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「心残り」

 日はすっかりと落ち、ある一箇所を除いては辺りは闇に包まれている。

 僕はぼんやりとキャンプファイヤーを眺めていた。

 

 結局僕はあの後、左足の怪我により登山は頂上に登り切ることなく途中退場。

 林間学校に帰って治療を受けた。

 初めは家に帰ることを勧められたが、残りの行事がキャンプファイヤーだけなので、僕は残ることにした。

 しかし、足の怪我は僕が思っていたよりも酷く、先生方から動かないことを条件に参加を許され、今現在みんなが楽しそうにキャンプファイヤーの周りで踊っているのを離れた位置でただただ座って見ていることしかできない。


「あ、あの……良かったら私と踊らない?」


 これでキャンプファイヤーが始まってから女生徒に話しかけられたのは三度目だ。

 僕は女生徒の踊りのお誘いに、包帯が巻かれている左足を指差し、ごめんと言う。

 それを聞くと女生徒は残念そうな顔を見せた。


「俺はどうですか?」


「僕! 僕は⁈」


「いや俺だね! 絶対に俺っ!」


 まるで腹を空かせた獣の如く、僕の周りにいたA組男子達は女生徒を取り巻いていく。

 その迫力に女生徒は気圧されている。


「えー……じ、じゃあ、岸川なら……」


 女生徒にご指名された岸川は大袈裟なガッツポーズを取り、他のA組男子は膝から崩れ落ちた。


「はっはー! ざまーみやがれお前ら! やっぱり俺はお前らモブと違って、主人公になれる器を持った人間なんだよぉ!」


「あ、ごめん。やっぱりいいや」


「ゲフッ⁈」


 他のA組男子達と同様膝から崩れ落ちた岸川をよそに女生徒は足早とキャンプファイヤーの周りにへと戻っていた。


「馬鹿だな」


「あぁ、馬鹿だ。そして俺らを裏切ろうとしたのは許せんな」


「ガチなあっち系だといわれているC組の真淵君に、岸川が真淵君とどうしても踊りたいって言ってたって伝えてやるよ」


「やめろおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 C組の真淵君のもとへ全力でダッシュする三人を岸川は絶叫しながら追いかけて行く。


