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「スイカ割り」

 午後の3時を過ぎたあたりだろうか。

 今、僕たちいつもの8人は、泥団子を作って遊んでいる。

 なぜこんな状況になっているかというと、橘が浜辺の砂で泥団子を作り出したのがことの始まりだった。


 1番初めに橘が泥団子を作っている事に気付いたのは僕だった。

 みんなから少し離れた場所でうずくまっている彼女を見たときは、まさか体調が悪いのか? と心配したり、それともカニかヤドカリでも見ているのだろうか? などと思ったりはしたが、まさか泥団子を作っているとはこれっぽっちも思いもしなかった。

 橘がそれを作っていると分かった時、即座に頭にへと浮かんだのは、懐かしいなぁ、という想いだった。

 きっと、最後に泥団子を作ったのは小学校の低学年あたりだ。


「綺麗でしょう。小さいときによく作りましたからね」


 僕に見られている事に気付いた橘は得意げな表情をして言った。

 確かに彼女の作った泥団子はとても美しい球体型をしていて、あんな表情を見せるのも頷けるほどの出来だった。

 それを見て、今の僕が作ればどれ程のものが出来るだろうか……なんて好奇心や、まだ残っていた少年心のようなものがくすぶられ、僕も足元にあった濡れている砂を手に取る。


「陸さんも作るんですか?」


「あぁ、僕も幼いときによく作っていた質だからな。年季の違いってものをみせてやるよ」


 そう、ちょっとした見栄を張って言ったものの、橘ほどの綺麗な泥団子を作れる自信は一切なかったし、実際に作ってみると幼かったころよりも綺麗には作れたが、やはり橘の物よりも格段に綺麗さは劣っていた。

 橘は僕の作った泥団子を見て、何も言わず、ただ勝ったと言わんばかりの顔を押し付ける。


「一応言っとくけど、時間さえかければ絶対にお前のよりも綺麗なものを作れるから」


 今にして思えばなんともみっともない負け惜しみだろうか。

 しかし、それを僕は口にしてしまったのだ。

 たかが遊び、たかが泥団子。橘に何を言われようと笑い飛ばして終わるはずだったが、あまりにもあの勝ったと言わんばかりの顔にムカついてしまった。

 さっきの言葉がさらに彼女を調子づかせることなど容易に想像できたはずなのに。


「確かに時間さえかければ綺麗なものは作れますね。まぁ、それでも私はぁ、陸さんと同じ時間をかけてぇ、陸さん以上に綺麗なものを作れますがぁ?」


 そう言って橘は、先ほど僕が作った時間と同じくらいの時間をかけ、僕が先ほど作ったものよりも綺麗な泥団子を作った。

 自分で言ったことをそのまま実行した彼女は、これ見よがしにそれを僕の目の前にへと差し出す。

 なんとも分かりやすい完全な挑発だった。


「やってやろうじゃねぇかこの野郎!」


 こうして、しばらくの間、橘と2人で泥団子を作り、綺麗さを競い合い、無駄な争いを繰り広げた。

 そして、次にそこへ声を掛けてきたのは瑞稀さんだった。


「わあ、懐かしいね」


 泥団子を作っている僕たちを見ての瑞稀さんの第一声はそれだった。やっぱりみんな思うことは同じなのか、彼女の言葉は僕が泥団子を作っている橘を見たときに思ったことそのままだった。


