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「生きてる理由」

「明日死にます」の次は「余命は1年」か。

 まったく馬鹿げている。

 しかし、これが冗談ではない事を僕が1番理解していた。


「……詳しく教えてくれ」


「今回は逃げないのですね。そして意外です。もっと驚くものだと思ってました」


 神の使いだと分かった以上、今さら無視などはしない。

 橘が言った余命1年というのも嘘ではないのであろう。

 しかし、1番の驚きはそれを僕自身がすんなりと受け止めていることだった。


「あぁ。なぜだか生きたいって気持ちが今の僕にはそれほどないみたいだ」


 僕がそう言うと、橘はなぜか少しだけ悲しそうな顔をする。


「そう……ですか……。じゃあ、今から色々と話していきますね」


 橘はコホン、と一度咳払いをして口を開く。


「まず、本当は今日陸さんは死ぬはずだったんです。しかし、それを見ていた神が、死ぬ間際に陸さんが神に願ったお願いごとを叶えるために、少し時を遡って今日死ぬことを伝えたのです」


「なるほど。今は生きたいとあまり思わないが、僕は死に直面したら生きたいと願うと思う。現にそれで神様は寿命を伸ばしてくれたんだろ?」


「いいえ。車に跳ねられた陸さんも、あまり生に関心は持たれてなかったですよ」


 どういうことだ?

 じゃあ、なぜ僕は今生きてるんだ?


「今の陸さんでは、何を願ったか当てられないと思いますよ」


「……分からない」


 一応考えてみたものの、特にこれといって生きたいと思える理由が見つからない。


「車に跳ねられて死ぬ間際だった陸さんは『好きな人に気持ちを伝えたい』と願ったのです」


「は?」


 一瞬の驚き。

 そして、気が付いたら僕は笑っていた。

 生きたいと願うよりも好きな人に気持ちを伝えたいとか、我ながらどうかしている。


「しかし、なんで寿命を延ばしたんだ? 神が伝えればそれで良かったんじゃないか?」


「陸さんの本当の気持ちを伝えるのは陸さんにしか出来ません。私が伝えても、それは陸さんの本当の気持ちではないです。だから寿命を延ばすしかなかったのです」


 僕の本当の気持ち、か……。


「じゃあ、なんで寿命は1年なんだ?」


「人の寿命に神が関与するなんてことは、相当特別な事情がない限りは無理です。しかも、今回は神の私情で無理やり陸さんの寿命に関与してしまいました。無理やりだったものですから、最大まで伸ばせるのが1年だったんです」


 なるほど……。

 それで残りの寿命は1年か。

 しかし、これでずっと気になっていたことが更に深みを増した。


「なぜ神は僕の願いを叶えたんだ? 人を助けたからか? 人生最後の願いだったからか? そんなことを言ってたら、もっと多くの人が願いごとを叶えてもらってるはずだ。神の私情ってなんだ?」


「理由なんて単純なもんですよ。神は陸さんに恩がある」


 神が僕に……?

 僕は神に対して特別な信仰心など持ってはいないし、今までの人生で何か神に関わるようなことなどした覚えはない。


「恩ってなんだよ? まったく身に覚えがないぞ」


「あまり詳しいことは言えないのです。神が人間に関与してはならないため、神が陸さんと関わった記憶は陸さんの中から消えています。もしかしたら、ぼんやりとだけ覚えてるかもしれませんが、神と何をしてたかは覚えてないでしょう」


「……そうか。まぁ、1番知りたかったことは知れたし、それに関して詳しくは聞かなくていいや」


 ん? そういえば、神は僕が死ぬ未来を見て、今の僕に伝えたんだよな?


「なぁ、神は僕が死ぬ未来を見たんだよな? なら、僕がいつ告白するか分かるはずだよな。 寿命も1年も伸ばさなくていいはずだろ?」


 橘は驚いた顔をする。

 そして、言いにくそうに口を開く。


「あ~……。それなのですが、この世界は陸さんが死ぬはずの世界だったので、陸さんが生きているというイレギュラーにより未来が見えなくなっちゃったんですよね……。だから伸ばせるだけ伸ばしたのです」


 そう言い終わると橘は視線を泳がせながら申し訳なさそうな表情を見せる。

 よく分からないがそういうものなのか。


「あ。それと、僕の願いが『好きな人に気持ちを伝える』ってことは、僕は気持ちを伝えると余命関係なしに死んでしまうのか?」


「1年は伸ばしてあるので、確実に1年は生きれますよ。多分」


「多分って、お前な……」


「仕方ないじゃないですか! 今回みたいなことは初めてだし、それに私まだ15年しか生きてないし!」


 橘は頰を膨らませながら怒る。

 あれ? 15年しか生きてない?


「神の使いってもんだから、その見た目で500歳とか言うもんだと思ってたんだが」


「はぁ? 何を勘違いしているのかは知りませんが、神も神の使いも寿命は人と同じくらいですし、ちょっと特別な力を持ってるだけで万能ではないのです」


「じゃあ、1世紀ごとに世代交代する感じなのか。ん? 神の子どもってどうやって産まれるんだ? 細胞分裂?」


 まず、神の世界には神と神の使いの2人だけなのだろうか?

