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「勉強会」

 順位表の見せ合いも終わり、僕達は勉強に取り掛かっていた。

 僕は苦手な英語を勉強している。

 英語は中学の出始めからいきなり躓いてしまい、今も苦手なままだ。

 この日本文を英語に直せと言われても、文法どころか単語さえも出てこない。

 答えを見ても、え? こんな単語いつの間に習ったの? となる。

 しかも似ている綴りや似ている発音のもの、発音しないものもあれば前に違うアルファベットが付くことにより読み方が変わるものもあるため非常に覚えづらい。

 更には過去形やらなんやらで形が変わるものもあるし……あぁ、僕は日本人なのになぜ英語なんか……。

  

「銘雪、そこの綴り間違ってる。それはRじゃなくてLよ。それだと草になってしまうわ。グラスじゃなくてグラスよ」


 目の前を座っている日光が僕の解いている問題集を見ながら言ってきた。

 確か日光は英語の点数が高かったっけ。

 それなら間違いはないだろう。


「なるほど。グラスね」


「違うわ。グラスよ」


「グラスか?」


「グラス」


「グラス」


「……貴方私を馬鹿にしてるでしょ?」


「してねぇよ!」


 なんかあれだ。小学生の頃に音楽の先生に「ここはド〜の音ですよ」と指摘され一生懸命「ド〜」と言っていたのに「それはファ!」と怒られたのを思い出すな。


「はぁ……僕は海外に行こうなんて思ってないし別に英語を使う機会なんてないのに……」


 独りでに出てしまった僕の言葉を聞き、日光はむっとした表情をみせる。


「貴方が海外に行かなくても、沢山の外国人が日本に来るわ。どうせ貴方の事だから、もし、困っている外国人を見たら助けに行くでしょ?」


「うっ……助けようとはすると思うけど……でも、その時はその時だ。身振り手振りでなんとか」


「そんなの駄目よ。相手が何を言っているか理解できなきゃ助けようがないじゃない」


「そ、その時は相手も身振り手振りで一生懸命なにかを伝えようとしてくれるはずだから」


「身振り手振りじゃ理解できないこともあるの。それに相手も自分と同じ言葉を話せる人が助けに来たら安心するでしょ。道案内くらいは英語で出来るようにならないと。分からない所があれば私が教えてあげるから」


「わ、分かったよ……」


 僕がしぶしぶそう言うと、日光は軽い笑みを一瞬だけ浮かべ、再び自分の勉強へと取り掛かった。

 僕も再び勉強に取り掛かる。

 正直なところをいうと英語なんて殆ど分からないから今からでも色々と聞きたいのだが……。

 目の前を見ると一生懸命に勉強している日光の姿。

 日光は橘ほど悪くはないと言っていたが、順位表を見せなかったところから察するに結構悪い成績なのだろう。

 これ以上僕に時間をとらせるのは申し訳ない。


「この公式を覚えてその中に数字をぶち込んでやるだけだ。な、簡単だろ?」


「ほ、ほほう?」


 隣を見ると晴矢が橘に数学を教えていた。

 しかし、橘は晴矢の言っている事が理解できていないらしく頭の上にハテナマークが浮かんでいる。


「このxの絶対値は数直線上で実数xに対応している点と」


「ちょと待って下さい! 晴矢さん、私英語の点数もすこぶる悪いので日本語での説明でお願いしますっ!」


「俺、ずっと日本語で喋っていたんだが……」


 晴矢はどうしたものかと頭を抱える。

 橘は困っている晴矢の様子を見て申し訳ないと思っているのか、悲しげな表情をしながら俯く。

 そんな、晴矢と橘の間に1位の男が割って入ってきた。


「どこが分からねぇんだい、たっちゃん」


 はっちゃんの言葉に橘は数学の問題集の一部分を指差した。


「これは図を書いてやれば分かりやすいから、ここをこうして……ほらこの線とこの線の間がxって事だ。そしてさっきはるちゃんが言っていた公式でこのxを求めてやれば……」


「1<x<6……ですか……」


「正解!」


 ぱぁっと明るい笑顔見せる橘に対し、はっちゃんもそれに笑顔で応え、グッと親指を立てた。


「翔すまねぇな」


「別にいいってことよ」


 晴矢にもはっちゃんは笑顔を向ける。


「……本当に勉強は出来るんだね」


 その様子を見ながら楓が呟いた。


「うぇ……また俺馬鹿にされてる?」


「違うよ、褒めてるのさ」


「な……」


 はっちゃんは褒められ慣れていないためか顔を少し赤らめ楓から顔を逸らす。

 そして、逃げるように自分が元いた場所へと戻っていった。

 それを見てなんだかはっちゃんが不憫だと感じたが、僕はそれを言葉には出さなかった。

 

「あの……」


 不意に横から声を掛けられ、僕が声を掛けられた方を振り向くと、そこには日本史の教科書を持った瑞稀さんがいた。


「りっくんは前回の日本史の中間考査1位だったよね? その……年号とか出来事を覚えるコツとかってあるの?」


「えっ? こ、こつ?」


 突然思ってもなかったことを聞かれてしまい僕は戸惑ってしまう。


「あ、なっかったら別にいいの!」


 そんな僕を見て瑞稀さんも戸惑い始める。


「いや、あるよ。あるのにはあるんだけど……語呂合わせで年号と出来事をセットに覚える方法で……」


「どうしたの?」


 僕がたどたどしく話しているのを見て、瑞稀さんは首を傾げている。

 別に教えることに対しては何の抵抗もないのだが、ある疑問が僕の頭に浮かんでいた。


 瑞稀さんって誰かにコツを聞くくらい日本史の点数が悪かったっけ?