「瑞稀さんも一緒にどうですか?」


 橘のその誘いに、瑞稀さんは元気よく頷いた。


 そこからあとはそれの繰り返し。

 僕たちが泥団子を作っているところに、何をしているのかと誰かが見に来て、それを取り込む。

 そうして今のような状況に至る、というわけだ。

 朝から遊び通しだった為かみんなの顔には少々疲労の色が表れていた。

 きっと、泳いだりビーチバレーをしたりする元気はもうないのだろう。

 こうして、座って砂を丸めるのが体力的にちょうどいいのかもしれない。


「そろそろ頃合いだな……」


 はっちゃんが突然呟くように言った。

 きっと彼の近くにいた僕にしかその声は聞こえていない。

 それぐらいの声の大きさだった。


「頃合いって……何が?」


 僕の質問にはっちゃんは、ふっ、と軽く鼻で笑う。


「まぁ、待ってろって。すぐに分かるさ」


 そう言って彼は作りかけの泥団子を置いて、みんなの輪からこっそりと抜けていった。


「またあいつは何か企んでやがるのか」


 晴矢は僕に近づき言った。

 その手には歪な形をした泥団子……もとい、もはやただの砂の塊を持っている。


「晴矢ってかなり不器用な方だよな」


「うるせぇ」


 笑いながら言った僕に対し、晴矢は手に持っていた砂の塊を投げつけた。

 晴矢の手から放たれたそれは途中で空中分解し、少量の砂が僕の体に当たった。


「まさか固まってさえなかったとは……」


「力加減が分からねぇんだよ」


「いや、普通に両手で握り込んでいけば固まるだろ」


「普通に握りこめば崩れるだろうが」


「それは力の入れすぎなんだって。だったら自分が少し弱いかなと思うぐらいの力でやれよ」


「少し弱いぐらいの力じゃあ固まらねぇだろうが」


「それなら…………ごめん、もう言葉が出てこないや。これくらい誰でも出来るもんだと思うんだけど……相当な不器用なんだな」


「あー、はいはい。器用なお前には俺の気持ちなんて分からねぇだろうよ」


 俺だって時間さえかけりゃあ、とどこぞで聞いたことのある言葉を吐きながら晴矢は僕から顔を背け、再び砂を手に取り丸め始めた。


「みんなー! ちゅーもーくー!」


 そうこうしているうちに準備が終わったのか、はっちゃんは大きな声を上げながら僕らのところにへと戻ってくる。

 右手にはタオル、右肩には大きなクーラーボックスを提げ、左手には海の家の土産屋で売っていた木刀を握りしめていた。

 それを見て僕は、なんとなく彼がやろうとしていることを察した。


「まさか……」


「そのまさかだ……じゃじゃ〜ん!」


 はっちゃんが嬉々としてクーラーボックスの中から取り出したのは大玉のスイカだった。

 それを見たみんなから軽い歓声が上がる。

 

「ちゃんと調べていいやつを選んできたぜい!」


「へぇ。ちなみにどこがどうだったらいいやつなんだ?」


「サイトによっては少しの違いはあるが、大体共通して言えるのは、縞模様がハッキリとしているもの。底の窪みが5円玉サイズのもの。叩いたらボンボン、って感じの澄んだ音がするものだな」


 そう言って実際にはっちゃんは、スイカをノックするように数回叩く。

 そして、ボンボン、という例え通りの音がスイカから鳴った。

 

「いいスイカ以外からはどんな音が鳴るんだ?」


「これよりも高い音が鳴るんだ。熟れすぎていたら逆に低く重たい音がなるみたいなんだけど……」


「なんだか自信なさげだが、ちゃんと音の聞き分けは出来てるんだろうな?」


 晴矢は苦笑しながら言った。


「高い音との違いは分かったんだけれど、いいやつと熟れすぎているやつとの違いは正直分からなかったぜ。まぁ、これは八百屋のおいちゃんと一緒に選んだやつだから安心してくれ」


 そこではっちゃんは一度強く手を叩き、大きく息を吸い込んだ。そして――


「さぁ、夏の風物詩、スイカ割りをやっていこうぜ!」


 そう声高らかに笑顔で宣言したのだった。






 僕たちの目の前を、目隠しをしている薊が千鳥足で歩いている。

 

「もう少し右ー!」


「左だよー!」


「右斜め前でーすっ!」


 そんな薊に向かって各々がそれぞれ自由に言いたいことを叫んでいた。

 ちょうど僕たちとスイカの間くらいの位置に薊はいる。

 彼女は時折なんらかの言葉を発しているが、はっきりとは僕たちには届かない。

 多分、このまま進んで大丈夫なのか? 的な事を言っていると思う。

 指示側も指示側で、みんながみんな同じことを言えばいいのだが、わざと嘘のことを言ったり、指示側の立ち位置の場所の違いにより、同じ場所を指していても言葉に少しばかりの違いが出たりと、みんなバラバラのことを言っていた。