「で、お前らはなんで僕の周りに固まってんの?」


 僕は未だに僕の周りへと群がっているA組男子達へ聞く。

 元々彼らは露天風呂を覗こうとした罪によりキャンプファイヤーの参加も認められていなかった。

 しかし、昼の登山の時にネックレスを探すためにみんなが川へ飛び込んだことを楓が先生方に説明したため、キャンプファイヤーの参加を許可された

 つまり、彼らは自由に動き回れるはずなのだ。

 はずなのに何故か僕の周りに固まっている。


「そんなのお前に女生徒が寄ってくるからに決まってるだろ」


 最低か。


「俺らが近づいたら逃げられるんだよ。察せ」


 自業自得じゃねぇか。


「樹液に群がる雌を狙うカブトムシと一緒だ。お前は樹液。俺らは雌狙いの雄カブトムシ」


 なんだその例えは。


「銘雪君。私と一緒に……その足では無理そうだね……」


 A組の男子達と馬鹿な会話をしているとまた一人女生徒が寄ってきた。

 しかし、僕が言うより先に僕の足を見て彼女は察してくれたらしい。


「あぁ、ごめん」


 僕はとりあえず謝る。


「ううん、こちらこそごめん」


 女生徒も残念そうな顔で謝った。

 これで四人目だが、毎度毎度こんな顔をされると少し心が痛かった。


「俺と――」


 A組男子の一人が声を発すると、すぐさま女生徒は逃げるようにさっていた。


「くそっ……なんでお前だけ……」


「俺らだって川に飛び込んだってのに……」


 な、泣いてる……。


「いや……そりゃあ、やっぱり風呂を覗こうとしたからだろうな」


「「「「それは男の浪漫だから仕方ねぇだろうが!」」」」


 うん。そんな大声で胸を張って言う事ではないな。


「あと、今更の話になるんだけどさ。あの時、馬鹿正直にはっちゃんの名前を出さずに僕の名前を出したら良かったんじゃ……」


 僕の言葉にA組男子達はみなやれやれといった感じで首を横にへと振る。


「「「「いや、それは人としてダメだろ」」」」


 なんでそういう良識はあるのに覗きをしようとするかなぁ……。


「そんな最低なことを考えるなんて……お前あれだ……その……最低だな!」


 語彙力なしか。


「人の形をしたゴキブリめ。このテラフォー○ーが!」


 いや、違うわ。


「俺らが思いもつかないような恐ろしいことを易々と言ってのけるとかお前は悪魔か?」


 なぜ僕が風呂を覗こうとした最低な奴らにこうもキツく当たられるのか。


「お取り込み中みたいだけど……大丈夫かな?」


 A組男子達と馬鹿なやり取りをしていると楓がやってきた。


「あー、楓。悪いんだけど足が……」


「そんなこと分かってるよ。ボクはみんなにお礼を言いにきただけだよ」


 僕はてっきり踊りのお誘いだと思っていたため、顔がすっごく熱くなる。


「うっわ……今のは恥ずいな……」


「とんだ勘違い」


「ナルシストが……」


 次々にA組男子達がぼやいていくが、今のは明らかな僕の勘違いのため何も言い返せない。


「みんな今日はありがとう」


 楓は僕たちに向かって深々と頭を下げた。


「いやいや、こちらこそありがとうだぜ。いっちゃんが先生たちに説明してくれたおかげで俺らもキャンプファイヤーに参加出来てるわけだしよ。ところで俺と踊らない?」


 うわっ。こいつさらっと誘いやがった。


「はぁ⁈ おい八手、抜け駆けとは卑怯だぞ⁈ 俺はどうですか⁈」


「モテない男代表が出しゃばるな! 僕はどうでしょうか!」


「ゴミのくせして女と踊ろうとか自惚れるなよ! 私めと踊りませんか?」


 楓の周りへと男子達がなだれ込んで行く。

 いや、それにしてもはっちゃんの呼ばれ方が昨日から格が下がりすぎだろ。


「うーん……じゃあ翔君で」


 はっちゃんは楓に指名され、勢いよくガッツポーズをとる。


「な……なんで八手なんかと……?」


 はっちゃんが選ばれたことがショックなのだろう、ある男子生徒が楓へと尋ねる。


「肝試しで怪我をさせちゃったのもあるからさ」


 楓は頰を掻きながら答える。

 まだ、はっちゃんの股間を蹴り上げたことを気にしていたのか……。


「ってなわけで、みんな済まないな。行ってくるぜ」


「でも、変なことしたらすぐに反撃するからね」


「分かってる分かってる大丈夫だって」


 はっちゃんは楓と一緒にキャンプファイヤーの周りへと向かって歩き出す。

 キャンプファイヤーの周りへと向かっているはっちゃんは途中でこちらに顔を向けた。

 まるで、ざまぁみろお前ら俺が勝ち組だと言わんばかりの顔で。


「くそっ! もう待つのはやめだ!」


「男なら攻めてなんぼだろうが!」


「八手が女と踊って俺が踊れないとか、そんなのゆるせねぇ!」


「行くぞ!」


 みんなキャンプファイヤーの周りへと突撃して行く。

 僕は動けないため一人にへとなった。

 さっきまで騒がしすぎたのが一気に静かになったため少し寂しい。


「ふぅ……ただいま」


 疲れ切った表情の晴矢が僕の方にやってくる。

 僕が動けない状態のため、晴矢がキャンプファイヤーの周りでは女生徒に引っ張りだこだった。


「嫌なら断ればいいのに」


「断るのはなんか申し訳ないだろうが……お前なら分かるだろ。そういえば他のA組男子は?」


 僕はキャンプファイヤーの周りを指差す。

 そこにはA組男子達が女生徒に玉砕する姿が。


「何があそこまであいつらを駆り立てるんだか……俺に言ってくれればすぐに交代してやるのによ……」


「今の言葉をあいつらの前で言ったら、また発狂するんだろうな……」


 それもそうだな、と晴矢は笑う。


「あっ。はっちゃんが楓に腹パンされた」


「何かやらかしたんだろ。本当、馬鹿だなあいつ」


 晴矢は再び笑いながら言った。


「……なんかさ、お前最近よく笑うようになったよな」


 僕は最近ずっと彼に感じていた事を言った。

 晴矢はあまり感情を出すような人間ではなかった。

 特に笑っている姿など殆ど見た事がなく、仏頂面か怒っている時しか見た事がなかった。

 そんな彼は高校生になってから変わったと、いつも側でいた僕は感じていたのだ。

 

