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「ペア決め」

 カレー作りが終わった数時間後、僕らA組男子は教室で自由な時間を過ごしていた。

 まぁ、自由な時間を過ごしていると言っても半数くらいの男子がカレーという名ばかりの謎の液体の餌食になり寝込んでいるし、残りの半数くらいはカレー作りの疲れからかぐったりとしていた。

 普段、賑やかなA組にしては珍しく教室内は静かだ。


 ふと、壁に飾られている時計を見る。

 時計の針は5時45分を指していた。

 外は少し薄暗い。


 本日最後のイベントである肝試しは6時からだ。

 だからもうそろそろ先生が呼びに来るはずだろう、と思っていたら案の定、門田先生が教室に入ってきた。


「おーい、お前らお待ちかねの肝試しだ。グラウンドに集まれ」


「「「「「イィィエエェェェェェェェェェェェェイイィィ!!!!」」」」」


 さっきまで静かだったのがまるで嘘だったかのように、教室内は一気に盛り上がる。

 寝込んでいたやつまで飛び起きてる始末。


「あー、元気があるのはいい事だが、あまりはしゃぎ過ぎるなよ」


 門田先生はあまりの煩さに耳を塞ぎながら退出して行く。


 それにしても一体なぜこんなにも皆んな盛り上がっているのだろうか。

 肝試しなんかどうせ先生たちが適当に驚かせてくるぐらいだと分かっているだろうに。


「ゆっちゃん、高校生にもなって何を肝試し如きでこんなにもテンションが上がっているのか、そう思ってるな」


 まさに思っていた事をそのまま当てられた事に驚きつつも声がした後ろを振り向くと、はっちゃんが不気味な笑みを浮かべながら立っていた。

 そして何故か僕の周りに男子生徒が集まってくる。


「ゆっちゃんは分かってないなぁ。今回の肝試しは班で行うんじゃなくて、男女2人の1ペアで行うんだ」


「暗い夜道に男女が2人。怖がっている女子を守る為にそっと抱きしめるもよし」


「ついつい驚いてしまって女子に抱きついてしまってもよし」


「まぁ何が言いたいかと言うと、つまりは合法的に女子にお触りが出来る最高のイベントなのだぁ!」


「「「「フゥウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーッ!!」」」」


 ただの女性の体目当ての犯罪者予備軍じゃねぇか!


「おいおい、ゆっちゃんそんな蔑んだような目で見るなって」


「そうそう、何も故意で触りに行くわけじゃないんだ。ただビックリして触っただけ。つまりは事故なんだ」


「さっき合法的にお触り出来るって言ってたじゃねぇか」


 僕の一言で盛り上がっていた皆んなが黙り、僕から目を逸らす。

 数秒の静寂を迎えた後。


「…………よしっ! いざ行かん天国へ」


 逃げるようにはっちゃんを先頭に皆んな教室から去って行った。


「あいつら元気だな……」


 声がした方を振り向くと晴矢が欠伸をしながら横になっていた体を起こしていた。


「お前はいつも通りだな」


 普段と変わらず面倒そうな顔をしている晴矢に僕は笑いながら言う。

 普段からテンションが異様に高いA組の中で唯一と言っていいほど晴矢は常時テンションが低い。

 今だってこの教室に残ってるのは、あのテンションについて行けなかった僕と晴矢だけだ。


「お前もいつも通り呑気な顔をしているが大丈夫なのか?」


 晴矢は頭を掻きながら眠たそうな表情をしなが言った。


「何が? 集合時間ならまだ時間があるはずだけど」


「そうじゃねぇよ。班の中かクラスの中、学年の中で男女ペアを作るのかどうかは知らねぇが、翔達みたいなやつと水仙さんがペアになってみろ」


「…………まずいな」


 事態の深刻さに遅れながらに気付いた僕を見て晴矢は溜息を吐く。


「まぁ、こればかりは行ってみねぇと分からねぇからどうしようもないんだがな」


 そう言った後、晴矢は行くぞっと僕の背を叩くと教室から出て行く。

 大きな不安が出来上がってしまったものの、とりあえず(はっちゃんがいるが)班内でペアが組まれる事を願いつつ僕も教室をあとにした。

 










