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「肩重い」

「いやぁ〜、この梅干しはうめぇ〜なぁ〜」


 …………本日二度目の冷めた空気を、僕は感じている。

 晴矢が再び出した[ドベは自分が1番面白いと思う駄洒落を言う]という罰ゲームが僕を再び直撃したのだ。

 前回の失敗を踏まえ、今回は自信を持ってはっきりと言い、身振りまで付けたというのに前回と結果は変わらなかった。

 僕はみんなと目を合わせようとするが、みんなは僕から目を逸らし続ける。

 前回は羞恥が僕を襲ったが、今回は悲しみが僕を襲う。涙が出てしまいそうだ。


「さ、さあって、それじゃあ次のゲームといこうぜ」


 はっちゃんはこの冷めた空気を切り替えるため、トランプをシャッフルし、みんなへとカードを配り始める。


 結局、はっちゃんのイカサマが発覚した後もゲームは続いていた。

 やはり、1度遊び始めてしまうと簡単には勉強へと戻れなかった。

 現在、はっちゃんがイカサマで使用していた戸棚のガラス部分は、布を被せて見えないようにしている。


「そういやぁ、罰ゲームをまだ決めてないな」


 カードを配られてから晴矢が気付いた。

 前回の1位は楓だったから楓が決めなければならない。


「うーん、そうだね……1位がドベの肩を1分間揉むのはどうかな?」


 楓が提案した罰ゲームに対し、僕たち男は大丈夫の反応を返す。

 しかし、僕たち男が1位になり女子達がドベになったら、体に触れてしまうことになるので女子達からは反対されるのでは? と思ったが女子達もみんな軽く了承した。


「なぁ、ゆっちゃん……ゆっちゃんは今強いカードを持っているから肩揉みしなくちゃならならないぜ?」


「それは嫌だな」


 多分、はっちゃんは僕が女子の肩を揉むのをさせたくないであろうから本当の事を言っていると思う。

 それに今回は1位の人間が罰ゲームで、ドベにとってはご褒美みたいなものだ。

 強いカードなんて持っていても何のメリットもないため、僕はカードを捨てようとする。


「ストップストップ! 陸さんストップです!」


 しかし、カードを捨てようとした僕を橘が一生懸命に止めた。


「なんだよ?」


「陸さんの今持ってるカードはジョーカーです」


「だったら尚更捨てたいんだけど……」


「翔さんのカードを見てください! 翔さんのカードはAです! 陸さんが捨てたら翔さんが肩揉みする事になるんですよ⁈」


 むっ……確かにそれは危険だ。

 僕はカードを交換するのを止める。


「翔さんが1位になったら『あっ、手が滑った〜』とか言いながら絶対に胸を触って来ますよ!」


「流石の俺でもそんなことしねぇよ⁈…………え? なんでみんなそんな『やりそう……』みたいな目で見てくんの? やらないよ?」


 今までの行いや、さっきのポッキーゲームの件もあってか、みんなは冷めた目ではっちゃんを見ていた。


「だー! くそぉ! こうなったら何としてでもドベになってゆっちゃんに肩揉んでもらうもんね!」


 そう言いながらはっちゃんはカードを交換し始める。

 はっちゃんがAを捨てて弱いカードになってくれれば、僕がジョーカーを持つ理由もなくなるので僕は黙って見守る。

 しかし、はっちゃんが引いた2枚目もA。


「はっちゃん、またAだぜ」


 はっちゃんは僕に言われ再びカードを変える。

 そして、3枚目もAだった。


「貴方ポッキーゲームの時といい、運はいいわね。まぁ、これで結果1位は銘雪になったようなものね。でも、八手に揉まれるよりはマシだけど銘雪に揉まれるのもちょっと……」


