19.藤堂VS貴子1
放課後、生徒会室前の廊下で生徒会長藤堂リカが声を荒げる。
「ちょっと貴女、転校生のくせに何んで鉄郎君と腕組んでますの!!」
「鉄郎君、誰だこいつは? ま、まさかリアル悪役令嬢か!!」
「違うよ貴子ちゃん、この人は生徒会長の藤堂リカ先輩だよ。とても優しくて良い人だから失礼のないようにね」
「あら、鉄郎さん。良い人だなんてそんな〜、嬉しいですわ」
僕が貴子ちゃんに藤堂会長を紹介すると、会長は照れたように身体をくねらせる、しかし貴子ちゃんの発言に額に怒りマークを浮かび上がらせる。
「金髪のくせに縦ロールにはしないのか、キャラが薄いぞ。それじゃあ、私のライバルにはなれないぞ」
「ムキーッ! なんですの、なんですの、このおこちゃまは!!」
ムキーって本当に言う人初めてだな、それにしても藤堂会長の怒りが天井知らずだ。貴子ちゃんは本当に人を怒らすのがうまい。方や赤のブレザーの藤堂会長、方や白いブレザーの貴子ちゃん二人並ぶと紅白でおめでたい感じなんだけど相性が悪かったかな。そもそも放課後、生徒会室に向かおうとした僕に貴子ちゃんが付いて来ちゃったんだよな。
「しっかし外人のくせに背が小さいな、まるでフランス人形じゃないか」
「なっ、今時外人って。私はフランス人のハーフですわ。それにちびっこに背のことは言われたくありませんわ!」
「うえ〜、フランス人かね。私はワインとシトロエンは好きじゃないんだがどうしてくれるんだ」
「そんなこと知りませんわ! それにお酒に車、両方おこちゃまには縁がないことですわ」
「ん、私はお酒はウォッカ派だし、車はメルセデスだぞ」
「は?」
貴子ちゃんの子供らしからぬ物言いに一瞬理解が追いつかなかったようだが、馬鹿にされてることは感じ取った。
「ぐぬぬ、この私をここまでコケにするとは、勝負ですわ! ちびっこ!!」
藤堂会長がどこからともなく白い手袋を取り出して貴子ちゃんに投げつけた。えっ、なんの勝負?
「いいだろう、鉄郎君にふさわしいのはどちらかその身にわからせてやろう。で、なにで勝負するんだい?」
「えっ、そうですわね。女子力勝負となれば、やはりスポー」
「女の子だったら料理勝負でいいんじゃないかな」
「「えっ」」
結構無難なことを言ったつもりだったのだが、二人ともひどく吃驚して僕を見つめてきた、その瞳は普段の二人にはない戸惑いの色が浮かんでいた。そこに後ろから声をかけられる。
「お料理勝負と言う事ならこの私!! 料理部の多摩川が審判を勤めますね」
「あれ、委員長……じゃなかった、忍さん。どうしてここに?」
「え、お二人の後をつけていたらたまたま、料理勝負と聞こえましたのでつい」
「つけてたんなら、たまたまじゃないんじゃないかな?」
「そこに気付くとは!!!」
「わたくし、多摩川さんは今時珍しい、自分を律することが出来る淑女然とした女の子だと思っていましたが、勘違いだったようですね。とても残念だわ」
「いや、この三つ編み眼鏡、最初からこんなもんだったぞ」
「あーー、もう話しが進まないじゃないですか! お料理勝負ですよね、何を作るんです。調理室予約しますよ」
「あっ、僕そろそろカレーが食べたいな」
「「うぐっ」」
「いいですねカレー、私も鉄郎君の作ったカレー食べてみたいです」
「えっ、僕も作るの? じゃあ普段使ってるスパイスとかもあるから明日でいい?」
「本当に作ってくれるんですか!!! 言ってはみるもんですね、いやっふーー!! ではでは3人とも明日のお昼に調理室で勝負ってことでいいですね」
スキップしながら去って行く委員長を見送りながら、藤堂会長と貴子ちゃんに視線を移せば二人とも下を向きながらブツブツと独り言を言っていた、あれ、勝手に料理決めたの拙かったかな。
明くる日の午前11時、僕たちは調理室ではなく学食の調理場にいた。隣にはペコペコと頭を下げる委員長がおり、目の前には全校生徒450名と教師陣がざわついている、なぜこうなった?
「す、すみません。昨日あまりにも嬉しくてツイッタラーに呟いたら……」
委員長って意外と隠し事出来ないタイプだよね、口が軽いとも言うけど。そりゃこの人数じゃ調理室ってわけにはいかないよね、でも僕の前に置かれてる寸胴、大きすぎない!この勝負、僕はおまけみたいなもんのはずなんだけど、全員分作るの?
「だ、大丈夫です! 鉄郎君に朝聞いた食材なら料理部全員授業さぼって買い行かせてあるから。それにサポートならいくらでもするからお願い作って! これで鉄郎君の料理食べれなかったら絶対に暴動が起きちゃう」
料理部の人達も巻き込んじゃってるから委員長も必死だ、じっとこちらを見つめる生徒からのプレッシャーも重い。
「まぁ、材料足りてるんならいいけど。藤堂会長と貴子ちゃんの分は?」
「へっ、あっちはもう、おまけみたいなもんでしょ」
「多摩川さん、誰がおまけでして! それに私は鉄郎君にだけ食べてもらえれば文句はありませんわ」
「私も鉄郎君以外に食べさす気はないよ。あんな卑しいメスどもに作る気はこれっぽっちもない」
藤堂会長も貴子ちゃんも僕の分しか作らないつもりらしい、えーっ、それじゃ僕の家でやれば良かったじゃん、そうすればこんな量作らなくてよかったのに。うらみがましく委員長を見れば目を逸らされた。う〜ん、仕方ない覚悟を決めるか。ブレザーを脱ぎ、愛用の黒いエプロンをつける、Yシャツの袖をまくり上げ頭にバンダナを巻く。すると学食中に黄色い声が飛び交う。何事!
「「「「「キャー!!! エプロン男子キターーッ!」」」」
「ちょっと! 新聞部ちゃんと撮っといてよ、そして売り出してー」
「ガッテンおまかせ! これで来期の予算は心配ないわね」
「鉄君、目線コッチー、ええよ、ええよ、その表情、ちょ〜っと胸元開けてみようか」
なんかもう気分は炊き出しのようになってきた、で、真澄先生、そのクソ高そうな1眼レフカメラはどうしたんですか連写音が凄いんですけど?えっ、今朝買ってきた、そうですかご苦労様です。
「ではこれより武田鉄郎君の手料理ふるまいと、生徒会長&天才ちびっ子転校生のカレー対決を開始しま〜す!! はい、拍手!!」
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!!!
こうして全校生徒が見守る中、カレー勝負?が始まる。それにしても授業はいいんだろうか。
お読みいただきありがとうございます。感想ぜひください!!