34.その行為、プライスレス
パタパタパタパタパタパタパタパタパタ、ズシャーッ!!ババンッ!!
「鉄郎君!!!」
乱暴に病室のドアを開け放つ、カーテンが閉まった薄暗い部屋に綺麗に整えられた無人のベットが一つ。シーンと静まり返る室内。
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「なっ、ま、まさか、鉄君は… …。間に合わなかったのか」
「貴子様、隣の病室です」
「何っ!!こっちかーっ!」
「いえ、あっちです」
「早く言えぇーーーっ!!!」
廊下から貴子ちゃんの慌ただしい声が聞こえてくる、うん、元気そうでなによりだ。でも病院ではもう少し静かにできないものかな。おっ、来たかな。
バンッ!!
「鉄郎君ーーー!!!」
「やあ、貴子ちゃん。無事でなによ… ぐはぁ!」
病室に入るなり勢いよくジャンプして強烈なロケットダイブを決めてくる貴子ちゃん、ぐぁーっ、痛い、痛い、傷口に響く。頭ぐりぐりしないでぇー。
「うわぁ〜〜ん、鉄郎君、鉄郎君!!!」
「コラーッ!!鉄君痛がってるでしょ。は・な・れ・な・さ・い」
まったく真澄先生といい、貴子ちゃんといい怪我人にいきなり抱きつくのは勘弁して欲しい、うあ、ちょっと血が滲んでるよ。
頭に怒りマークを浮かべたお母さんにヒョイと襟を掴まれ、猫のように持ち上げられる貴子ちゃん。涙目でぷらんぷらんと揺れる様は本当に猫みたいだにゃー、ちょっと可愛い。
一瞬おとなしくなるが、すぐにフシャーと暴れてお母さんの手からジタバタと逃げ出す、そして再び僕のベットに飛び乗ってきた。
「鉄郎君、傷は!! 撃たれたとこは痛い!!」
僕のガウンタイプの病衣に手をかけて、ガバッと胸元を開くと貴子ちゃんの顔がガビーンと財布を落とした時の様な表情に変わる。
「うわーーーっ!!!! 鉄郎君の乳首が三つになっちゃたーーっ!!」
「いや、穴空いちゃっただけだからね。乳首じゃないからね」
「ごめんなさい、ごめんなさい鉄郎君、愛する私を庇ったばかりにこんな事に!!こうなった以上、君の面倒は一生私が見るから、何心配はいらないよ、鉄郎君には何一つ苦労はかけない、唯、私が家に帰って来た時に「おかえりなさい、ハニー」と優しく微笑んでくれるだけで良いいんだ、あ、でもその時にハ、ハグなんてしてくれちゃってもい、いいんだからね。そうだ!子供は二人くらいは欲しいな、で、でもそれには二人で、エ、エッチなことしなくてはいけないんだよね。ひゃー恥ずかしーっ!!!」
「うわー、人の話し聞かねぇ、それに途中からなんか願望だだ漏れなんですけど」
「な・ん・で、貴子が鉄君と結婚すような話しになるのよ〜っ」
「夏子お母様! ですから今話した通り、貴子は鉄郎君を傷物にしてしまった責任を取って、鉄郎君のお嫁さんになろうと… …」
確か、前も李姉ちゃんと真澄先生でこんなやり取りあったなぁ、ああ、あの時も貴子ちゃん絡みだったっけ。でもこれだけは言っておかないとな。
「貴子ちゃん」
「ふえっ。何、鉄郎君?」
「僕が今回怪我をしたことに貴子ちゃんが責任を感じる事は無いよ、僕が勝手に貴子ちゃんを守ろうとしただけなんだし、それに女の子を守って出来た傷は男の勲章みたいなもんだって婆ちゃんも言ってるし」
「て、鉄郎きゅ〜ん… …。そ、そこまで私の事を大事に… …」
「いや、鉄君、その言い方だとこいつには逆効果だよ」
お母さんが何やら言っているが、婆ちゃんならきっと賛同してくれるだろう。男子たるもの女の子は守ってあげないと。(今時そんな事を言うのは鉄郎ぐらいのものである。)
「鉄郎きゅ〜ん、しかし、それでは私としても気持ちの持っていき所が… …、そうだ! 児島!!」パチン
