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35.期間限定サービス開始

熱い・・。


貴子ちゃんの作ってきた薬を一気に飲み干した直後の事だ、体温が急激に上昇しているのが体感でわかる、とにかく燃えるように熱い。


「うわぁ! 傷口がシュワシュワいってる! おわぁー!! 何これーーっ!!」


ライフル弾で撃たれた傷口から白い湯気が立ち上り、シュワシュワと炭酸が弾けるような音をたてる。

えっ、これやばくない。


「お、お、お母さん、これ大丈夫なの!!」


医者であるお母さんに声をかけるも返事が返ってこない。何で?とばかりにそちらを見れば、その表情に吃驚する。

皆、腕がだらりと下がり、口を大きく開けてポカ〜ンとしている。児島さんだけは顔を両手で覆っている。




呆然とする夏子。

信じられないものを見た。病室中の人間が驚き、大口を開けて間抜け面をさらしている。無理もない、昨日縫ったばかりの傷口が湯気を出しながら再生して行くのだから。それだけならまだいい、まだ耐えられる、問題なのは鉄君が、鉄君が、縮んでるんですけどぉ〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!



実の所、病室にいるメンバーの中で一番驚いているのは貴子だった。まるで意図していなかった鉄郎の幼児化に、徹夜続きの頭がついてこれず、嫌な汗が止まらない。


「ど、どこだ!! どこで間違えた。計算では完璧だったはずだぞ。なぜ小さくなる」



「えっ、えっ、えぇえええええええ!!!!!!! 治ってる! 貴子ちゃん! 怪我が治ってるよ!! すっげー!!」


立ち昇る湯気がおさまったと思えば、先程までズキズキと痛みを訴えていた胸の傷が、まるで何も無かったかのようにつるつるっとした玉子肌に戻っている。ちなみに鉄郎は自分の身体が縮んでいる事よりも、傷の再生に気をとられ正確に状況を判断出来ていない、ちょっと声が高くなったなぁ〜位である。




驚いてばかりいられないと、貴子はおずおずと鉄郎に話しかける。


「て、鉄郎君、あのね。非常に言いづらいんだけど、ついでと言ってはなんですけど、お身体の方が小さくお成りになってらっしゃらるのですが……」


「へっ、うわぁーっ! 本当だ、服がブカブカ。なんか小さくなってるぞ!! マジか!!」


流石に焦った貴子は、端末を取り出し研究所のAI、YAMATOに説明を求めた。スピーカーのスイッチをオンにする。


「おい、YAMATO。お前ならどう言うことかわかるか?」


『しょうがないマスターですね。いいでしょう、では私からご説明致しましょう。その強力な再生能力を持つ薬は、本来であれば小さじ一杯程度の量で充分だったはずです、それを一甁丸々一気飲みした結果、鉄郎様の身体は劇的な変化を見せました、左肺を半分近く失っていたのも影響してるのでしょう、急激な再生を補うために身体の質量が圧縮縮小されたその結果、バル バル バル バル バル これがッ!  これがッ! これが『鉄郎子供メタモルフォーゼ』だッ!!!!


ズッギャーーーンと言うところですか』


「って、ズッギャーーーンやないわい!! そんなことより元に戻るんかい、まさかこのまま小さくなったままやないやろうな!」


住之江が貴子のスマホを引ったくり、液晶画面に向かって怒鳴りつける。住之江にしてみれば幾ら可愛くても小学生との恋愛は不味い気がしたのだ、このままではショタコン呼ばわりされかねない、もしくは新たな性癖に目覚めてしまう。


『えっ、一時的なものですよ。多分10日もすれば元に戻ると思いますよ』


「「「「マジか!!」」」


「何なのよ、そのデタラメな薬は!! 現代医学を馬鹿にしてるの。でも、小ちゃい鉄君も可愛いわぁ〜」


お母さんが激おこだ、しかし僕の頭を撫でながらだからイマイチ迫力に欠ける。うむ、期間限定とは言えどうしたものかと考えていると、桜色のスーツを着たお姉さんが跪いて僕の手を取った、えっと誰?


「鉄郎ちゃん、初めまして。この病院の医院長をしている藤堂京香ですわ」


「ん、藤堂ってもしかして会長さんの……」


「ええ、母親ですわ」


「えっ、お母さんですか?お姉さんでなく?」


「あら、お上手ですこと。鉄郎ちゃんにならママと呼ばれてもよろしくてよ」


そこにすかさず額に怒りマークを浮かべたお母さんが割り込んでくる。


「藤堂医院長〜、貴女、一体何を口走ってるのかしら〜」


「あら、ごめんなさいね。鉄郎ちゃんがあまりにも可愛くて、つい本音が出てしまいましたわ。おほほ」


「絶対にあげないわよ」


おほほ、うふふと笑顔と視線を交わす藤堂医院長とお母さん。かっこいい系のお母さんと可愛い系の藤堂医院長、不思議とバランスが取れたPTA対決だった。


「はっ、そうではありませんわ! 鉄郎ちゃん、ちょっと君の身体を調べさせて欲しいの。目の前で見ていてもこの奇跡の現象がまだ信じられませんの! これは決してやらしい気持ちじゃないの、大丈夫よ、ママに全部まかせてくれればいいの、天井のしみを数えてる間には終わるから!」


この医院長、一瞬しっかりした人物だと思ったが、決してそんなことはないのかもしれないと横で見ていた住之江は思った。


「僕、解剖されちゃうの?」


「そんなこと絶対にしませんわ!!」


「当たり前だ!! 私の鉄郎君にそんな事したらこんな病院、ガレキの山にしてやる!」


動揺から立ち直った貴子ちゃんも加わってくる。でもこの幼児化した身体はお医者さんからしたら調べたくなるのも頷ける話しだ、けれど貴子ちゃんに薬の成分聞いた方が早いんじゃないかな?


