ、う〜〜んっ〜、えっ!」
消毒液の臭いがする部屋のベッドからかすかに声が漏れる、長い黒髪がベットの上で揺れる、眩しそうに眉間に皺をよせながら寝返りを打てば、ドレスのスリットから長い脚が惜しげも無く晒された。チラリと覗く真っ白な太ももに、鉄郎がゴクリと唾を飲み込むと、麗華の目が突然見開いた。
「わっ、気付いた! り、李姉ちゃん大丈夫」
「…ん、鉄君、ここは?」
「医務室だよ、大丈夫、どっか痛い所無い」
ベッドに横たわっていた李姉ちゃんが身体を起こす、頭を軽く振ると切れ長の瞳で僕を見つめてきた。
「黒夢は、あの後どうなった?」
「ああ、作業室で修理してるよ、お腹の装甲ベコッってなってたからね。でも、2人とも凄かったね。僕感動しちゃった」
「はは、最後がちょっと締まんなかったけどね。ちょっと油断したわ」
後ろでカチャリと音がしたと思うと、児島さんが水を持って入って来た。その後ろから貴子ちゃんがひょっこり顔を出す。
「お、起きてるじゃん。脳震盪って事はやっぱり人間だったんだな」
「貴子」
「さんをつけろよ、デカ乳」
視線を交わす李姉ちゃんと貴子ちゃん、何かこうバチバチと火花が散っているように見えるんですけど。この二人仲悪かったけ?
「人間の分際で良く黒夢とあそこまで闘えたな、おかげで私の最高傑作にケチがついたじゃないか」
「あら、あれで最高傑作? 私が2回しか攻撃してないのに壊れちゃったじゃない」
「ふん、今回の戦闘データは実に有意義だった、次は瞬殺だぞ、デカ乳」
「ぐぬぬ」とお互いの額を突き合わす、武闘家と科学者の意地のぶつかり合い、勝負が引き分けに終わってるだけに、両者共譲れないものがあるのだろう。ふいに貴子ちゃんが僕の方に向き直った。
「で、鉄郎君。 結果はああだったが、黒夢の優秀さは十分証明出来たと思う。 どうだろう、君の傍に置いてもらえるだろうか」
「う〜ん、確かに李姉ちゃんと互角に闘えるのは凄いけど、あんな小さな子に護衛なんて危ない真似は、させられないと言うか…………」
ガタッ
「パパ、私……いらないコ?」
声に驚いてドアの方に振り返ると、黒夢が黒いワンピースの裾を握り締めながら、ジッとこちらを見つめていた。もう修理が終わったのか、まるで捨て猫のような懇願する瞳に、ぐらりと心が揺らいでしまう。うぅ〜っ、その上目遣いは卑怯だぞ。
「黒夢、パパの為ならなんでもするヨ! パパが望むなら……この身体を捧げてもイイ!!」
「それは身体を張って守ってくれるって意味だよね!!」
思わずツッコンだ。ちょっと心が動いたのに、こう言う発言で台無しだ、是非親の顔が見てみたい、って貴子ちゃんと僕か!
「モチロン。でもエロサイトからいつでも資料は取り寄せられル、まかせテ」
「小学生がそんなサイト見ちゃ駄目ぇ!!」
はぁ、意外とこの子との会話は疲れるぞ、なまじ可愛いもんだから言動とのギャップが酷い。後、この件は僕の一存で決められる事じゃないしな、捨て猫じゃないんだし、このまま家に連れて帰ったら、婆ちゃんがなんと言うか。
「それに家に来るとしたら婆ちゃんの許可だって必要だし、少し考えさせてくれるかな」
「大丈夫、ババアの扱いには慣れてル」
ピクッ「誰がババアだ!!」
「誰も、ママがババアとは言っていなイ、自覚があるのカ」
貴子ちゃんがツッコムがしれっと言葉を返す、本当に良く出来てるな、とてもロボットの会話とは思えない。そんな事を考えていると児島さんが助け船を出してくれた。
「まぁまぁ、貴子さま。鉄郎さんだって、いきなり黒夢を引き取れと言われても困ると思いますよ、だから言ったじゃないですか、まずは春子さんに話を通すのが筋だと」
「いや、それじゃサプライズにならないだろ」
「色々、吃驚はしたけどね」
すると貴子ちゃんが、少し考えるそぶりを見せると、おもむろに白衣のポケットからスマホを取り出して、電話を掛け始めた。何事?