「あー……」


 僕の言葉に晴矢は上を見上げる。


「そうだな……賑やかで騒がしい馬鹿が周りにたくさんいるからかなぁ……」


「たしかにA組は馬鹿ばっかりだな」


「それとお前が一番の原因かもな」


「はぁ⁈ いやいや、僕らは幼稚園からの付き合いだし高校生になってから変わるきっかけなんて……」


 僕は言ってる途中で気付く。

 四月に僕は余命を宣告された。

 そしてそれを晴矢に話した。晴矢が変わったのは確か、あれくらいからだった。


「まぁ、俺が変わったとお前が感じてるように、お前も変わったと俺は感じているよ。いい意味でな」


 そう言ったあと、晴矢はゆっくりと立ち上がった。


「じゃあ、俺はもうしんどいから教室に戻るわ」


 僕に背を向けたまま片手をひらひらと振りながら林間学校のある方へと戻っていく。

 重い空気になるのが嫌だったのだろう。


「あのー」


 晴矢が見えなくなってすぐに声をかけられた。

 声をかけてきた人物の方を見ると薊がいた。


「今時間あるん?」


 周りに人がいないからか、薊は方言で話し掛けてくる。


「あー、足がこれだから、踊るのは無理かな」


「踊りの誘いやなくて、ちょびっと話したいことがあるけん」


 さっきの楓の時と同じ勘違いを繰り返し、恥ずかしさで再び顔が熱くなった。

 僕は恥ずかしさを誤魔化すため一度咳払いをする。


「全然時間はあるけど……」


 僕がそう言うと、薊は僕の横へと座った。


「その、いきなりでごめん。左の鎖骨辺りを見せて欲しいんよ」


「へ?」


 薊の思いがけない発言に僕は素っ頓狂な声を出してしまう。

 薊は自分が何を言っているのか理解していなかったのか、僕の反応を見て、自分が何を言ったのかを理解し、一気に顔を赤くした。


「違う! いや、違わないんやけども……でも違うんよ!」


「落ちつけ薊。分かってる。いや、よくは分からないけど分かっているから」


 お互いが焦りに焦ってしまい、意味不明なことを言ってしまう。

 互いに深呼吸をして、一度落ち着いた後薊が先に口を開いた。


「今日、銘雪君が川に飛び込む時に鎖骨辺りに傷があったのが見えたけん、よく見てみたくって……」


「あぁ、確かにあるけど……」


 僕は体操着の襟をずらしながら左の鎖骨部分を見せて言った。


「やっぱり見間違いじゃなかったんや……」


 薊は小声で呟く。


「これがどうかしたのか?」


「ちょっと……ね……。もしかして左側のおでこにも傷跡があるん?」


「いつもは前髪で隠れてるけど確かにある……って、なんで薊がこの傷のこと知ってんだ?」


 頭の傷跡は髪の生え際辺りにあるため僕が髪をかきあげない限り絶対に見えない。

 長年の付き合いである晴矢とはっちゃんもここに傷跡があることは知らず、知っているのは僕の家族だけのはずだ。


「もしかして、小学六年生の時に清流スイミングスクールに通いよった?」


 薊は僕の疑問をスルーして質問を続ける。


「通っていたけど……」


 それを聞き、薊は涙目になりながら安堵の表情を見せた。


「やっと会えた……」


「そろそろどういう事なのか教えてくれ」


 薊は目を擦りながら、ごめんと言うと僕の目をじっと見据える。


「ウチが昨日話した憧れの人。銘雪君、それは貴方やったんやね」


 薊から受けた突然の言葉。

 それは違う。多分人違いじゃないのか? 

 僕はその言葉をぐっと飲み込む。

 もちろん薊に泳ぎを教えた覚えはない。

 しかし、日光や楓の例がある。

 もしかしたら僕が忘れている可能性があるため否定はできない。


「もしかして……ユキは覚えてないん……?」


 僕がずっと黙っていたため薊が先に口を開いた。

 

「ユキ?」


「あぁ、ごめん。水泳キャップに二つの文字が書いてあって、一つは潰れて分からんかったけど、一つは雪って書いとるのが分かったけんそれが下の名前なんかなぁってずっと思いよったから……」


 確か水泳キャップには苗字しか書いていなかった。

 それに二つの傷跡の事について薊は知っていたし、きっと僕本人で間違いないだろう。


「多分、それは僕だと思うけど……ごめん。スイミングスクールの時の記憶が曖昧で……」


 きっとまた楓や日光の時と同じように悲しい顔をさせてしまう。

 そう思っていたが薊の反応は全く違っていた。


「水泳キャップにゴーグルつけとってお互いの顔ちゃんと見た事なかったし、私も今までユキが銘雪君ってこと分からんかったしなぁ。しかも、一カ月間清流市におったけど、ユキと一緒におった期間なんて半月もなかったし」


