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27.寿司食いねぇ

「おっ・す・し〜♪おっ・す・し〜♪お・す・しは美味しいから〜うっれしーいの〜。わさびは鼻につ〜んとくる〜んだよ〜フゥー!! 運転手さんなるべく急いで、席が埋まっちゃう!」


「ガッテン承知!」


車内に鉄郎の少し調子を外した歌声が響く。

春子、夏子、鉄郎、麗華、住之江、貴子、児島、ラクシュミーの合計8人を乗せた大型の1BOXタクシーが国道18号を北上する、結局会議の後、誰一人帰ろうとしないので急遽全員で外食することになったのだ。

これにテンションを上げたのが鉄郎である、普段自炊の多い武田家だけに、たまの外食は気分が上がるのだ。相変わらず食べ物には弱い男である。



「ぷっ、なんだい鉄その歌は?」


「えっ、おすしの歌。他にもぎょうざのうたとかも有るんだよ、いいでしょ」


「ふ〜ん、鉄が楽しそうでなによりだよ」


「くぅ〜〜可愛いぞ、鉄郎君。児島!」


「録音してます」


「パーフェクトだ、児島」


「感謝の極み」


「あっ、うちにもそのデータちょーだい。着信に使いたいわ」





「ご乗車ありがとうございましたー、またのご贔屓を!」


この仕事に就いて初めて男性客を乗せた、タクシーのおばちゃんがニコニコと上機嫌に手を振って去って行く。こんな田舎ではほとんど男性など見る機会がない所にもってきて、美少年である鉄郎を隣に乗せてのドライブだ、それはもう上機嫌にもなるってものである、ちょっと外野がうるさかったが。




ぎときと寿司、富山を拠点に創業し近年長野まで進出してきた、回転寿司のチェーン店である。富山湾から直送された新鮮な魚介類は、他の回転寿しの店よりワンランク上の美味を誇る、さすがに1皿100円とはいかないが値段に見合った味を楽しめる人気店だ。今回は盗撮の負い目がある夏子と貴子の奢りである為、鉄郎は迷いなくこの店を選択した。

正直な所、夏子や貴子の財力ならば回らない高級寿司店でもまるっきり問題ないのだが、鉄郎は前に春子と一緒に来たこの店を気に入っていたのだ。


「婆ちゃん早く、早く」


「こらこら年寄りを急かすんじゃないよ、店は逃げやしないよ」


春子の手をとり、急かす鉄郎。楽しげなその姿に皆の顔も緩む。正面で見てしまった住之江などアヘ顔を晒している。


「ふはぁ〜っ、蕩けるような笑顔やねぇ〜、可愛過ぎやろ〜」





「「いらっしゃいませー!!せっ!!あっ!」」


「いらっしゃいました〜!! あれ、静か?」


店員の威勢良い挨拶も、鉄郎の姿を目に入れると途端に驚きに変わる。土曜日の昼ということもあり、それなりに混んでいた店内も突然の男性客の登場に静まりかえる。静寂が流れる中、親子で来ていた小学生位の女の子がテトテトと鉄郎に近づいてきた。


「おにーちゃんは、男のひと?」


小学校の低学年くらいか、おそらく初めて実物の男の子を見たのだろう、子供なりの好奇心に満ちた目で尋ねて来る少女に、鉄郎も腰を落として目線を合わせる。


「うん、お兄ちゃんは男の子だよ。お母さんと来たの、いいねーここのお寿司美味しいもんね」


「うん!! おいしー。みっちゃんおすし大好きー。そうだ、おにーちゃんみっちゃんとあくしゅしてー」


「いいよー、後はお母さんとお行儀よく食べるんだよ」


微笑ましい光景に、店内にいた客もほっこりしつつも羨ましげな目でみつめる、じゃあ私も握手をと席を立とうする者も大勢いたが、後ろに立つ夏子が、親指を首の位置で横に引きながら鋭く睨むと、浮き上がりかけた腰をおとなしく下ろした。