「あっ、春子婆ちゃん、私私。 あんたの家、部屋余ってたよね、鉄郎君と私の子供引き取ってくんない」
ブツッ、ピッ、ツーツーツー
「なっ、切られた、あのババア〜、話ぐらい聞けよ! これだから年寄りは嫌われるんだ!」
突然どこに電話かけたかと思えば婆ちゃんの所か、行動早いな、でもそんな切り出し方だと切られて当然だと思うよ。
ブルルルッ
わっ、メールだ。胸ポケットのスマホがバイブして吃驚する、画面を見れば婆ちゃんからだった、結構メール打つの早い、何々、そこには短く一文だけ表示されていた。はは、婆ちゃんらしいな。
『とりあえず連れてきな』
メールの画面を黒夢に見せると、パァっと嬉しそうに微笑んだ。その笑顔に一瞬ドキッとする、本当にロボットか?あまりにも可愛いので、思わず頭を撫でてしまう。すると気持ち良さそうに目を閉じて、頭をグリグリと押し付けてくる、まるで猫みたいだな。
しかし、それを見ていた貴子ちゃんがいきなり黒夢の腰に抱きつくと、そのまま「とりゃーっ」とジャーマンスープレックスを仕掛ける、ハイアングル式の、それは見事なジャーマンだった。目の前でゴンと鈍い音を立てて、白黒の少女がブリッジ状態になる。貴子ちゃんも黒夢も思いっきりパンツ見えてるよ。パンツも白と黒なんだね。
技を仕掛け終わると、パンパンと白衣を叩きながら貴子ちゃんが立ち上がる、次いで黒夢も、何も無かったようにクルリと後転しながら立ち上がる。凄いなジャーマン食らってなんともないのか。
「イキナリ何する、ママ。親子のスキンシップを邪魔するナ、ババアの嫉妬は見苦しいゾ」
「にゃにお〜っ! 夫婦の間に子供が口を挟むな、貴様をそんなふうに育てた覚えはないぞ!!」
「……ママ、嫌い。もう、黒夢はパパの言うことしか聞かなイ」
テケテケと駆け寄ってきた黒夢は、僕の後ろに抱きついて隠れると、中指を立ててベーッと舌を出した。こらっ!そのハンドサインは下品だからやめなさい。
「ぐぬぬ、創造主たる私に逆らうとは……」
わなわなと拳を握りしめる貴子ちゃん、長い白髪も心なしか逆立って見える。その向こうでは李姉ちゃんが児島さんと何か話していた。
「ねえ、貴子は黒夢作って何がしたいの? あれじゃ、自分でライバル作ったようなものじゃない」
「最初は純粋に鉄郎様を守るためにと作ってたんですが、後半は調子に乗ってスペック増し増しでしたからね、目的の為に手段を間違えたと言いますか」
「はぁ、まぁ、馬鹿と天才は紙一重って言うしね」
「馬鹿にあんな凄いものは作れませんよ、ロマンチストなんですよ科学者と言うものは、常に限界に挑戦するものなのです」
ぐっと拳を握って力説する児島を見て、そう言えばこいつも一応は科学者だったなと思い出し、麗華はやれやれと軽くため息をついて呟いた。
「ここんとこ、まともな人間みたことないなぁ」
貴子ちゃんと黒夢が僕を挟んでガルルと睨みあっていると、児島さんがパンパンと手を叩く。
「ご歓談のところ申し訳ありません、それより皆さん、そろそろ昼食に致しましょう」
その言葉に部屋の雰囲気が変わる、助かったぁ。気が抜けた所為かお腹がぎゅるると小さく鳴った、あれ、もうそんな時間か。
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