 さっき、順位表を見せ合った時にはっきりとは見ていないから分からないが、それでも普通に点数は良いほうだと思うのだが……。

 

「あれ? 瑞稀ちゃんは確か日本史の成績は良かったはずでは?」


 僕が疑問に思っていた事を薊は言葉に出した。

 その言葉に対して瑞稀さんは肩をビクらせる。


「あれ〜? 瑞稀君はもしかしてりっくんと喋りたいだけなんじゃないのかな〜」


 明らかに焦っている瑞稀さんに楓はニマニマした顔で追撃を行う。


「ふえぇ⁈ い、いや、全然違うよ⁈ りっくんと喋りたいとかじゃないから⁈ これはえっと……そう! 日本史は苦手じゃないけど覚えるのに時間がかかるから! 効率的に覚えるためだから!」


 顔を赤らめながらあたふたと瑞稀さんは弁明する。

 よからぬ誤解を生んでしまえばあんなに動揺するのも無理はないだろう。

 無理はないだろうけど……あそこまでがっつり否定されると期待していなくても傷付くものは傷付くな……。


「はぁ……歴史なんか学んだ所で今の私たちには関係無いし、使うべき所もないじゃないの。学ぶだけ無駄よ」


 日光は何気無い一人言のつもりで言ったのかもしれないが、僕はそれを聞き逃さなかった。


「な……歴史は大切なんだぞ! 今までの色々な人達の積み重ねてきた歴史があって今の僕たちの暮らしがあるんだ! それに間違いを起こしてしまったこともある……そんな事を繰り返さないためにも歴史は学ばないとダメなんだ!」


 いきなり僕が熱弁を振るい始めた事により、みんなは呆気に取られた表情をしていた。

 しかし、僕はそんな事など気にもせず言葉を続ける。


「それに今は奈良時代と平安時代あたりを勉強しているが、もう少し勉強すれば鎌倉、室町、安土桃山と入っていくだろ。戦国時代とか圧倒的な数の敵を知略によって逆転勝利したり江戸の幕末やら明治維新になると魅力的な人物たちがいたりと色々面白いぞ」


「話がズレて来てるわよ……それになんだか、今の必死な貴方の姿は凄く好きな事を馬鹿にされたオタクぽかったわ」


「陸はもしかして歴オタってやつかい?」


「うっ……」


 日光と楓に言われ、僕は先程の自分を思い返し、顔がみるみるうちに熱くなっていくのを感じた。


「瑞稀さん、そういえば日本史の覚えるコツを知りたがっていたよね!」


「う、うん」


 恥ずかしさから逃げるため、僕は席を立ち上がり、瑞稀さんと一緒に瑞稀さんの席へと移動する。


「さっき言った語呂合わせだけど……例えば有名なものだと、794年に平安京に都をうつした、鳴くよ(794)鶯、平安京とかあるよね。そんな感じで年号とか何があったかをセットで覚えるんだ」


 未だに顔が熱く、恥ずかしさが抜けきっていないためかついつい早口になってしまう。

 しかし、それでも瑞稀さんは僕の話を真剣に聞き頷いてくれる。


「えっと、確かテスト範囲は奈良、平安時代か……平城京に都を移したのは710年。だから、なんと(710)立派な平城京。日本最古の歴史書の古事記が出来たのは712年。だから、ナイフ(712)で編集した古事記。まぁ、これは本当にナイフで編集したわけではないんだけどね」


 僕がそう言い終わると、突然瑞稀さんが笑い出した。


「ど、どうしたの?」


「ごめんなさい。りっくんが余りにも楽しそうに教えてくれるから本当に歴史が好きなんだなぁって思って」


 瑞稀さんにそう言われ、せっかく収まりつつあった顔の火照りがぶり返した。

 そんな僕を見て瑞稀さんは慌てる。


「からかってるつもりはないんだよ。ただ、そんなになるほど好きになれるものがあるのがちょっぴり羨ましいなって思ったんだ」


 瑞稀さんは言い終わると少し寂し気に笑った。

 

「瑞稀さんは生物と化学が1位だったけど、それは好きだからじゃないの?」


 僕の質問に水仙さんは首を横へと振る。


「あれは好きというか得意って感じかなぁ。まぁ、今はそんな事よりも……」


 瑞稀さんは僕に、開いた日本史の教科書を差し出した。


「もっと教えて。りっくんが好きな日本史を。私も同じくらい好きに……は無理かもしれないけど、同じくらい理解できるように頑張るから」


 瑞稀さんは笑顔を向けてそう言った。

 僕もそれに対し、「あぁ、僕も頑張るよ」と笑顔で返した。


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