少女と握手をして別れると貴子ちゃんが横から服をクイクイと引っ張ってきた。


「鉄郎おにーちゃん、貴子もお寿司食べにきたの〜。あくしゅしてー」


見てくれだけは可憐な幼女の貴子ちゃんにお兄ちゃんと呼ばれると一瞬ドキッとした、呆れるほど自由なこの娘が妹だったらと想像する。……目を瞑り数秒考えるが、うん、無いな。貴子ちゃんはそういうシロモノじゃない。


「えーと、空いてる席は」


「無視された!!」




板長らしき妙齢の女性が板場から出て、鉄郎達に近づいてくる。


「ふたたびのご来店ありがとうございます武田様、個室とカウンターどちらになさいますか」


「カウンターで。あれ、前に来たのって半年以上も前だけど、覚えてくれてたんだ」


「ええ、男性の来店などめったにある事ではありませんし、2度も来店してくださったのは武田様が初めてですよ」


そう言ってニッコリ微笑む板長に鉄郎も笑顔で返す、少し頬を赤く染めながらも席に案内してくれる。なかなか出来た女性である。

ちなみに席順は、右から麗華・ラクシュミー・住之江・春子・鉄郎・夏子・貴子・児島の並びだ。




「さぁ、なにから握りましょう」


鉄郎の前に立った板長が注文を受ける、どうやら専属で握ってくれるらしい、この時点ですでに回転寿しに来た意味は無くなっている。


「う〜ん何にしようかな。この時期なら氷見のブリは外せないし、でも最初は白身から……、うん、決まった!

カワハギ下さい」


「かしこまりました、お婆さまはいかがいたしますか」


「平目と冷酒をもらおうか」


夏子と貴子は大トロを、住之江は蛸、麗華は山葵巻き、ラクシュミーは玉子、児島は白えびをそれぞれ注文した、鉄郎と児島を除く皆がビールや日本酒も頼んでいたが、当然貴子は店員に拒否されていた。当たり前である、その見た目で酒を頼むな。


「寿司と酒はセットだろ。やってられるか! 児島、一番強いウォッカをファンタで割ってもってこい!」


「酒臭い小学生は鉄郎様に嫌われますよ。店員さん、この子にオレンジジュースを」





「うまあ!! カワハギうまーー!! このコリコリとした弾力たまんない!! 板さん次は白えび下さい」



鉄郎の幸せそうな笑顔に釣られたのか店内で同じネタが飛ぶように売れる、カワハギ1皿330円で白えびは460円だ(大トロは660円)。この分だと今日の売り上げはかなりのものになりそうだ。

うまうまと食べる鉄郎を、女性陣が揃って眺める。


「ん、何? 何か皆コッチ見てるんだけど」


「鉄君はほんまに美味しそうに食べるなぁって思おてな」


「だって、このカワハギに白えび凄いんだよ、絶妙な握り加減にえびの甘さが加わっても〜う、こんなの不味そうに食べるの絶対無理!」


板長が鉄郎の言葉に感動のあまり涙しそうになる、寿司職人冥利に尽きるとはこういう事だろう。彼女は泣きそうになるのをぐっと堪えて、本まぐろ3種盛り(赤身、中トロ、大トロ)をそっと鉄郎の前に置いた。


「こちらはサービスにしときます、私の今日一番のおすすめです。召し上がってください」


「えっいいの? こんな事されたら僕惚れちゃうよ」


「はい、お褒め頂いたお礼の気持ちです」


内心ドキドキしつつも冷静な対応に努める板長、本当によく出来た女性である、鉄郎の横に並ぶ変態共に、是非見習って欲しい。

特に隣の席で鬼の形相を浮かべて板長を睨みつける夏子には。


「はは、鉄君はどこに行ってもモテモテやね。妬けるわ〜」


「なんだい、鉄は学校でも人気者なのかい?」


住之江の言葉に春子が反応する、孫の学校での生活が気になったのだろう。


「男は僕しかいない学校だからね、好意は持ってくれてると思うけど、卒業したら見向きもされないかも」


「いやいやいや!! 鉄君は間違いなくモテるんよ、女はそういうのシビアやからね、一番優秀な遺伝子で子孫を残そうとするんや、まあ男は好きやなくてもエッチな事は出来るみたいやけど」