 まぁ、薊の言葉が僕たちに届いていないように、あっちにも僕たちの言葉は、はっきりとは届いていないかもしれないから、バラバラの事を言おうが同じ事を言おうが、大した違いは無いのかもしれないけど。


 薊はスイカから少し外れた位置で木刀を振り上げ、何もないところにそれを振り下ろした。

 彼女は目隠し用のタオルを外し、僕たちの元にへと戻ってくる。


「ウチは聖徳太子やないけん、いっぺんにようけ喋られてもよう聞きとれんよ」


 戻ってきた薊は笑いながら僕たちにへと言った。

 外れはしたけど、彼女は楽しそうだった。


「次は私だね」


 瑞稀さんは張り切った様子でそう言って、薊から目隠し用のタオルを受け取った。

 そしてそれを付け、木刀を軸に体を回し始める。


「いーち、にーい、さーんっ――」


 このスイカ割りのルールを決めたのは、スイカを持ってきたはっちゃんだ。

 ルールといってもそう大したものではないが、まずはタオルで目隠しをし、ぐるぐるバットの要領で木刀の周りを十秒間回る。

 これは、スイカの位置を覚えてまっすぐ歩かれるのを防止してのことだそうだ。

 あとは、順番をスムーズに回せるように1人一振りで交代にしよう、というもの。

 順番はジャンケンで決め、薊、瑞稀さん、はっちゃん、僕、日光、楓、晴矢、橘の流れとなっている。


「――きゅーう、じゅう! っとと」

 

 ぐるぐるバットを回り終えた瑞稀さんは、軽くよろめいたがすぐに体勢を整えた。

 僕たちは瑞稀さんが止まったのを合図に、先ほどと同じように言葉でスイカの方に彼女を誘導していく。

 前が見えないためか、それとも、みんなの言葉が混ざり合ってよく聞こえていないのか、彼女は慎重に歩みを進める。


 瑞稀さんがスイカ割りを始めてしばらくして、僕はある事に気付いた。

 彼女は今、スイカから少し逸れた右の辺りに向けて移動している。


「瑞稀さん少し左に!」


 僕がそう言うと、瑞稀さんはすぐに少し左に歩く位置を修正した。

 勿論、僕だけが言葉を発しているわけではなく、他の人も言葉を発している。


「もう少しだけ左!」


 今度は敢えて、みんなが言っている方向と逆、つまりスイカから離れた位置に向けて歩くように僕は言った。

 またもやも瑞稀さんは、すぐに左の方にへと歩く。

 みんなの声を聞き分ける事が出来なかった薊とは違い、どうやら僕の言葉は聞きとれているみたいだった。


「右に2歩……ストップ!」


 瑞稀さんはスイカの目の前に立った。

 僕たちはみんな一斉に目の前のスイカを叩くよう指示を出す。

 瑞稀さんは木刀を振り上げ、それを勢いよく振り下ろした。

 彼女は目隠しを外し、僕たちの元にへと帰ってくる。

 スイカの方は……外してしまったのか、先ほどとなんら変わり映えのない姿で砂の上に鎮座していた。


「う〜ん、思いっきり叩いたんだけどなぁ……スイカって思ってたよりも硬いね」


 戻ってきた瑞稀さんは人差し指で頬を掻きながら、苦笑して言った。

 スイカを叩く事には成功したみたいだったが、力及ばず割る事は出来なかったらしい。


「でも、スイカのところまで行けたんはすごいなぁ。みんなの声を聞きとるの難しいはずやのに」


 唯一、スイカのところまで辿り着く事の難しさを知っている薊は、感心したような声でそう言った。


「陸の声にだけ凄く反応していたよね。陸が嘘をついてみんなとは逆の方に指示した時も、すぐにその指示に従っていたし」


「えっ、あっ……」


 楓の言葉に対し、瑞稀さんは何やら焦った様子で僕の方にチラチラと視線を送る。

 

