49.決着
黒夢がそのパワーにまかせ、地面を蹴るとアスファルトが砕け散る。風よりも速いその姿が麗華に襲いかかった。
ズギュッ!! バカカカカッ!!
「このぉ、速過ぎだってのぉ!」
小細工無しのスピードとパワー、超高速のコンビネーション。麗華は全神経を集中して上下に散らされた蹴りと突きを正確に捌く。目に頼っていてはとてもじゃないが追い付かないほどの連撃、自分の周りの空気の流れまでも感じながらギリギリのラインを保つ。
「カカカ、本当に驚くゾ、リーレイカ。これを捌くカ」
「ふん、速さだけなら春さんの刀のほうが、よっぽど速いし怖いわよ」
ビリビリと痺れる腕を悟られないように、悪態をつく麗華。
一瞬だが身体ごと見失った時は流石に焦った、身体ごと消えるってどんだけ速いのよこいつ。
「カカカ、パパが見てるんダ。とっとと負けろ、乳オバケ」
バックステップでもう一度間合いを取った黒夢の姿が、まるで景色に溶け込むように消える、僕の動体視力ではまともに追う事ができない。繰り出された超高速のステップは左右に残像を残し、その姿は二人にも三人にも見える。人間には決して踏み込めない、正に神速の領域に達する。
「凄いっ、まるで分身の術みたい」
そこからは防戦一方だった、李姉ちゃんは顔を歪めながら黒夢の攻撃に耐えている、時々攻撃が通ったのか「ぐうっ」とくぐもった声をあげ歯をくいしばる。目の前で起こってるのに凄過ぎて実感が湧かない、あの人間離れした強さの李姉ちゃんが、手も足も出ないなんて。
「なあ、児島」
隣で二人の闘いを見て居た貴子ちゃんが、驚いた表情で児島さんを呼ぶ。
「あのチャイナは本当に人間か?……中国が秘密裏に開発した、戦闘マシーンとかじゃないよな」
「そうですね、是程とは。……末恐ろしい方です、すでに夏子さんを超えてるんじゃ」
「えっ、それってどう言う意味?」
「動いて無いんですよ、あの場から一歩も。その場で捌き切ってるんです、黒夢のSSSモード全開の攻撃を」
「一瞬でカタがつくと思ってたんだが、これは想定外もいいとこだ、ちょっとあのチャイナを舐めてたな」
言われて見れば、確かに李姉ちゃんはあの場を動いていない、まさかあの状態から反撃を狙っているのか。
ギャリッ、ズギャ、バカカカカカ!!!
「っぐ、ちっ」
怖い、怖い、怖い、本当怖いわ、このガラクタめ、捌き切れなかった衝撃が身体に蓄積されて行く、一つでもミスれば一気に流れを持っていかれるだろう。この私が防御に徹してこれか、とてもじゃないが生身の人間が出せるスピードじゃないでしょ、って人間じゃなかったわね。ならば、スタミナ切れを期待するわけにはいかないってことよね、くそぉー、間合いが遠い、あと一歩踏み込んでこない、こっちの射程距離をわかってるのか。くっ、ちょ〜っとヤバいかなコレ。
黒夢の激しい攻撃を見つめながら鉄郎が貴子に話しかける。
「貴子ちゃん、そう言えば黒夢って何で動いているの? 原子力? もうかなりの時間動いてるけど?」
「へっ、エネループの単3だよ」
「エネループ? えっ、電池?」
「うん、コンビニやスーパーでも買えるよ。私は地球環境にはちょ〜っとうるさいからね、超省エネ設計なのだ。1回の充電で24時間は動ける。だから原子力なんて危ないものは使わないよ」
「た、単3電池であの動きはちょっと無理があるんじゃ。…………貴子ちゃんって本当に天才なんだね(ロボットを単3電池で動かそうって発想がおかしいけど)」
「いや〜、やだな〜、そんな褒められてもこまっちゃうな〜、ガム食べる?」
貴子ちゃんが僕に褒められて?もじもじと照れていると児島さんが突然声をあげた。
「あっ」
「「えっ」」
慌てて李姉ちゃん達の方に向き直った時だった、黒夢が自らが空けたアスファルトの穴にヒールが嵌まり一瞬動きを止めてしまう。1秒にも満たない制止、だがそれを見逃す李姉ちゃんではない、ニタリと口元に獰猛な笑みを浮かべると、力強く右足を踏み込んだ。
ズドンッ!!
それこそアスファルトに足がめり込む力強い震脚、身体を大きく開いて腰を落とす。裡門頂肘、八極拳士が好む代表的な肘打ちの技、もちろん麗華の最も自信のある技である。真っすぐに伸びた肘が眼前の小さな身体を完璧に捉える。ヒールが嵌まった黒夢はその力を逃がすことが出来ない、麗華の化物じみた破壊力をその身にまともに受ける事となった。
バキャンッ!!
