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106.鬼の居ぬ間の

鉄郎達がタイに行ってる頃、すっかりバベルの塔の住人となっている京香は研究室で頭を悩ませる。

その隣では真っ赤なゴスロリドレスの真紅が物凄い速さで流れるいくつものモニターを上下左右にと流し見ていた。


「真紅ちゃん、そっちのデータ見せてもらえるかしら、そう、それ」


「う〜ん、なんでマイケルのサンプルだと活性化しないんですの? やっぱり条件が、イケメンに限る?」


「パパと一緒の条件ナラ、一度死ぬヨウナ目にアワスカ?」


「う〜ん、まだ人体実験するのは危険ですわね、細胞レベルで負荷をかけて投薬してみたのですけど、一瞬で死滅しましたわ」


京香の研究は貴子が用意した最新鋭の施設と世界最高峰のAIである真紅の協力を得て、かなりの所まで解析が終了していた、特に真紅の演算能力は研究を10年単位で進めるほどに大きく貢献している、シミュレーションの速さが半端ないのだ。

しかしここに来て大きな問題が発生していた、貴子が鉄郎に使用したであろう薬も判明したのだが、その薬が鉄郎の細胞にしか反応しない、新たに確保した新鮮なサンプル (マイケル)や他のサンプルでは予想した結果がまったく得られない、これではよく効く栄養剤としか言えない状態だ。


「愛情が足らない? それとも薬より鉄ちゃんの身体の方に……」


「パパは魔王ノ直系、オバアチャンと魔王夏子モ調べたホウがイインジャナイカ」


「それもそうですわね、鉄ちゃん達が帰ってきたら頼んで採血さしてもらいましょう」








新武田邸の玄関前広場、用意された壇上にカツンと軍靴の音が木霊する。


「諸君、我々は誰の為に戦うゥ!!」


「「「「「「国王、鉄郎様の為にィ!!」」」」」」


春子に教官として任命された軍服姿のエヴァンジェリーナが台の上で声を張り上げる、少しハスキーだがよく通る声だ。目の前に並ぶは40名の屈強な戦士達、一糸乱れぬ敬礼をとる。


後ろでグラサンをかけ竹刀片手にガムを噛んでいる麗華が、バシィと地面を叩く。


「ん〜聞こえんなぁ〜、声が小さい!!」


「「「「「「愛する国王、鉄郎様の為にであります!!!!」」」」」」


「よろしい、お前達は戦うことしか能がない祖国を捨てた敗残兵だ、だがお前達はこの地で生まれ変わる、真に忠誠を誓う主に巡り会えたからだ、どうだ、嬉しいか!!」


「「「「「「光栄であります!!」」」」」」


爛々と瞳を輝かせる兵士達のなかにあって、最前列の1人が発言する。


「エーヴァ教官、で、うちはなんでここに並んでるんやろか」


「私の訓練を受ける以上特別扱いは出来んだろう」


きょとんと「何言ってるんだ貴様は」と言った顔で住之江に返事を返すエヴァンジェリーナ。


「いや、うちこれでもこの国の王妃様になるんやないかと思うんやけど」


住之江の王妃発言に嫉妬にかられ殺気立つ兵士達、少しは空気読め。


「王妃を自負するならば余計に鍛えねばならないでしょう、夫を守れぬような妻に価値などないのだから」


「「「「「「教官に激しく同意であります!!」」」」」」


「おわぁ!なんやお前ら吃驚さすな」


背後からの殺気のこもった大音量にビクッとする住之江、あかんこれはうちの住む世界とは違うと助けを求めて麗華を見るが、ニヤリと笑みを返されるだけだった。むしろ助けを求める人間を間違えてると言っていい。


「では各自、重りをつけてランニング開始!」


「「「「「イエッサー!!」」」」」


次々と足首、手首にそれぞれ2kgの重りをつけ、追加で10kgのリュックを背負い走り出す兵士達、元々各国で精鋭部隊に所属していた者達だ、その足取りは重りの負荷を感じさせない軽やかなものだ。彼女達は鉄郎王国に潜入した際捕虜となったが今ではすっかり鉄郎の親衛隊として生活をエンジョイしている、エヴァンジェリーナという春子並の実力を誇る教官を得て更なる成長を果たしつつあった。


「うう、こんな事してたらめっちゃ筋肉ついてまうやん、鉄君にマッチョは嫌いって言われたらどないするんや」


住之江はもともと体育会系だったので自然に順応してしまっているが、このメンバーの訓練についていける事の凄さにはあまり気付いていない、春子やエーヴァそれに麗華と周りが化物だらけでいつの間にか感覚が麻痺していた。


