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104.武田鉄郎

会議場、円卓に座るお偉方の視線が立ち上がった鉄郎に集中する。イタリアのジュリア・ロッシはニコニコと期待を込めた目で見つめ、中国の楊夫人はニヤリと不適な笑みを浮かべた。


「僕はこの世界が、いや、人類が滅亡に向かっている事を知っています!」


「そんな事はここにいる者なら全員が知っているわ、だからこそ貴子さんには人類を助けるために高い技術力を提供して欲しいのよ」


インドのカンチャーナが鉄郎の言葉に被せるように発言する、それを聞いて貴子がギロリと怒りの視線を返した。

僕はコホンと一つ咳払いをして話を続ける。


「僕は貴子ちゃんの国で色々な事を色々な人に教わりました、確かに貴子ちゃんの科学力は人類にとって大きな助けとなるでしょう、でもそれだけでは人口の減少は止められない事も教わりました」


「ふぉふぉ、確かに貴子さんの発明した機械は生活を楽にはするが男性の数を増やすわけではないからの」


「マダム楊! でもこれほど人口が減少したら生産力を補う方法が必要でしょう、だから私は……」


楊夫人とカンチャーナの会話に他の列席者も深刻な表情を作る。

政府トップの人間達だ、今の世界状況がどうしようもない所まで来てる事を一番理解している、男性の数が減少の一途である以上カンチャーナの意見は皆の一致する所だった。

鉄郎は集まった9人を見渡し、不思議なほど落ち着いた口調で口を開いた。


「でもその方法では時間稼ぎにしかなりませんよね、僕は希望のある未来を見たいんです」


鉄郎の言葉に一様に渋い顔を作るG9の面々、隣の貴子は大きく頷き、春子は腕を組んだまま目を瞑っている、夏子はニヤニヤとだらしなく鉄郎を見つめ、児島は後ろで無表情を貫いていた。


コツッ


「ではキング鉄郎には何か解決策があると言うのですか?」


イギリスのエリザベスが手にしていた紅茶をコトリと卓に置くと、真剣な眼差しで鉄郎に問いを投げる。


「はい、今、僕の国では男性の出生率を上げる研究をしています」


鉄郎の言葉に会議場にざわめきが広がる。


「ほう、男性の出生率を上げる、その研究でしたら我がイギリスでも、いや他の国でも散々やっておられることでしょう。でも未だにどの国でも希望が持てるような結果は報告されておりませんが」


エリザベスがざわつく中で言葉を返す、G9としても今まで何も手を打ってこなかったわけではない、中には極秘で人体実験に手を染めた国すらあった事だろう、それでも尚歯止めが効かない男性の減少。その解決策があるならば喉から手が出るほど欲しい、それが共通の想いだった。


「こちらには加藤貴子がいるんですよ、それに負けない優秀な医師?もいます」


話が進むにつれ鉄郎の緊張は解けて行く、その自信に満ちた表情と言葉にG9の面々もゴクリと息をのんだ。それに加藤貴子の名を出されたなら、もしやと思わせるだけの説得力もある。


その貴子は鉄郎にフルネームで呼び捨てにされた事に頬を染め、夏子は「私の鉄君すっごい格好良い!!」と悶えていた、温度差が酷い。


だが、鉄郎の返す言葉にカンチャーナが反論してくる。


「だ、だったら尚更、我々は協力してこの難事に立ち向かう必要があるのでは、調和を乱すような真似は控えてもらいたい!」


カンチャーナの言葉に額に青筋を浮かべた貴子がガタリと席を立とうするが、鉄郎がそれを左手で制した、不満気な貴子を横目に鉄郎は言葉を重ねる。


「そこで僕からのお願いがあります、とある事情でこちらの研究資料は現段階ではお渡しすることは出来ません、ですが必ず成功させてみせます、そのために10年いや5年間でいい、僕達に時間をもらえませんか」


「なっ、そんな説明で納得でき……」


「ふぉふぉ、まあ待てカンチャーナの嬢ちゃん、鉄郎さんや、それは5年間はあんたの国は国交を絶って鎖国するってことでいいのかい、その間はわたしらは手を出すなと」


楊夫人が眼光鋭く鉄郎を睨む、一般人ならすくんでしまうような迫力だったが、普段からこの手の化物に囲まれている鉄郎はさして動じる事なく即答する。


「はい、そうです。ただ何名かの妊娠適齢期の女性の受け入れはするつもりです」


今まで黙っていた貴子が鉄郎の言葉を補足する。


「時間的な猶予がない事はこっちも承知してる。年間90名、各国10名までなら受け入れよう。但しインド、アメリカ、日本、フランスお前らは今年の受け入れは無しだ、理由は言わんでもわかるよな」


