「罪被り」
僕たちA組は、川が近くにある少し開けた場所で休憩していた。
薊に突き飛ばされて、水仙さんの時と同じようなやり取りをした後からかれこれ20分くらい経っている。
「この川は山の方からずっと続いてですね――」
地元のガイドさんが何やら近くの川の説明をしているみたいだが、今の僕はそれどころではなかった。
薊に突き飛ばされた時に再び左足をやってしまったらしく、座っている今の状態でさえ左足が痛い。
ここに来るまでに歩く度に声が出そうになるくらいの激痛が襲ってきたが、なんとか無理をして頑張った。
「じゃあ、出発しますね」
休憩時間が終わり、ガイドさんの合図でみんな次々に立っていく。
僕も足に気を遣いながら慎重に立つ、がそれでも痛い。
多分、このまま歩き続ければ怪我は悪化するだろう。
でも……。
僕は一歩を踏み出す。
さっきよりも酷い痛みが僕を襲う。
それでも僕は一歩、また一歩と次々に足を前へ前へと運んでいく。
左足が地面につく度に激痛が走る。
声が出そうになる。
それでも僕は歩き続ける。
水仙さんと薊にだけは足の痛みを知られたくはなかった。
2人とも優しいから、僕の足の事を知ればきっと自分を責めてしまうだろう。
それは絶対に嫌だ。
こんな痛みなど、2人を悲しませるのと比べれば大したものじゃない。
「ねぇ」
後ろから肩を叩かれ、僕は立ち止まり振り返る。
そこには神妙な面持ちで僕を見ている日光がいた。
「どうした?」
あっちから先に声をかけてきた事に驚きつつも、僕は日光へ尋ねる。
日光と面を向かって話すのはあの肝試し以来だ。
「貴方、足痛めてるでしょ」
「は? 何言って――」
僕が言い終わるよりも前だった。
僕の体は地面へと、その上に日光が覆いかぶさってくる。
日光がいきなり僕を押し倒したのだ。
「な、何やってんだお前⁈」
意図の分からない唐突な日光の行為に僕はパニックに陥る。
「ごめんなさい。足元が滑ってしまったわ」
「いやいや、歩いてなかったし滑るような事なんていいっ⁈」
突然左足に激痛が走った。
左足を見ると日光の手が僕の左足を掴んでいた。
「痛たたたたたたたたた! ちょ、マジでやばい! 早く離せって!」
あまりの痛みに涙が出そうになる。
「言っとくけど、軽く触ってるだけで全然力なんて入れてないわよ」
日光はそう言うと僕の足から手を離し、人差し指でなぞるように僕の左足に触れる。
「いっ……!」
「はぁ……全く、貴方って本当に馬鹿ね」
日光は呆れたようにそう言うと、すみませんとガイドさんを呼んだ。
「どうしたんだい?」
「足元が滑って彼を巻き込んでしまって……その時に彼、左足を挫いてしまったみたいで……」
ガイドさんはそれを聞くと、どれっ、と僕の左足にへと触れた。
「いいっ⁈」
ガイドさんが左足に少し触れただけで、あまりの痛さに声を上げてしまう。
「これは酷いな……あともう少し登ったら車道があるところに出るから、そこで待機している先生方と車で下山しなさい」
ガイドさんはそう言ったあと、晴矢とはっちゃんに片方が僕の荷物を持ち、片方が僕に肩を貸すように言った。
はっちゃんが僕の荷物を持ち、晴矢が僕に肩を貸す。
「それじゃあ私は先頭に戻るから。無理をせずにゆっくりとついて来なさい。何かあったらすぐに呼ぶんだよ」
ガイドさんはそう言い残すと再び列の先頭へと戻っていく。
「ったく……世話がかかるな……」
「ごめん……」
僕は晴矢の言葉にただ謝ることしか出来ない。
「まぁ、お前は何も悪くはない……とは言い切れないな」
「なんでだよ……」
「どうせ水仙さんに突き飛ばされた時から左足をやってたんだろ。その時にちゃんと言わねぇからこんな事になるんだよ」
「うっ……」
晴矢の正論に返す言葉が見つからない。
しかし、それにしても……
「そんなに最初の方から不自然な動きしてたか? もしかしてみんなにバレてる?」
晴矢の確信を持ったような言葉に僕は動揺してしまう。
演技していたことが2人にバレていれば余計に2人を傷付けていたことになる。
「いや、それは無いと思うぜ。 俺も全然気付いてなかったしな」
「な? カマをかけやがったのか⁈」
「まあまあ、落ち着け。なんにせよ日光さんには感謝だな。あとでちゃんとお礼を言っとけよ」
僕は晴矢の言葉の意味が分からず首をかしげる。
日光には押し倒された挙句、左足を掴まれた。
それまではなんとか歩ける痛さだったのに、今ではちょっとでも左足が何かに触れるだけで声を上げてしまうぐらいの痛さだ。
日光にとどめを刺されたといっても過言ではないだろう。
「なんでだよ……」
不安げに言った僕に対して、晴矢は大きなため息を吐いた。
「お前、日光さんがああしなかったらずっと無理し続けるつもりだったんだろ。そうなってたら足の怪我はもっと悪化してただろうな。それに水仙さん達が傷付かないよう罪まで被ってくれるというおまけ付きだ」
「あ……」
晴矢の言葉で全てに気付き、僕は背後を歩いている日光の方へと振り向く。
僕と目が合った瞬間、日光はふんっと目を逸らした。
肝試しの時といい、今回のことといい日光には迷惑をかけてばかりだ。
「日光のやつ今回の林間学校で僕のこと絶対嫌いになっただろうな……」
僕の言葉に再び晴矢は大きなため息を吐いた。
「お前は本当に馬鹿だな」
「はぁ? なんでだよ?」
「日光さんがああいう事をした理由を考えろ。それに、ああいう事をしたってことはお前の足の怪我に気付いてたってことだろ?」
「おう。それで?」
「あとは自分で考えろ、バーカ」
「はぁ⁈ なんだよそれ⁈」
その後晴矢にいくら聞いても、それ以降晴矢は口を開くことはなかった。
仕方なく一人で考えていると確かにいくつかおかしい点があった。
何故、日光は晴矢や他の人が気付かなかった僕の足の怪我に気付いたんだ?
肝試しの時にあんな出来事があったのに、どうして僕を助けるような事を?
水仙さん達を庇った理由は?
しかし、いくら考えても答えが出ることは一向になかった。