「ウギュッ」
轟音とともに身体をくの字に曲げ驚愕の表情を見せる黒夢、確かな感触に麗華が勝利を確信する。
が、そこで終わる黒夢では無かった。吹き飛ばされる瞬間、ガラスの瞳に執念の炎が灯され麗華をキッと睨みつける、直後黒夢の右肘が突然、目映いばかりに光り輝いて爆発する。
「ロケットパーーーーーーーーーーーーーンチ!!!!!」
「な、なにーーーっ!!」
届くはずのない間合いから、炎を上げて飛び出す黒夢の右腕が、打ち終わりの無防備な麗華の顎を撃ち抜いた。掠めるように当たった右腕は、脳を激しく揺らし意識を刈り取った、脳震盪を起こしガクンと膝を落とし地面に倒れこむ。その先のアスファルトの上では黒夢の右腕が、ねずみ花火のように火花を上げながらカラカラと回っていた。ちょっと不気味だった。
一方、黒夢もガランゴロンと錐揉み状態でアスファルトを転がる、20mは飛ばされただろうか、6度のバウンドを経てその動きを完全に停止した。
ダブルノックダウン。
貴子ちゃんがカーン、カーン、カーンと勢い良く3回ゴングを打ち鳴らした。試合終了の合図だ。
「り、李ねえーちゃん!!」
慌てて李姉ちゃんのもとに駆け寄る。意識なく横たわる身体をそっと抱き起こし状態を確認する。腕が赤く腫れているが目立った外傷はない。
「良かった、気絶してるだけみたい」
安心して振り返った先では、制服姿の児島さんにヒョイと摘まみ上げられた黒夢が、片腕の無い状態でプラ〜ンと揺れていた。あっちは大丈夫なのか?
黒夢を覗き込んだ児島さんが、空いてる右手の親指を立ててニコリと微笑んだ。あっ、大丈夫ってことかな。
「ふむ、このチャイナの戦闘力には驚かされたが、随分とデータは取れたな。黒夢はもう1ランク上に強くなるよ、鉄郎君」
トコトコと遅れて歩いてきた貴子ちゃんがそう語った、あれ以上に強くなると言うのか、それって学習するって事?
「あれに搭載したAIは超優秀だからね、世界中に溢れる動画はもちろん、実際の戦闘からでもデータを蓄積して地上最強を目指すよ」
ほへ〜、最近は将棋とかでも人間が勝てないAIとか出て来てるけど、それと同じで格闘とかでも人間を超えちゃうのか、でもさっきの黒夢の動きを考えると、あながち夢物語ってわけでもない、しかしロケットパンチはいかがなものだろうか。
「ほら、良く言うじゃない。発達した科学は魔法と区別がつかないって」
「あれ? こう言う時に使う言葉だっけ? ロケットパンチはどう見ても科学の力だよな」
最後の最後に僕は首を傾げた。
胸部装甲を外された黒夢が作業台の上に寝かされている。傍らに立つ僕の目線を下に向けると、貴子ちゃんが飛んでった右腕を繋げる作業をしていた。
「イヤ、パパ……見ないデ、そんなやらしい目で奥まで見られたラ、モウお嫁に行けなイ」
「黙れ、ポンコツ。動くなよ、今面倒くさい部分なんだから」
「ぐぬヌ……ママ、自分の子供をポンコツよばわりカ」
「ちょっと火薬の量を間違えたかな、曲がっちゃてる部品が結構有るな、って良し繋がった!」
ロケットパンチを繋げ終わる貴子ちゃん、その作業は素人の僕が見ても見蕩れるほど滑らかで、一流の技術者のようで格好良かった。一方、腕の動きをニギニギと確かめていた黒夢は、作業用のロボットアームを手繰り寄せ、モニターに自分の腹部を映し出した。
「ねえ、貴子ちゃん。黒夢は何してるの?」
「ああ、両腕が有るなら後は自分で修理出来るからね、ロボットアームも使って勝手にやるだろ」
あら、手間の懸からない良い子だね。貴子ちゃんに負けないくらいのスピードでカチャカチャとPCを操作した後、瞳が青く点灯した。えっ、今度は何? まるでびっくり箱みたいな子だな。
「あれはBluetoothやWi-FiなんかをラボのAIに繋げてるんだよ、これでこのラボの全システムを管理出来るから作業が捗るよ」
「へえ〜、でも目が光ってるとなんかビームとか出そうだね」
「あっ! それだ!!」
貴子ちゃんがポンと手を叩いて奥の部屋に走り去る、あれ?もしかして余計な事言っちゃたかな。しかし、自分で自分を修理出来るとは、……でも人間もある程度の怪我は自己修復するから、ある意味自然な事なのかな?
あまり機械に詳しくない僕は、この時黒夢の凄さや怖さがまるで分かっていなかった。
運動性能にばかり目が行ってしまって、自我を持ったAIが全世界にネットワークで繋がることの怖さに気付いていなかった、むしろ格闘が出来ることより、よっぽど危険だと言うのに。
パタパタパタパタ、バタン!!
「鉄郎君!! 大丈夫! 目からビーム出せるよ!!」
ニコニコと慌てて戻って来た貴子ちゃん、それを黒夢はジト目で睨みつけた。
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