後日、鉄郎に「真澄の腹筋スッゴイ割れてるね」と言われ、なんとなくショックを受ける事になる。

もっとも、鉄郎の方が「負けた」とショックを受けていたのだが。










鉄郎のバイト先であるチャンドリカの店では。


「なんだい、今日も国王様はおられないのかい?」


「そうなんですよ、明後日には戻って来ると思いますので」


「ええ〜っ、それじゃあまた明後日来るわね、帰ってきたら絶対教えてね」


鉄郎目当てで来店した常連客達を見送りながらチャンドリカは一息ついた、この所忙し過ぎたのでちょうどいい骨休めとなっている。


「ほら、お兄ちゃん。またお客さん減っちゃたよ、やっぱり国王さまがいないと駄目なんじゃない」


チャンドリカの娘であるチャリタリが奥の席でのんびりお茶をしているマイケルの前で首を傾げながら覗いて来る。


「うぐっ、しかしだねチャリタリちゃん。男である私が客引きをするわけにもいかないだろう、そんな事したらこの店に入りきらないぐらい大勢の客が押し寄せてくるぞ」


「国王さまは普通にやってるじゃん。大丈夫だよお兄ちゃんじゃそんなに一杯お客さんこないよ」


チャリタリの悪意のない言葉がマイケルを追い込む、通常接客を鉄郎に任せのんびりお茶しているだけのマイケル、この国では鉄郎が基準となっているので、歩いてるだけで女性が寄って来る日本の男性特区と違いマイケルの集客力は低い、ましてや幼女とお年寄りにしか愛想を振りまかないニートでは言わずもがなである。


「いや、他の国では男を働かせたら店主が捕まるんだよ、鉄郎君が異常なんだよ」


「お兄ちゃんだって、最近少し痩せてかっこ良くなって来てるんだから、若いお姉さんにも優しく出来ればなんとかなると思うよ」


「おっ、流石幼女だなチャリタリ、私の魅力がわかるとは、実はこの国来て6kgも痩せたのだ、やはり運動するようになったのが大きいな、見ろ肌艶もいいだろう」


幼女に褒められたと脳内変換をしたマイケルは自慢げに語る、この国に来て毎日亜金に散歩 (散歩と言う名のランニングだが)に連れ出され強制的に運動を強いられる生活を送るようになって、健康状態はかなり向上している。糖尿の気もあったが、このままいけば3ヶ月後には随分とすっきりした体型になって改善しているだろう。


その亜金が最近読んでる本が「上手な犬の飼い方」なのはご愛嬌である。


「マタさぼってイルノカ、このクズ野郎。トイレ掃除は終わったノカ」


「亜金おねえちゃん」


チャリタリが嬉しそうにあげた声にマイケルが振り返ると、今日は青のゴスロリ姿の金髪幼女が無表情で立っていた。マイケルのご主人様の亜金である。


「や、やあ、マイエンジェル、今日も可憐だね。そ、掃除なら今からやるところさ、HAHAHA」


「トットト、ヤレ」


「イエッサー!」


掃除道具を引っ掴んで急いで去って行くマイケルにヤレヤレと首を振る亜金、そこにチャリタリが抱きついてくる。


「亜金おねえちゃん、今日も柔道おしえて!」


「受け身は、モウ出来るヨウニナッタのデスカ」


「うん、できるようになったよ!」


「フム、では今日ハ、背負い投げをオシエマショウ」


「わーい、やったー!」


金髪幼女と手を繋いで出て行く我が娘とトイレ掃除しているマイケルを交互に見るチャンドリカ、どっちの心配をすべきか迷うが、なるようにしかならんとすぐに気持ちを切り替えると自分の為に紅茶を煎れた。ここは久しぶりのゆっくりした時間を楽しむことに決めたのだ。







武田邸の中では。


「藤堂会長、玄関と応接の掃除終わりましたよ〜」


「あら、平山さんごくろうさま、多摩川さんは?」


「ああ、彼女ならお風呂掃除です、そのままジムで汗流して一番風呂って言ってましたよ」


元副会長の平山がリカに声をかけると、リカは手すりを拭いていた手を止めて平山に答えた。リカももう生徒会長ではないのだがいつまでたっても会長呼びが抜けないでいる。ちなみに掃除の時は皆メイド服を着用しています。

基本武田邸は貴子の作った掃除ロボ、ルンバ改が何十台も放たれていて常に清潔に保たれている、しかし元九星学院の生徒達は自主的に邸の仕事を分担している、邸内の掃除もその一環だ。


「そうですの、ではわたくしも春子おばあさまのお部屋のゴミを回収して終わりにしましょう」



リカが広い邸内を歩いていると鉄郎の部屋が見えて来る、その鉄郎の部屋に後ろ髪を引かれながら春子の部屋の襖を開けて敷居をくぐった。

障子に畳、床の間には一刀両断と書かれた掛け軸が飾られている、南国スリランカにあってここだけ純日本風の作りを貫いていた。


「流石、春子おばあさま。綺麗に片付いてますわね、え〜っと屑かごはどこですの?」


十畳敷きの和室、硯と筆が置いてある文机の横の屑かごをひょいと持ち上げる、ふと横に置いてある桐箪笥に飾られている写真立てが目に入る。


「あら、春子おばあさまの若い頃のお写真。もう1人は?良く似てらっしゃいますから妹さんかしら?」


セピア色の写真には2人の女性が写っていた、着物姿の女性達であったが一人は快活な笑顔でもう一人は生真面目そうな顔をしているがかなり美しい、笑顔の女性はその面影から一目で春子とわかった。


「春子おばあさまって昔から美人でしたのね、今でもとても70過ぎには見えませんけど」


リカが写真立てを手に取り、ふと裏を見ると、そこには武田春子20歳、武田秋子18歳と書かれてあった。


お読みいただきありがとうございます。感想絶賛受付中!!

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