アメリカのメアリー大統領がガタリと席を立つ、入国作戦で潜入したデルタ部隊の分だと直感したからだ。


「デルタは、彼女達は生きてるって事!!」


「すっげーピンピンしとるわ、ただ素直に彼女らが国に帰るかまでは知らんぞ、そこはあくまでも個人の意見を尊重するからな」


「どう言う意味よ」


「何、うちは随分と居心地がいいからな、帰りたくなくなっても仕方あるまい」


「ぐぬぬ、貴女、彼女達を洗脳でもするつもり」


このやり取りにG9が困惑する。邪魔を嫌って鎖国するのは何となく理解した、だが妊娠適齢期の女性の受け入れとはどう言う意味か判断しかねた、しびれを切らした尼崎が口を開く。


「貴子、日本は捕虜を取られていない。それとその受け入れの意味は?」


「お前の所は学院からの留学生がもういるだろうが。後、受け入れた者には我が国で人工授精を受けられるという事だよ」


「ま、まさか、それって男子を産めるって事なの」


「そこは100%ではないがな、大体80%の確率だ」


シレッと話す貴子ちゃん、一瞬の沈黙の後。


「「「「なんですってーーーーっ!!」」」」


会議場に驚きの声が木霊する、あまりの大音量に耳がちょっとキーンってなった。


「ど、どう言う事よ、すでに研究は完成しているって事!!それならすぐにでも」


尼崎が思わず身を乗り出して大声を出す、無理もない今は1人でも多くの男性が欲しいのだ、でないと先細りなのは目に見えている、冷静に会議を傍聴していたドイツのラウラ、ロシアのアナスタシアも驚きの表情をしている。


「尼崎総理、落ち着いて」


「鉄郎君…」


このような場で少年になだめられる尼崎、これでは立場が逆だ。日本で別れてからまだそれほどの時間はたっていない、しかし尼崎は鉄郎の成長ぶりに驚いていた、「男子、三日会わざれば刮目かつもくして見よ」か、私も見る目がない。この子は貴子に振り回されるだけの弱い子じゃない、もう立派に国王の目をしてるじゃない。


「残念ながらまだ研究は途中段階です、僕達が目指すのは全ての男性の出生率の向上なので、まだ発表出来るほどの結果は出ていません」


「ではさっきの80%と言うのは?」


「う〜ん、そこはまだ企業秘密と言うことで♪」


鉄郎はニコリと微笑むと尼崎に向かって人差し指を唇に当ててウインクした。少し調子に乗っているようだ。

それを受けた尼崎が顔を赤くする、他のメンバーにも赤い顔がチラホラ見える、年上キラーの面目躍如である。


「鉄郎君、ババアときめかせてどうすんだ」


「「「うっさいわね貴子!!」」」


「そ、そんな笑顔でこのカンチャーナはごまかされないわよ、ただ人質をとるだけかもしれないじゃない」


「そこは僕を信用してもらうしかないですね、僕が貴子にそんな事はさせません」


「ぐぬぬ……」


パンッ!!


その時春子が鉄扇をパチリと閉じた、そして先程の夏子とは比べものにならないほどの濃密な殺気を振りまいた。空間が歪む中、鉄郎王国以外の皆がビクリと身体を硬直させる、呼吸すらままならない。


「もうこの辺でいいだろ、うちの鉄が信用出来ないならそれまでだ。マダム楊さっきの条件で決を取りな」


「わ、わかった、わかったから少し殺気を抑えてくれんか、年寄りの心臓に悪い」


「はっ、都合のいい時だけ年寄りぶるな妖怪が」


春子が殺気を抑えると、G9のメンバーが一斉に息を吐き出して安堵する、春子を良く知る尼崎など顔が真っ青だ。



「ふぉふぉ、では先程の鉄郎氏の条件で多数決を取る事とする、よろしいか」


お読みいただきありがとうございます。感想絶賛受付中!!

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