「えっ、薬の成分? 結構ノリで作ったからな、もう一度作れと言われると難しいかも。徹夜明けだったし」


「「「「・・・・・・・」」」」


「人体実験」


ボソッと児島さんが呟くが、児島さんも貴子ちゃんの実験の被害者だったことを思い出した。疑いの眼差しで貴子ちゃんを見れば、これまた首が折れそうな勢いで顔を逸らした。おい、目が泳ぎまくってるぞ。児島さんもさっき同じ行動してた事を思い出した、案外似たもの師弟なのかも。


なんにせよ検査は必要か、ちょっと動いた感じではちっちゃい以外問題なさそうだけど、傷が治ってるかちゃんと調べてもらったほうが安心できるかな。


「治ってるかどうかは母であり医師である私が決めるわ。だから鉄君、お母さんとお医者さんごっこしましょうね」


「お母さんは目がやらしいから嫌!!」


「ガ〜〜〜ンッ! そ、そんなぁ、鉄君が二度目の反抗期に」


「ほほほ、武田さん、貴女お医者さんとしては神医ですけど、母親としてはダメダメですわね。鉄郎ちゃんの検査は、この病院の医院長である私がしっかりと致しますわ」


「え〜っ、藤堂医院長さんもなんか怖いからチェンジで」


「ガ〜〜〜ンッ! そ、そんなぁ、鉄郎ちゃん、怖がらないで、ホラ、美味しいケーキも用意しますわよ」


世間では名医と呼ばれる女性が二人orzの姿勢で床に蹲ってる。なんだこの空間は、まともなお医者さんはここにはいないのか?さらに児島さんが余計な一言を発する。




「それにしても貴子様、今でしたらとてもお似合いのお二人ですね」


「何っ! 児島もう一回言ってみろ」


「ですから、二人共小さくてお似合いのお二人ですねと」


ボンッと顔を真っ赤にした貴子ちゃんがワナワナと拳を握って固まっている。次第に顔もニヤニヤとだらしなく緩んで行く。ちょっと怖い。


「こ、児島〜。お前、本当に出来る奴だな、良し! 明日から時給上げてやる」


貴子ちゃんがポンポンと気安く児島さんを叩いた。


「児島さんって時給制なの?」


「時給1800円です」


「結構いい値段だ! ん、貴子ちゃんの助手としては安いのか?」


児島さんの時給の事を考えていたら貴子ちゃんがベットに飛び乗ってきた、どうしてこんなに嬉しそうなんだろう。


「鉄郎君、写真を撮ろう! この貴重な瞬間を逃すのは神への冒涜だろう。お似合いと言われ、新婚のようだと囁かれる今を永遠に残そう。幼少時のお約束イベントだよ!」


「いや、新婚のようだなんて言われてないよ」


「あ、せやったらうちも小さい鉄君と写真とりたい!!」


「ガウー!! 図々しいぞ、デカ乳教師。お前なんかと撮ったら鉄郎君が汚れるわ。シッ、シッ」


「なんやと! ちびっ子が」


「あ、あの〜、私たち看護師とも写真撮ってもらえますか。お願いします!!」


「貴女たちっ!!当病院の看護師ともあろうものが、院長室に一眼レフカメラがあるからすぐに持ってらっしゃい!」


「は〜い!三脚とレフ板も持ってきま〜す」



「うわ〜、なんかグダグダになってきた。僕これでも病み上がりなんだけど。」


結局、鉄郎は集まっていたメンバーと病院中のナース達と写真を撮らされる羽目になり、条件として他言無用の誓約書を書いて貰った。




黙ってなりゆきを見守っていた麗華だったが、鉄郎の傷が治った事に心底安心したのか、それまでの緊張感が一気に解けて行くのを感じていた。


「安心したらお腹へった。もう、凄くラーメンとか食べたいんだけど」








2日後、もろもろの検査を終えた鉄郎が武田邸に帰宅して玄関を掃除していると、春子が黒いシェルビーコブラGT350マスタングで門をくぐる。どうやら東京で尼崎から借りた?らしい。さすがは総理大臣、いい車にお乗りで。V8のエンジン音が心地いい。


「婆ちゃん、お帰り!!」


「……………鉄、ちょっと見ない間に随分若返ったねえ。で、いつ戻るんだい、それは?」


「流石、婆ちゃんは冷静だね。何か10日位で戻るらしいよ」


「ほう、10日かい。……………鉄、ランドセル買いにいくかい? それとも婆ちゃんとお子様ランチでも食べに行こうか」


あれ?そんなに冷静でもないのか、いつもの婆ちゃんとは違ってスッゲーニコニコしてるけど。



さて、明日は久しぶりの学校だ。真澄先生は「大丈夫っ! まかせとき」て言ってたけど、この格好じゃ皆驚くよなぁ。



「あっ、小学校に行くのは有りかな?」

お読みいただきありがとうございます。感想絶賛受付中!!

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[一言] あー バオー・メルテッディン・パルム・フェノメノン???
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