 そんなことを考えながら橘の顔を見ると、橘は顔を真っ赤にしていた。


「そ、それも人と一緒です……。神も1人ではなく、人と同じようにたくさんの神がいて、好きな神と結婚して、そ、その普通の人と同じようにせ……せっ……」


 橘は急に黙り顔を下げ、プルプルと震えている。


「橘さーん?どうかしま――ぶっあっ⁈」


 気がつけば体が浮いていた。

 橘の強烈なパンチが僕の顔へと飛んできたのだ。

 僕はそのまま1回転、2回転と宙に舞い地面に叩きつけられる。


「り、陸さんはなんて事を言わせようとしてるんですか! 変態! スケベ! 顔面草食系の中身肉食系男子!」


 橘は顔を真っ赤にしながら涙目で怒鳴る。


「勝手に言おうとしたのはそっちだろ! 人間と同じで伝わるんだよ!」


 僕も体を起こしながら怒鳴る。

 昨日も思ったが、あの細腕のどこに男子高校生を吹っ飛ばす力があるのだろう……。


「はぁ……。そういえば、橘の役目ってなんなんだ?」


 僕は未だに痛む頰をさすりながら橘へと質問する。

 橘が僕の目の前に現れたのは何故だろうか。ただ、僕に死を伝えるのが役目なのか、それともよく漫画で見る恋をサポートする役目なのだろうか、とふと思った。


「神の身の回りの世話ですかね」


 どうやら言葉足らずだったらしく、橘は僕の質問の意味を勘違いしている。


「あぁ、ごめん。なぜ橘がこの世界に来たのかを聞こうとしたんだ」


 橘は「むぅ」と頰を膨らませる。


「それは陸さんの監視ですよ」


「監視?」


 考えてもなかった答えだ。


「ええ。寿命を知った陸さんがやけになって悪い事をしないようにです」


「あぁ、なるほど。悪い事をしようとすれば、実力行使で止めるわけか」


「何を言ってるのですか? か弱い女の子にそんなこと出来るわけがないでしょう?」


「ははっ、か弱いとかどの――おわっ⁈」


 いきなり橘の拳が飛んできが、今回は避けれた。


「むっ、避けられましたか……。まぁ、物は試し、ここは1つ私を叩いてみてください」


「いきなり殴れとかお前はMか、よっ」


 また拳が飛んできたが再び避けた。

 威力はおかしいが拳の速さは遅いため、不意打ちではない限りは避けれる。


「むむむっ。私はMじゃないです。それにどうせ陸さんは私を叩けませんから」


 橘はパンチを避けられたのが腹に立っているのか、軽く挑発をしてくる。


 「じゃあ、本当に叩いてもいいんだな?」


 「いいですよ。ちゃんと叩くつもりでやって下さいね」


 橘は手を腰につけ、ノーガードで僕を見る。

 しかし、昨日の宙に浮く発言があれだったからか僕は少し躊躇ってしまう。


「どうしました? いつでもいいですよ?」


 なかなか行動に移さない僕を橘は不思議そうな顔で見る。

 正直に言うと、僕は人を傷つけるのが怖い。

 それに神の使いといへど橘は女だ。

 軽く叩くにしても、女性に手を出すのは男としてどうかと思う。

 どうしようか……。

 少し悩んだ末、僕は橘の頭を撫でる気持ちで手を橘の頭に近づけた。


「……何をしているのですか?」


「……いや、僕もなんでこうなったのやら……」


 気が付けば橘の頭を撫でていた。


「誰が撫でろと言ったのですか! 叩けと言ったのです!」


「あぁ! もう分かったよ!」


 僕は撫でるのをやめ、腕を振り上げ拳を橘の頭に向かって(一応ゆっくりと)振り下ろす。

 しかし、僕の手は橘の頭から5cmくらいのところで止まった。

 更に力をいれ、橘の頭に拳を持っていこうとするがピクリとも動かない。


「おぉ! すげぇ!」


「ふふん。凄いでしょ」


 橘は満足気に得意顔をしながら言う。

 昨日のことがあったからか、僕も少し感動してしまった。


「じゃあ、今なら宙に浮けるんじゃないのか?」


 橘は急に固まった。

 その顔から冷や汗がだらだらと流れている。

 数秒の静寂のあと、ピッコン、と僕の携帯の着信音が鳴った。

 確認をすると宛先ははっちゃんからだ。

 なんだろう?と思いながらメールを開いてみる。


『今の私は、こうして誰かのふりをして陸さんに情報を送る事と、陸さんの動きを制限することしか出来ないのです……』


 僕は冷たい視線を橘に送りつける。


「仕方ないじゃないですか! まさか、人の体に入ったら能力が制限されるなんて思ってなかったんですよ!」


 その時、橘の腹から凄い音がなった。

 橘はみるみるうちに顔が真っ赤になっていく。


「そういえば昼飯まだだったな。聞きたいことは聞けたし、今日はもう帰るか」


 僕が帰ろうとすると、腕に何かが引っかかる。

 橘が僕の上着の袖を引っ張っていた。

 彼女は耳まで赤くし、涙目かつ泣きそうな声で言う。


「あ、あのぅ……。恥ずかしながら、ご飯を少しだけでいいので恵んでもらえないでしょうか……」


 そんな事を言う神の使いに僕はただただ、哀れみの視線を送り続けることしか出来なかった。

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