22.焼き鳥屋さっちゃん
その日麗華と住之江は、焼き鳥屋さっちゃんにいた。武田邸から少し離れたところにある小さな焼き鳥屋なのだが、田舎にしては珍しく深夜2時までやっていることもあり、最近はよく二人で入りびたることが多い。じきに12時なろうこの時間には麗華と住之江しか客は残っていなかった。
「おかみ。ハラミとハツあと生中追加や!」
「あ、私モモ、塩で」
ハツのザクッとした食感を楽しみながら勢いよくビールを流し込む住之江、今日は少しペースが早い。タオルを頭に巻いたおかみ(まぁおかみさんといってもまだ22歳だが)が煙に目を細めながら愛想のいい声をかける。
「今日はレバーのいいの入ってるよ」
「ずるいわ〜、当然食うわそんなん」
内臓系が好きな住之江が当然のように追加で注文を入れる。ここのレバーは下処理が上手いのか臭みがまったく無い。甘辛いタレが炭に落ちてパチパチと音をあげ、煙すら美味しく感じる。七味唐辛子をガシガシ振りかけて頬張ればジュワと肉汁が口の中に広がりたまらない、それを洗い流すようにビールを飲み干す、無限ループの完成だ。
「くあーーーーっ、美味い!!! おかみ、次いってみよか。ドンペリある、ドンペリ!」
「うちにそんなもんあるわけないでしょ。今日はえらいご機嫌だね先生、なんか良いことあったの?」
さりげなく久保田の純米大吟醸(この店ではかなり高いお酒)を差し出しつつ、住之江に問いかけるおかみ。この辺はちゃっかりしている。
「本当、気持ち悪いくらい、何があったのよ真澄」
「へへへへ、なあ麗華。キスってしたことある?」
ブウーーーーーーーーーッ!!!!
「うわっ! 汚いなぁ。ほれ台拭き」
おかみから台拭きを受け取りつつも、ゲホゲホと咽せる麗華だが、すぐに住之江の胸ぐらを掴んで食って掛かる。その時、住之江の張りのあるおっぱいがブルンと揺れるがそれを喜ぶ者はこの場にはいない。
「ちょっと、真澄。あんたまさか、私の鉄君に手出したんじゃないでしょうね!!」
「うへへへ、バレンタインでチョコ渡す時ちょ〜っとね、うへへへへ。私のファーストキスはチョコの味でした〜。キャッ!」
「いい歳こいてキャッ!じゃねえよこの女は。そんな記憶消し去ってやる!!」
麗華が台拭きで住之江の口をぬぐいにかかる。台拭きはやめてあげて。
「うわっ、やめんかい!! 鉄君の唇の感触が汚れるわ!」
「うるさい! やりとりのタレまみれの口で何言ってんの淫行教師!」
「何? 先生、春さんとこの坊ちゃんに手出したの、高校生相手じゃ犯罪だよ。羨ましい」
「うちと鉄君の愛の前には歳の差なんか障害にならんわ!」
「うわ〜犯罪者だ、麗ちゃん警察に通報しよう。一人だけいい目みやがってゆるせん!」
「詳しく話しなさいよ真澄。それによっては通報は勘弁してあげるから」
なんだかんだ言っても興味はあるのか、おかみも日本酒片手に聞く気満々である。上機嫌の住之江が身振り手振りを交えて語り出せば「おーっ」だの「きゃー」だの歓声まじりの女子会が開かれた。この日は閉店時間が過ぎても3人の飲み会が終わることはなかった。ちなみに今日の飲み代は住之江の奢りにさせられた。
ヘラヘラと終始ご機嫌の住之江をタクシーに蹴り入れた後、フラフラと武田邸に戻った麗華。さすがに今日はちょっと飲み過ぎた。自室に向かう途中で鉄郎の部屋のドアが目に入る、いつもならそのまま素通りするのだが今夜は何か惹かれるものがあった。そぉ〜っとドアを開け中をうかがう、当然この時間ならばベッドから寝息が聞こえてくる。
「て〜ちゅ君、寝てますか〜〜」
そぉ〜っと部屋に入り眠っている鉄郎をニマニマと見つめる。自然と視線は鉄郎の唇に注がれる、住之江の話しの影響が大きい。しばらく寝顔を眺めていたが、酔ってるせいで思考能力が落ちていたのか、めんどくさくなったのか、そのままゴソゴソと布団の中に潜り込む、熟睡状態の鉄郎は少し顔をしかめるが寒い冬の夜だ、熱を求めて麗華に抱きついてきた。それに満足した麗華もゆっくりとまぶたを閉じた。今日の麗華がもう少し酒量を抑えていたならば、もう少し違う展開もあったかもしれなかった。
ピピピ、ピピピ。
鉄郎が目覚ましの電子音に急かされて目を開ければ、そこには見事な双丘が飛び込んでくる。一瞬にして覚醒した鉄郎が目にしたものはパンツ1枚で横たわる麗華であった。目の前にあるピンク色のスイッチ、当然だが押すと自分の身も危ない、絶対に暴発する。見事なプロポーションを誇る麗華の肢体に、顔を真っ赤にしながらも凝視してしまう鉄郎、このシュチュエーションに思わず自分の息子を確認する、まあ、年頃の男の子だから仕方あるまい。寝返りを打ったせいで長い黒髪が身体にまとわりつき、丘の先っちょを偶然隠した、その姿がこれまた超エロい。その気になれば食べ放題であろう鉄郎だが、いまだ童貞の身にはいささか刺激が強かった。
「な、な、なに? なんで李姉ちゃんが素っ裸で僕の布団に」
激しく動揺する鉄郎だったが、部屋の中が酷く酒臭いのに気付く。当然発生源は麗華である。
「うっ、酒臭。李姉ちゃん、自分の部屋と間違えたのか。どんだけ飲んだんだよまったく」
さすがにこのままではまずいと思い、布団を優しく麗華の身体に掛けようとするのだが寝ぼけた麗華の腕が鉄郎の首に纏わり付き、トロンとした目つきで口を開く。
「ん〜っ、てちゅ君。おはようのチュ〜」
寝ぼけた麗華が常にない色気で迫る。いつもは切れ長の瞳も目尻が下がって潤んでいる。
「わーーーっ!! 姉ちゃんこれ以上は駄目ーーーっ!!」
絡み付いた腕を振り払い、逃げるように部屋を飛び出した。一人残された麗華だったが、鉄郎の残り香を含んだ布団に満足したのか「にへ〜」と笑い、再び目を閉じて二度寝を決め込む。
一方、逃げた鉄郎は、
「う〜っ、この前の真澄先生といい、今日の李姉ちゃんといい最近刺激が強すぎるよ〜。もう」
雑念を振り払うように庭に出て、一心不乱に八極拳の震脚を繰り返す鉄郎だった。なにかと難しいお年頃である。
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