 日光はそう言うと僕の方を見ながら嫌そうな顔をする。


「安心しなよ紅葉君。紅葉君のカードは強いから大丈夫だよ」


「そう」


 日光はすぐさまカードを交換した。


「なんで交換したのさ⁈」


「あら? 本当に強かったのね。私を落とすための嘘だと思ったわ。本当のことを言ってくれていたお礼に公孫樹のカードを教えてあげる。Qよ」


「へぇ……」


 楓はすぐさまカードを交換した。


「なんでよ⁈」


「いやぁ、ボクが本当の事を言ったからって紅葉君が本当の事を言うとは限らないし……」


 楓と日光は睨み合っている。

 2人ともそんな本気になるほど僕に肩を揉まれるのが嫌なのだろうか。

 かなり傷付く……。


「今、私が見たところで1番弱いのは委員長さんですね」


 橘にそう言われ、薊は僕のことをちらちら見ながら戸惑う。

 橘の言葉を嘘だと思っているのだろうか。


「薊、橘が言ってる事は本当だ」


 僕は薊に本当の事を言う。

 しかし、薊は何故か中々カードを交換しようとしない。


「もしかして、貴方……銘雪にマッサージされたいの?」


「そ、そそそそんなわけないやん!」


 薊は日光の言葉に対し、顔を赤くし、かなり焦りながらカードを交換した。

 あまりの動揺で素が出てしまっている。

 まぁ、へんな言いがかりを付けられれば、あれだけ焦るのも無理はないだろう。


「薊がカードを交換したって事は……橘、お前が1番弱いぞ」


「うっわ……最悪です……」


 橘は何のためらいもなく、すぐさまカードを交換した。


「そんなに僕に肩を揉まれるのが嫌なのか」


「はは……私は日頃の恨みで肩を砕かれかねないので……」


「そんなことできねぇよ」


 僕は苦笑いをしながら言った。

 握力的にもできないが、橘は神の使いであるため、不思議な力で守られているので僕は彼女に危害を加えられない。


「陸、俺のカードはなんだ?」


 今まで黙っていた晴矢が急に僕へと聞いてきた。


「晴矢は8だけど」


「8か……なら今1番弱いのは水仙さんってことか」


「え、わ、私?」


 晴矢の言葉に瑞稀さんは戸惑った反応をする。

 そして、僕の方をちらりと見たあと、カードを捨てた。

 そりゃあ、罰ゲームで男に体を触れられるのは嫌という気持ちは分かるが……好きな人に避けられるというのは、やはり少し凹む。


「はぁ……やっぱりみんな僕に肩なんか揉まれたくはないよな……」


 僕はついついそんな言葉を漏らしてしまった。


「そ、そんなことはないよ!」


 しかし、僕の言葉に対し瑞稀さんはすぐに反論する。

 咄嗟に出たものなのか、瑞稀さんは顔を赤らめ口を手で覆い隠した。


「へぇ……じゃあ、瑞稀君が新しく手に入ったカードは最弱の2だけど、交換はしないんだね?」


 楓は悪戯な笑みを浮かべて言った。

 楓は嘘を言っておらず、瑞稀さんのカードは最弱の2。

 このまま瑞稀さんがカードを交換しなければ瑞稀さんのドベは確定してしまう。

 さっき、瑞稀さんはそんなことはないと言ってくれたが……きっとあれは優しさで言ってくれたものだろう。

 そうでなければ、先程のようにカードをすぐに交換するような事はしないだろうしな……。


「瑞稀さん、楓の言ってる事は本当だ。僕は別に避けられても気にしないし、さっきの言葉でもう充分だから、カードを交換してもいいよ」


 僕の言葉に瑞稀さんは首を横に振る。


「私は交換しないよ。さっきはその……体に触れられるのが恥ずかしかったから交換しただけであって……今はその……肩が凝っているからマッサージして欲しいな」


「肩が凝る……って、瑞稀、貴女はそんなに大したもの付いていないじゃない」

 

「も、紅葉ちゃん⁈ そ、そりゃあ大したものは付いていないかもしれないけど、家事とか手伝いとかで肩が凝ってるのは本当なんだよ⁈」


 瑞稀さんは顔を赤らめたまま頰を膨らませて言った。


「それじゃあ、もう誰もカードの交換はしないって事でいいんだな」


 はっちゃんの言葉にみんなは頷く。

 そして、カードを公開した。

 僕のカードはジョーカー。

 そしてドベは2のカードの瑞稀さんだ。


「ドベはみずっちゃんで1位はゆっちゃんだな。それじゃあ、罰ゲームの方どうぞ」


 はっちゃんに言われ、瑞稀さんは僕の元へとやってくる。

 僕の隣に座っていた晴矢が瑞稀さんへと席を譲る。

 瑞稀さんは僕へ背中を向けて座った。


「その……よろしくお願いします……」


「え、あ、あぁ。こちらこそよろしくお願いします……」


 お互いに緊張しているためか、どちらともよそよそしい態度になってしまう。

 とりあえず、何もしないと始まらないため僕は瑞稀さんの肩に触れることにする。


「そ、それじゃあ……失礼します」


「どっ、どうぞ……」


 僕は瑞稀さんの肩に触れる。

 僕が瑞稀さんの体に触れた瞬間、瑞稀さんはビクッと体を震わせた。

 触れた肩はとても小さくて弱々しく、力強く握ってしまえば壊れるのではないかという印象を僕に受けさせる。

 僕は軽く瑞稀さんの肩を揉んだ。


「ひぅっ……」


「ごめん痛かった⁈」 


 僕は咄嗟に瑞稀さんの肩から手を離す。


「だ、大丈夫……少しくすぐったかっただけ……続けて……」


 僕は瑞稀さんにそう言われ、再び肩に手を置く。

 そして、先程よりも更に弱い力で肩を揉んだ。


「うっ………………あっ…………んっ!…………ふぁ…………ぁんっ……」


 肩を揉むたびに瑞稀さんが声を漏らす。

 正直なところ今すぐにでもやめてしまいたいのだが、しかしこれは罰ゲームなので止める事は出来ない。

 僕は早くこの時間が終わる事を願いながらも肩を揉み続けた。





「しゅーりょー!」


 携帯電話のタイマーがなり、楓が罰ゲームの終わりを告げる。

 時間は1分間だけのはずだったのに、僕にはその1分間がとてつもない長さに感じた。


「んー……りっくんありがとうね。なんだか肩が軽くなった感じがするよ」


「ど、どうも……」


 艶々で元気そうな瑞稀さんとは違い、僕はかなりの疲れを感じている。


 なんでだろう……何か取り返しのつかないことをしてしまった気がする……。

 なんだかはっきりとは分からないとてつもない罪悪感を僕を襲っていた。

 今まではっちゃんの色々な企みを阻止しておきながら僕は……。


「はっちゃん……なんか、その……ごめん……」


「え? 何? なんで俺謝られてんの?」


 はっちゃんは僕の急な謝罪に戸惑いを見せる。


「はいはい。罰ゲームが終わった事だし、次の罰ゲームもさっさと決めようぜ」


 晴矢にそう言われ僕は自分が1位だった事を思い出す。

 今日は十何戦しているにも関わらず、初めて1位になった。

 いつもの3人の時は馬鹿みたいな罰ゲームにしているのだが……今日は女子達がいるしな…………そうだ。

 

「罰ゲームは、ドベだったやつが自分が1番面白いと思う駄洒落を言う、で!」


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