「そ、そんな男だって好きな人としかそういう事は、だから先生に迫られたら僕だって……」


鉄郎と住之江の顔が真っ赤に染まる、間に挟まれた春子は苦笑いしながら日本酒を口する。


「鉄君……」


「真澄先生」


ビキッビキッビキッ!ガタガタガタ


「ちょ〜〜っと先生、PTA代表として店の裏でお話しがありますの」


「私の目の前で口説くとは上等だぁ! ちょ〜っと乳がデカイだけで、私の鉄郎君を誘惑すんなよ小娘!」


「真澄、あんただけ抜け駆け出来ると思わないことね」


怖〜い笑顔のお母さんと貴子ちゃん、それに李姉ちゃんにズルズルと真澄先生が引きずられて行く、大丈夫かな。


30分後に戻ってきた真澄先生は虚ろな瞳で「コンゴトモヨロシク」と片言で繰り返すようになっていた。ちょっと怖い。


「ああ、鉄君。時が見える。あっ光った、彗星かなぁ〜」


ちょっとーーっ!!真澄先生しっかりしてぇ〜!!






「武田様、是非! またのご来店を。ご予約頂ければ貸し切りにして、最高級の素材を揃えておきます」


「はは、貸し切りは気まずいんでちょっと……、でもまた食べに来ますね」


「「「「ありがとうございましたーーー!!!」」」」


店員総出のお見送りにビクッとなって鉄郎の顔が若干引きつる。たまに外出してどこかの店に寄ると、大抵の店はこの反応を見せるのだがどうにも慣れる様子がない、女性陣の方がよほど堂々としたものだ、夏子のドヤ顔が結構うざい。

いつまでたってもハーレム王の自覚がない鉄郎であるが、それは春子と麗華の教育が良かったのか、悪かったのか判断に迷う所だ。









騒がしくも楽しい食事を終えて店から出ると、ラクシュミーさんがそっと耳打ちしてくる。


「ねえねえ、鉄君。鉄君の本命ってあのおっぱい大きい先生なの?」


「なっ! な、いきなり何を言ってるんですかラクシュさんは! ……それに先生はおっぱいより脚が綺麗で」


動揺した鉄郎が自分の性癖をポロッとこぼす、男というものは普通、顔、乳、尻、太ももと歳を追う毎に興味が下に移るものなのだが、15歳の若さで脚フェチとは業が深い。(作者の個人的意見かもしれない)


「って、何を言わせるんですか!」


「いや〜研究生活してると、恋バナなんて全然無いかから飢えてるんですよ、大丈夫、お姉さんは鉄君の味方だから話してみ」


「それって絶対、裏切る人間の言うセリフですよね」


「え〜、信用ないなぁ、でも優しい嘘は人生には必要よ」


「嘘って言っちゃてますが」


「はは、研究者やってると、「仕事が恋人なんでしょ、試験管で欲情するの」とか言ってくる馬鹿な奴とかいるのよね」


「はぁ?」


「私だって本当は、研究なんかより男が大好きなんですよーーーーーーーっ!!!!」



あ、このインド人もちょっと歪んでるのかな?お母さんの部下だもん、普通じゃないの当たり前だったよね。


その後は当然のように待っていた、タクシーのおばちゃんに乗っけてもらい帰宅した。

さて、夕食はどうしたもんだろうか。











一方、貴子と児島であるが、リビングの隅でなにやらコソコソと話し込んでいた。


「こんなに近くにいるのに鉄郎君成分が足りない」


「なんですか、そのやらしくなりそうな成分は。過剰摂取は体に毒ですよ」


「ああ、ちょっと耳を貸せ」


「ちょ、貴子様、くすぐったいんですが。息を吹きかけないでください」


「コラ! 真面目に聞け! 耳ふさいでも無駄だぞ」


貴子がゴニョゴニョと耳打ちして、児島が何度も頷く。端から見れば仲の良いコンビである、一体何をやっているやら。

お読みいただきありがとうございます。感想絶賛受付中!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] >いつまでたってもハーレム王の自覚がない鉄郎であるが、それは春子と麗華の教育が良かったのか、悪かったのか判断に迷う所だ。 あれ?俺またなんかやっちゃいました?みたいな、読者煽ってんのか、…
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