 忘れとっても仕方ないよ、と薊は笑った。


「それに、優しい彼にとってはなんでもないってこと分かっとったけん」


 薊は僕の横から立ち上がる。


「あの時はありがとう」


 彼女はそう言うと、僕から背を向けキャンプファイヤーの方へと向かって走っていった。


 お礼を言った薊は笑顔だった。

 しかし、声は微かに震えていた。

 大切な思い出を忘れられていて、傷付かないわけがないだろう。

 それなのに彼女は僕に気遣って、無理して笑ったのだ。

 そんな事分かっていたのに……僕は彼女を呼び止める事が出来なかった。








「いやぁ、助かりました。今まで一度も電車なんて乗った事なかったので」


 僕の横にいる黒髪の同い年ぐらいの女の子はそう言った。


「じゃあな」


 僕は女の子に別れを告げ、再び電車の方へと歩く。

 しかし、学ランの裾が何かに引っかったため僕はすぐに立ち止まる。

 後ろを振り返ると、さっき別れたばかりの女の子がある方向を指しながら僕の学ランの裾を引っ張っていた。

 彼女が指を指している先には、隣町の女子中の制服を着た女の子がガラの悪い中学生男子達に絡まれている。

 誰も助けようとはしない。

 それはそうだ。

 だって助けたところで何一つ得などしないのだから。

 僕も見て見ぬ振りをしようとするが、彼女は僕の学ランの裾を掴んだまま離さない。


「……なんだよ?」


「あの人、困ってます」


「そりゃあ見たら分かるよ」


「助けないのですか?」


「助けない」


「らしくないですね」


 その言葉に僕は少しイラつく。


「さっきあったばかりのお前に僕の何が分かるんだよ」


「分かりますよ。貴方は優しい人。さっきみんなが見て見ぬ振りをしていた困っていた私を、貴方は助けてくれた」


「それはそれ。あれはあれだ。状況が全く違う」


 厄介な事に関わりたくない。

 その場をすぐにでも離れようとする僕をまだ女の子は離さない。

 その女の子は涙目で唇を噛み締めながら僕を睨みつけていた。


「はぁ……分かったよ……」


 女の子にそんな顔をさせて動かないわけにはいかない。

 僕は溜息をつき、渋々と歩いた。





 そこで僕の目は覚めた。


 あれは過去の夢……中学二年生の時のいじめの件があってから少し経ったある日、僕は一日だけ中学校をサボったことがあった。

 サボった日があったことは覚えているが……その日に何があったかを僕は覚えていない。

 厳密に言うと、どこか一人で遠い所に行きたいと思い駅に行ったら、電車の乗り方が分からず困っている女の子がいてそれを助けた所までは覚えている。

 しかし、その後が一切覚えていないのだ。

 確かあのあと女子中の女生徒が男子中学生達に絡まれているのを助けようとして………………。

 ダメだ。全然思い出せない。


 僕は目をこすりながら教室に飾られている時計を見る。

 時計の針は一昨日や昨日と同じ1時45分を示していた。


 薊と会話した後、特に何もないままキャンプファイヤーは終わった。

 キャンプファイヤーが終わったあと教室に戻りすぐに寝たが……結局、最終日になっても環境の変化には慣れなかったな……。

 とりあえず今までのように、僕は起きてしまったついでに手洗いを済ませるため立ち上がる。




 手洗いを済ませた後、ふと外の景色に目が止まった。

 空を眺める。

 

 やっぱり、綺麗だな。

 この景色を見るのもこれで最後か……。


 思い返してみれば林間学校では色々な事があった。

 熊から逃げ、黒いよく分からない液体を食べ、肝試しをして、ドッジボールをして、川遊びをして、覗きを阻止しようとして、登山をして川に飛び込み……ロクでもない目に沢山あった。

 でも、それが楽しかった。

 しかし、楽しい事ばかりだけではなく、色々な人に悲しい顔をさせてしまった……。

 そんな林間学校ももうすぐで終わりを迎える。

 心残りがあるとすれば……。


「あれ? りっくん?」


 後ろから声がした。

 僕は声がした方を振り向く。

 そこには水仙さんが立っていた。

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