「一人で散歩をしている時にある一人のお婆ちゃんと会ってですね――」


 空全体が大分暗くなった林間学校のグラウンドで、僕たち1年生は肝試し恒例の怖い話を生徒会長から聞かされていた。

 なぜ生徒会長が怖い話をしているのかというと、肝試しをしても先生方では最近の若者を驚かすのは力不足であると判断し、歳が近い生徒同士なら驚かすことが出来るのでは? という案が出て生徒会と他多数の生徒が今回の肝試しに駆り出されたらしい。


「一緒に散歩することになって楽しく話しながら二人で歩いてて――」


 入学式の挨拶やら生徒総会などの少ない機会でしか生徒会長の話を聞くことがなかったが、やはり生徒会長とだけあってか話し方が上手く、肝試しをする前の雰囲気作りが段々となされていく。

 皆んなどこぞの禿げの話とは違って真剣に生徒会長の話に耳を傾けている。

 興味津々で聞いているものもいれば涙目で体を震わせながら聞いているものもいるし、あの騒がしいA組の男子だって皆んな真剣に生徒会長の話を……いや、違うな。これはただ生徒会長に見惚れてるだけだな。


 他を見渡してみるもA組の男子以外の男子達も生徒会長に見惚れており、また男子だけでは無く女生徒までもが生徒会長に見惚れている。

 ショートカットで高校3年生にしては少し小柄な彼女は美しく凛々しいといった風な漫画などでよくある生徒会長と違って、可愛らしい感じだ。

 しかし、生徒会の仕事や勉強のこととなるとその可愛いらしさから一変、1人で数人分のも働きをし、テストでは常に3位以内らしい。

 そういった見た目のギャップも彼女の人気の一つだろう。


「急にお婆ちゃんが誰もいないはずの私の隣を指差しながら『ねぇ……その子頭から血が出て――」


「「「「ぎゃあああああああああああああああ!!」」」」


 生徒会長の話が終わっていないのに大きな悲鳴が彼方此方で上がった。

 生徒会長の話で上がったというよりも周りの悲鳴で驚き、それがまた伝染していくように一斉に広がっていく。


「待って。早い。リアクションとるのが早すぎる。まだオチもいってないのに」


 生徒会長も予想以上の場の混乱に戸惑っている。


「はいはい! 明星君が充分場を盛り上げてくれたところで肝試しのルールを説明したいと思います」


 禿げが話し出した瞬間、つい数秒前までの悲鳴の嵐がまるで嘘だったかのように、大きなため息とともに皆んな静まり返る。


「おおふっ……。だ、大丈夫ですよ? 昼間のカレー作りとは違って普通の肝試しですから」


 昼間の皆んなの反応がそこそこ堪えているのか禿げは少し焦っている様子だ。


「そ、それともなんですか? また今回も私の話しが長いと思ってるのですか? 今回は大丈夫ですよ。ただの肝試しですから。うん、いたってシンプルなどこの学校でもするような肝試しです。そりゃあ昼間のカレー作りのように色々仕込んで面白いことをしようかなっと思ったんですけど予算の方とか最近の若者の――」


 いや、長い長い長い長い長い長い長い長い長い!

 昼間も同じような件したわ!


 これは周りも昼間の様に死んだ顔をしているに違いないと思いながら周りを見渡す。

 しかしそんな僕の予想は裏切られ、殆どの人間が壇上のハゲの方を真剣に眺めている。

 

 壇上に何が……! あ、生徒会長がいるからか。


 壇上から降りる機会を見失いながら苦笑いをしている生徒会長がそこにはいた。

 うん。可愛い。

 多分誰も禿げの話など聞いていないだろう。

 ……とりあえず僕も目の保養をするため生徒会長を眺めることにした。







 生徒会長を眺める事十数分。

 禿げの長い長い無駄話を乗り越え僕たちは班で集まっていた。

 ちなみに禿げの話は全然頭に入っていない。


「じゃあクジを引いていくぞ」


「え? 何のクジ?」


 小さな箱を振りながら晴矢ははっちゃんを呆れた顔をしながら見る。


「ペア決めのクジだ。お前話を聞いてなかったのか?」


「生徒会長眺めてた」


 僕もはっちゃんと同レベルだと思うとなんだか胸が痛い。

 晴矢はため息を吐きながら順に説明していく。


「班内でくじを引いてペアを決める。男女1:1だが俺らの班は女子が多いから一つだけ女2だとよ。後、ルールなんだが本当に何の捻りもない普通の肝試しだ。この林間学校から少し離れたところにある祠からカードを取ってくりゃあいい」