「あ、あの、その……」


 瑞稀さんは視線をあっちに行ったりこっちに行ったりと激しく泳がせ、言葉を詰まらせながら、身振りで僕に何かを伝えようとする。

 しかし、彼女が何を伝えたいか、残念ながら僕には何一つとして伝わらない。


「人によって聞き取りやすい音があるからな。多分、水仙さんにとって、この中で1番陸の声が聞き取りやすい音だった、っていうことだろ」


 晴矢はそう言ってから僕に向け「良かったな」という風な視線を送ってきた。

 好きな人にとっての聞き取りやすい声……そう思うと、今まで気にしたこともなかった、これと言った特徴の無い自分の声が特別なものに思え、なんだか嬉しい気がした。


「そ、そうなの! りっくんの言葉が1番聞き取りやすかったからそれに従っただけで……そんな事より、つ、次にいこうよ! はいっ、翔君!」


 瑞稀さんは手に持っていたタオルと木刀をはっちゃんにへと渡そうと、彼にそれらを差し出す。

 はっちゃんは木刀を受け取り、タオルも受け取ろうとするが……。


「ちょっと待った」


 晴矢がはっちゃんの手を掴み、自分が持っていたタオルを彼の手に置いた。


「今、水仙さんが持っているタオルを女の子用、俺が持ってきたタオルを男用にするぞ。そうしないと、またお前は何か良からぬことをしでかしそうだからな。さっきまで女の子の目を覆っていたタオルだー、とかなんとか言って」


「えっ、何? はるちゃんの中の俺って、現実の俺をも超越しているド変態かなにかなの? それにその理論だと、さっきまで女の子たちが握っていた木刀も危険になりますが?」


「おっ、そうだな。じゃあ素手でいけ」


「アホか⁈ 木刀で割れねぇものが素手で割れるわけねぇだろうが! スイカ割りならぬ拳割りになるわ!」


「上手いことを言った風な顔をしているが、そこまで面白くなかったぞ」


「そういう事は一々言わなくていいんだよ! ったく……タオルは、はるちゃんのを使うから木刀ぐらいは勘弁してくれよ」


 そう言いながらはっちゃんは晴矢のタオルを使って目隠しをする。

 そして、彼は木刀に頭を付け、ぐるぐるバットをする構えをとった。


「ん?」


「どうした?」


 急に疑問の声を上げた僕に、晴矢は声をかけた。

 僕はなんだか嫌な予感がしていたが、「……いや、なんでもない」と晴矢に返した。

 はっちゃんが目隠しをし、頭を下に下げた際、一瞬、悪意に満ちた表情でニヤリと笑った気がしたが…………きっと気のせいだろう……。

 そう僕は、ぐるぐるバットをしているはっちゃんを見ながら自分に言い聞かせた。





 俺は突き立てた木刀の頭を額に当て、木刀を軸にして体を回している。


 とうとうここまで来た……。


 あまりの悦びに顔が綻んでしまい、普段の表情が保てないのが自分でも分かった。

 幸い、今は顔を下に向けているし、タオルで顔半分は隠れているため、俺のこの表情が見られる心配はないだろう。

 そして、俺の考えている事もバレることはない筈。


 俺はスイカを割ることなど眼中になかった。

 俺の真の目的……それは、事故を演出し女の子の体に触れる事!


 今、みんなは俺を中心に半円を描くように立っている。

 そう俺が指示したからだ。

 ぐるぐるバットをしている最中に知らない人とぶつかるのを避けるためのガードとして、とみんなには説明したが、それは単なる建前。

 本当の狙いは、誰がどこに立とうとも、事故を演出してぶつかる事の出来る範囲に立ってもらう為だった。

 

 あぁ、もうそろそろだ……。


 少し先の未来では、女の子に触れていると思うと胸のときめきが止まらなかった。

 狙うターゲットはにっちゃんだ。

 親友の好きな人であるみずっちゃんは絶対に駄目で、あっちゃんみたいな真面目な子にやるのはなんだか可哀想だし、たっちゃんといっちゃんはロリ体型でちょっと自分の好みではないので、消去法でこうなった。


「――きゅーうっ、じゅうっ! おぉっ」


 俺は止まった瞬間にわざと軽くふらついた。

 後の事故の演出を本当の事故だと信じこませるためだ。

 あとは、この暗闇の中でみんなの立ち位置を照らす光明を待つのみ。


「はっちゃん、そのまま直進」


 刺した光明。右斜め後ろから聞こえるゆっちゃんの声。

 俺は瞬時に目隠しをする前のみんなの配置を思い出す。

 たしか、にっちゃんはゆっちゃんの左隣にいた筈だ。

 つまり今、俺の真後ろにはにっちゃんがいるということ。

 やるなら今しかない! 止まって数秒と経ってないここが勝負どころ!