貴子ちゃんが指を鳴らすと、後ろに控えていた児島さんがドンドンッと大きめのアルミケースを2つ床に置いた、結構重そうだけど力あるよなぁ児島さん、あんな細い身体なのに。
「ふむ、アパッチ(戦闘ヘリ)は収納スペースが無くてな、今回これしか持ってこれなんだ。とりあえず今回の慰謝料と手術費として4億用意した、足らなければ幾らでも言ってくれ」
「私は黒ジャックさんか!! 医師免許もあるし、鉄君の手術でお金なんかとらないわよ!」
お母さんは国境なき医師団みたいなもんだしな、でも入院費とかは国の保険きくのかな。
「今なら襲撃した連中からふんだくった裏金がたんまりあるからな、遠慮しなくていいぞ。春子から庭の修繕費も出せと言われてるしな。」
「「ああ、婆ちゃん(ババア)なら言いそう」」
「えっ! と言うか貴子ちゃん。もう襲ってきた犯人さんの組織捕まえたの?」
「オフコース!! ホラ、二人が出会った運命のあの日、その時実験した毒ガスがあったろ。それを使ってチョチョチョイとね。」
「毒ガスって言ったね今」
「ハッハッハ、道を踏み外した者がたどる末路など大体そんなもんよ。ハッハッハー!!」
その場にいた者が皆シラーッとした視線を貴子に向ける、おまえが言うな!
「それと、コレコレ。急いで作ってきたんだ」
「チャラチャチャチャチャーン、万能傷ぐすり〜っ!!」
貴子ちゃんが白衣のポケットから茶色いドリンク剤の小瓶を取り出し、高々と掲げた。ドラ◯もん?
ピンクのハートマークが大きく書かれているんだが、ドクロマークに見えちゃうのはなんでだろう。
「この薬はSTAP細胞の5倍レベルで身体を活性化させるから、穴が空いた位なら1週間もあれば治る計算だよ、なにより私の愛情もたっぷり!!」
「はぁ? この傷が1週間で治るって、そんな怪しげな薬。いや、でも、貴子だし、やってる事は馬鹿だけど天才なのは間違いないし」
「おい、聞こえてるぞ姑」
お母さんも医者だからその疑問はもっともだろう、僕としては最後の愛情たっぷりが気になる所だけど、確かに貴子ちゃんは天才化学者だし、そんな薬を作っちゃっても可笑しくないのかも。それにしても、どんな状況でも自分らしさを忘れないな貴子ちゃんは、色々な意味で感心する。
「お母さん、貴子ちゃんは天才化学者だし本当かもしれないよ」
「うん、うん、私は褒められると伸びる子だから、もっと褒めたまえ」
「私、そう言ってる奴で伸びた若造見た事無いけど」
結局、手渡された小瓶を握っていると、貴子ちゃんが期待を込めたキラキラした目で見てくる。何か飲みづらい。李姉ちゃんや真澄先生も戻ってきて、看護師さんとスーツをきたお姉さんも病室に入ってきて皆が僕に注目していた。後、児島さん、なぜに首を痛めそうな勢いで顔をそらしたのですか、凄い不安になるのでやめてください。
「さぁ、さぁ、鉄郎君、一気にグイッと。オレンジ味だよ」
蓋をカシュと開けると、蛍光色の黄緑色の液体が入っていた。オレンジ?これと言って変な匂いはしないけど、これ本当に飲んでいいものなのかな。
ええいっ!!男は度胸だ!僕はその薬を一気に飲み干した。あ、本当にオレンジ味だ、意外と美味しい。
次の瞬間、ドクンと大きく心臓が脈打ったかと思えば、傷口が酷く熱く感じ始めた。
ナースセンターに一人の看護師が凄い勢いで飛び込んでくる。確かVIPルームに運ばれた美少年の尿道管接続で失敗した看護師だ。
「大変!! 鉄郎君が目を覚ました!!!」
「「「「なにぃ!!!」」」
「もう、すっごい可愛いの!!」
「ん、可愛いのは認めるが、私としてはどっちかと言うとカッコいい印象だったが」
「ものすごく、すっごーい可愛いの!!!」
「「「はぁ?」」」
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