「へぇ、本当に普通の肝試しなんだな」


「お前も聞いてなかったのか……」


 あ、バレた。


「やっぱり何だかんだ言いながらゆっちゃんもこっち側なんだな」


 はっちゃんは嬉しそうに僕の肩を持ちながらニマニマと笑う。


「いや、ただただボーっとして理事長の話を聞いてなかっただけで」


「嘘だ〜」


 あぁ、駄目だ。多分何を言っても言い訳に聞こえてしまう。(まさにその通り)

 それになんでだろう、女性陣からの視線が痛い。


「理事長の話を聞いてなかったバカ2人は置いといてとりあえずクジを引いていくぞ」


 まずは女性からと晴矢は女性陣にクジを引かしていく。

 

「私は4番です」


「あ、私も4番だ。ということは牡丹ちゃんと一緒だね、よろしく」


 これで水仙さんがはっちゃんと組む可能性は無くなったが僕とも組む可能性も無くなったことになり、なんとも言えない気持ちになる。


「女性陣が引き終わったから次は俺らだな」


 晴矢は箱の中に男用のクジを足し僕らの前に差し出す。

 それをはっちゃんが我先にと1番に取りに行く。


「俺は2番!」


「あ、じゃあボクと一緒だね」


「そいつは何してくるか分からないから気をつけた方がいいわよ」


 はっちゃんとペアを組むことになった楓に対し、昼間にセクハラを受けた日光は心配そうな表情で言った。


「べ、別に何も狙ってないっすよ?」


 突っ込まれた焦りからかはっちゃんは全然動揺を隠せてはいない。


「先生に頼んでこいつは両手を拘束させようか?」


「可哀想だし、そこまでしなくていいよ。多分、大丈夫だから」


 晴矢の提案を楓は手を振りながら笑顔で否定する。


「え? これは俺信頼されてるってこと? それとも襲ってもいいってこと? 襲ってもいいってことだよね? そうだそうだ、きっとそうだ」


 楓と晴矢のやりとりを聞いたはっちゃんは興奮気味に僕だけに聞こえる声で言う。


「手だけでは緩いな。いっそのこと足も縛って引きずった方がいいかもしれない」


「翔君を引っ張る力なんてボクに力は無いよ」


 はっちゃんに全くの危機感を感じていないのか、それとも僕の言葉を冗談だと思っているのか楓は笑顔で応える。


「何かあったらその時はその時で対処するよ。ほーら、早くクジを引きなって」


 不安を抱えた皆んなを置いて、楓は僕たちにクジを引くように急かす。


「じゃ、俺は最後でいいから」


 晴矢は僕の前へと箱を差し出す。

 残るは日光と委員長だけ。


「悪いな」


 箱の中に手を入れクジを引こうとしている僕だけに聞こえる声で晴矢は突然言った。


「何が?」


「水仙さんが女性同士のペアにならなかったら何とかしてお前と組ます予定だったんだが……」


「別にいいって。お前がそこまで頑張る事じゃないだろ……と、僕は1番だな」


 1番のクジを女性陣の方を向けると日光が私ねっと手を上げた。


 日光か……気が強いし、ホラーものに耐性がありそうだし、本人には悪いが折角の女子と2人っきりの肝試しなのになんだか面白味が少しかけるな。


「張っ倒すわよ?」


「やばっ、声に出てた⁈」


「あんたの表情を見て言ったのだけれど、本当に失礼な事を考えていたのね?」


「いや、別にそんな事は…………ちょっと手洗いに行ってくる!」


 僕は気まずい雰囲気と日光の圧に耐え切れず、逃げるようにその場から去った。

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