「あーっ! 目が回って足がもつれっちまったー!」


 そう言いながら俺は、人の気配を感じる真後ろに向けて跳んだ。これでもかってくらいに全力で跳んだ。そう、跳んだのだ。

 明らかに足がもつれた人間の動きじゃないことくらい自分でも重々承知だった。

 本当は足がもつれた演技を本気でする気だったが、つい心が体を追い越してしまい、跳んでしまったのだ。

 さっきのセリフも中々の棒読みだったし、止まった瞬間に軽くふらついたのも台無しになってしまった。

 まぁ、俺のことだ。どれだけ完璧な演技をしたところで「ワザとだ」とか「確信犯だ」と非難の的にさらされることはなんとなく分かっていた。

 それでも、確信犯だとなんだと罵られようが、あのグラマーなボディに当たることが出来るというのなら悔いはなかった。

 それに、にっちゃんの俺に対する元々の好感度なんて0に等しい。

 その0がマイナスになったところで俺に大差はねぇんだよ!


 体が何かに当たった。

 ふにっ、とか。

 ぽよんっ、とか。

 ムニュッ、とか。

 そういった期待していた感触とは程遠い、ゴツッ、とした感触。

 一瞬、いっちゃんかたっちゃんの体に当たったのかもしれないっていう希望的観測が頭をよぎったが、いくらなんでも固すぎるとその考えを即座に捨てた。というより、女の子の体がこんなにも固いと思いたくなかった。

 とりあえず、木刀を持っていない方の手でいたるところを確認する。

 うん……これは間違いなく男の体だ。

 そしてこのサイズ感は……きっとはるちゃん。


「ベタベタ触るな。気持ち悪い」


 今この瞬間に「きっと」という言葉は「間違いなく」という言葉に変わった。

 おおっと、なんだか目から水が溢れてきたぜい。涙だね。

 足の震えも止まらない。

 俺は怯えた子鹿のように、はるちゃんから体を離す。


 なぜだ? どうして?


 今の状況をなんとなしに理解し、俺の頭はすぐに混乱状態にへと陥る。


 俺の記憶間違い? それとも跳ぶ位置を間違えた? いや、それはない筈だ。


 にっちゃんが立っていた位置にはるちゃんが移動していた。

 つまりは俺の作戦がバレていたという事になる。


 またか……また俺は何も得れずに制裁だけを…………いや、まだだ……。


 まだ先ほどの俺の行為が、悪意ある行為だとは指摘されていない。

 このままそれとなくスイカ割りを続行すれば案外いけるかもしれない。

 もし指摘されたとしても、一応止まった瞬間に軽くふらついていたし、それを言い張ってあれは本当の事故だったという事にすればいいんだ。

 そう、あれはただの事故。

 足がもつれただけの不幸な事故。

 何より俺は女の子の体に触れてない。

 カッチカチの男の体に触れただけ。

 このままで俺の夢を終わらせるわけにはいかない。

 俺はまだやり直せる。

 1巡目は失敗に終わったが2巡目には絶対に成功させてみせる。


 俺は何も言わない。

 誰も言葉を発さない。

 タオルで目隠しをしていて暗闇の中にいる筈なのに、みんなの視線が俺に集中していることが痛いほど分かった。

 俺はそれさえも無視し、スイカ割りを続行する為に真後ろを振り返る。


「さて……と……」


 本心では諦めがついていたのか、自分でも驚くくらいの涙交じりの声が出た。

 俺はそれを誤魔化すためにすぐに咳払いをする。

 もう色々と手遅れなのは充分過ぎるほど分かっていた。

 それでも俺は諦めたくはなかったのだ。

 そんな往生際の悪い俺は最後の抵抗をするべく、息を大きく吸い、張り上げた声を出す。


「さぁ、みんな! 俺をスイカの元に案内してくれい!」

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